13 / 194
本編-春休み編-
第12話『お花見-中編-』
しおりを挟む
お花見している俺達のところに、制服姿の小泉さんがやってきた。俺達が気付いたからか、小泉さんは爽やかな笑顔になって手を振ってくる。
「青葉ちゃん。部活終わったんだね、お疲れ様」
「ありがとう、文香。いつもより早めに終わったんだ。それで、ここに来てみたら……ちょうど、文香が速水君に玉子焼きを食べさせるところでね。みんなに気付かれないように、ちょっと離れたところからスマホで撮ったの」
「は、恥ずかしいな……」
まさか、小泉さんにまで写真に撮られていたとは。母さんだけならまだしも。俺も恥ずかしくなってきた。
「ばらまいたりしないから2人とも安心して。速水君、羽柴君、美紀さん、こんにちは。和奏先輩もおひさしぶりです」
「こんにちは、小泉さん。あと、部活お疲れ様」
「お疲れさん、小泉」
「お疲れ様! あと、今日も制服姿が可愛いわね、青葉ちゃん!」
「こんにちは、青葉ちゃん。部活動お疲れ様」
「ありがとうございます!」
和奏姉さんは去年の夏の帰省中、文香の家へ遊びに行ったときに小泉さんと出会った。帰ってきたとき、「フミちゃんは高校で素敵なお友達ができたんだね!」って姉さんが喜んでいたっけ。
和奏姉さんと小泉さんは3学年違うため、通っていた時期は重なっていない。ただ、高校のOGなので、小泉さんは姉さんを先輩と呼んでいる。運動系の部活に入っている生徒らしいと思う。
「ええと、美紀さんの隣にいる方は……」
「どうも初めまして~、大輝と和奏の母の優子です~」
「そうなんですね! 初めまして、小泉青葉といいます。文香の親友で、文香と速水君、羽柴君とはクラスメイトです。美紀さんと負けないくらいに若々しくて綺麗ですね」
「ふふっ、嬉しいことを言ってくれるわね~。青葉ちゃんかわいいわ~。ハーフアップの青い髪も素敵ね! よく似合ってるわ~」
「ありがとうございます! ……料理もお菓子も美味しそう。午前中に練習があったのでお腹ペコペコで」
その言葉を裏付けるかのように、タイミング良く小泉さんのお腹が「ぐうぅ」と鳴る。小泉さんは普段から明るく爽やかな笑顔を見せることが多いけど、さすがにこれには照れ笑い。恥ずかしいな、と呟いている。そんなところが可愛らしい。
「どこに座ろうかな」
「私とお母さんの間に座って、青葉ちゃん」
「分かった」
「それじゃ、みんなちょっとずつ動こうか」
美紀さんの一声で、俺達は座る場所を少しずつ移動する。小泉さんの隣になる文香と美紀さんは大きめに。そのことで文香との距離が更に近くなり、彼女の甘い匂いを常に感じられるようになった。小泉さん、ありがとう。
小泉さんは桜の木の近くにエナメルバッグを置いて、真上にある咲き誇る桜をスマホで撮影。文香と美紀さんの間に正座する。春休みになったけど、通っている高校の制服姿で参加する人がいるのっていいなと思う。
そんなことをしているうちに、近くにある防災無線から正午を知らせるメロディーが鳴る。
「正午になったわね。じゃあ、てっちゃんに電話を掛けようかしら」
「私も徹君にテレビ電話しようかな~」
母さんと美紀さんは、それぞれの夫にテレビ電話を掛ける。俺達とは普通に話せると思うけど、父さんと哲也おじさんってテレビ電話を通じて話せるのか?
