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第17話『愛アイス』
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干菓子の買い出しのために、僕は伊織や浅利部長と一緒に学校を出発した。浅利部長が一緒にいるからか、伊織は僕と手を繋ぐことはしない。
「そういえば、千佳先輩。訊きたいことがあるんですけど」
「はい、何でしょう?」
「買い出しに行こうと学校を出発したのはいいですけど、どこで干菓子を買うんですか? 専門店があるんですか?」
僕、浅利部長についていけば大丈夫だと思って、行き先はそこまで気にしていなかった。伊織、ちゃんと訊いて偉いな。分からないことがあったら訊いた方がいいよね。
「いい質問ですね。駅前にあるショッピングモールの中に、和菓子を中心に取り扱っているお店があるのです。あと、日本茶専門のお店もありますね。ショッピングモールに行けば、部活に必要なものは買えますよ」
へえ、あのショッピングモールに和菓子専門店があるなんて知らなかった。お菓子全般好きだけれど、好んで行くお店はアイスクリーム屋さんやドーナツ屋さんなどの洋菓子系のお店ばかりだから。
「なるほどです。実は先週末に、千尋と一緒にショッピングモールへデートをしに行ったんですけど、千尋も同じようなことを言っていました。ショッピングモールに行けば事足りるって」
「ふふっ、そうですか。色々なお店がありますから、何度行っても楽しめるデートスポットですよね。と言っても、私は恋愛経験が皆無ですが」
意外だ。こんなにも美しくて、優しい人が恋愛経験がないなんて。
いや、でも……イケメンの緒方だって瀬戸さんが気になるまでは、誰のことも好きにならなければ、付き合うこともしなかった。僕は一度、考えを改めた方が良さそうだ。
「意外ですね。千佳先輩が恋愛経験皆無だなんて。じゃあ、誰か好きな人とかはいますか?」
「そう……ですね」
浅利部長は僕をチラチラと見てくる。一昨日、畳に滑って転びそうになった彼女を抱き留めたあたりから、薄々感付いていたけれど……まさか。
「その人のこと想うと温かな気持ちがたくさん生まれてきます。きっと、それは恋をしていると言えるでしょう」
「そうですか! それで恋をしている相手というのは……」
「ふふっ、それは秘密ですよ、伊織さん。きっと、私の恋が叶うことはないでしょうから」
「……そうですか」
浅利部長が恋をしている人が誰なのかを教えてくれないからか、伊織はがっかりとした表情を浮かべる。
「……しかし、恋というのは叶うからこそ価値があるというわけではないと思っています。恋をすること自体に価値があるのだと思うのですよ。その人のことを想い、温かな気持ちが生まれ、幸せな気分に浸ることができる。例え、想い人に恋人や伴侶がいたとしても、恋をすることには何の問題はないのだと思います。……と言ってしまうと、負け惜しみに聞こえてしまうかもしれませんが」
ふふっ、と浅利部長は照れた表情を浮かべる。いつもは美しく、落ち着いている笑みだからこそ、今の彼女の表情にとても魅力を感じてくる。
「千佳先輩、私と2歳しか違わないのにとても大人な気がします!」
「恋については伊織さんの方が経験ありと言えるでしょう。現に、あなたは千尋君という素敵な方と好き合い、付き合っている。きっと、お二人から学ぶことがこれからたくさんあるでしょう」
「いえいえ、そんな。千尋からは学べるかもしれませんが、私なんて。でも、私……千佳先輩のような女性になりたいです!」
「ふふっ、そうですか。伊織さんにとって、私から学べることがあるといいのですが」
どうやら、伊織の目標は浅利部長になったようだ。もし、体も女性だったら、僕も彼女を目標にしていたかもしれない。
学校を出発してから10分ほどで、白花駅前にあるショッピングモールに辿り着いた。まさか、浅利部長と3人でここに来るとは思わなかったな。
「やっぱりここって大きいところだなぁ」
「その反応ですと、伊織さんは最近この地域に引っ越してきたのですか?」
「ええ。父の転勤で。私も白花高校に合格したので家族一緒に」
「なるほど、そういうことでしたか。うちには寮もありますが、お父様の転勤もあるのでしら、ご家族でこの街に引っ越してきたのも納得です」
