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本編-新年度編-
第6話『やくそく』
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午後6時過ぎ。
バイトが終わり、俺はサクラと一緒に帰路に就く。俺の帰る場所とサクラの帰る場所が同じであること。それが、これからの日常になることがとても嬉しい。
俺と同じような気持ちを抱いてくれているのか。それとも、マスバーガーで一紗と過ごした時間が楽しかったからなのか。サクラは俺の隣でずっと笑みを浮かべていた。
夕食後。
食事の後片付けをしたサクラは、コーヒーの入ったマグカップと文庫本を持って俺の部屋にやってきた。サクラが引っ越してきた日に貸した『従妹達が僕にとてもウザい』というラノベの第1巻を返しにきたのだ。以前貸した羽柴と同じく、面白かったのでこの続きは自分で購読するそう。
――プルルッ。
――プルルッ。
別のラノベを借りるため、サクラと一緒に本棚を見ていると、俺とサクラのスマホが同時に鳴る。2人とも入っているグループトークにメッセージが送られたのだろうか。今日の終礼後に一紗と連絡先を交換した際、明日一緒に遊ぶので、俺とサクラ、一紗、小泉さん、羽柴の5人でLIMEのグループを作ったから。
さっそく確認すると、昼間作ったグループに小泉さんからメッセージが送られていた。
『明日について、待ち合わせ以外は全然決めてなかったね。どこか行ってみたいお店はある?』
そのメッセージをきっかけに、俺達は明日のことについて話し合う。
話し合いの結果、お昼ご飯は小泉さんの行きたいお店で食べること。一紗の提案でカラオケに行くことが決まった。あとはオリオ四鷹店や駅周辺をぶらぶらと歩く予定だ。
「明日が楽しみだね、ダイちゃん」
「楽しみだな。5人で休日に遊ぶのは初めてだし。それに、サクラと一緒に駅の方へ遊びに行くのもひさしぶりだから」
「そうだね」
3年前の一件があってから仲直りするまでの間、サクラとは登下校したり、バイト帰りに偶然会ったときに途中まで一緒に帰ることはあった。しかし、放課後や休日に遊びに行くことはなかった。
「みんなと一緒に遊ぶのは楽しみ。でも、ダイちゃんと2人きりでも遊びに行きたいな」
「サクラ……」
「だから、週末に2人きりで四鷹駅周辺で遊ばない? 仲直り記念っていうか。ひさしぶりにダイちゃんとお出かけしたいし、この3年の間に新しくできたお店もあるから。どう……かな?」
頬をほんのりと赤くして、俺のことをチラチラと見てくるサクラ。凄く可愛い。昔は定期的に2人きりで遊びに出かけたけど、ひさしぶりだから照れくささがあるのかな。
サクラからの提案の答えはもちろん、
「いいぞ。週末は2人で出かけよう」
俺がそう返事すると、サクラはすぐにニッコリと笑う。
「ありがとう! 確か、リビングのカレンダーには、土曜日はバイトの予定は書いてなかったはず」
「ああ。土曜日は何も予定は入ってないよ」
「分かった。じゃあ、土曜日に2人にお出かけしよう。約束ね」
サクラは右手の小指を差し出してくる。
そういえば、小さい頃は約束事をするとき、たまに指切りしていたな。そんなことを思い出しながら、俺は右手の小指をサクラの小指に引っかける。
触れている部分は小指だけなのに、サクラの優しい温もりがしっかりと伝わってきて。指であっても、サクラと肌で触れている。そう考えたら、段々とドキドキしてきた。この鼓動が指で伝わってしまっていないかどうか心配だ。
サクラの方を見ると、サクラは依然として笑みを浮かべている。ただ、さっきよりも頬がほんのりと赤くなっていた。
「……や、やむを得ない事情以外で約束を破ったら、何本か針を飲んでもらおうっと。……10本くらいがいいかな?」
「そのくらいの数字だと、本気で飲ませる気がして怖いな」
