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第35話『歩いて帰ろう』
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午後6時。
長かった今週の学校生活が終わり、私は1人で校門を後にする。今週は頑張ったから、途中のコンビニでスイーツを買って帰ろうかな。
「琴実ちゃん」
私の名前が聞こえたので振り返ると、そこには沙耶先輩の姿が。
「沙耶先輩、どうしたんですか」
「琴実ちゃんを家まで送ろうと思って。そうしたら、さっさと帰っちゃうんだもん」
「ごめんなさい。今までは朝だけだったので。沙耶先輩、会長さんとは一緒に帰らないんですか?」
「生徒会の仕事が残っているから先に帰ってって」
「そうですか」
生徒会のみなさんも大変だなぁ。もしかしたら、今後はダブル・ブレッドのことでさらに仕事を増えてしまうかもしれない。
「考えてみたら、琴実ちゃんが襲われそうになったのは放課後だから、登校よりも下校のときの方が一緒にいるべきなんだよね」
「しかも、2度襲われかけましたからね……」
2回とも、沙耶先輩がいなかったらどうなっていたんだろうと思う。それらのことも今週にあったことなのが信じられないというか。沙耶先輩の盗撮やダブル・ブレッドのことがあったからか、もっと昔のことのように思える。
「でも、今はむしろ私よりも沙耶先輩の方が狙われていますよね。そういう意味で一緒にいた方がいいかもしれません」
「盗撮があったからね。掛布さんを捕まえられたからいいけど、そのことでダブル・ブレッドが本格的に動き始めてくる可能性はあるだろうね」
「ブランも掛布さんとの連絡手段をすぐに断ち切りましたもんね。私達の動きをほぼリアルタイムで把握していますよね」
「ああ、そうだね」
ダブル・ブレッドは白布女学院の生徒による組織だとは言われているけど、校外で活動している可能性は否定できないよね。これを口実に沙耶先輩と土日を一緒に過ごせたらいいな、なんて思ったりして。
「ねえ、琴実ちゃん」
「何ですか?」
「琴実ちゃんさえよければ、土日は私と一緒にいてくれないかな。図々しいのは承知だけど、お邪魔じゃなければ今日は私の家に泊まっていいかな」
「えっ?」
まさか、私の心の中の言葉が沙耶先輩に届いちゃったの? 驚きと恥ずかしさで顔が熱くなってしまう。
「ごめんね、琴実ちゃん。急にこんなこと言っちゃって」
「全然問題ないですよ! むしろ、その……沙耶先輩の相棒として一緒にいたい……いえ、いるべきだと思いますし」
「そういう風に言ってくれると有り難いよ。それに、週末は琴実ちゃんと一緒にゆっくりと過ごしたいなって思っていたから」
「そうですか……」
そういう風に言われると、掛布さんに告白されたときに口にしていた「気に掛けたい人」が私なんじゃないかって思っちゃうよ。すっごく嬉しい。
「あっ、でも……お母さんに大丈夫かどうか訊かないと。沙耶先輩の方もご家族に連絡を取らないといけませんよ」
「そうだね。じゃあ、ちょっとおねえ……姉さんにかけてみるよ」
「お姉さんに連絡するということは、お姉さんと2人で住んでいるんですか?」
「うん」
何か家庭の事情でもあるのかな。それとも、お姉さんが住んでいるところからの方が白布女学院に通いやすいとか?
