176 / 194
特別編6-星空に願う夏の夜編-
第5話『七夕祭り-中編-』
しおりを挟む
その後も綿菓子やベビーカステラなど、甘いものを中心に食べ物系の屋台を廻っている。どれも美味しいし、サクラとは必ず一口交換をしているので凄く満足感がある。
また、高校のクラスメイトや中学時代の友人と会うことが何度もあって。地元ではないけど、人気のお祭りだと旧友と再会できていいな。
会場に来たときにはまだ少し明るさが残っていた空も、今はすっかりと暗くなっている。ただ、そのことで、会場の中は提灯や屋台のみの灯りに照らされるので、よりお祭りらしい雰囲気になっている。
「ねえ、一紗、杏奈ちゃん、羽柴君。いくつか屋台を廻ったし、そろそろ2人に提案してみてもいいかな」
「いいと思うわ」
「この6人での時間も楽しめましたしね」
「俺もいいと思うぜ」
「どうかしたの? みんな」
「何かあるのか?」
今の会話からして、一紗と杏奈、羽柴、小泉さんの4人で何か考えていることがあるみたいだ。
4人を代表してか、小泉さんが笑顔で俺とサクラに一歩近づく。
「実は、ある程度6人で廻ったら、文香と速水君に2人きりの時間を作らないかって4人で話していたの。2人は今年の春に付き合い始めたし、このお祭りには4年ぶりに一緒に来たみたいだから」
「そうだったのか」
「ダイちゃんと私にデート気分を味わってほしいって考えてくれたんだね」
試験勉強期間で七夕祭りのことが話題になったとき、この6人で一緒に行こうと決めた。だから、6人で一緒に楽しめれば俺はそれで満足に思っていた。4年ぶりにサクラと一緒にお祭りを楽しめるから。それに、中1までも家族や友達と一緒に廻っていたし。
ただ、今の小泉さんの話を聞くと……サクラと2人きりでお祭り会場の中を廻ることに興味が出てくる。
「俺は……サクラと2人きりでデート気分を味わいたいと思ってる。サクラはどうかな?」
「……私もっ」
サクラはニッコリと笑いながらそう言うと、俺の手を繋ぐ力を強くしてくる。そんな反応にとても嬉しい気持ちになる。
「じゃあ、みんなのご厚意に甘えて、一旦、サクラと俺は別行動させてもらうよ」
「ダイちゃんとお祭りデートしてくるね」
「うんっ」
小泉さんは持ち前の快活な笑顔で頷く。
「楽しんでね、大輝君、文香さん」
「デート楽しんでくださいね!」
「楽しんでこいよ」
「みんなありがとな」
「ありがとう!」
サクラと俺のために2人きりの時間を作ってくれるなんて。みんな優しいな。そういった人達が友達や後輩で、俺達は恵まれていると思う。
今は午後7時20分。なので、午後8時に短冊コーナーの近くに集まると約束し、サクラと俺は4人と別行動をすることに。こうして、お祭りデートが始まった。
「まさか、青葉ちゃん達が私達のデートの時間を作ろうって考えてくれていたなんてね」
「そうだな。全然想像していなかったよ。サクラと久しぶりにこのお祭りに来られたから、みんなと一緒でも楽しかったし。もちろん、サクラと2人きりになれて嬉しいぞ!」
「ふふっ、分かってるよ。それに、私も同じ気持ちだから」
「サクラ……」
「みんなが用意してくれた2人きりの時間を楽しもうね!」
「そうだな」
40分ほどだけど、サクラとのお祭りデートの時間をたっぷりと楽しみたい。
「サクラはどこかお目当ての屋台はあるか?」
「屋台がいっぱいあるからね……。とりあえずは歩いてもいいかな? それで、良さそうなところがあったら『行きたい!』って言うよ」
「分かった」
とりあえずは会場の中を歩くというのも乙な過ごし方だろう。非日常の場所をサクラと一緒に歩いているから、俺にとっては今の時点でかなり楽しい。
周りを見ると……俺達のように手を繋いだり、腕を組んだりして会場内を歩いているカップルらしき人達は何組もいる。デート目的でこのお祭りに来ている人は結構いるんだろうな。一年に一回のイベントだし、屋台で色々と楽しめるし、願いごとも書けるし。
