サクラブストーリー

桜庭かなめ

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特別編6-星空に願う夏の夜編-

第2話『杏奈からの接客』

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 6月30日から今日7月3日まで、1学期の期末試験が行なわれた。
 期末試験は中間試験も実施した10科目に加えて、保健と情報も実施される。どちらもそこまで難しくないものの、試験科目が2つ増えるのはちょっとキツく感じた。
 ただ、バイトのない放課後や休日にはみんなと勉強会をしたり、一緒に住んでいるサクラとは毎晩一緒に勉強したりしたのもあり、どの教科も手応えがある。
 サクラも理系科目含めて手応えがあり、結構苦手な科目がある一紗と羽柴、小泉さんも赤点になりそうな科目はないという。
 1年生の杏奈は、期末試験では中間試験の科目に加え、保健と家庭科が追加で実施されたが、苦手な科目でも平均点くらいは狙えそうだとのこと。
 みんなの感じた手応え通りの結果となり、無事に1学期を終えられることを願おう。



 放課後。
 今日の日程はお昼で終わったし、今日で期末試験が終了した。それに加えて、来週の月曜日から終業式の日までずっと午前中のみの日程が続く。なので、いつもの金曜日よりもかなり開放的な気分だ。
 今日はバイトのシフトが入っておらず、サクラも部活の予定もなくてフリーなので、サクラと放課後デートである。

「杏奈ちゃんの接客楽しみだね」
「そうだな」

 今、俺達はお昼ご飯を食べに、バイト先のマスバーガーというファストフード店に向かって歩いている。
 今日、俺のシフトは入っていないけど、杏奈のシフトは入っているのだ。杏奈の指導係をしているのもあり、これまでは俺のいる時間に杏奈はシフトを入れていた。俺が体調を崩して休んだとき以外は、杏奈だけが入っていたことはない。
 ただ、杏奈がバイトを始めてからおよそ3ヶ月。接客を中心にフロアの仕事にも慣れてきたので、杏奈だけがシフトに入ることになった。今日はお昼に学校が終わるので、杏奈の様子を見るのも兼ねてマスバーガーでお昼ご飯を食べようということになったのだ。ちなみに、このことは杏奈にも伝えている。

「もう、杏奈ちゃんはシフトに入っているよね」
「ああ。午後1時からだからな」

 今は午後1時10分。杏奈は遅刻することは全然ないので、今はカウンターに立って働いていると思う。
 また、杏奈に接客されるために、下校してすぐにマスバーガーに行くのではなく、アニメイクというアニメショップに行って時間調整をした。

「ダイちゃんは杏奈ちゃんに接客されたことはあるの?」
「スタッフルームで、接客の練習としてお客さん役をやったことはあるけど、実際にお客さんとしてカウンターでされたことはないな」
「そうだったんだ。まあ、杏奈ちゃんがカウンターにいるときは、ダイちゃんが後ろに立っていたり、隣のカウンターを担当したりしているもんね」
「ああ。俺が体調不良で休んだとき以外は、杏奈のシフトは俺がいるときに入っていたからな。お客さんとして初めて接客されるの……楽しみだな」
「ふふっ」

 最近は接客にも慣れ、杏奈の友達やサクラといった親しい先輩相手にはもちろんのこと、それ以外のお客様でも可愛らしい笑顔で接客できている。指導係の先輩店員の俺にもそういう接客をしてくれたら嬉しいな。それとも、先輩相手だから、緊張してしまうかな。
 サクラと話していると、杏奈と俺がバイトしているマスバーガー四鷹駅南口店が見えてきた。お昼時を少し過ぎた時間帯なのもあり、お店に入っていく人もいれば出ていく人もいる。出ていく人の中にはドリンクのカップを持っている人もいる。マスバーガーはドリンクの種類が豊富だし、今は真夏だから、冷たいドリンクのみをテイクアウトするお客様も割といるからな。それに、今は雨が降っていないし。
 店内の様子が見えるところまで近づいたところで、