沙耶先輩がお姉さんに電話を掛けているので、こっちもお母さんに電話を掛けてみよう。自宅に電話を掛けてみる。
『もしもし』
「あっ、お母さん? 今日、沙耶先輩が泊まりに来るんだけれど大丈夫かな?」
『ああ、沙耶ちゃんね。いい子だよねぇ。もちろんいいよ、むしろ大歓迎』
お母さんの中では沙耶先輩の評価が凄く高いんだ。何度も朝早く来ているのに。パンツに関しては変態なことを知っているのかな。
『夕飯はビーフシチューだし。琴実の部屋に泊まるんだよね?』
「うん」
ふとんを敷いても大丈夫なくらいにスペースはあるし、一緒のベッドに寝た経験もあるからそれでもいいか。
『分かったわ』
「ありがとう、お母さん」
『気にしないでいいわよ。じゃあ、気を付けて帰ってらっしゃい』
「うん」
お母さんの方から通話を切った。許可がもらえて良かった。それに、夕飯のおかずが大好きなビーフシチューなのがとても嬉しい。
「姉には琴実ちゃんの家に泊まってくるって伝えておいた。琴実ちゃんの方はどうだった?」
「家は大丈夫でした。むしろ、大歓迎らしいです」
「明実さんと誠一さんにはお世話になっているからね。朝ご飯の仕度も手伝ったりもしてる」
「……馴染んでいたんですね」
明実というのはお母さんの名前で、誠一はお父さんの名前。朝早く来ているから、私が寝ている間に家事などを手伝っていても不思議じゃないか。
「じゃあ、一緒に帰りましょうか」
「そうだね」
沙耶先輩はそう言うと、笑顔を見せたまま私と手を繋いできた。しかも、恋人繋ぎで。
「せ、先輩?」
「……一緒に帰ろうって言われたから、手を繋ぎたくなって。嫌だった?」
「いえいえ、そんなことありません」
むしろ、嬉しいくらいです。
パンツを堪能されたときもドキドキしたけれど、今の方がドキドキは強い。沙耶先輩との心の距離が近くなってきているからかな。
私は沙耶先輩と一緒に自宅に向かって歩き始める。
「もしかして、今もダブル・ブレッドのメンバーの誰かに盗撮されているんでしょうかね」
「どうだろうね。まあ、この状況を撮影されても、琴実ちゃんの家に泊まりに行くところだって言えばいいんだよ」
「……そうですね」
女の子同士だし、家に泊まることは疚しいことじゃない。沙耶先輩と付き合っているのかって訊かれたら、しどろもどろしちゃいそうだけど。
「そういえば、誠一さんに言われたことを思い出したよ」
「お父さんが先輩に何か言ったんですか?」
両親ともに温厚な性格。女性同士ということでお母さんと話をするならまだしも、お父さんが沙耶先輩と話すなんて。先輩に何を言ったんだろう?
「知らない男にもらわれるくらいなら、私に琴実ちゃんのことをもらってほしいってさ」
沙耶先輩がそう言った瞬間、思わず私は立ち止まってしまう。
「へ、へえ……お父さん、そんなこと言ったんですかぁ」
きっと、ニヤけているんだろうな。でも、沙耶先輩にそんな顔を見せるのは恥ずかしいので俯いてしまう。
もう、お父さんったら何てことを言うの。まあ、沙耶先輩のことを歓迎してくれているのは嬉しいけどさ。
「琴実ちゃん、どうしたの? ニヤニヤしちゃって。顔も真っ赤だし」
「……お父さんの言っていることが面白すぎたんです。それだけですから」
とっさにそんな嘘を付いたけど、沙耶先輩に好きな気持ちがばれちゃってないかな。
でも、よく考えたら、これって沙耶先輩に告白するまたとない絶好のチャンスじゃないかな? だけど、掛布さんのようにフラれてしまうのは嫌だし。
「ははっ、確かに面白いね。でも、うちが女子高だからか、女性同士で付き合っている生徒達も何度も見ているし……一瞬だけど、琴実ちゃんと付き合っている未来を想像したんだよね。そのときの琴実ちゃん、とても楽しそうで嬉しそうだった」
「そうですか……」
そんな私が一瞬でも、沙耶先輩の未来にいたというのは嬉しかった。それを本当のことにしたいんだけど。
「あの、先輩」
「何かな、琴実ちゃん」
「……今の私は、先輩がそのときに思い浮かべた私のようになれていますか。恋人という意味ではなくて、相棒という意味で……」
直球では訊けないけど、沙耶先輩が抱く私の印象がどんな感じなのか知りたかった。