電話がかかるまでの間に、小泉さんは文香から紙皿と割り箸を受け取り、重箱に入っているおかずとちらし寿司を一通り取る。
「どれも美味しそう! 文香が作ったのはどれ?」
「ハンバーグとミートボール、玉子焼きだよ」
「そうなんだ。じゃあ、大好物のミートボールから食べようっと!」
ワクワクした様子で言うと、小泉さんはミートボールを食べる。
「う~ん、ミートボール美味しい! さすがは文香!」
「ありがとう、青葉ちゃん」
大好物を食べられたからか、小泉さんはとても可愛い笑顔を見せる。文香も嬉しそうだ。
それにしても、さすがは文香……か。そういえば、昼休みに文香からお弁当のおかずをもらったり、交換したりした場面を何度か見たことがあった。それを羨ましいと思っていた。
テニス部の練習でお腹が空いているからか、小泉さんは紙皿に取ったおかずやちらし寿司をモグモグ食べている。美味しいと何度も言うから、彼女を見ていると俺もお腹が空いてくるなぁ。
『みんな、お花見を楽しんでいるかな』
『こもれび公園の桜は綺麗だなぁ。……速水の顔も何とか見えるな』
『僕も桜井の顔は見えているよ』
母さんと美紀さんは、それぞれ自分の夫が映ったスマートフォンの画面をみんなに見せる。俺達の姿が見えたのか、父さんと哲也おじさんは手を振ってくる。
『青髪の女の子は初めましてだね。大輝と和奏の父の速水徹といいます』
『俺は金髪の男子が初対面……だろうか。以前、休日に美紀と出かけているときに話した記憶もあるが』
そういえば、父さんと小泉さんは今まで会っていないか。哲也おじさんと羽柴も、タピオカドリンク店で一度接客しただけで、実質初対面と言えるだろう。
「奥さんにも同じことを言われました。俺、四鷹駅北口のタピオカドリンク店でバイトしているんです。羽柴拓海といいます。速水の親友で、文香さんとこちらの小泉さんとも1年のときは同じクラスでした」
『あぁ、タピオカドリンク店の。去年の夏頃に行ったなぁ。コーヒー美味しかったです。初めまして、文香の父の桜井哲也と申します』
「青髪のあたしは小泉青葉といいます、初めまして。文香の親友です。よろしくお願いします」
『うん、よろしく。楽しそうにお花見をしているね』
『そうだな、速水。こもれび公園で何度もお花見したな。ただ、こうして画面越しでお花見の様子を見るのもいいもものだ』
『そうだね。オフィスからの窓から桜が見えるから、一緒に花見をしている気分になれる』
『……確かに、速水の言う通りだな』
俺も社会人になれば、その感覚を味わえるのだろうか。
母さんの提案で、再び乾杯することになり、未成年の参加者には俺が紙コップにサイダーを注いだ。ちなみに、大人組はカシスオレンジのカクテル。リモート参加している父さんと哲也おじさんは、コーヒーの入ったマグカップを手に持つ。
「では、また私が音頭をとりましょ~! これで、今回の花見に参加する9人全員が集まりました~! 美紀ちゃんと桜井君は東京での思い出を作ってくださ~い! では、かんぱ~い!」
『かんぱーい!』
俺は自分の持っている紙コップをこの場にいる全員と軽く合わせ、父さんと哲也おじさんへ乾杯と言った後に、サイダーを一気飲みした。
「あぁ、サイダーも美味しい。また炭酸だけど、文香は大丈夫か?」
「それ、あたしも思ったよ、速水君」
「さ、さっきのコーラで炭酸慣らしをしたからね。今度は大丈夫だったよ」
3年前の一件以降では珍しくドヤ顔を見せる文香。そんな文香の紙コップにはまだ半分ほどのサイダーが残っているけれど、そこはツッコまないでおこう。あと、炭酸慣らしって言葉は初めて聞いたな。肩慣らしのような感じか?