「ダイちゃんと2人きりで七夕祭りを廻れるなんて。夢みたい。小さい頃からダイちゃんのことが好きだし。カップルを見ると、私もダイちゃんといつかは2人で廻れるかなって思っていたから」
「そうだったんだな。それを聞くと、4人の提案を受け入れて良かったってより思うよ」
「……さっき、ダイちゃんがみんなに『2人きりでデート気分を味わいたい』って言ってくれたとき、凄く嬉しかったよ。ありがとね、ダイちゃん」
サクラはとても嬉しそうに言うと、俺の頬にキスしてきた。ちゅっ、と音がした直後、サクラは「えへへっ」と可愛く笑って。もう、このままサクラと手を繋いで歩いているだけでも十分な気がしてきたな。
「輪投げも得意なんだね、悠真君!」
「射的ほどじゃないけどな。結衣の欲しいものが取れて良かった」
「えへへっ、ありがとう」
男女の睦まじそうな会話が聞こえてきた。声がした方をチラッと見ると、浴衣姿の黒髪の女性が嬉しそうな様子で甚平姿の金髪の男性の腕を抱きしめている。俺達と変わらないくらいの年齢かな。見たところ、あの2人は俺達と同じでカップルなのだろう。
「輪投げか……」
「ダイちゃん、輪投げ得意じゃなかった? お菓子の詰め合わせとか取ってくれたよね」
「色々取ったなぁ。……輪投げ、行ってみるか?」
「いいね! これまでは食べ物系の屋台だけだったし。欲しいものがあったら、ダイちゃんに取ってもらおうかな」
「ああ、いいぞ」
輪投げは数年ほどやっていないけど。
それから少し歩くと、輪投げの屋台を見つける。
3段式の台には、お菓子、おもちゃ、動物のぬいぐるみ、人気アニメのミニフィギュアなどの景品が多数置かれている。景品の中身は少し変わっているけど、全体的な雰囲気は昔と変わらないな。だから、懐かしい気分になり、サクラのために景品をゲットして、サクラに喜んでもらったことを思い出す。
輪投げは3回で100円か。値段設定は変わらないな。昔はこの100円分で1つは景品を取れたけど、数年のブランクがあるからなぁ。
「サクラ。何か欲しい景品はあるか?」
「……あの、黒猫の寝そべりぬいぐるみがほしいな」
そう言い、サクラは台の方を指さす。その先にあるのは、一番上の台にうつぶせに寝そべっている黒猫のぬいぐるみ。大きさは俺の両手に収まるくらいのサイズだろうか。サクラが抱きしめたらちょうど良さそうかも。
「あの黒猫の寝そべりぬいぐるみだな。分かった」
「お願いしますっ」
そう言い、サクラは財布から100円を取り出し、俺に渡してきた。こうすると、輪投げを託された気持ちになるな。昔のように100円でぬいぐるみを取って、サクラにかっこいいところを見せたい。
屋台のおじさんに100円を渡して、話を3つ受け取る。完全に輪にくぐったら景品ゲットできるルールとのこと。頑張ろう。
「よし。久しぶりに輪投げを頑張るぞ」
「頑張って、ダイちゃん!」
「おう」
俺は右手で輪を持ち、黒猫のぬいぐるみに狙いを定める。
ぬいぐるみは一番上の台にあってちょっと遠いから、少し回転をかけた方がいいな。昔の感覚を思い出しながら、一投目を放った。
俺の右手から放たれた輪は、回転をかけながら黒猫のぬいぐるみにめがけて飛んでいく。
しかし、ぬいぐるみの顔に直撃し、真ん中の台に落ちた。
「惜しいなぁ」
「でも、目的のものに当たって凄いよ! 私だったら届かないか、明後日の方向に飛んでいくもん!」
「そう言ってくれると、失敗したけど嬉しくなるな」
サクラが笑顔で言ってくれるし。
久しぶりの輪投げだけど、目的の景品に輪が当たったのは大きい。昔の感覚はこの右手が覚えていたのだと分かったし。
2つ目の輪を持ち、黒猫のぬいぐるみに再び狙いを定める。
一投目は顔に直撃した。ということは、さっきよりも少し強めに投げるか。それを心がけながら、二投目を放った。
先ほどと同じように、右手から放たれた輪は回転をかけながらぬいぐるみにめがけて飛んでいく。
