心に咲く花

桜庭かなめ

文字の大きさ
上 下
1 / 42

プロローグ『「僕」』

しおりを挟む
『心に咲く花』



 僕は「まとも」じゃない。
 そんなこと、ずっと前から分かってる。


 僕・沖田千尋おきたちひろは男性としての体の中に、女性の心が住んでいる。


 最初に、性別については違和感を抱いたのは幼稚園の頃だろうか。5歳の七五三のとき、どうして僕は袴姿で参加しているのだろうかと。
 そのとき、両親から女の子は3歳と7歳のときに七五三があると知り、どうして僕は3歳のときに着物を着て参加をしなかったのだろうかと思った。
 小学校に入学したのを機に、僕の体は男だけれど、心は女なのだと割り切った。そう思うと、それまで抱いていた違和感はすっと消えたのだ。

 これまで僕は男性の体が嫌だと思ったこともないし、男子として見られることに何の嫌悪感も抱いていない。男性として周りの人と接することにも不自由はない。僕を「僕」と言うことにも違和感はない。それに、女性なのかと怪しまれた経験も一度もない。
 ただ……なぜかは分からないけど、男女問わずに美しいと言われることはある。
 それに、僕は男性よりも女性の方に興味がある。だから、普通に過ごすには男性として生きていることの方が「都合がいい」のだ。


 体は男だけれど、心は女。
 だから、男として生きていることに問題ないし、嘘もないでしょう?


 これまでに何度か、自分は女性の心を持っているってカミングアウトしようかどうか考えたことがあった。
 ただ、体の性別と心の性別に違いがあるとカミングアウトしたら、周りの人間はきっと、それまでと変わらずに僕と接してはくれないだろう。
 やむを得ない事情があったとしても、大多数の人間とは違うからと非難し軽蔑する。そうすることで、自分は普通の人間であると安心するために。実際にメディアやネットを見ていると、辛辣な言葉を目にすることがある。
 そんなリスクを冒すくらいなら、体の中に住む女性の心のことを明かさずに、僕は男として穏やかに生きていくことに決めたんだ。


 自分から言わずに。
 誰からも怪しまれずに。
 この春……私立白花しらはな高等学校に男子として入学し、僕は高校生活を送り始めるのであった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

マッサージ

えぼりゅういち
恋愛
いつからか疎遠になっていた女友達が、ある日突然僕の家にやってきた。 背中のマッサージをするように言われ、大人しく従うものの、しばらく見ないうちにすっかり成長していたからだに触れて、興奮が止まらなくなってしまう。 僕たちはただの友達……。そう思いながらも、彼女の身体の感触が、冷静になることを許さない。

完全なる飼育

浅野浩二
恋愛
完全なる飼育です。

職場のパートのおばさん

Rollman
恋愛
職場のパートのおばさんと…

一夏の性体験

風のように
恋愛
性に興味を持ち始めた頃に訪れた憧れの年上の女性との一夜の経験

クールな生徒会長のオンとオフが違いすぎるっ!?

ブレイブ
恋愛
政治家、資産家の子供だけが通える高校。上流高校がある。上流高校の一年生にして生徒会長。神童燐は普段は冷静に動き、正確な指示を出すが、家族と、恋人、新の前では

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

手が届かないはずの高嶺の花が幼馴染の俺にだけベタベタしてきて、あと少しで我慢も限界かもしれない

みずがめ
恋愛
 宮坂葵は可愛くて気立てが良くて社長令嬢で……あと俺の幼馴染だ。  葵は学内でも屈指の人気を誇る女子。けれど彼女に告白をする男子は数える程度しかいなかった。  なぜか? 彼女が高嶺の花すぎたからである。  その美貌と肩書に誰もが気後れしてしまう。葵に告白する数少ない勇者も、ことごとく散っていった。  そんな誰もが憧れる美少女は、今日も俺と二人きりで無防備な姿をさらしていた。  幼馴染だからって、とっくに体つきは大人へと成長しているのだ。彼女がいつまでも子供気分で困っているのは俺ばかりだった。いつかはわからせなければならないだろう。  ……本当にわからせられるのは俺の方だということを、この時点ではまだわかっちゃいなかったのだ。

処理中です...