父さんと哲也おじさんはそれぞれ、これから同僚や部下と昼食を取るとのことで、お花見から離脱した。
「文香。お花見に誘ってくれたことと、美味しいおかずを作ってくれたお礼に、お気に入りのラムネ菓子をあげるよ。いつも持っているんだ。毎日、部活終わりに何粒か食べてるの。期間限定のいちご味だから、サイダーとあんまり味は被らないと思う」
「ありがとう。じゃあ、いただこうかな」
疲れたときは甘いものが欲したくなるよなぁ。テニス部の練習をする日が多いから、常備しているのだろう。
小泉さんはブレザーのポケットから、赤色のラムネ瓶型のボトルを取り出す。ボトルからいちご味のラムネを3粒出す。
「は~い、文香。あ~ん」
「あ~ん」
文香は躊躇いなく口を開けて、小泉さんにいちごラムネを食べさせてもらう。そういえば、学校でお昼ご飯を食べているとき、小泉さんにおかずを食べさせてもらっていることも何度かあったな。
「いちご味も美味しいんだね。ありがとう。今度、コンビニで買おうかな」
「気に入ってくれて良かった」
小泉さんもいちご味のラムネを食べる。
普通のラムネ味は何度も食べたことがあるけど、いちご味は食べたことないな。今度、俺も買ってみようかな。
あと……俺も小泉さんのように、文香に何か食べさせてあげたい。さっき玉子焼きを食べさせてくれたお礼という名目なら、文香も食べてくれそうな気がする。特に同じ玉子焼きなら。……よし、言ってみるか。
「ふ、文香っ!」
緊張のあまり、ボリュームが大きく、しかも翻った声になってしまった。だからか、文香も体をビクつかせて俺の方を見る。
「ど、どうしたの? 大輝」
「えっと……俺も、さっき玉子焼きを食べさせてくれたお礼に、俺も文香に玉子焼きを食べさせたいなと思って。……ダ、ダメかな?」
勇気を出し、何とか言うことができた。体、凄く熱くなってる。心臓がバクバクしていることがバレないかどうか心配だ。体が触れていないから大丈夫だとは思うけど。
「……ほぉ」
「やるじゃない、大輝」
羽柴と和奏姉さんは小さな声でそう言うと、優しい笑みを浮かべながら俺のことを見てくる。勇気を出した行動を褒められると嬉しいな。
当の本人である文香は恥ずかしそうな様子で、俺のことをチラチラと見てくる。
「そ、そういうことなら……た、食べさせてもらおうかな。まだ玉子焼きは食べていないし」
「……分かった」
俺は自分の割り箸で重箱にある玉子焼きを一つ掴む。それを文香の方へ持っていくと、彼女は既に目を瞑って口を少し開けていた。ずっと眺めていたいほどに可愛い。
「文香、あーん」
「あ、あ~ん」
そんな可愛らしい声を出しながら、文香は口を大きく開ける。
俺は文香に玉子焼きを食べさせる。その際、さっきと同じようにシャッター音が聞こえた。周りを見てみると、美紀さんと小泉さんがこちらにスマホを向けていた。
文香は俺が食べさせた玉子焼きをモグモグ食べる。文香も玉子焼きは甘い方が好きだ。だからか、咀嚼していく度に表情が柔らかくなっていく。
「……美味しい」
「美味しくできてるよな。あと、文香も甘い玉子焼きが好きだよな」
「うん。……ごめん、さっき嘘ついた」
「えっ?」
「実は作ったときに味見で一口食べたの。でも、大輝が食べさせてくれたから、そのときよりも甘く感じて美味しいよ。だから……ありがとう」
顔は頬中心に赤いけど、文香は俺に対して優しい笑顔を向けてくれた。そうしてくれることがとても嬉しい。文香の笑顔は本当に可愛くて。俺の心臓の鼓動を今までよりもさらに早く、そして激しくさせていく。ここは屋外で、周りに和奏姉さん達がいるから何とか冷静でいられるけど、もし文香や俺の部屋で2人きりだったらどうなっていたことか。
あと……もし、3年前のあのことがなければ、この3年の間にこういった笑顔をたくさん見せてくれたのかな。そう思うと、ちょっと切ない気持ちにもなった。
「青葉ちゃん。部活終わったんだね、お疲れ様」
「ありがとう、文香。いつもより早めに終わったんだ。それで、ここに来てみたら……ちょうど、文香が速水君に玉子焼きを食べさせるところでね。みんなに気付かれないように、ちょっと離れたところからスマホで撮ったの」
「は、恥ずかしいな……」