しかし、力が強すぎたのか、黒猫のぬいぐるみの少し上を通過。ぬいぐるみにかすりもせず、屋台のテントにぶつかってぬいぐるみの上に落ちる。ただ、輪が通ったのではなく、胴体の上に乗っているのでこれもダメだ。
「強く投げすぎたなぁ」
「テントに当たったけど、それでも輪がぬいぐるみの上に落ちて凄いよ!」
サクラは興奮気味にそう話してくれる。サクラは褒め上手だなぁ。彼女のおかげで、2連続で失敗してもそこまでショックはない。
次が3投目か。サクラのお金で輪投げをしているし、できれば次の輪で猫のぬいぐるみをゲットしたい。
3つ目の輪を持ち、黒猫のぬいぐるみに狙いを定める。
2投目は力が少し強すぎた。だから、輪がぬいぐるみを飛び越えて、テントにぶつかってしまった。二投目と一投目の中間の強さで。それを心がけて三投目の輪を放った。
これまでと同じく、俺の放った輪はぬいぐるみにめがけて飛んでいく。
輪はぬいぐるみのほんの少し上を飛ぶ。ただ、輪が過ぎようとした瞬間に落ち始め、黒猫のぬいぐるみに通る形となった。
「やった! やったねダイちゃんっ!」
普段よりも甲高い声でそう言うと、サクラは凄く嬉しそうに拍手してくれる。そんなサクラを見て嬉しい気持ちと同時に、昔のように100円のうちに景品をゲットできたことの安堵の気持ちを抱いた。
「おっ、今年は上手い奴が次々現れるなぁ。おめでとう、兄ちゃん」
「ありがとうございます」
屋台のおじさんから、黒猫のぬいぐるみが入った紙の手提げを受け取った。
上手い奴……もしかして、さっきすれ違った甚平服姿の男性も、俺と同じように100円で景品を取ったのかな。彼女と思われる女性との会話からして、輪投げをした直後だったようだし。
「はい、サクラ」
「ありがとう、ダイちゃん!」
俺が手提げを渡すと、サクラはキラキラと輝かせた目で手提げからぬいぐるみを取り出して、ぎゅっと抱きしめる。昔と変わらず本当に可愛いな、俺の彼女。
「昔と変わらず上手だね!」
「ありがとう。ひさしぶりだったけど、100円で景品を取れて良かったよ」
「凄いよ、ダイちゃん! ちゃんと取れるのはもちろんだけど、狙いを定めて投げる姿もかっこよかったよ!」
「そう言ってくれて嬉しいよ。ありがとう」
彼女にかっこいい姿を見せられて良かったよ。彼氏として何よりだ。
「サクラ。ひさしぶりにゲットできた記念に写真撮ってもいいか? ぬいぐるみもサクラも可愛いし」
「もちろんいいよっ!」
その後、俺は自分のスマホで、ゲットした黒猫のぬいぐるみを抱きしめるサクラを撮影する。
浴衣を着てからサクラの笑顔はたくさん見てきたけど、今の笑顔が一番可愛く思える。俺の輪投げでその笑顔を引き出せて、写真に収められたことを嬉しく思った。
□後書き□
読んでいただきありがとうございます。
お気づきの方もいるかもしれませんが、この話に出てきた悠真と結衣は『高嶺の花の高嶺さんに好かれまして。』のキャラクターです。
また、高校のクラスメイトや中学時代の友人と会うことが何度もあって。地元ではないけど、人気のお祭りだと旧友と再会できていいな。
会場に来たときにはまだ少し明るさが残っていた空も、今はすっかりと暗くなっている。ただ、そのことで、会場の中は提灯や屋台のみの灯りに照らされるので、よりお祭りらしい雰囲気になっている。
「ねえ、一紗、杏奈ちゃん、羽柴君。いくつか屋台を廻ったし、そろそろ2人に提案してみてもいいかな」
「いいと思うわ」
「この6人での時間も楽しめましたしね」
「俺もいいと思うぜ」
「どうかしたの? みんな」
「何かあるのか?」
今の会話からして、一紗と杏奈、羽柴、小泉さんの4人で何か考えていることがあるみたいだ。
4人を代表してか、小泉さんが笑顔で俺とサクラに一歩近づく。
「実は、ある程度6人で廻ったら、文香と速水君に2人きりの時間を作らないかって4人で話していたの。2人は今年の春に付き合い始めたし、このお祭りには4年ぶりに一緒に来たみたいだから」
「そうだったのか」
「ダイちゃんと私にデート気分を味わってほしいって考えてくれたんだね」
