ガール&パンツ

桜庭かなめ

文字の大きさ
上 下
20 / 86

第19話『ベンチでティーやコーヒーを。』

しおりを挟む
 沙耶先輩と一緒に校内の見回りを始める。
 まずは普通教室のある教室棟を見回っているけど、特に校則違反をしているような生徒は見かけない。私達が見回っているから、私達の視界に入りそうなときだけちゃんとしているだけかもしれないけど。

「今日は平和だねぇ」
「そうですね」
「さすがに学校の中だと、琴実ちゃんのようにあの男達に追いかけられている生徒はいないね」
「いたら、教員総出で男達を捕まえるところですよ」

 それ以前に、校門の所にいる事務員のおじさんがどうにかしてくれると思うけど。万が一、校舎に入ったとしたら、男達を捕まえるのは風紀委員の仕事じゃなくて、警察の仕事だと思うけど。不法侵入とかで。

「普段、校内は平和だよ。校外だったけれど、これまでの琴実ちゃんが特別だっただけさ」
「……本当に、どうして私が男に追いかけられちゃったんでしょうね」
「琴実ちゃんが可愛かったからじゃない?」
「えっ?」
「1年生の中では指折りの可愛さだと思うけどな」
「そ、そんなに可愛いって言われても、何も出ませんよ」

 沙耶先輩に可愛いって言われるとドキドキする。本当にそういうことを爽やかな笑みを浮かべてさらりと言えるから先輩は本当にかっこいい。

「別にここでパンツを脱いで、私に渡してほしいとは思ってないよ」
「そんなことするわけがないでしょう!」

 思わず大声で怒ってしまった。そのせいか、近くにいた何人かの生徒が私のことを怯えた表情で見ている。

「みんな、驚かせちゃってごめんね。風紀委員の新人の彼女のために、今日は服装についての問題を出していたんだよ。スカートからワイシャツを出すのが正しいですかってね」
「そ、そうだったんですか……」
「彼女は真面目な子だから思わず大声で言っちゃったんだ。だから、恐がる必要は全くないよ」
「そうだったんですね。お2人ともお仕事頑張ってください!」
「うん、ありがとう」

 沙耶先輩、凄いな。機転を利かせて周りにいる生徒さん達の気持ちを落ち着かせて。さすがは3年生というか。

「……沙耶先輩、ごめんなさい。生徒さん達を怖がらせちゃいました」
「気にする必要はないよ。それに、琴実ちゃんが真面目な女の子っていうのは本当だよね。だから、思わず大きな声が出ちゃったと」
「ですけど……」
「初めてなんだから、失敗するのは普通なんだ。私がいるときは遠慮なく私に甘えればいいよ。もちろん、同じ失敗はなるべくしないように心がけようね」

 沙耶先輩は私の頭を優しく撫でてくれる。千晴先輩の言うとおり、パンツのことを除けば凄く真面目でいい先輩なんだな。本当に頼りになるし、好きなんだ。

「よし、気分転換のためにちょっと外に出ようか」
「……はい」
「自動販売機で何か好きな飲み物を買ってあげる」
「仕事中に飲んで大丈夫ですかね」
「大丈夫に決まっているさ。今は休憩にしよう。休憩を適度に挟まないと、仕事はしっかりこなせないよ」
「……そうですね」

 仕事ではなく休憩だからなのか沙耶先輩は私の手を引く形で、校舎の外へと連れてってくれる。
 入学して間もないから、校舎の外がどんな感じなのかあまり分かっていない。高校とは思えないくらいにしっかりとしている。広々とした敷地だからこそ、放課後の今は人気の少ない場所が多いように思える。
 私達が休憩している自動販売機側のベンチ周辺にも誰もいない。

「はい、レモンティー」
「ありがとうございます」

 沙耶先輩に買ってもらったレモンティーを飲む。何度も飲んだことあるのに、いつもよりちょっと酸っぱく感じるな。
 沙耶先輩は私の隣に座ってブラックコーヒーを飲んでいる。かっこいいなぁ、大人の女性って感じ。私はカフェオレがせいぜい。

「さっきはごめんね。私がパンツのことを言わなければ、琴実ちゃんはあんなに怒ることはなかったんだよね」

 沙耶先輩は苦笑いをしている。

「あっ、いえ、そんな……私がもっと穏やかになっていれば済んだことですよ」
「そう言ってもらえると、少しは心が軽くなるかな。さっきのお詫びに、あとで私のパンツを見せてあげようか」
「……本当に申し訳ないと思っているんですか?」
「もちろんだよ。ただ、パンツにはパンツで返そうと思ったのは事実さ」

 きっと、沙耶先輩は私を元気づけるためにそんなことを言ってくれているんだと思う。先輩はいつもパンツのことばかりだけど、特に私のパンツには執着心が強い気がする。私のことを相棒したくらいだし。