まさか、小泉さんにまで写真に撮られていたとは。母さんだけならまだしも。俺も恥ずかしくなってきた。
「ばらまいたりしないから2人とも安心して。速水君、羽柴君、美紀さん、こんにちは。和奏先輩もおひさしぶりです」
「こんにちは、小泉さん。あと、部活お疲れ様」
「お疲れさん、小泉」
「お疲れ様! あと、今日も制服姿が可愛いわね、青葉ちゃん!」
「こんにちは、青葉ちゃん。部活動お疲れ様」
「ありがとうございます!」
和奏姉さんは去年の夏の帰省中、文香の家へ遊びに行ったときに小泉さんと出会った。帰ってきたとき、「フミちゃんは高校で素敵なお友達ができたんだね!」って姉さんが喜んでいたっけ。
和奏姉さんと小泉さんは3学年違うため、通っていた時期は重なっていない。ただ、高校のOGなので、小泉さんは姉さんを先輩と呼んでいる。運動系の部活に入っている生徒らしいと思う。
「ええと、美紀さんの隣にいる方は……」
「どうも初めまして~、大輝と和奏の母の優子です~」
「そうなんですね! 初めまして、小泉青葉といいます。文香の親友で、文香と速水君、羽柴君とはクラスメイトです。美紀さんと負けないくらいに若々しくて綺麗ですね」
「ふふっ、嬉しいことを言ってくれるわね~。青葉ちゃんかわいいわ~。ハーフアップの青い髪も素敵ね! よく似合ってるわ~」
「ありがとうございます! ……料理もお菓子も美味しそう。午前中に練習があったのでお腹ペコペコで」
その言葉を裏付けるかのように、タイミング良く小泉さんのお腹が「ぐうぅ」と鳴る。小泉さんは普段から明るく爽やかな笑顔を見せることが多いけど、さすがにこれには照れ笑い。恥ずかしいな、と呟いている。そんなところが可愛らしい。
「どこに座ろうかな」
「私とお母さんの間に座って、青葉ちゃん」
「分かった」
「それじゃ、みんなちょっとずつ動こうか」
美紀さんの一声で、俺達は座る場所を少しずつ移動する。小泉さんの隣になる文香と美紀さんは大きめに。そのことで文香との距離が更に近くなり、彼女の甘い匂いを常に感じられるようになった。小泉さん、ありがとう。
小泉さんは桜の木の近くにエナメルバッグを置いて、真上にある咲き誇る桜をスマホで撮影。文香と美紀さんの間に正座する。春休みになったけど、通っている高校の制服姿で参加する人がいるのっていいなと思う。
そんなことをしているうちに、近くにある防災無線から正午を知らせるメロディーが鳴る。
「正午になったわね。じゃあ、てっちゃんに電話を掛けようかしら」
「私も徹君にテレビ電話しようかな~」
母さんと美紀さんは、それぞれの夫にテレビ電話を掛ける。俺達とは普通に話せると思うけど、父さんと哲也おじさんってテレビ電話を通じて話せるのか?
電話がかかるまでの間に、小泉さんは文香から紙皿と割り箸を受け取り、重箱に入っているおかずとちらし寿司を一通り取る。
「どれも美味しそう! 文香が作ったのはどれ?」
「ハンバーグとミートボール、玉子焼きだよ」
「そうなんだ。じゃあ、大好物のミートボールから食べようっと!」
ワクワクした様子で言うと、小泉さんはミートボールを食べる。
「う~ん、ミートボール美味しい! さすがは文香!」
「ありがとう、青葉ちゃん」
大好物を食べられたからか、小泉さんはとても可愛い笑顔を見せる。文香も嬉しそうだ。
それにしても、さすがは文香……か。そういえば、昼休みに文香からお弁当のおかずをもらったり、交換したりした場面を何度か見たことがあった。それを羨ましいと思っていた。
テニス部の練習でお腹が空いているからか、小泉さんは紙皿に取ったおかずやちらし寿司をモグモグ食べている。美味しいと何度も言うから、彼女を見ていると俺もお腹が空いてくるなぁ。
『みんな、お花見を楽しんでいるかな』
『こもれび公園の桜は綺麗だなぁ。……速水の顔も何とか見えるな』
『僕も桜井の顔は見えているよ』
母さんと美紀さんは、それぞれ自分の夫が映ったスマートフォンの画面をみんなに見せる。俺達の姿が見えたのか、父さんと哲也おじさんは手を振ってくる。
『青髪の女の子は初めましてだね。大輝と和奏の父の速水徹といいます』
『俺は金髪の男子が初対面……だろうか。以前、休日に美紀と出かけているときに話した記憶もあるが』