試験勉強期間で七夕祭りのことが話題になったとき、この6人で一緒に行こうと決めた。だから、6人で一緒に楽しめれば俺はそれで満足に思っていた。4年ぶりにサクラと一緒にお祭りを楽しめるから。それに、中1までも家族や友達と一緒に廻っていたし。
ただ、今の小泉さんの話を聞くと……サクラと2人きりでお祭り会場の中を廻ることに興味が出てくる。
「俺は……サクラと2人きりでデート気分を味わいたいと思ってる。サクラはどうかな?」
「……私もっ」
サクラはニッコリと笑いながらそう言うと、俺の手を繋ぐ力を強くしてくる。そんな反応にとても嬉しい気持ちになる。
「じゃあ、みんなのご厚意に甘えて、一旦、サクラと俺は別行動させてもらうよ」
「ダイちゃんとお祭りデートしてくるね」
「うんっ」
小泉さんは持ち前の快活な笑顔で頷く。
「楽しんでね、大輝君、文香さん」
「デート楽しんでくださいね!」
「楽しんでこいよ」
「みんなありがとな」
「ありがとう!」
サクラと俺のために2人きりの時間を作ってくれるなんて。みんな優しいな。そういった人達が友達や後輩で、俺達は恵まれていると思う。
今は午後7時20分。なので、午後8時に短冊コーナーの近くに集まると約束し、サクラと俺は4人と別行動をすることに。こうして、お祭りデートが始まった。
「まさか、青葉ちゃん達が私達のデートの時間を作ろうって考えてくれていたなんてね」
「そうだな。全然想像していなかったよ。サクラと久しぶりにこのお祭りに来られたから、みんなと一緒でも楽しかったし。もちろん、サクラと2人きりになれて嬉しいぞ!」
「ふふっ、分かってるよ。それに、私も同じ気持ちだから」
「サクラ……」
「みんなが用意してくれた2人きりの時間を楽しもうね!」
「そうだな」
40分ほどだけど、サクラとのお祭りデートの時間をたっぷりと楽しみたい。
「サクラはどこかお目当ての屋台はあるか?」
「屋台がいっぱいあるからね……。とりあえずは歩いてもいいかな? それで、良さそうなところがあったら『行きたい!』って言うよ」
「分かった」
とりあえずは会場の中を歩くというのも乙な過ごし方だろう。非日常の場所をサクラと一緒に歩いているから、俺にとっては今の時点でかなり楽しい。
周りを見ると……俺達のように手を繋いだり、腕を組んだりして会場内を歩いているカップルらしき人達は何組もいる。デート目的でこのお祭りに来ている人は結構いるんだろうな。一年に一回のイベントだし、屋台で色々と楽しめるし、願いごとも書けるし。
「ダイちゃんと2人きりで七夕祭りを廻れるなんて。夢みたい。小さい頃からダイちゃんのことが好きだし。カップルを見ると、私もダイちゃんといつかは2人で廻れるかなって思っていたから」
「そうだったんだな。それを聞くと、4人の提案を受け入れて良かったってより思うよ」
「……さっき、ダイちゃんがみんなに『2人きりでデート気分を味わいたい』って言ってくれたとき、凄く嬉しかったよ。ありがとね、ダイちゃん」
サクラはとても嬉しそうに言うと、俺の頬にキスしてきた。ちゅっ、と音がした直後、サクラは「えへへっ」と可愛く笑って。もう、このままサクラと手を繋いで歩いているだけでも十分な気がしてきたな。
「輪投げも得意なんだね、悠真君!」
「射的ほどじゃないけどな。結衣の欲しいものが取れて良かった」
「えへへっ、ありがとう」
男女の睦まじそうな会話が聞こえてきた。声がした方をチラッと見ると、浴衣姿の黒髪の女性が嬉しそうな様子で甚平姿の金髪の男性の腕を抱きしめている。俺達と変わらないくらいの年齢かな。見たところ、あの2人は俺達と同じでカップルなのだろう。
「輪投げか……」
「ダイちゃん、輪投げ得意じゃなかった? お菓子の詰め合わせとか取ってくれたよね」
「色々取ったなぁ。……輪投げ、行ってみるか?」
「いいね! これまでは食べ物系の屋台だけだったし。欲しいものがあったら、ダイちゃんに取ってもらおうかな」
「ああ、いいぞ」