「あの、沙耶先輩。先輩って本当にパンツのことばかり言っていますよね」
「パンツには夢や希望に満ちているからね」
「……先輩って、私以外の女の子にもあんなことを言うんですか?」

 どうしても知りたかった。
 パンツに関しての私に対する態度は他の女の子と同じなのか。それとも、私だけなのか。できれば、私だけであってほしい。

「……私はパンツが大好きだよ。でも、私だって女の子だ。相手の子の気持ちも考えた上でパンツを堪能するように心がけているよ。初対面の女の子に対していきなりパンツ見せてくださいなんて言わないし、いいって言われても嫌そうな表情だったら見ないよ」
「そうなんですかね……?」

 私にとっては、沙耶先輩は見境なくパンツを堪能したいようにしか思えないけど。それに、私に対しては出会って間もない段階で、強引にパンツを堪能したような気がする。

「私に対してはそんなことなかったじゃない、って顔してるよ」
「……分かっているじゃないですか」

 私がそう言うと、沙耶先輩はふっ、と笑みを浮かべる。

「どうしてなんだろうね。琴実ちゃんを男達から助けたからなのかな。初対面なのに、この子のパンツだけはどうしても堪能したいって思ったんだよ」
「沙耶先輩……」

 沙耶先輩だから素敵に聞こえるけど、冷静に考えてみれば言っている内容はとんでもなく変態だし、人によっては通報していると思う。

「……私は、琴実ちゃんに甘えていたんだね。琴実ちゃんならきっと私にパンツを堪能させてくれるってさ。琴実ちゃんが嫌なら、そういうことは止めるよ。ただ、琴実ちゃんにはこの後も風紀委員会にいてくれると嬉しいな。できれば、私の相棒として……」

 沙耶先輩は笑顔を見せてくれているけど、こんなにしんみりとした先輩を見るのは初めてだ。
 沙耶先輩が側にいてほしいと言ってくれるのはとても嬉しい。私だって、そんな先輩の側にずっといたい。
 私は沙耶先輩の手をぎゅっと掴む。

「私、沙耶先輩にパンツを堪能されるのは嫌じゃありません。ただ、場所をちゃんと考えてほしいだけで。さっきだって、学校の廊下であんなことを言ったから怒っただけですし。それに、風紀委員会を辞めるつもりなんて全くありません! 沙耶先輩の相棒としてまだ何もできてないですから!」
「琴実ちゃん……」
「それに、それに……」

 周りには誰もいないし、今なら……沙耶先輩に言ってしまっていいかもしれない。好きだっていう気持ちを。

「沙耶先輩。私、せ、先輩のことが……」

 急にドキドキしてきて、体が熱くなってきて……好きだってなかなか口にできない。

「私のことが……どうしたの?」
「ふえっ? え、えっと……」

 変な声、出ちゃった。凄く恥ずかしい。
 でも、ここはもう勢いで言ってしまおう。フラれたってかまわない。沙耶先輩のことが好きだって――!

「好きです! 私と付き合ってください!」

 沙耶先輩に想いを伝えようとしたその直前に、私の知らない女の子の声が響き渡っていくのであった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

覚えたての催眠術で幼馴染(悔しいが美少女)の弱味を握ろうとしたら俺のことを好きだとカミングアウトされたのだが、この後どうしたらいい?

みずがめ
恋愛
覚えたての催眠術を幼馴染で試してみた。結果は大成功。催眠術にかかった幼馴染は俺の言うことをなんでも聞くようになった。 普段からわがままな幼馴染の従順な姿に、ある考えが思いつく。 「そうだ、弱味を聞き出そう」 弱点を知れば俺の前で好き勝手なことをされずに済む。催眠術の力で口を割らせようとしたのだが。 「あたしの好きな人は、マーくん……」 幼馴染がカミングアウトしたのは俺の名前だった。 よく見れば美少女となっていた幼馴染からの告白。俺は一体どうすればいいんだ?

女子校に男子入学可となったので入学したら男子が俺しかいなかった話

童好P
恋愛
タイトルのまんまにするつもりです

サクラブストーリー

桜庭かなめ
恋愛
 高校1年生の速水大輝には、桜井文香という同い年の幼馴染の女の子がいる。美人でクールなので、高校では人気のある生徒だ。幼稚園のときからよく遊んだり、お互いの家に泊まったりする仲。大輝は小学生のときからずっと文香に好意を抱いている。  しかし、中学2年生のときに友人からかわれた際に放った言葉で文香を傷つけ、彼女とは疎遠になってしまう。高校生になった今、挨拶したり、軽く話したりするようになったが、かつてのような関係には戻れていなかった。  桜も咲く1年生の修了式の日、大輝は文香が親の転勤を理由に、翌日に自分の家に引っ越してくることを知る。そのことに驚く大輝だが、同居をきっかけに文香と仲直りし、恋人として付き合えるように頑張ろうと決意する。大好物を作ってくれたり、バイトから帰るとおかえりと言ってくれたりと、同居生活を送る中で文香との距離を少しずつ縮めていく。甘くて温かな春の同居&学園青春ラブストーリー。  ※特別編7-球技大会と夏休みの始まり編-が完結しました!(2024.5.30)  ※お気に入り登録や感想をお待ちしております。

ハナノカオリ

桜庭かなめ
恋愛
 女子高に進学した坂井遥香は入学式当日、校舎の中で迷っているところをクラスメイトの原田絢に助けられ一目惚れをする。ただ、絢は「王子様」と称されるほどの人気者であり、彼女に恋をする生徒は数知れず。  そんな絢とまずはどうにか接したいと思った遥香は、絢に入学式の日に助けてくれたお礼のクッキーを渡す。絢が人気者であるため、遥香は2人きりの場で絢との交流を深めていく。そして、遥香は絢からの誘いで初めてのデートをすることに。  しかし、デートの直前、遥香の元に絢が「悪魔」であると告発する手紙と見知らぬ女の子の写真が届く。  絢が「悪魔」と称されてしまう理由は何なのか。写真の女の子とは誰か。そして、遥香の想いは成就するのか。  女子高に通う女の子達を中心に繰り広げられる青春ガールズラブストーリーシリーズ! 泣いたり。笑ったり。そして、恋をしたり。彼女達の物語をお楽しみください。  ※全話公開しました(2020.12.21)  ※Fragranceは本編で、Short Fragranceは短編です。Short Fragranceについては読まなくても本編を読むのに支障を来さないようにしています。  ※Fragrance 8-タビノカオリ-は『ルピナス』という作品の主要キャラクターが登場しております。  ※お気に入り登録や感想お待ちしています。

教え子に手を出した塾講師の話

神谷 愛
恋愛
バイトしている塾に通い始めた女生徒の担任になった私は授業をし、その中で一線を越えてしまう話

まずはお嫁さんからお願いします。

桜庭かなめ
恋愛
 高校3年生の長瀬和真のクラスには、有栖川優奈という女子生徒がいる。優奈は成績優秀で容姿端麗、温厚な性格と誰にでも敬語で話すことから、学年や性別を問わず人気を集めている。和真は優奈とはこの2年間で挨拶や、バイト先のドーナッツ屋で接客する程度の関わりだった。  4月の終わり頃。バイト中に店舗の入口前の掃除をしているとき、和真は老齢の男性のスマホを見つける。その男性は優奈の祖父であり、日本有数の企業グループである有栖川グループの会長・有栖川総一郎だった。  総一郎は自分のスマホを見つけてくれた和真をとても気に入り、孫娘の優奈とクラスメイトであること、優奈も和真も18歳であることから優奈との結婚を申し出る。  いきなりの結婚打診に和真は困惑する。ただ、有栖川家の説得や、優奈が和真の印象が良く「結婚していい」「いつかは両親や祖父母のような好き合える夫婦になりたい」と思っていることを知り、和真は結婚を受け入れる。  デート、学校生活、新居での2人での新婚生活などを経て、和真と優奈の距離が近づいていく。交際なしで結婚した高校生の男女が、好き合える夫婦になるまでの温かくて甘いラブコメディ!  ※特別編3が完結しました!(2024.8.29)  ※小説家になろうとカクヨムでも公開しています。  ※お気に入り登録、感想をお待ちしております。

憧れの先輩とイケナイ状況に!?

暗黒神ゼブラ
恋愛
今日私は憧れの先輩とご飯を食べに行くことになっちゃった!?

手が届かないはずの高嶺の花が幼馴染の俺にだけベタベタしてきて、あと少しで我慢も限界かもしれない

みずがめ
恋愛
 宮坂葵は可愛くて気立てが良くて社長令嬢で……あと俺の幼馴染だ。  葵は学内でも屈指の人気を誇る女子。けれど彼女に告白をする男子は数える程度しかいなかった。  なぜか? 彼女が高嶺の花すぎたからである。  その美貌と肩書に誰もが気後れしてしまう。葵に告白する数少ない勇者も、ことごとく散っていった。  そんな誰もが憧れる美少女は、今日も俺と二人きりで無防備な姿をさらしていた。  幼馴染だからって、とっくに体つきは大人へと成長しているのだ。彼女がいつまでも子供気分で困っているのは俺ばかりだった。いつかはわからせなければならないだろう。  ……本当にわからせられるのは俺の方だということを、この時点ではまだわかっちゃいなかったのだ。

処理中です...