そういえば、父さんと小泉さんは今まで会っていないか。哲也おじさんと羽柴も、タピオカドリンク店で一度接客しただけで、実質初対面と言えるだろう。
「奥さんにも同じことを言われました。俺、四鷹駅北口のタピオカドリンク店でバイトしているんです。羽柴拓海といいます。速水の親友で、文香さんとこちらの小泉さんとも1年のときは同じクラスでした」
『あぁ、タピオカドリンク店の。去年の夏頃に行ったなぁ。コーヒー美味しかったです。初めまして、文香の父の桜井哲也と申します』
「青髪のあたしは小泉青葉といいます、初めまして。文香の親友です。よろしくお願いします」
『うん、よろしく。楽しそうにお花見をしているね』
『そうだな、速水。こもれび公園で何度もお花見したな。ただ、こうして画面越しでお花見の様子を見るのもいいもものだ』
『そうだね。オフィスからの窓から桜が見えるから、一緒に花見をしている気分になれる』
『……確かに、速水の言う通りだな』
俺も社会人になれば、その感覚を味わえるのだろうか。
母さんの提案で、再び乾杯することになり、未成年の参加者には俺が紙コップにサイダーを注いだ。ちなみに、大人組はカシスオレンジのカクテル。リモート参加している父さんと哲也おじさんは、コーヒーの入ったマグカップを手に持つ。
「では、また私が音頭をとりましょ~! これで、今回の花見に参加する9人全員が集まりました~! 美紀ちゃんと桜井君は東京での思い出を作ってくださ~い! では、かんぱ~い!」
『かんぱーい!』
俺は自分の持っている紙コップをこの場にいる全員と軽く合わせ、父さんと哲也おじさんへ乾杯と言った後に、サイダーを一気飲みした。
「あぁ、サイダーも美味しい。また炭酸だけど、文香は大丈夫か?」
「それ、あたしも思ったよ、速水君」
「さ、さっきのコーラで炭酸慣らしをしたからね。今度は大丈夫だったよ」
3年前の一件以降では珍しくドヤ顔を見せる文香。そんな文香の紙コップにはまだ半分ほどのサイダーが残っているけれど、そこはツッコまないでおこう。あと、炭酸慣らしって言葉は初めて聞いたな。肩慣らしのような感じか?
父さんと哲也おじさんはそれぞれ、これから同僚や部下と昼食を取るとのことで、お花見から離脱した。
「文香。お花見に誘ってくれたことと、美味しいおかずを作ってくれたお礼に、お気に入りのラムネ菓子をあげるよ。いつも持っているんだ。毎日、部活終わりに何粒か食べてるの。期間限定のいちご味だから、サイダーとあんまり味は被らないと思う」
「ありがとう。じゃあ、いただこうかな」
疲れたときは甘いものが欲したくなるよなぁ。テニス部の練習をする日が多いから、常備しているのだろう。
小泉さんはブレザーのポケットから、赤色のラムネ瓶型のボトルを取り出す。ボトルからいちご味のラムネを3粒出す。
「は~い、文香。あ~ん」
「あ~ん」
文香は躊躇いなく口を開けて、小泉さんにいちごラムネを食べさせてもらう。そういえば、学校でお昼ご飯を食べているとき、小泉さんにおかずを食べさせてもらっていることも何度かあったな。
「いちご味も美味しいんだね。ありがとう。今度、コンビニで買おうかな」
「気に入ってくれて良かった」
小泉さんもいちご味のラムネを食べる。
普通のラムネ味は何度も食べたことがあるけど、いちご味は食べたことないな。今度、俺も買ってみようかな。
あと……俺も小泉さんのように、文香に何か食べさせてあげたい。さっき玉子焼きを食べさせてくれたお礼という名目なら、文香も食べてくれそうな気がする。特に同じ玉子焼きなら。……よし、言ってみるか。
「ふ、文香っ!」
緊張のあまり、ボリュームが大きく、しかも翻った声になってしまった。だからか、文香も体をビクつかせて俺の方を見る。
「ど、どうしたの? 大輝」
「えっと……俺も、さっき玉子焼きを食べさせてくれたお礼に、俺も文香に玉子焼きを食べさせたいなと思って。……ダ、ダメかな?」
勇気を出し、何とか言うことができた。体、凄く熱くなってる。心臓がバクバクしていることがバレないかどうか心配だ。体が触れていないから大丈夫だとは思うけど。
「……ほぉ」
「やるじゃない、大輝」
羽柴と和奏姉さんは小さな声でそう言うと、優しい笑みを浮かべながら俺のことを見てくる。勇気を出した行動を褒められると嬉しいな。