輪投げは数年ほどやっていないけど。
それから少し歩くと、輪投げの屋台を見つける。
3段式の台には、お菓子、おもちゃ、動物のぬいぐるみ、人気アニメのミニフィギュアなどの景品が多数置かれている。景品の中身は少し変わっているけど、全体的な雰囲気は昔と変わらないな。だから、懐かしい気分になり、サクラのために景品をゲットして、サクラに喜んでもらったことを思い出す。
輪投げは3回で100円か。値段設定は変わらないな。昔はこの100円分で1つは景品を取れたけど、数年のブランクがあるからなぁ。
「サクラ。何か欲しい景品はあるか?」
「……あの、黒猫の寝そべりぬいぐるみがほしいな」
そう言い、サクラは台の方を指さす。その先にあるのは、一番上の台にうつぶせに寝そべっている黒猫のぬいぐるみ。大きさは俺の両手に収まるくらいのサイズだろうか。サクラが抱きしめたらちょうど良さそうかも。
「あの黒猫の寝そべりぬいぐるみだな。分かった」
「お願いしますっ」
そう言い、サクラは財布から100円を取り出し、俺に渡してきた。こうすると、輪投げを託された気持ちになるな。昔のように100円でぬいぐるみを取って、サクラにかっこいいところを見せたい。
屋台のおじさんに100円を渡して、話を3つ受け取る。完全に輪にくぐったら景品ゲットできるルールとのこと。頑張ろう。
「よし。久しぶりに輪投げを頑張るぞ」
「頑張って、ダイちゃん!」
「おう」
俺は右手で輪を持ち、黒猫のぬいぐるみに狙いを定める。
ぬいぐるみは一番上の台にあってちょっと遠いから、少し回転をかけた方がいいな。昔の感覚を思い出しながら、一投目を放った。
俺の右手から放たれた輪は、回転をかけながら黒猫のぬいぐるみにめがけて飛んでいく。
しかし、ぬいぐるみの顔に直撃し、真ん中の台に落ちた。
「惜しいなぁ」
「でも、目的のものに当たって凄いよ! 私だったら届かないか、明後日の方向に飛んでいくもん!」
「そう言ってくれると、失敗したけど嬉しくなるな」
サクラが笑顔で言ってくれるし。
久しぶりの輪投げだけど、目的の景品に輪が当たったのは大きい。昔の感覚はこの右手が覚えていたのだと分かったし。
2つ目の輪を持ち、黒猫のぬいぐるみに再び狙いを定める。
一投目は顔に直撃した。ということは、さっきよりも少し強めに投げるか。それを心がけながら、二投目を放った。
先ほどと同じように、右手から放たれた輪は回転をかけながらぬいぐるみにめがけて飛んでいく。
しかし、力が強すぎたのか、黒猫のぬいぐるみの少し上を通過。ぬいぐるみにかすりもせず、屋台のテントにぶつかってぬいぐるみの上に落ちる。ただ、輪が通ったのではなく、胴体の上に乗っているのでこれもダメだ。
「強く投げすぎたなぁ」
「テントに当たったけど、それでも輪がぬいぐるみの上に落ちて凄いよ!」
サクラは興奮気味にそう話してくれる。サクラは褒め上手だなぁ。彼女のおかげで、2連続で失敗してもそこまでショックはない。
次が3投目か。サクラのお金で輪投げをしているし、できれば次の輪で猫のぬいぐるみをゲットしたい。
3つ目の輪を持ち、黒猫のぬいぐるみに狙いを定める。
2投目は力が少し強すぎた。だから、輪がぬいぐるみを飛び越えて、テントにぶつかってしまった。二投目と一投目の中間の強さで。それを心がけて三投目の輪を放った。
これまでと同じく、俺の放った輪はぬいぐるみにめがけて飛んでいく。
輪はぬいぐるみのほんの少し上を飛ぶ。ただ、輪が過ぎようとした瞬間に落ち始め、黒猫のぬいぐるみに通る形となった。
「やった! やったねダイちゃんっ!」
普段よりも甲高い声でそう言うと、サクラは凄く嬉しそうに拍手してくれる。そんなサクラを見て嬉しい気持ちと同時に、昔のように100円のうちに景品をゲットできたことの安堵の気持ちを抱いた。
「おっ、今年は上手い奴が次々現れるなぁ。おめでとう、兄ちゃん」
「ありがとうございます」
屋台のおじさんから、黒猫のぬいぐるみが入った紙の手提げを受け取った。