「ふふっ。それだけ楽しみにしてるってことだよ。本当に破っちゃったら、何か別のペナルティを考えておくね」
「針を飲むよりも平和的なペナルティでお願いします」
軽く頭を下げると、サクラは「分かった」と言って、頭をポンポンと優しく叩いてきた。ゆっくりと顔を上げると、そこにあったのは意地悪さも感じられるサクラの笑み。
俺も楽しみだし、絶対に約束を破らないように気を付けよう。当日になって急にバイトに来てくれと店長に言われないことを祈る。今までそんなことは一度もなかったので、大丈夫だとは思うけど。
「文香ちゃん、お風呂が沸いたわよ~」
「は、はい! すぐに入っちゃいます! ……じゃあ、お風呂入ってくるね」
「ああ。ゆっくり入っておいで」
「うん。お風呂行ってきます」
サクラは俺に小さく手を振って、部屋を後にした。
明日、みんなと遊ぶのも楽しみだけど、土曜日にサクラと2人きりで出かけるのも楽しみだ。仲直りできたからこそ、こういう約束を交わせるんだよな。そのことに嬉しさや喜びを感じる。
――プルルッ。
スマホを確認すると、LIMEを通じて、和奏姉さんから1件の新着メッセージと1枚のスタンプが届いていたという通知が。
『フミちゃんから聞いたよ。今年も一緒のクラスになったんだね。良かったね! 学校でもフミちゃんと一緒にいられるね!』
というメッセージと、バンザイをする白猫のイラストスタンプが送られていた。俺が猫派なのを知っているから、このスタンプを送ったのだろう。
サクラが俺と一緒のクラスになったのを和奏姉さんに伝えたのか。2人はとても仲がいいし、昔は、新年度の最初の日に必ず俺達に『クラスは一緒だった?』と訊いてきた。だから、サクラが姉さんに教えたのだろう。
今日はサクラが好きだと知っている人中心に、『一緒のクラスになれて良かったね』とたくさん言われるな。クラスが一緒なのかどうかで、この1年が違ってくるもんな。
『ありがとう。一緒で良かったよ。今年は修学旅行もあるからな。楽しい1年間になるように頑張るよ。姉さんも大学とか頑張って』
と、和奏姉さんに返信した。
すると、すぐに俺のメッセージに『既読』マークがつき、『ありがとう!』という文字付きの白猫スタンプと、投げキッスをする白猫スタンプが送られた。
「……姉さんらしいな」
これでも、姉さんは「ナンパされたときは強烈なブラコンだと嘘ついて断っている」と言うのだ。春休みに帰省した際は一緒に入浴したり、俺のベッドで寝たりしたし。ブラコンだという自覚のなさが凄い。そう思いながらLIMEの画面を閉じ、学校で羽柴から教えてもらった朝生美紗さんの小説を読み始めるのであった。
4月7日、火曜日。
今日は四鷹高校で入学式が行われる。そのため、俺達新2年生はお休み。ボーナスで春休みが増えた感覚だ。
「晴れて良かったね! 雨が降る心配もないし」
「そうだな」
俺の隣を歩くサクラは楽しげな笑みを見せる。
四鷹市は朝からよく晴れている。今日はカラオケに行ったり、オリオの中をぶらぶらしたりする予定だから天気に左右されないけど、晴れていると気分がいいよな。
今、俺とサクラは待ち合わせ場所の四鷹駅に向かって歩いている。午前11時にみんなと会う予定だ。
晴れて暖かくなるからなのか、サクラはブラウンのキュロットスカートに、ベージュのVネックニットというシンプルな服装。とても可愛らしい。Vネックなので、胸元は白い肌を少し覗かせており、ゴールドのハートのネックレスをしているのもあって大人っぽさを感じられる。
「今日の服も良く似合ってるな、サクラ」
「ありがとう。ダイちゃんにそう言ってもらえて嬉しい」
えへへっ、と照れくささがありそうな笑みを見せるサクラ。可愛いのはもちろんのこと、懐かしい気持ちにもなり、また俺にこういう笑顔を見せてくれて嬉しい気持ちも抱く。