「サクラ。一旦、ここでストップしていいか。杏奈の様子を見たい」
「分かった」

 一旦、歩みを止める。
 入口横のガラスの壁越しに店内を見てみる。カウンターの方を見ると……おっ、杏奈がいた。クールビズな服装の社会人の男性に、いつもの明るく可愛い笑顔で接客できている。いい調子だ。

「杏奈ちゃん、可愛い笑顔で接客できているね」
「ああ。いつも通りにできていて安心したよ。……おっ、杏奈担当のカウンターの前に誰もいなくなった。行くか」
「うんっ」

 俺達は再び歩き出し、マスバーガーの中に入る。
 蒸し暑い中歩いてきたから、お店の中の涼しさがとても快適だ。ハンバーガーやポテトなどの商品のいい匂いがするし。快適な環境の中でバイトしているのだと再認識する。
 杏奈の方に視線を向けると、杏奈はニコッと笑って、

「いらっしゃいませ! こちらにどうぞ!」

 元気良く挨拶をして、右手を挙げて案内してきた。いい挨拶だし、ここならすぐに接客できると手を挙げて知らせているし。いいぞ、杏奈。
 俺達は杏奈が担当するカウンターへと向かう。

「杏奈、試験もバイトもお疲れ様」
「お疲れ様、杏奈ちゃん」
「ありがとうございます! さっきメッセージに送った通り、先輩方と勉強会をしたおかげでどの科目も平均点は越えられそうです。先輩方はどうでした?」
「どの科目も手応えがあったよ」
「私も結構手応えがあったかな。苦手な理系科目も平均点を狙えそうだよ」
「それは良かったですっ」

 杏奈はニッコリと笑いながらそう言った。杏奈のこういう笑顔はたくさん見てきたけど、客としてカウンター越しに杏奈を見るのは初めてだから新鮮さを感じる。

「……って、いつまでも話していてはいけませんね。すみません」
「気にしないで。こっちから話題を振ったんだし」
「サクラの言う通りだ。気にするな」
「はいっ」
「……ダイちゃんから接客してもらって。初めてなんだし」
「分かった」

 小さい頃から、お客さんとしてマスバーガーにはたくさん来ているけど、杏奈からの接客は初めてだから何だか緊張してきたぞ。それに対して杏奈は……笑顔だ。いいことだ。

「いらっしゃいませ。店内でのご利用でしょうか」
「はい。店内で」
「かしこまりました。ご注文をお伺いします」
「えっと……昼セットのチーズバーガーセットで」

 平日の昼間限定で販売されている『昼セット』というセットメニューを頼むことに。

「昼セットのチーズバーガーをお一つですね。サイドメニューは何になさいますか?」
「ポテトで」
「ポテトですね。ドリンクは何になさいますか?」
「アイスコーヒーで」
「アイスコーヒーですね。ガムシロップとミルクはお付けしますか?」
「どちらもいりません」
「どちらもなしですね。かしこまりました。他には何かご注文はありますでしょうか?」
「いえ。以上で」
「かしこまりました。確認いたします。昼セットのチーズバーガー、サイドメニューはポテトで、ドリンクはアイスコーヒー。以上でよろしいでしょうか?」
「はい、大丈夫です」
「かしこまりました。600円になります」

 杏奈はいつもの笑顔でそう言った。終始落ち着いていたし、サイドメニューやドリンクは何にするか、コーヒーを頼んだからガムシロップやミルクが必要かどうかちゃんと訊けて偉いぞ。そんなことを思いながら、キャッシュトレイに1000円札を置く。

「1000円で」
「1000円お預かりします。……400円のお返しになります。少々お待ちください」
「はい」

 俺にお釣りの400円を渡すと、杏奈は俺が注文した昼セットのチーズバーガーセットを用意していく。店内で食べるので、メニューをトレーに乗せて。その間も杏奈は落ち着いて動いていた。

「お待たせしました。昼セットのチーズバーガーセットになります」
「ありがとう。……落ち着いているし、笑顔で接客できていたな。良かったよ」
「後ろから見ていたけど、杏奈ちゃん、しっかりと接客していたね」
「ありがとうございますっ。こういう接客ができたのは、大輝先輩がお仕事について色々と教えてくれたおかげです」
「……そう言ってくれると、指導係の先輩として嬉しいよ。ただ、普段からの真面目に仕事を頑張る杏奈の姿勢があってこそだと思う。3ヶ月、杏奈と一緒にバイトして俺はそう思っているよ」
「ありがとうございます」