上手い奴……もしかして、さっきすれ違った甚平服姿の男性も、俺と同じように100円で景品を取ったのかな。彼女と思われる女性との会話からして、輪投げをした直後だったようだし。
「はい、サクラ」
「ありがとう、ダイちゃん!」
俺が手提げを渡すと、サクラはキラキラと輝かせた目で手提げからぬいぐるみを取り出して、ぎゅっと抱きしめる。昔と変わらず本当に可愛いな、俺の彼女。
「昔と変わらず上手だね!」
「ありがとう。ひさしぶりだったけど、100円で景品を取れて良かったよ」
「凄いよ、ダイちゃん! ちゃんと取れるのはもちろんだけど、狙いを定めて投げる姿もかっこよかったよ!」
「そう言ってくれて嬉しいよ。ありがとう」
彼女にかっこいい姿を見せられて良かったよ。彼氏として何よりだ。
「サクラ。ひさしぶりにゲットできた記念に写真撮ってもいいか? ぬいぐるみもサクラも可愛いし」
「もちろんいいよっ!」
その後、俺は自分のスマホで、ゲットした黒猫のぬいぐるみを抱きしめるサクラを撮影する。
浴衣を着てからサクラの笑顔はたくさん見てきたけど、今の笑顔が一番可愛く思える。俺の輪投げでその笑顔を引き出せて、写真に収められたことを嬉しく思った。
□後書き□
読んでいただきありがとうございます。
お気づきの方もいるかもしれませんが、この話に出てきた悠真と結衣は『高嶺の花の高嶺さんに好かれまして。』のキャラクターです。
0
読んでいただきありがとうございます。お気に入り登録や感想をお待ちしております。
『クラスメイトの王子様系女子をナンパから助けたら。』の続編がスタートしました!(2025.2.8) 学園ラブコメです。是非、読みに来てみてください。
URL:https://www.alphapolis.co.jp/novel/347811610/89864889
『高嶺の花の高嶺さんに好かれまして。』は全編公開中です。 学園ラブコメ作品です。是非、読みに来てみてください。宜しくお願いします。
URL:https://www.alphapolis.co.jp/novel/347811610/441389601
『まずはお嫁さんからお願いします。』は全編公開中です。高校生夫婦学園ラブコメです。是非、読みに来て見てください。
URL:https://www.alphapolis.co.jp/novel/347811610/120759248
『クラスメイトの王子様系女子をナンパから助けたら。』の続編がスタートしました!(2025.2.8) 学園ラブコメです。是非、読みに来てみてください。
URL:https://www.alphapolis.co.jp/novel/347811610/89864889
『高嶺の花の高嶺さんに好かれまして。』は全編公開中です。 学園ラブコメ作品です。是非、読みに来てみてください。宜しくお願いします。
URL:https://www.alphapolis.co.jp/novel/347811610/441389601
『まずはお嫁さんからお願いします。』は全編公開中です。高校生夫婦学園ラブコメです。是非、読みに来て見てください。
URL:https://www.alphapolis.co.jp/novel/347811610/120759248
お気に入りに追加
61
あなたにおすすめの小説

僕(じゃない人)が幸せにします。
暇魷フミユキ
恋愛
【副題に☆が付いている話だけでだいたい分かります!】
・第1章
彼、〈君島奏向〉の悩み。それはもし将来、恋人が、妻ができたとしても、彼女を不幸にすることだった。
そんな彼を想う二人。
席が隣でもありよく立ち寄る喫茶店のバイトでもある〈草壁美頼〉。
所属する部の部長でたまに一緒に帰る仲の〈西沖幸恵〉。
そして彼は幸せにする方法を考えつく――――
「僕よりもっと相応しい人にその好意が向くようにしたいんだ」
本当にそんなこと上手くいくのか!?