「今日もダイちゃんのジャケット姿がかっこいいね。今日は黒色だ」
「ありがとう。俺、こういうジャケットが好きでさ」
「そうなんだ。確かに、今までも、今日みたいな気候の日に見かけると、ジャケット着てることが多かったね。私はダイちゃんのジャケット姿……凄くいいなって思ってるよ」
「ありがとな。……その桃色のトートバッグ、なかなかいいじゃないか」
「うん」
そう言うと、サクラの笑みが少し淀んで見えた。
今のトートバッグを肩に掛けているサクラを見るのは、今までにも数えるほどしかない。いつもは俺が13歳の誕生日プレゼントであげた茶色いトートバッグを持っていた。サクラはそのバッグを気に入ってくれていた。
しかし、数日前、連続窃盗犯によって茶色いバッグが盗まれてしまった。その現場を目撃した俺が取り返したものの、証拠品として裁判が終わるまで警察や検察が預かっているのだ。
「このトートバッグも可愛くて好きなんだけどね。やっぱり、ダイちゃんがプレゼントしてくれたあの茶色いトートバッグが一番好きなの」
「そうか。そう言ってくれて嬉しいな。何年も使ってくれているのも知っているし」
「いえいえ。……本当にありがとね、ダイちゃん」
優しい笑みを向けてくれるサクラ。
今の「ありがとね」には、あの茶色いバッグにまつわる色々なことについての感謝の意が込められているように思えた。だからか、胸がじんわり温かくなっていった。
サクラと話しながら歩いたこともあり、あっという間に四鷹駅に到着。今は午前10時45分か。ちょっと早めに来ちゃったかな。
待ち合わせ場所である改札近くには既に、黒いロングカーディガン姿の羽柴がいた。イヤホンをしているな。若い女性中心に、羽柴に視線を向ける人が多い。
「おっ、速水に桜井!」
俺達に気付いた羽柴は、イヤホンを外すと、爽やかな笑みを浮かべて手を振ってくる。そのことで周囲の女性から黄色い声が。さすがは羽柴である。
「おはよう、羽柴」
「羽柴君、おはよう。私達、早めに家を出たから最初に着くと思っていたけど」
「早めに行くことが多いんだ。それに、待つ時間も好きだし。今も音楽聴いていたから」
「へえ、そうなんだ。どんな音楽を聴いていたの?」
「低変人の『プラズマメトロ』って曲だよ。桜井は低変人の曲って聴くか?」
羽柴の言う低変人さんというのは、ネット上に楽曲を公開している作曲家。正体については一切不明だが、幅広いジャンルを公開していることから、若い世代を中心に絶大な人気を誇る。俺はもちろん、サクラも羽柴も好きだ。これまでに何度も友達と話題になったり、休み時間や放課後に一緒に聴いたりしたな。
「うん、聴くよ。『ヒロイン』とか『かわいうつくし』とか、可愛くてポップな雰囲気の曲が好き」
「そういう方が好みか。俺はかっこいい雰囲気の曲が好きだな。速水も低変人の曲を聴くよな」
「ああ。俺は『桜吹雪』シリーズとか和風の曲が好みだな」
それからも、俺達は3人で低変人さんの曲の話題で盛り上がる。この3人で低変人さんの話をするのは初めてなので、新鮮な感じがしていい。
「みんな、おはよう!」
「お待たせ」
小泉さんと一紗の声が聞こえたので、改札口の方を見る。改札の向こうにはデニムパンツに白いブラウス姿の小泉さんと、紺色のワンピース姿の一紗の姿が。目が合ったからか、2人は俺達に手を振ってくる。小泉さんは普段通り明るいけど、一紗はちょっと緊張しているように見えた。
改札を通ると、小泉さんと一紗は小走りで俺達のところにやってくる。
「3人ともおはよう! 今日も文香は可愛いなぁ」
「その服、よく似合っていて可愛いわ、文香さん」
「えへへっ、ありがとう。2人もよく似合ってるよ。大人っぽくて素敵」
3人で女子らしい会話を繰り広げている。微笑ましい光景だな。
「ねえ、大輝君。今日の私の服……どうかしら」