「……ふふっ」
沙耶先輩はそう笑うと、
「想像と現実じゃ、比較なんてできないよ。ただ、今、私と手を繋いでいる琴実ちゃんはとても可愛くて、守りたいと思っている素敵な女の子だよ」
「……あ、ありがとうございます」
可愛い。守りたい。素敵って……今夜中、沙耶先輩にパンツを堪能されてもいいくらいに嬉しい。幸せすぎて死にそう。
「ただ、私の側に楽しそうで嬉しそうにしている琴実ちゃんを想像したってことは、心のどこかで本当にそうなってほしい自分がいるのかもしれないね」
そう言うと、沙耶先輩は私の手を握る強さが、それまでよりもちょっと強くなった。そして、私と目が合うと先輩は優しい笑顔を見せる。ただ、その笑みは不思議とどこか寂しそうにも見えた。
「さあ、行こうか」
「……はい」
今、沙耶先輩とこうして一緒に歩いているところを誰かに盗撮されているかもしれない。でも、今はそれだけにしてほしい。先輩の顔を見ていると、手を離してはいけないと思ったから。そう思いながら先輩と一緒に家に帰るのであった。
長かった今週の学校生活が終わり、私は1人で校門を後にする。今週は頑張ったから、途中のコンビニでスイーツを買って帰ろうかな。
「琴実ちゃん」
私の名前が聞こえたので振り返ると、そこには沙耶先輩の姿が。
「沙耶先輩、どうしたんですか」
「琴実ちゃんを家まで送ろうと思って。そうしたら、さっさと帰っちゃうんだもん」
「ごめんなさい。今までは朝だけだったので。沙耶先輩、会長さんとは一緒に帰らないんですか?」
「生徒会の仕事が残っているから先に帰ってって」
「そうですか」
生徒会のみなさんも大変だなぁ。もしかしたら、今後はダブル・ブレッドのことでさらに仕事を増えてしまうかもしれない。
「考えてみたら、琴実ちゃんが襲われそうになったのは放課後だから、登校よりも下校のときの方が一緒にいるべきなんだよね」
「しかも、2度襲われかけましたからね……」
2回とも、沙耶先輩がいなかったらどうなっていたんだろうと思う。それらのことも今週にあったことなのが信じられないというか。沙耶先輩の盗撮やダブル・ブレッドのことがあったからか、もっと昔のことのように思える。
「でも、今はむしろ私よりも沙耶先輩の方が狙われていますよね。そういう意味で一緒にいた方がいいかもしれません」
「盗撮があったからね。掛布さんを捕まえられたからいいけど、そのことでダブル・ブレッドが本格的に動き始めてくる可能性はあるだろうね」
「ブランも掛布さんとの連絡手段をすぐに断ち切りましたもんね。私達の動きをほぼリアルタイムで把握していますよね」
「ああ、そうだね」
ダブル・ブレッドは白布女学院の生徒による組織だとは言われているけど、校外で活動している可能性は否定できないよね。これを口実に沙耶先輩と土日を一緒に過ごせたらいいな、なんて思ったりして。
「ねえ、琴実ちゃん」
「何ですか?」
「琴実ちゃんさえよければ、土日は私と一緒にいてくれないかな。図々しいのは承知だけど、お邪魔じゃなければ今日は私の家に泊まっていいかな」
「えっ?」
まさか、私の心の中の言葉が沙耶先輩に届いちゃったの? 驚きと恥ずかしさで顔が熱くなってしまう。
「ごめんね、琴実ちゃん。急にこんなこと言っちゃって」
「全然問題ないですよ! むしろ、その……沙耶先輩の相棒として一緒にいたい……いえ、いるべきだと思いますし」
「そういう風に言ってくれると有り難いよ。それに、週末は琴実ちゃんと一緒にゆっくりと過ごしたいなって思っていたから」
「そうですか……」
そういう風に言われると、掛布さんに告白されたときに口にしていた「気に掛けたい人」が私なんじゃないかって思っちゃうよ。すっごく嬉しい。
「あっ、でも……お母さんに大丈夫かどうか訊かないと。沙耶先輩の方もご家族に連絡を取らないといけませんよ」
「そうだね。じゃあ、ちょっとおねえ……姉さんにかけてみるよ」
「お姉さんに連絡するということは、お姉さんと2人で住んでいるんですか?」
「うん」
何か家庭の事情でもあるのかな。それとも、お姉さんが住んでいるところからの方が白布女学院に通いやすいとか?