それで本当に幸せなのか!?
そもそも幸せにするってなんだ!?
・第2章
草壁・西沖の二人にそれぞれの相応しいと考える人物を近付けるところまでは進んだ夏休み前。君島のもとにさらに二人の女子、〈深町冴羅〉と〈深町凛紗〉の双子姉妹が別々にやってくる。
その目的は――――
「付き合ってほしいの!!」
「付き合ってほしいんです!!」
なぜこうなったのか!?
二人の本当の想いは!?
それを叶えるにはどうすれば良いのか!?
・第3章
文化祭に向け、君島と西沖は映像部として広報動画を撮影・編集することになっていた。
君島は西沖の劇への参加だけでも心配だったのだが……
深町と付き合おうとする別府!
ぼーっとする深町冴羅!
心配事が重なる中無事に文化祭を成功することはできるのか!?
・第4章
二年生は修学旅行と進路調査票の提出を控えていた。
期待と不安の間で揺れ動く中で、君島奏向は決意する――
「僕のこれまでの行動を二人に明かそうと思う」
二人は何を思い何をするのか!?
修学旅行がそこにもたらすものとは!?
彼ら彼女らの行く先は!?
・第5章
冬休みが過ぎ、受験に向けた勉強が始まる二年生の三学期。
そんな中、深町凛紗が行動を起こす――
君島の草津・西沖に対するこれまでの行動の調査!
映像部への入部!
全ては幸せのために!
――これは誰かが誰かを幸せにする物語。
ここでは毎日1話ずつ投稿してまいります。
作者ページの「僕(じゃない人)が幸せにします。(「小説家になろう」投稿済み全話版)」から全話読むこともできます!

10年ぶりに再会した幼馴染と、10年間一緒にいる幼馴染との青春ラブコメ
桜庭かなめ
恋愛
高校生の麻丘涼我には同い年の幼馴染の女の子が2人いる。1人は小学1年の5月末から涼我の隣の家に住み始め、約10年間ずっと一緒にいる穏やかで可愛らしい香川愛実。もう1人は幼稚園の年長組の1年間一緒にいて、卒園直後に引っ越してしまった明るく活発な桐山あおい。涼我は愛実ともあおいとも楽しい思い出をたくさん作ってきた。
あおいとの別れから10年。高校1年の春休みに、あおいが涼我の家の隣に引っ越してくる。涼我はあおいと10年ぶりの再会を果たす。あおいは昔の中性的な雰囲気から、清楚な美少女へと変わっていた。
3人で一緒に遊んだり、学校生活を送ったり、愛実とあおいが涼我のバイト先に来たり。春休みや新年度の日々を通じて、一度離れてしまったあおいとはもちろんのこと、ずっと一緒にいる愛実との距離も縮まっていく。
出会った早さか。それとも、一緒にいる長さか。両隣の家に住む幼馴染2人との温かくて甘いダブルヒロイン学園青春ラブコメディ!
※特別編4が完結しました!(2024.8.2)
※小説家になろう(N9714HQ)とカクヨムでも公開しています。
※お気に入り登録や感想をお待ちしております。

向日葵と隣同士で咲き誇る。~ツンツンしているクラスメイトの美少女が、可愛い笑顔を僕に見せてくれることが段々と多くなっていく件~
桜庭かなめ
恋愛
高校2年生の加瀬桔梗のクラスには、宝来向日葵という女子生徒がいる。向日葵は男子生徒中心に人気が高く、学校一の美少女と言われることも。
しかし、桔梗はなぜか向日葵に1年生の秋頃から何度も舌打ちされたり、睨まれたりしていた。それでも、桔梗は自分のように花の名前である向日葵にちょっと興味を抱いていた。
ゴールデンウィーク目前のある日。桔梗はバイト中に男達にしつこく絡まれている向日葵を助ける。このことをきっかけに、桔梗は向日葵との関わりが増え、彼女との距離が少しずつ縮まっていく。そんな中で、向日葵は桔梗に可愛らしい笑顔を段々と見せていくように。
桔梗と向日葵。花の名を持つ男女2人が織りなす、温もりと甘味が少しずつ増してゆく学園ラブコメディ!