そう問いかけると、一紗は俺の目の前に立ち、上目遣いで俺のことを見てくる。そのことでふんわりと甘い匂いが香ってきて。綺麗な印象の持ち主だけど、こういう姿はとても可愛らしいと思う。
改めて一紗を見ると、紺色だからとても大人っぽく見える。同じ色のウエストベルトをしているから、スタイルの良さがはっきりと分かって。
「よく似合っているよ。落ち着いていて、大人な雰囲気があって一紗らしいと思う。綺麗で素敵だと思うよ」
「ありがとう、大輝君。とても嬉しいわ」
その言葉が本当であると示すように、一紗は持ち前の美しい笑顔を見せてくれる。嬉しい気持ちがあるからなのか、頬がほんのりと赤くなる。
「良かったね、一紗。実は、電車に乗っているときから、そのワンピース姿を速水君が気に入ってくれるかどうか不安だったんだよ」
「ちょっと……もう。恥ずかしいわ、青葉さんったら」
頬の赤みがさっきよりも増す一紗。少し頬を膨らませて、小泉さんのことを見ている。その姿はさっきとは一変して、子供っぽい印象を受ける。
「ふふっ、そんな一面があるんだね、一紗ちゃん。可愛い」
「堂々としているイメージがあったぜ」
「そ、そうかしら? ……だって、好きな人と会うんだもの。綺麗とか可愛いって思ってほしいじゃない。昨日、家に帰ってから何を着ようか悩んだわ。青葉さんと一緒に電車に乗ったら、急に不安になったり、緊張してしまったりしてしまって。だから、大輝君に綺麗で素敵だと言ってもらえて嬉しいと同時にほっとしているの」
「そうだったのか。その話を聞くとお礼を言いたくなるよ。……ありがとう」
「いえいえ。こちらこそ……ありがとう。大輝君もかっこよくて素敵だわ」
そんな言葉の後に、一紗ははにかんだ笑顔を見せてくれる。いつもはクールで落ち着いているので、そのギャップにキュンときて。新たな一面を見られた気がして嬉しい気持ちになった。
バイトが終わり、俺はサクラと一緒に帰路に就く。俺の帰る場所とサクラの帰る場所が同じであること。それが、これからの日常になることがとても嬉しい。
俺と同じような気持ちを抱いてくれているのか。それとも、マスバーガーで一紗と過ごした時間が楽しかったからなのか。サクラは俺の隣でずっと笑みを浮かべていた。
夕食後。
食事の後片付けをしたサクラは、コーヒーの入ったマグカップと文庫本を持って俺の部屋にやってきた。サクラが引っ越してきた日に貸した『従妹達が僕にとてもウザい』というラノベの第1巻を返しにきたのだ。以前貸した羽柴と同じく、面白かったのでこの続きは自分で購読するそう。
――プルルッ。
――プルルッ。
別のラノベを借りるため、サクラと一緒に本棚を見ていると、俺とサクラのスマホが同時に鳴る。2人とも入っているグループトークにメッセージが送られたのだろうか。今日の終礼後に一紗と連絡先を交換した際、明日一緒に遊ぶので、俺とサクラ、一紗、小泉さん、羽柴の5人でLIMEのグループを作ったから。
さっそく確認すると、昼間作ったグループに小泉さんからメッセージが送られていた。
『明日について、待ち合わせ以外は全然決めてなかったね。どこか行ってみたいお店はある?』
そのメッセージをきっかけに、俺達は明日のことについて話し合う。
話し合いの結果、お昼ご飯は小泉さんの行きたいお店で食べること。一紗の提案でカラオケに行くことが決まった。あとはオリオ四鷹店や駅周辺をぶらぶらと歩く予定だ。
「明日が楽しみだね、ダイちゃん」
「楽しみだな。5人で休日に遊ぶのは初めてだし。それに、サクラと一緒に駅の方へ遊びに行くのもひさしぶりだから」
「そうだね」
3年前の一件があってから仲直りするまでの間、サクラとは登下校したり、バイト帰りに偶然会ったときに途中まで一緒に帰ることはあった。しかし、放課後や休日に遊びに行くことはなかった。
「みんなと一緒に遊ぶのは楽しみ。でも、ダイちゃんと2人きりでも遊びに行きたいな」
「サクラ……」
「だから、週末に2人きりで四鷹駅周辺で遊ばない? 仲直り記念っていうか。ひさしぶりにダイちゃんとお出かけしたいし、この3年の間に新しくできたお店もあるから。どう……かな?」
頬をほんのりと赤くして、俺のことをチラチラと見てくるサクラ。凄く可愛い。昔は定期的に2人きりで遊びに出かけたけど、ひさしぶりだから照れくささがあるのかな。
サクラからの提案の答えはもちろん、
「いいぞ。週末は2人で出かけよう」
俺がそう返事すると、サクラはすぐにニッコリと笑う。
「ありがとう! 確か、リビングのカレンダーには、土曜日はバイトの予定は書いてなかったはず」
「ああ。土曜日は何も予定は入ってないよ」
「分かった。じゃあ、土曜日に2人にお出かけしよう。約束ね」
サクラは右手の小指を差し出してくる。
そういえば、小さい頃は約束事をするとき、たまに指切りしていたな。そんなことを思い出しながら、俺は右手の小指をサクラの小指に引っかける。
触れている部分は小指だけなのに、サクラの優しい温もりがしっかりと伝わってきて。指であっても、サクラと肌で触れている。そう考えたら、段々とドキドキしてきた。この鼓動が指で伝わってしまっていないかどうか心配だ。
サクラの方を見ると、サクラは依然として笑みを浮かべている。ただ、さっきよりも頬がほんのりと赤くなっていた。
「……や、やむを得ない事情以外で約束を破ったら、何本か針を飲んでもらおうっと。……10本くらいがいいかな?」
「そのくらいの数字だと、本気で飲ませる気がして怖いな」
「ふふっ。それだけ楽しみにしてるってことだよ。本当に破っちゃったら、何か別のペナルティを考えておくね」
「針を飲むよりも平和的なペナルティでお願いします」
軽く頭を下げると、サクラは「分かった」と言って、頭をポンポンと優しく叩いてきた。ゆっくりと顔を上げると、そこにあったのは意地悪さも感じられるサクラの笑み。
俺も楽しみだし、絶対に約束を破らないように気を付けよう。当日になって急にバイトに来てくれと店長に言われないことを祈る。今までそんなことは一度もなかったので、大丈夫だとは思うけど。
「文香ちゃん、お風呂が沸いたわよ~」
「は、はい! すぐに入っちゃいます! ……じゃあ、お風呂入ってくるね」
「ああ。ゆっくり入っておいで」
「うん。お風呂行ってきます」
サクラは俺に小さく手を振って、部屋を後にした。
明日、みんなと遊ぶのも楽しみだけど、土曜日にサクラと2人きりで出かけるのも楽しみだ。仲直りできたからこそ、こういう約束を交わせるんだよな。そのことに嬉しさや喜びを感じる。
――プルルッ。
スマホを確認すると、LIMEを通じて、和奏姉さんから1件の新着メッセージと1枚のスタンプが届いていたという通知が。
『フミちゃんから聞いたよ。今年も一緒のクラスになったんだね。良かったね! 学校でもフミちゃんと一緒にいられるね!』
というメッセージと、バンザイをする白猫のイラストスタンプが送られていた。俺が猫派なのを知っているから、このスタンプを送ったのだろう。
サクラが俺と一緒のクラスになったのを和奏姉さんに伝えたのか。2人はとても仲がいいし、昔は、新年度の最初の日に必ず俺達に『クラスは一緒だった?』と訊いてきた。だから、サクラが姉さんに教えたのだろう。
今日はサクラが好きだと知っている人中心に、『一緒のクラスになれて良かったね』とたくさん言われるな。クラスが一緒なのかどうかで、この1年が違ってくるもんな。
『ありがとう。一緒で良かったよ。今年は修学旅行もあるからな。楽しい1年間になるように頑張るよ。姉さんも大学とか頑張って』
と、和奏姉さんに返信した。
すると、すぐに俺のメッセージに『既読』マークがつき、『ありがとう!』という文字付きの白猫スタンプと、投げキッスをする白猫スタンプが送られた。
「……姉さんらしいな」
これでも、姉さんは「ナンパされたときは強烈なブラコンだと嘘ついて断っている」と言うのだ。春休みに帰省した際は一緒に入浴したり、俺のベッドで寝たりしたし。ブラコンだという自覚のなさが凄い。そう思いながらLIMEの画面を閉じ、学校で羽柴から教えてもらった朝生美紗さんの小説を読み始めるのであった。
4月7日、火曜日。
今日は四鷹高校で入学式が行われる。そのため、俺達新2年生はお休み。ボーナスで春休みが増えた感覚だ。
「晴れて良かったね! 雨が降る心配もないし」
「そうだな」
俺の隣を歩くサクラは楽しげな笑みを見せる。
四鷹市は朝からよく晴れている。今日はカラオケに行ったり、オリオの中をぶらぶらしたりする予定だから天気に左右されないけど、晴れていると気分がいいよな。
今、俺とサクラは待ち合わせ場所の四鷹駅に向かって歩いている。午前11時にみんなと会う予定だ。
晴れて暖かくなるからなのか、サクラはブラウンのキュロットスカートに、ベージュのVネックニットというシンプルな服装。とても可愛らしい。Vネックなので、胸元は白い肌を少し覗かせており、ゴールドのハートのネックレスをしているのもあって大人っぽさを感じられる。
「今日の服も良く似合ってるな、サクラ」
「ありがとう。ダイちゃんにそう言ってもらえて嬉しい」
えへへっ、と照れくささがありそうな笑みを見せるサクラ。可愛いのはもちろんのこと、懐かしい気持ちにもなり、また俺にこういう笑顔を見せてくれて嬉しい気持ちも抱く。
「今日もダイちゃんのジャケット姿がかっこいいね。今日は黒色だ」
「ありがとう。俺、こういうジャケットが好きでさ」
「そうなんだ。確かに、今までも、今日みたいな気候の日に見かけると、ジャケット着てることが多かったね。私はダイちゃんのジャケット姿……凄くいいなって思ってるよ」
「ありがとな。……その桃色のトートバッグ、なかなかいいじゃないか」
「うん」
そう言うと、サクラの笑みが少し淀んで見えた。
今のトートバッグを肩に掛けているサクラを見るのは、今までにも数えるほどしかない。いつもは俺が13歳の誕生日プレゼントであげた茶色いトートバッグを持っていた。サクラはそのバッグを気に入ってくれていた。
しかし、数日前、連続窃盗犯によって茶色いバッグが盗まれてしまった。その現場を目撃した俺が取り返したものの、証拠品として裁判が終わるまで警察や検察が預かっているのだ。
「このトートバッグも可愛くて好きなんだけどね。やっぱり、ダイちゃんがプレゼントしてくれたあの茶色いトートバッグが一番好きなの」
「そうか。そう言ってくれて嬉しいな。何年も使ってくれているのも知っているし」
「いえいえ。……本当にありがとね、ダイちゃん」
優しい笑みを向けてくれるサクラ。
今の「ありがとね」には、あの茶色いバッグにまつわる色々なことについての感謝の意が込められているように思えた。だからか、胸がじんわり温かくなっていった。
サクラと話しながら歩いたこともあり、あっという間に四鷹駅に到着。今は午前10時45分か。ちょっと早めに来ちゃったかな。
待ち合わせ場所である改札近くには既に、黒いロングカーディガン姿の羽柴がいた。イヤホンをしているな。若い女性中心に、羽柴に視線を向ける人が多い。
「おっ、速水に桜井!」
俺達に気付いた羽柴は、イヤホンを外すと、爽やかな笑みを浮かべて手を振ってくる。そのことで周囲の女性から黄色い声が。さすがは羽柴である。
「おはよう、羽柴」
「羽柴君、おはよう。私達、早めに家を出たから最初に着くと思っていたけど」
「早めに行くことが多いんだ。それに、待つ時間も好きだし。今も音楽聴いていたから」
「へえ、そうなんだ。どんな音楽を聴いていたの?」
「低変人の『プラズマメトロ』って曲だよ。桜井は低変人の曲って聴くか?」
羽柴の言う低変人さんというのは、ネット上に楽曲を公開している作曲家。正体については一切不明だが、幅広いジャンルを公開していることから、若い世代を中心に絶大な人気を誇る。俺はもちろん、サクラも羽柴も好きだ。これまでに何度も友達と話題になったり、休み時間や放課後に一緒に聴いたりしたな。
「うん、聴くよ。『ヒロイン』とか『かわいうつくし』とか、可愛くてポップな雰囲気の曲が好き」
「そういう方が好みか。俺はかっこいい雰囲気の曲が好きだな。速水も低変人の曲を聴くよな」
「ああ。俺は『桜吹雪』シリーズとか和風の曲が好みだな」
それからも、俺達は3人で低変人さんの曲の話題で盛り上がる。この3人で低変人さんの話をするのは初めてなので、新鮮な感じがしていい。
「みんな、おはよう!」
「お待たせ」
小泉さんと一紗の声が聞こえたので、改札口の方を見る。改札の向こうにはデニムパンツに白いブラウス姿の小泉さんと、紺色のワンピース姿の一紗の姿が。目が合ったからか、2人は俺達に手を振ってくる。小泉さんは普段通り明るいけど、一紗はちょっと緊張しているように見えた。
改札を通ると、小泉さんと一紗は小走りで俺達のところにやってくる。
「3人ともおはよう! 今日も文香は可愛いなぁ」
「その服、よく似合っていて可愛いわ、文香さん」
「えへへっ、ありがとう。2人もよく似合ってるよ。大人っぽくて素敵」
3人で女子らしい会話を繰り広げている。微笑ましい光景だな。
「ねえ、大輝君。今日の私の服……どうかしら」
そう問いかけると、一紗は俺の目の前に立ち、上目遣いで俺のことを見てくる。そのことでふんわりと甘い匂いが香ってきて。綺麗な印象の持ち主だけど、こういう姿はとても可愛らしいと思う。
改めて一紗を見ると、紺色だからとても大人っぽく見える。同じ色のウエストベルトをしているから、スタイルの良さがはっきりと分かって。
「よく似合っているよ。落ち着いていて、大人な雰囲気があって一紗らしいと思う。綺麗で素敵だと思うよ」
「ありがとう、大輝君。とても嬉しいわ」
その言葉が本当であると示すように、一紗は持ち前の美しい笑顔を見せてくれる。嬉しい気持ちがあるからなのか、頬がほんのりと赤くなる。
「良かったね、一紗。実は、電車に乗っているときから、そのワンピース姿を速水君が気に入ってくれるかどうか不安だったんだよ」
「ちょっと……もう。恥ずかしいわ、青葉さんったら」
頬の赤みがさっきよりも増す一紗。少し頬を膨らませて、小泉さんのことを見ている。その姿はさっきとは一変して、子供っぽい印象を受ける。
「ふふっ、そんな一面があるんだね、一紗ちゃん。可愛い」
「堂々としているイメージがあったぜ」
「そ、そうかしら? ……だって、好きな人と会うんだもの。綺麗とか可愛いって思ってほしいじゃない。昨日、家に帰ってから何を着ようか悩んだわ。青葉さんと一緒に電車に乗ったら、急に不安になったり、緊張してしまったりしてしまって。だから、大輝君に綺麗で素敵だと言ってもらえて嬉しいと同時にほっとしているの」
「そうだったのか。その話を聞くとお礼を言いたくなるよ。……ありがとう」
「いえいえ。こちらこそ……ありがとう。大輝君もかっこよくて素敵だわ」
そんな言葉の後に、一紗ははにかんだ笑顔を見せてくれる。いつもはクールで落ち着いているので、そのギャップにキュンときて。新たな一面を見られた気がして嬉しい気持ちになった。
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ノン・タロー
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高校2年の夏……友達同士で行った小テストの点を競う勝負に負けた僕、御堂 彼方(みどう かなた)は、罰ゲームとしてクラスで人気のある女子・風原 亜希(かざはら あき)に告白する。
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