 えへへっ、と杏奈は頬をほんのりと赤くしながら笑う。本当に可愛い後輩だ。ただ、接客してもらったのもあり、頼もしさも感じられて。

「一人でもできる仕事が多くなってきましたが、これからも大輝先輩と同じシフトでのバイトもしていきたいです。楽しいですから」
「そうか。これからも一緒にバイトしていこうな」
「はいっ!」

 杏奈は元気良く返事してくれる。指導係としての役目は終わりかもしれないけど、杏奈と一緒にバイトをするのはこれからも続いていく。それが嬉しかった。

「この後も頑張れよ、杏奈」
「はいっ。ありがとうございます」

 俺はトレーを持ってカウンターから離れる。
 他のお客さんの邪魔にならないところまで移動し、サクラに接客する杏奈の様子を見守ることに。
 サクラがとても親しい先輩なのもあるだろうけど、杏奈は持ち前の明るい笑顔で接客している。ほんと、この3ヶ月で成長したなぁ。ちょっと感動。目頭が熱くなってきたぞ。

「杏奈ちゃん、この後も頑張ってね」
「ありがとうございますっ!」

 そんな会話が聞こえ、サクラはトレーを持ってカウンターを離れる。すぐに俺に気付いたようで、サクラは笑顔で俺のところにやってくる。

「席に行かずに待っていたんだ」
「ああ。サクラに接客する杏奈の様子も見たくてさ。ごめん、席を確保していなくて」
「気にしないで。杏奈ちゃんの成長した姿を見たいよね。杏奈ちゃん、笑顔だし、落ち着いて接客していたね。バイトが始まったときは笑顔こそ見せていたけど、緊張しい感じもあったから」

 サクラは落ち着いた笑顔で言う。これまで、何度も杏奈に接客されているからこそ分かる変化だな。あと、後輩のことを話しているのもあり、サクラがいつもよりも大人っぽく見える。

「そうか。杏奈が成長したって実感したよ」
「本人の頑張りもあるだろうけど、杏奈ちゃんの言うようにダイちゃん中心に指導したおかげでもあると思うよ。さあ、席に行こうか」
「ああ」

 お昼過ぎに差し掛かる時間だけど、俺達のような学生服を着た人を中心にお客さんが結構いる。うちの高校のように、定期試験があってお昼に終わる学校が多いのだろうか。
 運良く、カウンターが見える2人用のテーブル席を見つけたので、俺達は向かい合う形で座る。

「おっ、サクラはてりやきバーガーセットにしたんだ」
「うん。今日は甘辛系を食べたい気分でね。ダイちゃんはチーズバーガーか。小さい頃からチーズバーガーが好きだよね」
「ああ。一番好きだ。てりやきバーガーも好きだけどな」
「ふふっ。じゃあ、さっそく食べようか」
「そうだな。いただきます」
「いただきますっ」

 俺はチーズバーガーを手に取り、包み紙を少し外す。そのことで、チーズバーガーの美味しそうな匂いが香ってきて。その匂いに頬を緩ませつつ、チーズバーガーを一口。

「……美味しい」

 風味のあるチーズと、ジューシーなハンバーグの相性が抜群だ。ピクルスの酸味もアクセントになっていていいな。小さい頃から変わらない美味しさだ。

「ダイちゃん幸せそう」
「好物を食えて嬉しくてさ。杏奈が用意してくれたものだし」
「ふふっ、そっか。てりやきバーガーも美味しいよ」
「てりやきも美味いよなぁ」
「うんっ」

 サクラはそう言い、てりやきバーガーをもう一口。笑顔でモグモグと食べる姿がとても可愛くて。マスバーガーに来て美味しそうに食べるのは小さい頃から変わらない。
 杏奈から初めて接客されて、サクラと一緒に食べているからだろうか。数え切れないほどに食べてきたチーズバーガーは、今回が一番美味しく感じられた。
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