当の本人である文香は恥ずかしそうな様子で、俺のことをチラチラと見てくる。
「そ、そういうことなら……た、食べさせてもらおうかな。まだ玉子焼きは食べていないし」
「……分かった」
俺は自分の割り箸で重箱にある玉子焼きを一つ掴む。それを文香の方へ持っていくと、彼女は既に目を瞑って口を少し開けていた。ずっと眺めていたいほどに可愛い。
「文香、あーん」
「あ、あ~ん」
そんな可愛らしい声を出しながら、文香は口を大きく開ける。
俺は文香に玉子焼きを食べさせる。その際、さっきと同じようにシャッター音が聞こえた。周りを見てみると、美紀さんと小泉さんがこちらにスマホを向けていた。
文香は俺が食べさせた玉子焼きをモグモグ食べる。文香も玉子焼きは甘い方が好きだ。だからか、咀嚼していく度に表情が柔らかくなっていく。
「……美味しい」
「美味しくできてるよな。あと、文香も甘い玉子焼きが好きだよな」
「うん。……ごめん、さっき嘘ついた」
「えっ?」
「実は作ったときに味見で一口食べたの。でも、大輝が食べさせてくれたから、そのときよりも甘く感じて美味しいよ。だから……ありがとう」
顔は頬中心に赤いけど、文香は俺に対して優しい笑顔を向けてくれた。そうしてくれることがとても嬉しい。文香の笑顔は本当に可愛くて。俺の心臓の鼓動を今までよりもさらに早く、そして激しくさせていく。ここは屋外で、周りに和奏姉さん達がいるから何とか冷静でいられるけど、もし文香や俺の部屋で2人きりだったらどうなっていたことか。
あと……もし、3年前のあのことがなければ、この3年の間にこういった笑顔をたくさん見せてくれたのかな。そう思うと、ちょっと切ない気持ちにもなった。
0
読んでいただきありがとうございます。お気に入り登録や感想をお待ちしております。
『クラスメイトの王子様系女子をナンパから助けたら。』の続編がスタートしました!(2025.2.8) 学園ラブコメです。是非、読みに来てみてください。
URL:https://www.alphapolis.co.jp/novel/347811610/89864889
『高嶺の花の高嶺さんに好かれまして。』は全編公開中です。 学園ラブコメ作品です。是非、読みに来てみてください。宜しくお願いします。
URL:https://www.alphapolis.co.jp/novel/347811610/441389601
『まずはお嫁さんからお願いします。』は全編公開中です。高校生夫婦学園ラブコメです。是非、読みに来て見てください。
URL:https://www.alphapolis.co.jp/novel/347811610/120759248
『クラスメイトの王子様系女子をナンパから助けたら。』の続編がスタートしました!(2025.2.8) 学園ラブコメです。是非、読みに来てみてください。
URL:https://www.alphapolis.co.jp/novel/347811610/89864889
『高嶺の花の高嶺さんに好かれまして。』は全編公開中です。 学園ラブコメ作品です。是非、読みに来てみてください。宜しくお願いします。
URL:https://www.alphapolis.co.jp/novel/347811610/441389601
『まずはお嫁さんからお願いします。』は全編公開中です。高校生夫婦学園ラブコメです。是非、読みに来て見てください。
URL:https://www.alphapolis.co.jp/novel/347811610/120759248
お気に入りに追加
61
あなたにおすすめの小説

僕(じゃない人)が幸せにします。
暇魷フミユキ
恋愛
【副題に☆が付いている話だけでだいたい分かります!】
・第1章
彼、〈君島奏向〉の悩み。それはもし将来、恋人が、妻ができたとしても、彼女を不幸にすることだった。
そんな彼を想う二人。
席が隣でもありよく立ち寄る喫茶店のバイトでもある〈草壁美頼〉。
所属する部の部長でたまに一緒に帰る仲の〈西沖幸恵〉。
そして彼は幸せにする方法を考えつく――――
「僕よりもっと相応しい人にその好意が向くようにしたいんだ」
本当にそんなこと上手くいくのか!?
それで本当に幸せなのか!?
そもそも幸せにするってなんだ!?
・第2章
草壁・西沖の二人にそれぞれの相応しいと考える人物を近付けるところまでは進んだ夏休み前。君島のもとにさらに二人の女子、〈深町冴羅〉と〈深町凛紗〉の双子姉妹が別々にやってくる。
その目的は――――
「付き合ってほしいの!!」
「付き合ってほしいんです!!」
なぜこうなったのか!?
二人の本当の想いは!?
それを叶えるにはどうすれば良いのか!?
・第3章
文化祭に向け、君島と西沖は映像部として広報動画を撮影・編集することになっていた。
君島は西沖の劇への参加だけでも心配だったのだが……
深町と付き合おうとする別府!
ぼーっとする深町冴羅!
心配事が重なる中無事に文化祭を成功することはできるのか!?
・第4章
二年生は修学旅行と進路調査票の提出を控えていた。
期待と不安の間で揺れ動く中で、君島奏向は決意する――
「僕のこれまでの行動を二人に明かそうと思う」
二人は何を思い何をするのか!?
修学旅行がそこにもたらすものとは!?
彼ら彼女らの行く先は!?
・第5章
冬休みが過ぎ、受験に向けた勉強が始まる二年生の三学期。
そんな中、深町凛紗が行動を起こす――
君島の草津・西沖に対するこれまでの行動の調査!
映像部への入部!
全ては幸せのために!
――これは誰かが誰かを幸せにする物語。
ここでは毎日1話ずつ投稿してまいります。
作者ページの「僕(じゃない人)が幸せにします。(「小説家になろう」投稿済み全話版)」から全話読むこともできます!

10年ぶりに再会した幼馴染と、10年間一緒にいる幼馴染との青春ラブコメ
桜庭かなめ
恋愛
高校生の麻丘涼我には同い年の幼馴染の女の子が2人いる。1人は小学1年の5月末から涼我の隣の家に住み始め、約10年間ずっと一緒にいる穏やかで可愛らしい香川愛実。もう1人は幼稚園の年長組の1年間一緒にいて、卒園直後に引っ越してしまった明るく活発な桐山あおい。涼我は愛実ともあおいとも楽しい思い出をたくさん作ってきた。
あおいとの別れから10年。高校1年の春休みに、あおいが涼我の家の隣に引っ越してくる。涼我はあおいと10年ぶりの再会を果たす。あおいは昔の中性的な雰囲気から、清楚な美少女へと変わっていた。
3人で一緒に遊んだり、学校生活を送ったり、愛実とあおいが涼我のバイト先に来たり。春休みや新年度の日々を通じて、一度離れてしまったあおいとはもちろんのこと、ずっと一緒にいる愛実との距離も縮まっていく。
出会った早さか。それとも、一緒にいる長さか。両隣の家に住む幼馴染2人との温かくて甘いダブルヒロイン学園青春ラブコメディ!
※特別編4が完結しました!(2024.8.2)
※小説家になろう(N9714HQ)とカクヨムでも公開しています。
※お気に入り登録や感想をお待ちしております。

向日葵と隣同士で咲き誇る。~ツンツンしているクラスメイトの美少女が、可愛い笑顔を僕に見せてくれることが段々と多くなっていく件~
桜庭かなめ
恋愛
高校2年生の加瀬桔梗のクラスには、宝来向日葵という女子生徒がいる。向日葵は男子生徒中心に人気が高く、学校一の美少女と言われることも。
しかし、桔梗はなぜか向日葵に1年生の秋頃から何度も舌打ちされたり、睨まれたりしていた。それでも、桔梗は自分のように花の名前である向日葵にちょっと興味を抱いていた。
ゴールデンウィーク目前のある日。桔梗はバイト中に男達にしつこく絡まれている向日葵を助ける。このことをきっかけに、桔梗は向日葵との関わりが増え、彼女との距離が少しずつ縮まっていく。そんな中で、向日葵は桔梗に可愛らしい笑顔を段々と見せていくように。
桔梗と向日葵。花の名を持つ男女2人が織りなす、温もりと甘味が少しずつ増してゆく学園ラブコメディ!