沙耶先輩がお姉さんに電話を掛けているので、こっちもお母さんに電話を掛けてみよう。自宅に電話を掛けてみる。
『もしもし』
「あっ、お母さん? 今日、沙耶先輩が泊まりに来るんだけれど大丈夫かな?」
『ああ、沙耶ちゃんね。いい子だよねぇ。もちろんいいよ、むしろ大歓迎』
お母さんの中では沙耶先輩の評価が凄く高いんだ。何度も朝早く来ているのに。パンツに関しては変態なことを知っているのかな。
『夕飯はビーフシチューだし。琴実の部屋に泊まるんだよね?』
「うん」
ふとんを敷いても大丈夫なくらいにスペースはあるし、一緒のベッドに寝た経験もあるからそれでもいいか。
『分かったわ』
「ありがとう、お母さん」
『気にしないでいいわよ。じゃあ、気を付けて帰ってらっしゃい』
「うん」
お母さんの方から通話を切った。許可がもらえて良かった。それに、夕飯のおかずが大好きなビーフシチューなのがとても嬉しい。
「姉には琴実ちゃんの家に泊まってくるって伝えておいた。琴実ちゃんの方はどうだった?」
「家は大丈夫でした。むしろ、大歓迎らしいです」
「明実さんと誠一さんにはお世話になっているからね。朝ご飯の仕度も手伝ったりもしてる」
「……馴染んでいたんですね」
明実というのはお母さんの名前で、誠一はお父さんの名前。朝早く来ているから、私が寝ている間に家事などを手伝っていても不思議じゃないか。
「じゃあ、一緒に帰りましょうか」
「そうだね」
沙耶先輩はそう言うと、笑顔を見せたまま私と手を繋いできた。しかも、恋人繋ぎで。
「せ、先輩?」
「……一緒に帰ろうって言われたから、手を繋ぎたくなって。嫌だった?」
「いえいえ、そんなことありません」
むしろ、嬉しいくらいです。
パンツを堪能されたときもドキドキしたけれど、今の方がドキドキは強い。沙耶先輩との心の距離が近くなってきているからかな。
私は沙耶先輩と一緒に自宅に向かって歩き始める。
「もしかして、今もダブル・ブレッドのメンバーの誰かに盗撮されているんでしょうかね」
「どうだろうね。まあ、この状況を撮影されても、琴実ちゃんの家に泊まりに行くところだって言えばいいんだよ」
「……そうですね」
女の子同士だし、家に泊まることは疚しいことじゃない。沙耶先輩と付き合っているのかって訊かれたら、しどろもどろしちゃいそうだけど。
「そういえば、誠一さんに言われたことを思い出したよ」
「お父さんが先輩に何か言ったんですか?」
両親ともに温厚な性格。女性同士ということでお母さんと話をするならまだしも、お父さんが沙耶先輩と話すなんて。先輩に何を言ったんだろう?
「知らない男にもらわれるくらいなら、私に琴実ちゃんのことをもらってほしいってさ」
沙耶先輩がそう言った瞬間、思わず私は立ち止まってしまう。
「へ、へえ……お父さん、そんなこと言ったんですかぁ」
きっと、ニヤけているんだろうな。でも、沙耶先輩にそんな顔を見せるのは恥ずかしいので俯いてしまう。
もう、お父さんったら何てことを言うの。まあ、沙耶先輩のことを歓迎してくれているのは嬉しいけどさ。
「琴実ちゃん、どうしたの? ニヤニヤしちゃって。顔も真っ赤だし」
「……お父さんの言っていることが面白すぎたんです。それだけですから」
とっさにそんな嘘を付いたけど、沙耶先輩に好きな気持ちがばれちゃってないかな。
でも、よく考えたら、これって沙耶先輩に告白するまたとない絶好のチャンスじゃないかな? だけど、掛布さんのようにフラれてしまうのは嫌だし。
「ははっ、確かに面白いね。でも、うちが女子高だからか、女性同士で付き合っている生徒達も何度も見ているし……一瞬だけど、琴実ちゃんと付き合っている未来を想像したんだよね。そのときの琴実ちゃん、とても楽しそうで嬉しそうだった」
「そうですか……」
そんな私が一瞬でも、沙耶先輩の未来にいたというのは嬉しかった。それを本当のことにしたいんだけど。
「あの、先輩」
「何かな、琴実ちゃん」
「……今の私は、先輩がそのときに思い浮かべた私のようになれていますか。恋人という意味ではなくて、相棒という意味で……」
直球では訊けないけど、沙耶先輩が抱く私の印象がどんな感じなのか知りたかった。
「……ふふっ」
沙耶先輩はそう笑うと、
「想像と現実じゃ、比較なんてできないよ。ただ、今、私と手を繋いでいる琴実ちゃんはとても可愛くて、守りたいと思っている素敵な女の子だよ」
「……あ、ありがとうございます」
可愛い。守りたい。素敵って……今夜中、沙耶先輩にパンツを堪能されてもいいくらいに嬉しい。幸せすぎて死にそう。
「ただ、私の側に楽しそうで嬉しそうにしている琴実ちゃんを想像したってことは、心のどこかで本当にそうなってほしい自分がいるのかもしれないね」
そう言うと、沙耶先輩は私の手を握る強さが、それまでよりもちょっと強くなった。そして、私と目が合うと先輩は優しい笑顔を見せる。ただ、その笑みは不思議とどこか寂しそうにも見えた。
「さあ、行こうか」
「……はい」
今、沙耶先輩とこうして一緒に歩いているところを誰かに盗撮されているかもしれない。でも、今はそれだけにしてほしい。先輩の顔を見ていると、手を離してはいけないと思ったから。そう思いながら先輩と一緒に家に帰るのであった。
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