「……ええ」
伊織、昨日の帰りのときのような寂しげな表情を浮かべている。引っ越したんだから寂しくもなるか。もし、そこに長く住んでいたり、好きだったりしたら尚更。
「白花市はとてもいい街ですよ。それに、この街で伊織さんは千尋君という愛おしい方と出会えたじゃないですか」
「そ、そうですね。千尋と付き合っているのはみんな知っていますけど、改めて言われると結構照れちゃいますね」
恥ずかしいなぁ、と伊織は照れ笑いしている。
僕らは浅利部長に付いていく形で、ショッピングモールの中にある和菓子の専門店に向かう。
「ここです。和菓子が主ですが、お抹茶も売っているんですよ。茶道室にある干菓子は主にここで買っています」
「なるほど……」
伊織、スマートフォンのメモ帳を使って、浅利部長から教えられたことをメモしているようだ。
僕も忘れないように、お店の外観や主に買うお菓子をスマホで撮影しておくか。これまでたくさんショッピングモールに来たことがあるけれど、このお店は初めてだから。
この和菓子屋さんで金平糖、おせんべいなどを買う。忘れずに白花高校茶道部という宛名の領収書を発行してもらった。部費に計上するために必要になるとのこと。部活に使用するものを買うときは忘れないようにと浅利部長から強く言われた。以前に何度か、三好副部長が領収書を忘れてしまい、面倒な事態になったこともあるらしい。
「さて、これで必要なものは買うことができましたね。まだ、4時半過ぎですから、お二人さえよければ、30分くらいはここで休憩しましょうか」
「いいんですか? 買い出しの途中ですけど」
「大丈夫ですよ、千尋君。詩織先生も5時半までに戻ればいいと言っていましたし。見学しに来た生徒がいたら、朱里ちゃんや詩織先生達が対応してくれますからね。来週以降、入部した生徒の歓迎会をする予定ですが、ここでミニ歓迎会でもしましょうか。ちょうど、あそこにアイスクリーム屋さんがありますから」
「いいですね、行きましょうよ!」
伊織、アイスと聞いて明るい笑みを浮かべている。
見てみると、すぐ近くに土曜日のデートでも立ち寄ったアイスクリーム屋さんがあった。僕はこれまでに何度も行ったことがあるけれど、ここのアイスはとっても美味しい。
「では、休憩しましょうか。ミニ歓迎会という名目なので、お二人のアイスは私が奢りましょう。どうぞ、好きなものを一つ選んでください」
「ありがとうございます!」
「……ご厚意に甘えて、いただきます」
僕と伊織は浅利部長にアイスクリームを奢ってもらうことに。僕はラムレーズン、伊織はチョコレート。ちなみに、浅利部長は抹茶のアイスクリームだった。
「う~ん、美味しい!」
伊織、幸せそうな表情をしている。そういえば、土曜日のデートでも、アイスを食べているときは今と同じように幸せな表情をしていた。
「どうしたの? 千尋、私のことをじっと見て」
「……可愛いなって思っただけだよ」
「ち、千佳先輩の前でそういうことを言わないでよ。恥ずかしいから……」
「ふふっ、お二人を見ているとアイスの冷たさが心地いいですね」
伊織の隣の席で、浅利部長は抹茶のアイスクリームを食べながらクスクスと笑っていた。
「そ、それにしても千佳先輩はアイスも抹茶なんですね!」
「ええ。抹茶が大好きですからね。それに、ここのお店の抹茶アイスは特に美味しいんですよ。伊織さんも一口食べて見ますか?」
「いいんですか? じゃあ、私のチョコレートアイスも一口どうぞ」
「では、お言葉に甘えて」
伊織と浅利部長は互いのアイスを食べさせ合っている。2人とも黒髪だからか、こうして見てみると、姉妹のように思えてくるな。
「抹茶アイス、美味しいですね」
「でしょう? チョコレートアイスも美味しかったですよ」
「ふふっ、ここのファンになりました。そうだ、千尋もチョコレートアイス食べてみる? 美味しいよ」
「う、うん……」
「じゃあ、私にラムレーズンを一口ちょうだい」
それが狙いだったのか、伊織。そんなことしなくても、普通に一口食べたいって言えばあげるのにな。まあ、そういうところも可愛いけど。
「で、では……私の抹茶アイスもいただきますか? とても美味しいので……」
「……いただきます」
結局、僕も2人とアイスを食べさせ合うことになった。伊織のチョコレートアイスも、浅利部長の抹茶アイスもとても美味しかった。
「美味しい? 千尋」
「うん、チョコレートアイス美味しかったよ。抹茶アイスも……って、浅利部長、大丈夫ですか?」
「だ、大丈夫ですよ?」
と言いながらも、浅利部長は真っ赤な顔をして視線をちらつかせている。
「どうしたんですか、千佳先輩。顔が真っ赤ですけど……」
「え、ええと……千尋君と伊織さんがあまりにも幸せそうにしているので、勝手にこちらまでドキドキしてしまっただけですよ。それだけです! それだけですから……」
浅利部長はそう言っているけれど、本当はお互いに自分の口を付けたスプーンでアイスを食べさせ合ったからだと思う。彼女がこれだけ緩んだ表情をしているのを見るのは初めてだ。
「ふふっ、そうですか。それだけ私達が仲良く見えているみたいだよ、千尋」
「そ、そうみたいだね」
どうやら、伊織は部長の本心に気付いていないようだ。ただ、僕がそれを教えても、浅利部長が更に顔を赤くするだけだと思うので何も言わないでおこう。
「それで、抹茶アイスは……いかがでしたか? 千尋君」
「初めて食べましたけれど、美味しかったです」
「そうですか。それなら良かったです。千尋君のラムレーズンも美味しかったですよ。ラムレーズンにアルコールが入っているからでしょうか。とても心が温かくなりました。千尋君、ありがとうございました」
「いえいえ」
こういったラムレーズンのアイスにもアルコールが入っているらしいし、子供やお酒に弱い人は酔ってしまうらしい。
まさか、顔が赤くなっている原因は間接キスではなくて、ラムレーズンのアルコール? でも、伊織の方は普段と変わりなさそうだ。
「部長、体調は大丈夫ですか?」
「大丈夫ですよ。さっきよりもアイスが美味しく感じられるほどです」
「それなら良かったです」
「……あっ、5時を回ってしまったので、そろそろ学校に戻りましょうか」
まさか、買い出し中にアイスを食べられるとは思わなかったなぁ。しかも、浅利部長の奢りで。それに、彼女の色々な表情を知ることができて楽しい時間になった。
僕らはショッピングモールを後にして学校に向かって歩いて行く。陽も傾き始めて空気も冷えてきた。アイスを食べた後だからか、弱くても風が吹くと体が震えてしまうのであった。
「そういえば、千佳先輩。訊きたいことがあるんですけど」
「はい、何でしょう?」
「買い出しに行こうと学校を出発したのはいいですけど、どこで干菓子を買うんですか? 専門店があるんですか?」
僕、浅利部長についていけば大丈夫だと思って、行き先はそこまで気にしていなかった。伊織、ちゃんと訊いて偉いな。分からないことがあったら訊いた方がいいよね。
「いい質問ですね。駅前にあるショッピングモールの中に、和菓子を中心に取り扱っているお店があるのです。あと、日本茶専門のお店もありますね。ショッピングモールに行けば、部活に必要なものは買えますよ」
へえ、あのショッピングモールに和菓子専門店があるなんて知らなかった。お菓子全般好きだけれど、好んで行くお店はアイスクリーム屋さんやドーナツ屋さんなどの洋菓子系のお店ばかりだから。
「なるほどです。実は先週末に、千尋と一緒にショッピングモールへデートをしに行ったんですけど、千尋も同じようなことを言っていました。ショッピングモールに行けば事足りるって」
「ふふっ、そうですか。色々なお店がありますから、何度行っても楽しめるデートスポットですよね。と言っても、私は恋愛経験が皆無ですが」
意外だ。こんなにも美しくて、優しい人が恋愛経験がないなんて。
いや、でも……イケメンの緒方だって瀬戸さんが気になるまでは、誰のことも好きにならなければ、付き合うこともしなかった。僕は一度、考えを改めた方が良さそうだ。
「意外ですね。千佳先輩が恋愛経験皆無だなんて。じゃあ、誰か好きな人とかはいますか?」
「そう……ですね」
浅利部長は僕をチラチラと見てくる。一昨日、畳に滑って転びそうになった彼女を抱き留めたあたりから、薄々感付いていたけれど……まさか。
「その人のこと想うと温かな気持ちがたくさん生まれてきます。きっと、それは恋をしていると言えるでしょう」
「そうですか! それで恋をしている相手というのは……」
「ふふっ、それは秘密ですよ、伊織さん。きっと、私の恋が叶うことはないでしょうから」
「……そうですか」
浅利部長が恋をしている人が誰なのかを教えてくれないからか、伊織はがっかりとした表情を浮かべる。
「……しかし、恋というのは叶うからこそ価値があるというわけではないと思っています。恋をすること自体に価値があるのだと思うのですよ。その人のことを想い、温かな気持ちが生まれ、幸せな気分に浸ることができる。例え、想い人に恋人や伴侶がいたとしても、恋をすることには何の問題はないのだと思います。……と言ってしまうと、負け惜しみに聞こえてしまうかもしれませんが」
ふふっ、と浅利部長は照れた表情を浮かべる。いつもは美しく、落ち着いている笑みだからこそ、今の彼女の表情にとても魅力を感じてくる。
「千佳先輩、私と2歳しか違わないのにとても大人な気がします!」
「恋については伊織さんの方が経験ありと言えるでしょう。現に、あなたは千尋君という素敵な方と好き合い、付き合っている。きっと、お二人から学ぶことがこれからたくさんあるでしょう」
「いえいえ、そんな。千尋からは学べるかもしれませんが、私なんて。でも、私……千佳先輩のような女性になりたいです!」
「ふふっ、そうですか。伊織さんにとって、私から学べることがあるといいのですが」
どうやら、伊織の目標は浅利部長になったようだ。もし、体も女性だったら、僕も彼女を目標にしていたかもしれない。
学校を出発してから10分ほどで、白花駅前にあるショッピングモールに辿り着いた。まさか、浅利部長と3人でここに来るとは思わなかったな。
「やっぱりここって大きいところだなぁ」
「その反応ですと、伊織さんは最近この地域に引っ越してきたのですか?」
「ええ。父の転勤で。私も白花高校に合格したので家族一緒に」
「なるほど、そういうことでしたか。うちには寮もありますが、お父様の転勤もあるのでしら、ご家族でこの街に引っ越してきたのも納得です」
「……ええ」
伊織、昨日の帰りのときのような寂しげな表情を浮かべている。引っ越したんだから寂しくもなるか。もし、そこに長く住んでいたり、好きだったりしたら尚更。
「白花市はとてもいい街ですよ。それに、この街で伊織さんは千尋君という愛おしい方と出会えたじゃないですか」
「そ、そうですね。千尋と付き合っているのはみんな知っていますけど、改めて言われると結構照れちゃいますね」
恥ずかしいなぁ、と伊織は照れ笑いしている。
僕らは浅利部長に付いていく形で、ショッピングモールの中にある和菓子の専門店に向かう。
「ここです。和菓子が主ですが、お抹茶も売っているんですよ。茶道室にある干菓子は主にここで買っています」
「なるほど……」
伊織、スマートフォンのメモ帳を使って、浅利部長から教えられたことをメモしているようだ。
僕も忘れないように、お店の外観や主に買うお菓子をスマホで撮影しておくか。これまでたくさんショッピングモールに来たことがあるけれど、このお店は初めてだから。
この和菓子屋さんで金平糖、おせんべいなどを買う。忘れずに白花高校茶道部という宛名の領収書を発行してもらった。部費に計上するために必要になるとのこと。部活に使用するものを買うときは忘れないようにと浅利部長から強く言われた。以前に何度か、三好副部長が領収書を忘れてしまい、面倒な事態になったこともあるらしい。
「さて、これで必要なものは買うことができましたね。まだ、4時半過ぎですから、お二人さえよければ、30分くらいはここで休憩しましょうか」
「いいんですか? 買い出しの途中ですけど」
「大丈夫ですよ、千尋君。詩織先生も5時半までに戻ればいいと言っていましたし。見学しに来た生徒がいたら、朱里ちゃんや詩織先生達が対応してくれますからね。来週以降、入部した生徒の歓迎会をする予定ですが、ここでミニ歓迎会でもしましょうか。ちょうど、あそこにアイスクリーム屋さんがありますから」
「いいですね、行きましょうよ!」
伊織、アイスと聞いて明るい笑みを浮かべている。
見てみると、すぐ近くに土曜日のデートでも立ち寄ったアイスクリーム屋さんがあった。僕はこれまでに何度も行ったことがあるけれど、ここのアイスはとっても美味しい。
「では、休憩しましょうか。ミニ歓迎会という名目なので、お二人のアイスは私が奢りましょう。どうぞ、好きなものを一つ選んでください」
「ありがとうございます!」
「……ご厚意に甘えて、いただきます」
僕と伊織は浅利部長にアイスクリームを奢ってもらうことに。僕はラムレーズン、伊織はチョコレート。ちなみに、浅利部長は抹茶のアイスクリームだった。
「う~ん、美味しい!」
伊織、幸せそうな表情をしている。そういえば、土曜日のデートでも、アイスを食べているときは今と同じように幸せな表情をしていた。
「どうしたの? 千尋、私のことをじっと見て」
「……可愛いなって思っただけだよ」
「ち、千佳先輩の前でそういうことを言わないでよ。恥ずかしいから……」
「ふふっ、お二人を見ているとアイスの冷たさが心地いいですね」
伊織の隣の席で、浅利部長は抹茶のアイスクリームを食べながらクスクスと笑っていた。
「そ、それにしても千佳先輩はアイスも抹茶なんですね!」
「ええ。抹茶が大好きですからね。それに、ここのお店の抹茶アイスは特に美味しいんですよ。伊織さんも一口食べて見ますか?」
「いいんですか? じゃあ、私のチョコレートアイスも一口どうぞ」
「では、お言葉に甘えて」
伊織と浅利部長は互いのアイスを食べさせ合っている。2人とも黒髪だからか、こうして見てみると、姉妹のように思えてくるな。
「抹茶アイス、美味しいですね」
「でしょう? チョコレートアイスも美味しかったですよ」
「ふふっ、ここのファンになりました。そうだ、千尋もチョコレートアイス食べてみる? 美味しいよ」
「う、うん……」
「じゃあ、私にラムレーズンを一口ちょうだい」
それが狙いだったのか、伊織。そんなことしなくても、普通に一口食べたいって言えばあげるのにな。まあ、そういうところも可愛いけど。
「で、では……私の抹茶アイスもいただきますか? とても美味しいので……」
「……いただきます」
結局、僕も2人とアイスを食べさせ合うことになった。伊織のチョコレートアイスも、浅利部長の抹茶アイスもとても美味しかった。
「美味しい? 千尋」
「うん、チョコレートアイス美味しかったよ。抹茶アイスも……って、浅利部長、大丈夫ですか?」
「だ、大丈夫ですよ?」
と言いながらも、浅利部長は真っ赤な顔をして視線をちらつかせている。
「どうしたんですか、千佳先輩。顔が真っ赤ですけど……」
「え、ええと……千尋君と伊織さんがあまりにも幸せそうにしているので、勝手にこちらまでドキドキしてしまっただけですよ。それだけです! それだけですから……」
浅利部長はそう言っているけれど、本当はお互いに自分の口を付けたスプーンでアイスを食べさせ合ったからだと思う。彼女がこれだけ緩んだ表情をしているのを見るのは初めてだ。
「ふふっ、そうですか。それだけ私達が仲良く見えているみたいだよ、千尋」
「そ、そうみたいだね」
どうやら、伊織は部長の本心に気付いていないようだ。ただ、僕がそれを教えても、浅利部長が更に顔を赤くするだけだと思うので何も言わないでおこう。
「それで、抹茶アイスは……いかがでしたか? 千尋君」
「初めて食べましたけれど、美味しかったです」
「そうですか。それなら良かったです。千尋君のラムレーズンも美味しかったですよ。ラムレーズンにアルコールが入っているからでしょうか。とても心が温かくなりました。千尋君、ありがとうございました」
「いえいえ」
こういったラムレーズンのアイスにもアルコールが入っているらしいし、子供やお酒に弱い人は酔ってしまうらしい。
まさか、顔が赤くなっている原因は間接キスではなくて、ラムレーズンのアルコール? でも、伊織の方は普段と変わりなさそうだ。
「部長、体調は大丈夫ですか?」
「大丈夫ですよ。さっきよりもアイスが美味しく感じられるほどです」
「それなら良かったです」
「……あっ、5時を回ってしまったので、そろそろ学校に戻りましょうか」
まさか、買い出し中にアイスを食べられるとは思わなかったなぁ。しかも、浅利部長の奢りで。それに、彼女の色々な表情を知ることができて楽しい時間になった。
僕らはショッピングモールを後にして学校に向かって歩いて行く。陽も傾き始めて空気も冷えてきた。アイスを食べた後だからか、弱くても風が吹くと体が震えてしまうのであった。
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