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第12話『仮想姉妹』

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 4月14日、土曜日。
 今日の空は雲一つない快晴だ。絶好のお出かけ日和。ただ、今日は優那が俺の家に遊びに来る予定だ。だから、天気はさほど関係ないけれど、個人的に雨よりも晴れている方が好きなので気分がいい。


 午前10時45分。
 優那との待ち合わせの場所である真崎駅の改札前に行く。待ち合わせの時間は11時過ぎなのでまだ彼女はいない。それでいい。早めにここに来たのは、彼女を待っているという時間を楽しんでみたかったから。

「このドキドキ感……なかなかいいな」

 あと15分近くあるのに、今か今かと改札の方を見てしまう。ただ、それが俺にとっては楽しいことだと思えて。好きな人と待ち合わせをするのが初めてだからだろうか。15分どころか15時間でも待てそうだ。
 しっかし、優那とこれからどこかへ遊びに出かけるのではなく、自分の家に来るというのがまたいいな!

「あら、颯介じゃない」

 優那の声が聞こえたので改札口の方を見てみると、改札口から優那の姿が。キュロットスカートにブラウスか。私服姿の優那と会うのは初めてだけれど可愛くていいなぁ!
 優那は学校にいるときよりも楽しそうな笑みを浮かべ、俺に手を振ってくる。

「ちょっと早く着いちゃったなって思ったけれど、もう颯介がいるなんてね」
「こうして、優那と待ち合わせをするのは初めてだから、気持ちが高ぶっているんだ。待っている時間を含めて楽しみたいと思って早めに来たんだよ」
「ふふっ、どれだけ楽しみにしているの」

 優那はクスクスと笑い、

「さあ、さっそくあなたの家に行きましょう」

 そう言うと、俺の手をぎゅっと握ってきた。すんなりと握られるとドキドキよりも温かい気持ちの方が強いな。
 そんなことを考えながら、俺は優那と一緒に自宅に向かって歩き始める。

「学校とは違う方向なのね」
「そうだ。学校の方とは違って閑静な住宅街の中にあるんだ。駅からだいたい10分くらいのところだよ。優那の家の周りもそんな感じ?」
「そうね。霧林駅の周りはお店が色々とあるけれど、少し歩けばもう静かな住宅街。小春の家の方は商店街とかもあるんだけれどね」
「へえ、そうなんだ」

 霧林は真崎とあまり変わらない雰囲気の街なのか。全然行ったことがないし、今度、霧林の方に遊びに行ってみようかな。

「そういえば、今日は土曜日だから颯介の御両親もお家にいるんだよね。緊張するなぁ」
「そこは大丈夫だよ。両親はデートに出かけていて、今日は家にいないんだ。優那が家に来るって言ったら、特に母親がデートしたくなったみたいで。夜まで帰ってこないって。もしかしたら、泊まるかもしれないとも言ってた」

 いずれは嫁になるのかと両親が楽しげに話していたことは……言わないでおこう。
 ふふっ、と優那は声に出して笑う。

「とても仲のいい御両親なんだね。あたしの親も2人でデートすることはあるけど、そのまま泊まることはないね」
「そうなんだ。今日は姉ちゃんと俺しかいないから、そこまで緊張しなくて大丈夫だよ」
「……そうだね。ただ、一番緊張しているのは、しっかりと玉子焼きの作り方を覚えられるかどうかってことだけど」
「姉ちゃんは教え方が上手だからきっと大丈夫だよ。まあ、いざとなったら俺も一緒に教えるから」
「颯介も料理はできるの?」
「うん。玉子焼きだけは姉さんの方が上手かもしれないけれど、大抵の料理は作れるよ。スイーツも。洗濯や掃除も好きだから、両親も泊まりがけのデートになるかもって言ったんだと思う」
「そうなの。あたしは家事があまり得意な方じゃないから尊敬しちゃうな」
「それは嬉しいお言葉だ」

 まさか、優那の口から尊敬という言葉を聞けるとは思わなかった。しかも、笑みを浮かべながら。これはよくできた夢なのだろうか?

「そういえば、近くにスーパーかコンビニってある? 卵を買わないと」
「その必要はないよ。昨日、姉ちゃんがたくさん卵を買ってきたから。余ったときは俺がスイーツを作るつもりだし」
「……自然にそう言うなんて、本当にできる人だなって思うよ。じゃあ、卵は買わなくていいのね。後でお姉さんにお礼を言わないと」
「うん、それで十分だと思う。さあ、もうそろそろ家に到着するよ」
「話していたからかあっという間だったね」

 俺もあっという間に感じた。好きな人と手を繋ぎながら喋るのは、とても楽しくて幸せだなと思う。

「ただいま」
「お邪魔します」

 家に入り、俺と優那がそう言うと、リビングから姉ちゃんが出てきた。会いたがっていたとはいえ、姉ちゃんが優那と出会ってどうなるか不安である。

「おかえり、颯ちゃん。こちらの女の子が優那ちゃん?」
「そうだよ、姉ちゃん」
「あらぁ、そうなの」

 ついに、待望の優那との初対面が実現したからか、姉ちゃんはとても嬉しそうな表情に。

「初めまして。颯介の姉の真宮菜月といいます。関東女子大学文学部の1年生です。ちなみに、出身高校は優那ちゃんや颯ちゃんの通っている真崎高校です! 先月卒業しました」
「そうなんですか! じゃあ、先輩なんですね。初めまして、大曲優那といいます。霧林に住んでいます。ですから、颯介とはクラスメイトになったことで出会って、席がお隣さんでして」
「うんうん。実は颯ちゃんから優那ちゃんのことは色々と聞いているの。だから、2人にどんなことがあったのかも分かっているよ。私は颯ちゃんのことが大好きだけれど……優那ちゃんのような可愛い子なら、颯ちゃんを託しても大丈夫な気がしてきた! まあ、颯ちゃんを酷く悲しませたら許さないけれど。うん、こんな義理の妹ができるならあたしは大歓迎だよ」
「もう、何を言っているんだよ、姉ちゃん」

 ただ、優那のことを相当気に入っているということは分かった。俺を溺愛する姉ちゃんが初対面の優那にそう言うとは意外だ。前に写真を見せたときに可愛いと絶賛し、一度会ってみたいと言っていたとはいえ。

「えっと、その……菜月さんのお言葉は嬉しいですけど、告白の返事はまだ考えている最中でして。もちろん、颯介と付き合うことや、菜月さんの義理の妹になることも悪くはないと思っていますからね!」

 さすがに姉ちゃんが相手だからか、優那が怒ることはなかった。ただ、顔が物凄く赤くなっているけれど。

「照れている優那ちゃん可愛い!」

 そう言って、姉ちゃんは嬉しそうな様子で優那をぎゅっと抱きしめた。

「優那ちゃん、温かくていい匂いがするね」
「……菜月さんも温かくて、ほんのりと甘い匂いがします。出会って間もないのに不思議と落ち着きますね。お姉ちゃんっていうのはこういう感じなのかな……」
「ふふっ、優那ちゃんからも甘い匂いがしていい気分になるよ。妹ってこういう可愛い存在なのかもね」
「そう言われると照れちゃいますね。でも、嬉しいです。あと、スタイルが良くて羨ましいな……」

 優那はそう呟くと両手を姉ちゃんの背中に回す。本当の姉妹のように見えるな。
 それにしても姉ちゃん……優那と抱きしめ合えるなんて羨ましいなぁ。女性同士の特権だな。いつかは俺も優那と抱きしめ合える関係になりたいなと思う。

「姉ちゃん、優那と会えて嬉しいのは分かるけれど、彼女をいつまでも玄関にいさせるのも失礼じゃないか?」
「そうだね、颯ちゃん。優那ちゃん、さっそく玉子焼き作ってみる? それともまずはお茶にする?」
「さっそくご指導の方をお願いしたいです!」
「ふふっ、分かった。じゃあ、さっそくキッチンの方へ行こうか。颯ちゃんはどうする?」
「キッチンで2人を見守っているよ」

 優那が料理をする姿をすぐ近くで見てみたいからな。

「分かった。颯ちゃんが側にいれば安心だね。優那ちゃん、こっちに来て」
「はい、失礼します」

 優那も姉ちゃんのことを気に入ったのか、小春と一緒にいるときのような柔らかさがあるな。これなら、優那もしっかりと玉子焼きの作り方を教わられるだろう。
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