※小説家になろうとカクヨムでも公開しています。
※お気に入り登録、感想をお待ちしています。

覚えたての催眠術で幼馴染(悔しいが美少女)の弱味を握ろうとしたら俺のことを好きだとカミングアウトされたのだが、この後どうしたらいい?
みずがめ
恋愛
覚えたての催眠術を幼馴染で試してみた。結果は大成功。催眠術にかかった幼馴染は俺の言うことをなんでも聞くようになった。
普段からわがままな幼馴染の従順な姿に、ある考えが思いつく。
「そうだ、弱味を聞き出そう」
弱点を知れば俺の前で好き勝手なことをされずに済む。催眠術の力で口を割らせようとしたのだが。
「あたしの好きな人は、マーくん……」
幼馴染がカミングアウトしたのは俺の名前だった。
よく見れば美少女となっていた幼馴染からの告白。俺は一体どうすればいいんだ?

管理人さんといっしょ。
桜庭かなめ
恋愛
桐生由弦は高校進学のために、学校近くのアパート「あけぼの荘」に引っ越すことに。
しかし、あけぼの荘に向かう途中、由弦と同じく進学のために引っ越す姫宮風花と二重契約になっており、既に引っ越しの作業が始まっているという連絡が来る。
風花に部屋を譲ったが、あけぼの荘に空き部屋はなく、由弦の希望する物件が近くには一切ないので、新しい住まいがなかなか見つからない。そんなとき、
「責任を取らせてください! 私と一緒に暮らしましょう」
高校2年生の管理人・白鳥美優からのそんな提案を受け、由弦と彼女と一緒に同居すると決める。こうして由弦は1学年上の女子高生との共同生活が始まった。
ご飯を食べるときも、寝るときも、家では美少女な管理人さんといつもいっしょ。優しくて温かい同居&学園ラブコメディ!
※特別編10が完結しました!(2024.6.21)
※お気に入り登録や感想をお待ちしております。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

クラスメイトの王子様系女子をナンパから助けたら。
桜庭かなめ
恋愛
高校2年生の白石洋平のクラスには、藤原千弦という女子生徒がいる。千弦は美人でスタイルが良く、凛々しく落ち着いた雰囲気もあるため「王子様」と言われて人気が高い。千弦とは教室で挨拶したり、バイト先で接客したりする程度の関わりだった。
とある日の放課後。バイトから帰る洋平は、駅前で男2人にナンパされている千弦を見つける。普段は落ち着いている千弦が脚を震わせていることに気付き、洋平は千弦をナンパから助けた。そのときに洋平に見せた笑顔は普段みんなに見せる美しいものではなく、とても可愛らしいものだった。
ナンパから助けたことをきっかけに、洋平は千弦との関わりが増えていく。
お礼にと放課後にアイスを食べたり、昼休みに一緒にお昼ご飯を食べたり、お互いの家に遊びに行ったり。クラスメイトの王子様系女子との温かくて甘い青春ラブコメディ!
※続編がスタートしました!(2025.2.8)
※1日1話ずつ公開していく予定です。
※小説家になろうとカクヨムでも公開しています。
※お気に入り登録、いいね、感想などお待ちしております。

貞操観念逆転世界におけるニートの日常
猫丸
恋愛
男女比1:100。
女性の価値が著しく低下した世界へやってきた【大鳥奏】という一人の少年。
夢のような世界で彼が望んだのは、ラブコメでも、ハーレムでもなく、男の希少性を利用した引き籠り生活だった。
ネトゲは楽しいし、一人は気楽だし、学校行かなくてもいいとか最高だし。
しかし、男女の比率が大きく偏った逆転世界は、そんな彼を放っておくはずもなく……
『カナデさんってもしかして男なんじゃ……?』
『ないでしょw』
『ないと思うけど……え、マジ?』
これは貞操観念逆転世界にやってきた大鳥奏という少年が世界との関わりを断ち自宅からほとんど出ない物語。
貞操観念逆転世界のハーレム主人公を拒んだ一人のネットゲーマーの引き籠り譚である。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる