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第73話『告白結果』
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4月20日、水曜日。
今日の千晴先輩は沙耶先輩の前だとソワソワしていて。でも、どこか楽しそうで。恋をしているんだなって思わせてくれる。私も普段はそうなのかな。
理沙ちゃんやひより先輩達も、千晴先輩の変化について話していたけれど、好意を知らないためか、月曜日に助けられたことで沙耶先輩への態度が軟化したと考えているようだ。それは沙耶先輩本人も同じだった。
そんな中でも、風紀委員会の仕事はしっかりと行う。校内の見回りをしたけど、ダブル・ブレッドのメンバーらしき生徒による怪しい行動は一切なかった。
警察の方も、掛布さんや黒瀬先輩のスマホからブランの正体について捜査しているけど、SNSを利用してメンバーとやりとりしていることくらいしか分からず、手詰まりの状態になっているという。
何事もなく今日も一日を終えることができそうで良かった……と思いたいけど、千晴先輩から告白についての返事は一切ない。放課後の見回りでの沙耶先輩も普段と変わらない様子だから、まだ告白自体していないのかも。
「今日も活動お疲れ様でした。何事もなかったのはとてもいいことだと思います。明日も引き続き頑張りましょう」
千晴先輩のその言葉で今日の風紀委員会の活動も無事に終了した。
「あ、あの……朝倉さん」
「どうしたの、藤堂さん」
「……帰る前に2人きりで話したいことがあるのですがいいですか?」
今の言葉からして、千晴先輩はこれから沙耶先輩に告白するようだ。これまでなかなか告白する勇気が出なかったのかも。
「うん、いいよ」
「藤堂、その話は長くなりそうか?」
「ど、どうでしょうね。話の流れ次第でしょうか」
「……そうか。じゃあ、とりあえず先に成田と唐沢を家まで送っていこう。朝倉は用事が終わったら恵に連絡をして、私が帰ってくるまで一緒にいてくれ」
「分かりました。どこか2人きりで話せるところに行こうか。じゃあ、また明日ね、みんな」
「また明日です」
沙耶先輩と千晴先輩は私達に手を振って活動室を後にした。沙耶先輩のことが好きだから複雑な気持ちだけど、どうか2人にとって納得のいく結果になればいいなと思う。
「藤堂先輩、朝倉先輩と2人きりで何を話したいんだろうね」
「何だろうね。委員長と副委員長として一度、2人きりで落ち着いて話したいとか?」
「それかもしれませんね、成田先輩」
「藤堂はもちろんだが、朝倉も風紀委員として仕事をテキパキとこなすからなぁ。2人が1年生のときから名が知れ渡っているダブル・ブレッドがついに動き出したから、2人でゆっくりと話したいのかもしれない」
「千晴ちゃんは沙耶ちゃんに助けてもらいましたからね」
私を除くここにいる人は全員、風紀委員会のことについて2人が話すと思っているのか。そう思われるほどしっかりと風紀委員の仕事をしてきている証拠だと思う。
「じゃあ、唐沢と成田、行くか。折笠は親御さんがもう到着しているのか?」
「ちょっと待ってくださいね」
制服のポケットに入れている状態だと、メッセージが来ていてもたまに気付かないときがある。スマートフォンを確認してみると、
「……5分くらい前に母から学校に着いたってメッセージが来ていました」
「そうか。じゃあ、2人は折笠の親御さんの車まで一緒に行ってあげてくれ。私はその間に車の用意をするから」
「分かりました、真衣子先生!」
「ふふっ……」
理沙ちゃんが元気に返事した。その横でひより先輩が優しく笑っている。今日はいつも以上に、理沙ちゃんの明るさとひより先輩のふんわりとした優しさに救われた気がする。
その後、2人と一緒に校門近くに駐車してあるうちの車まで行き、お母さんの運転で家に帰った。
千晴先輩、沙耶先輩にもう告白したのかな。結果はどうだったのかな。告白をしたら連絡をすると言っていたけれど。
宿題をしているときも、夕ご飯を食べているときも、お風呂に入っているときもそのことばかり考えていた。
「……って、連絡……遅くない?」
気付けば、昨日、告白すると電話をしてくれた時間よりも2時間近く経っていた。
フラれてしまったのか。それとも、連絡できる余裕がないくらいに急ぎの用事があるのか。それとも、沙耶先輩と付き合うことになって、私と連絡するのが面倒なくらいに楽しい時間を過ごしているのか。
――プルルッ。
もしかして、千晴先輩からかな?
スマートフォンを確認してみると予想通り、千晴先輩からメッセージが届いたという通知が。
『遅れてしまってごめんなさい。今から電話をしてもいいですか?』
昨日と同じようなメッセージを送ってきた。本当に真面目な人だ。
『気にしないでください。もちろんいいですよ』
そう返信をしておいた。
すると、昨日のように返信してすぐに電話はかかってこなかった。私の変身に既読マークはもう出ているのに。
何かあったのかと思ってこっちから連絡をしようとしたとき、
――プルルッ。
千晴先輩の方から電話がかかってきた。
「折笠です」
『……なかなか電話できずにごめんなさい、琴実さん。これほどに電話をかけることに勇気が必要なのは初めてなもので』
「そうですか」
きっと、私に沙耶先輩の告白の結果を伝えるためだと思う。成功したのか、失敗してしまったのか。今の言葉からははっきりとどちらかは分からない。
『琴実さん。告白のアドバイスをしていただきありがとうございました。朝倉さんに告白してきました』
「そうですか。それで……結果はどうでしたか?」
緊張の一瞬ってこういうことを言うんだと思う。
『……フラれてしまいました』
……ひどいな。
千晴先輩の今の言葉を聞いて、心が少し軽くなってしまった。これも沙耶先輩という同じ人に恋をしたからだろうか。
「……告白を失敗してしまったんですね」
『はい。見事に。でも、告白したら琴実さんに報告すると約束したので、ついさっきまでお風呂に入って気持ちを立て直していました』
「そうだったんですか。その……結果を教えてくださってありがとうございます。あと、告白……お疲れ様でした」
それが今の私に言える精一杯の言葉だった。失敗という結果に終わってしまったけれど、好きだと告白したことへの敬意は伝えたかったから。私ができていないことを千晴先輩はしっかりとやったのだ。
『……ありがとうございます。今、琴実さんにフラれたことを報告して、ようやくそれが事実なのだと……受け入れることができそうです』
そう話す千晴先輩の声は震えていた。きっと……彼女はたくさんの涙を流しているのかもしれない。そんな彼女にどんな言葉をかければいいのだろうか。
『……このことを言っていいのか分かりませんが、朝倉さんには他に好きな人がいるらしいです。だから、私とは付き合えないとのことです』
「そうなんですか」
沙耶先輩には好きな人がいるんだ。それを知って真っ先に思い浮かぶのは会長さん。2人は高校に入学する以前からの付き合いらしいし、2人が一緒にいる姿を見ると凄くいいなって思えて。
『私の勝手な憶測ですが、朝倉さんの好きな人って生駒会長か琴実さんだと思うのです。彼女から好きな人がいると聞いたとき、お二人の顔を思い浮かべました』
「会長さんは昔からの付き合いだそうですからね。私の顔を思い浮かべたのは沙耶先輩の相棒だからですか?」
『……それもあります。ただ、お二人に見せる彼女の顔は思い返すと、私を含めたその他の方に対する顔と違うような気がしたのです』
「そう見えていたんですね、千晴先輩には」
思えば、先週末の沙耶先輩は学校にいるときよりも甘えん坊なところや、可愛らしい一面を見せていたような気がする。それに、私と一緒に歩む道もいいかもって言っていた。ただ、今はそのことでドキドキできなかった。
『時間が経つにつれジワジワと来るものなんですね。なかなか……辛いものです。そして、とても悔しいです。それだけ朝倉さんのことが好きだからでしょうか……』
静かな口調で千晴先輩はそう言った。好きな気持ちが今も抱き続けているからこそ、千晴先輩の心に辛さが広がっているんだと思う。
もしかして、理沙ちゃんも私にフラれて同じような想いを抱いていたのかな。
『琴実さん。明日……学校には来ることができないかもしれません。もし、そうなってしまったらごめんなさい』
「気にしないでください。少しでも楽でいることを最優先してください」
『……はい』
すると、千晴先輩の泣き声が聞こえてきた。もしかしたら、今の彼女にとって泣くことによって楽でいられるのかもしれない。
『……琴実さん』
「はい」
『夜分遅く……申し訳ありませんでした。おやすみなさい』
「……おやすみなさい」
千晴先輩から通話を切るまで静かに待った。
千晴先輩の告白は失敗してしまった。2人がお互いに納得する結果になればいいなって思っていたけれど、それは甘い考えだったのだろう。
明日、千晴先輩は学校に来るのかな。沙耶先輩も来るのかな。来ていたら、どんな様子だろう。それが気になってしまい、あまり眠れなかったのであった。
今日の千晴先輩は沙耶先輩の前だとソワソワしていて。でも、どこか楽しそうで。恋をしているんだなって思わせてくれる。私も普段はそうなのかな。
理沙ちゃんやひより先輩達も、千晴先輩の変化について話していたけれど、好意を知らないためか、月曜日に助けられたことで沙耶先輩への態度が軟化したと考えているようだ。それは沙耶先輩本人も同じだった。
そんな中でも、風紀委員会の仕事はしっかりと行う。校内の見回りをしたけど、ダブル・ブレッドのメンバーらしき生徒による怪しい行動は一切なかった。
警察の方も、掛布さんや黒瀬先輩のスマホからブランの正体について捜査しているけど、SNSを利用してメンバーとやりとりしていることくらいしか分からず、手詰まりの状態になっているという。
何事もなく今日も一日を終えることができそうで良かった……と思いたいけど、千晴先輩から告白についての返事は一切ない。放課後の見回りでの沙耶先輩も普段と変わらない様子だから、まだ告白自体していないのかも。
「今日も活動お疲れ様でした。何事もなかったのはとてもいいことだと思います。明日も引き続き頑張りましょう」
千晴先輩のその言葉で今日の風紀委員会の活動も無事に終了した。
「あ、あの……朝倉さん」
「どうしたの、藤堂さん」
「……帰る前に2人きりで話したいことがあるのですがいいですか?」
今の言葉からして、千晴先輩はこれから沙耶先輩に告白するようだ。これまでなかなか告白する勇気が出なかったのかも。
「うん、いいよ」
「藤堂、その話は長くなりそうか?」
「ど、どうでしょうね。話の流れ次第でしょうか」
「……そうか。じゃあ、とりあえず先に成田と唐沢を家まで送っていこう。朝倉は用事が終わったら恵に連絡をして、私が帰ってくるまで一緒にいてくれ」
「分かりました。どこか2人きりで話せるところに行こうか。じゃあ、また明日ね、みんな」
「また明日です」
沙耶先輩と千晴先輩は私達に手を振って活動室を後にした。沙耶先輩のことが好きだから複雑な気持ちだけど、どうか2人にとって納得のいく結果になればいいなと思う。
「藤堂先輩、朝倉先輩と2人きりで何を話したいんだろうね」
「何だろうね。委員長と副委員長として一度、2人きりで落ち着いて話したいとか?」
「それかもしれませんね、成田先輩」
「藤堂はもちろんだが、朝倉も風紀委員として仕事をテキパキとこなすからなぁ。2人が1年生のときから名が知れ渡っているダブル・ブレッドがついに動き出したから、2人でゆっくりと話したいのかもしれない」
「千晴ちゃんは沙耶ちゃんに助けてもらいましたからね」
私を除くここにいる人は全員、風紀委員会のことについて2人が話すと思っているのか。そう思われるほどしっかりと風紀委員の仕事をしてきている証拠だと思う。
「じゃあ、唐沢と成田、行くか。折笠は親御さんがもう到着しているのか?」
「ちょっと待ってくださいね」
制服のポケットに入れている状態だと、メッセージが来ていてもたまに気付かないときがある。スマートフォンを確認してみると、
「……5分くらい前に母から学校に着いたってメッセージが来ていました」
「そうか。じゃあ、2人は折笠の親御さんの車まで一緒に行ってあげてくれ。私はその間に車の用意をするから」
「分かりました、真衣子先生!」
「ふふっ……」
理沙ちゃんが元気に返事した。その横でひより先輩が優しく笑っている。今日はいつも以上に、理沙ちゃんの明るさとひより先輩のふんわりとした優しさに救われた気がする。
その後、2人と一緒に校門近くに駐車してあるうちの車まで行き、お母さんの運転で家に帰った。
千晴先輩、沙耶先輩にもう告白したのかな。結果はどうだったのかな。告白をしたら連絡をすると言っていたけれど。
宿題をしているときも、夕ご飯を食べているときも、お風呂に入っているときもそのことばかり考えていた。
「……って、連絡……遅くない?」
気付けば、昨日、告白すると電話をしてくれた時間よりも2時間近く経っていた。
フラれてしまったのか。それとも、連絡できる余裕がないくらいに急ぎの用事があるのか。それとも、沙耶先輩と付き合うことになって、私と連絡するのが面倒なくらいに楽しい時間を過ごしているのか。
――プルルッ。
もしかして、千晴先輩からかな?
スマートフォンを確認してみると予想通り、千晴先輩からメッセージが届いたという通知が。
『遅れてしまってごめんなさい。今から電話をしてもいいですか?』
昨日と同じようなメッセージを送ってきた。本当に真面目な人だ。
『気にしないでください。もちろんいいですよ』
そう返信をしておいた。
すると、昨日のように返信してすぐに電話はかかってこなかった。私の変身に既読マークはもう出ているのに。
何かあったのかと思ってこっちから連絡をしようとしたとき、
――プルルッ。
千晴先輩の方から電話がかかってきた。
「折笠です」
『……なかなか電話できずにごめんなさい、琴実さん。これほどに電話をかけることに勇気が必要なのは初めてなもので』
「そうですか」
きっと、私に沙耶先輩の告白の結果を伝えるためだと思う。成功したのか、失敗してしまったのか。今の言葉からははっきりとどちらかは分からない。
『琴実さん。告白のアドバイスをしていただきありがとうございました。朝倉さんに告白してきました』
「そうですか。それで……結果はどうでしたか?」
緊張の一瞬ってこういうことを言うんだと思う。
『……フラれてしまいました』
……ひどいな。
千晴先輩の今の言葉を聞いて、心が少し軽くなってしまった。これも沙耶先輩という同じ人に恋をしたからだろうか。
「……告白を失敗してしまったんですね」
『はい。見事に。でも、告白したら琴実さんに報告すると約束したので、ついさっきまでお風呂に入って気持ちを立て直していました』
「そうだったんですか。その……結果を教えてくださってありがとうございます。あと、告白……お疲れ様でした」
それが今の私に言える精一杯の言葉だった。失敗という結果に終わってしまったけれど、好きだと告白したことへの敬意は伝えたかったから。私ができていないことを千晴先輩はしっかりとやったのだ。
『……ありがとうございます。今、琴実さんにフラれたことを報告して、ようやくそれが事実なのだと……受け入れることができそうです』
そう話す千晴先輩の声は震えていた。きっと……彼女はたくさんの涙を流しているのかもしれない。そんな彼女にどんな言葉をかければいいのだろうか。
『……このことを言っていいのか分かりませんが、朝倉さんには他に好きな人がいるらしいです。だから、私とは付き合えないとのことです』
「そうなんですか」
沙耶先輩には好きな人がいるんだ。それを知って真っ先に思い浮かぶのは会長さん。2人は高校に入学する以前からの付き合いらしいし、2人が一緒にいる姿を見ると凄くいいなって思えて。
『私の勝手な憶測ですが、朝倉さんの好きな人って生駒会長か琴実さんだと思うのです。彼女から好きな人がいると聞いたとき、お二人の顔を思い浮かべました』
「会長さんは昔からの付き合いだそうですからね。私の顔を思い浮かべたのは沙耶先輩の相棒だからですか?」
『……それもあります。ただ、お二人に見せる彼女の顔は思い返すと、私を含めたその他の方に対する顔と違うような気がしたのです』
「そう見えていたんですね、千晴先輩には」
思えば、先週末の沙耶先輩は学校にいるときよりも甘えん坊なところや、可愛らしい一面を見せていたような気がする。それに、私と一緒に歩む道もいいかもって言っていた。ただ、今はそのことでドキドキできなかった。
『時間が経つにつれジワジワと来るものなんですね。なかなか……辛いものです。そして、とても悔しいです。それだけ朝倉さんのことが好きだからでしょうか……』
静かな口調で千晴先輩はそう言った。好きな気持ちが今も抱き続けているからこそ、千晴先輩の心に辛さが広がっているんだと思う。
もしかして、理沙ちゃんも私にフラれて同じような想いを抱いていたのかな。
『琴実さん。明日……学校には来ることができないかもしれません。もし、そうなってしまったらごめんなさい』
「気にしないでください。少しでも楽でいることを最優先してください」
『……はい』
すると、千晴先輩の泣き声が聞こえてきた。もしかしたら、今の彼女にとって泣くことによって楽でいられるのかもしれない。
『……琴実さん』
「はい」
『夜分遅く……申し訳ありませんでした。おやすみなさい』
「……おやすみなさい」
千晴先輩から通話を切るまで静かに待った。
千晴先輩の告白は失敗してしまった。2人がお互いに納得する結果になればいいなって思っていたけれど、それは甘い考えだったのだろう。
明日、千晴先輩は学校に来るのかな。沙耶先輩も来るのかな。来ていたら、どんな様子だろう。それが気になってしまい、あまり眠れなかったのであった。
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