※小説家になろうとカクヨムでも公開しています。
※お気に入り登録、感想をお待ちしています。

覚えたての催眠術で幼馴染(悔しいが美少女)の弱味を握ろうとしたら俺のことを好きだとカミングアウトされたのだが、この後どうしたらいい?
みずがめ
恋愛
覚えたての催眠術を幼馴染で試してみた。結果は大成功。催眠術にかかった幼馴染は俺の言うことをなんでも聞くようになった。
普段からわがままな幼馴染の従順な姿に、ある考えが思いつく。
「そうだ、弱味を聞き出そう」
弱点を知れば俺の前で好き勝手なことをされずに済む。催眠術の力で口を割らせようとしたのだが。
「あたしの好きな人は、マーくん……」
幼馴染がカミングアウトしたのは俺の名前だった。
よく見れば美少女となっていた幼馴染からの告白。俺は一体どうすればいいんだ?

管理人さんといっしょ。
桜庭かなめ
恋愛
桐生由弦は高校進学のために、学校近くのアパート「あけぼの荘」に引っ越すことに。
しかし、あけぼの荘に向かう途中、由弦と同じく進学のために引っ越す姫宮風花と二重契約になっており、既に引っ越しの作業が始まっているという連絡が来る。
風花に部屋を譲ったが、あけぼの荘に空き部屋はなく、由弦の希望する物件が近くには一切ないので、新しい住まいがなかなか見つからない。そんなとき、
「責任を取らせてください! 私と一緒に暮らしましょう」
高校2年生の管理人・白鳥美優からのそんな提案を受け、由弦と彼女と一緒に同居すると決める。こうして由弦は1学年上の女子高生との共同生活が始まった。
ご飯を食べるときも、寝るときも、家では美少女な管理人さんといつもいっしょ。優しくて温かい同居&学園ラブコメディ!
※特別編10が完結しました!(2024.6.21)
※お気に入り登録や感想をお待ちしております。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

クラスメイトの王子様系女子をナンパから助けたら。
桜庭かなめ
恋愛
高校2年生の白石洋平のクラスには、藤原千弦という女子生徒がいる。千弦は美人でスタイルが良く、凛々しく落ち着いた雰囲気もあるため「王子様」と言われて人気が高い。千弦とは教室で挨拶したり、バイト先で接客したりする程度の関わりだった。
とある日の放課後。バイトから帰る洋平は、駅前で男2人にナンパされている千弦を見つける。普段は落ち着いている千弦が脚を震わせていることに気付き、洋平は千弦をナンパから助けた。そのときに洋平に見せた笑顔は普段みんなに見せる美しいものではなく、とても可愛らしいものだった。
ナンパから助けたことをきっかけに、洋平は千弦との関わりが増えていく。
お礼にと放課後にアイスを食べたり、昼休みに一緒にお昼ご飯を食べたり、お互いの家に遊びに行ったり。クラスメイトの王子様系女子との温かくて甘い青春ラブコメディ!
※続編がスタートしました!(2025.2.8)
※1日1話ずつ公開していく予定です。
※小説家になろうとカクヨムでも公開しています。
※お気に入り登録、いいね、感想などお待ちしております。

貞操観念逆転世界におけるニートの日常
猫丸
恋愛
男女比1:100。
女性の価値が著しく低下した世界へやってきた【大鳥奏】という一人の少年。
夢のような世界で彼が望んだのは、ラブコメでも、ハーレムでもなく、男の希少性を利用した引き籠り生活だった。
ネトゲは楽しいし、一人は気楽だし、学校行かなくてもいいとか最高だし。
しかし、男女の比率が大きく偏った逆転世界は、そんな彼を放っておくはずもなく……
『カナデさんってもしかして男なんじゃ……?』
『ないでしょw』
『ないと思うけど……え、マジ?』
これは貞操観念逆転世界にやってきた大鳥奏という少年が世界との関わりを断ち自宅からほとんど出ない物語。
貞操観念逆転世界のハーレム主人公を拒んだ一人のネットゲーマーの引き籠り譚である。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる