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第51話『愛しき告白』

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 俺に告白をしたリサさんは罪悪感のあまり、俺の目の前から姿を消してしまった。

「どうすべきか……」

 ダイマフォンを使って、居場所をすぐに確認した方がいいだろうか。それさえもせず、少しの間でもそっとしておいた方がいいだろうか。それには迷うけど、まずはエリカさんやルーシーさんにこのことを伝えないと。
 俺は洗面所の前に行き、扉をノックする。

「エリカさん、ルーシーさん」
「うん? どうかしたの? 今、お風呂から出たところだけれど。もしかして、お着替えするところを見たいの?」
「あらぁ、風見さんは意外と積極的なんですね」
「いえいえ、それが目的じゃなくて。リサさんが姿を消してしまって」
『えええっ!』

 2人の驚いた声が聞こえると、洗面所の扉が開いて、バスタオルを持ったエリカさんが姿を現す。奥には下着姿のルーシーさんが。

「どういうこと! 何があったの!」
「ちゃんと話しますから、まずは寝間着に着替えてください」
「……それもそうだね」

 すぐにエリカさんは洗面所の扉を閉める。
 それにしても、エリカさん綺麗だったな。ボディーソープの甘い匂いもしたし……って、こんなときに何を考えているんだか。
 その後、寝間着に着替えたエリカさんとルーシーさんに、リサさんが俺に好意を抱いていたこと。それについて罪悪感を抱き、メイドとして失格だと思い姿を消したことについて話した。その間、2人は嫌そうな表情を一つせずにただ静かに聞いていた。

「なるほどね……」
「リサの気持ちもよく分かるわ」

 それが、俺が話し終わってからの2人の第一声だった。どうやら、2人はリサさんに対して特に怒ってはいないようだ。

「最初こそは宏斗さんに嫌悪感を出していたけれど、すぐに宏斗さんと打ち解けて、旅行に行く頃には今みたいに穏やかになっていたもんね。宏斗さんと楽しく話すときも多くなってきたし。そんな中でリサは宏斗さんのことが好きになっていったのかも」
「そういえば、エリカが風見さんの話をするとき、リサの表情が柔らかくなっていたわね」
「……そうでしたか。ところでリサさんは今、どこにいるのでしょうか。2人はリサさんの持つ魔法能力の移動が感知できるんですよね」
「うん。今もリサの能力を感じるから、地球にいることは確かだね」

 ルーシーさんのように惑星間の移動はしたり、宇宙船に乗って地球を離れたりはしていないんだな。
 ――プルルッ。
 俺のスマートフォンが鳴っている。
 確認してみると、発信者は『白石愛実』なっていた。彼女からの通話に出る。

「もしもし、愛実ちゃん」
『こんばんは、宏斗先輩。あの……15分くらい前に突然、リサちゃんが泣きながら家にやってきまして』
「そうなんだ! じゃあ、今もリサさんは愛実ちゃんの家にいるんだね」

 俺がそう言ったからか、エリカさんとルーシーさんは安心した様子でこちらを見てくる。
 それにしても、こういうときに愛実ちゃんの家に行くとは。それだけ彼女のことを信頼しているということなんだな。

『はい。……事情はリサちゃんから聞きました。リサちゃんも宏斗先輩のことが好きだったんですね。やっぱりという感じですが……』
「……そう、だね」
『リサちゃんの気持ちが落ち着き始めたので、今の居場所を伝えるためにあたしから先輩に連絡をしたんです』
「そうだったんだ。こっちも、エリカさんと母親のルーシーさんにリサさんのことを話したんだ」
『そうだったんですか。あと、女王様が来ていたんですね』
「帰る途中、夏川駅の近くで会ったんだ。……ところで、今はリサさんと話ができるかな。リサさんからの告白の返事もできていないし、色々と話したいことがあるんだ」
『……聞いてみますね』

 もちろん、リサさんからの告白の返事も言うつもりだ。ただ、ここにはエリカさんやルーシーさんもいる。大切な気持ちをこの場でしっかりと言おう。
 俺はスピーカーホンにして、スマートフォンをテーブルの上に置いた。

『……宏斗様』
「愛実ちゃんのところに行っていたんですね。リサさんの声が聞けて安心しました」
「姿を消したって風見さんから聞いて心配したわ」
「……安心したよ、リサ」
『女王様、エリカさまぁ……』

 エリカさんの名前を口にするとき、リサさんの声が震えていた。きっと、俺のことが好きになった罪悪感に苛まれているのだろう。

「リサさん。告白してくれてありがとうございます。リサさんが俺のことを好きになってくれて嬉しいです」
『……そんな優しい言葉を言わないでください』
「リサさんは気持ちを素直に言ってくれたんです。だから、俺も素直な気持ちを言おうと思いまして。……告白は嬉しかったですが、リサさんの気持ちに応えることはできません。俺には他に好きな人がいるからです」
『……思い当たる方の顔がはっきりと思い浮かびましたが、宏斗様の口からはっきりと言っていただきたいです。その方とは誰なのですか?』

 しっかりと言わなきゃいけないな。一度、俺は深呼吸をする。

「俺が好きなのはエリカ・ダイマさんです」
『……やはり、そうでしたか』

 好きだっていう気持ちを口に出すと、凄く体が熱くなってくるな。
 ちなみに、エリカさんはというと……顔を真っ赤にして、恥ずかしそうな様子で俺のことをチラチラと見ている。てっきり、喜んでいるかと思ったんだけれど。むしろ、隣に立っているルーシーさんの方が嬉しそうな様子だ。

「いきなりプロポーズしてきて、凄く積極的な異星人の女性だと思いました。妹が2人いるので、女性と住むこと自体には慣れていました。ただ、一緒にお風呂に入るのはさすがにドキドキして。寝ぼけて全力で抱きしめられたり、胸を思い切り叩かれたりしたこともありましたね」
「宏斗さん、あまり言わないで。恥ずかしい……」
「ごめんなさい。エリカさんとリサさんが来てから毎日が楽しくなりました。それまでは、一人で暮らすことに寂しさもなかったですし、誰かと付き合うことも特に考えませんでした。ただ、2人と一緒に住むことで、2人の存在が大きくなって。行くときにキスをしたり、一緒に寝たりするエリカさんのことは特に。ですから、出張に行ったときには寂しさを覚えて、花火大会の会場でエリカさんがはぐれたことを知ったときは不安でした」
『先輩、あたしが告白したときに、寂しいと思ったって言っていましたもんね』

 愛実ちゃんがそう言うってことは、向こうもスピーカーホンにしているのかな。公開告白をしているように思えてきた。

「うん。花火大会のとき、エリカさんと会えたことに凄く安心して。その後にみんなで花火を見たとき、エリカさんの笑顔は凄く綺麗で、何よりも楽しそうだった。そんなエリカさんを見たときに、俺は彼女に恋心を抱いていると自覚して、彼女の側にずっといたいと思ったんです」
『……そうですか。ということは、エリカ様からのプロポーズを受けるということですね?』
「……はい」
『では……』

 すると、俺達の目の前にリサさんと、寝間着姿の愛実ちゃんが現れた。ここに連れて来られたのは予想外だったのか、愛実ちゃんははにかんでいる。

「私達の前でその愛を誓っていただけますか? 地球ですと、そういうときはキスをするのでしょう?」
「そうですね。……エリカさん」
「は、はいっ!」

 俺はエリカさんの目の前に立つ。
 すると、それまで恥ずかしそうにしていたエリカさんは、顔の赤みは未だに強く残っているものの、可愛らしい笑みを浮かべている。俺に向ける彼女の視線はとても温かい。

「宏斗さん、私のプロポーズ……受け入れてくれるんだね。嬉しいよ」
「はい。エリカさんのことが好きです。……結婚してください」
「……はい。私も宏斗さんのことが好きだよ」

 そう言うと、エリカさんはゆっくりと目を瞑った。
 俺はエリカさんのことをそっと抱きしめて、唇を重ねる。これが初めてのキスだけど、唇ってこんなにも柔らかくて、温かいんだな。お風呂に入ってそこまで時間が経っていないからか甘い匂いもしっかりと感じるし。
 ゆっくりと唇を離すと、そこにはうっとりとした様子のエリカさんがいた。同時に拍手の音が聞こえてくる。

「宏斗先輩! エリカちゃん! おめでとう!」
「エリカ、良かったね。風見さんもありがとう。あぁ、若い頃のことを思い出すわぁ」
「……おめでとうございます、エリカ様、宏斗様」

 愛実ちゃんとルーシーさんは嬉しそうに拍手をしているけれど、リサさんは切なげな笑みを浮かべて俺達を見ているだけだった。

「みなさん、ありがとうございます」
「みんなありがとう。……リサ。宏斗さんが好きなことも、そのことに罪悪感を抱いていることも理解したよ。ただ、私はそのことに全く怒ってないからね。その上でお願いがあるの。リサが地球に来たときはとても嬉しくて、それからはより毎日が楽しいし、凄く安心できて。今は宏斗さんが一緒だけれど、また長い間眠っちゃうかもしれないし。一緒に地球の調査もしてほしい。わがままだってことは分かってる。もちろん、リサの気持ちを尊重するよ。……どうかな?」

 エリカさんはこれまで通り、リサさんには地球で一緒に暮らしてほしいと考えているようだ。
 ただ、これまでとは違ってエリカさんと俺は結婚を前提として付き合うことになり、いずれは結婚することになる。その状況をリサさんはどう受け止めて、向き合っていくのか。きっと、それがリサさんの判断を左右することになるだろう。
 エリカさんが側にいてほしいと考えているのなら、俺も後押ししたいけれど、何も言うことができなかった。
 少しの間、無言の時間が続いた後、

「エリカ様にそう言われてしまったら、離れることはできません。エリカ様は20年も眠るような方です。1人でもいいので、王族に仕えるメイドが側にいた方がいいでしょう。それに、地球で宏斗様はもちろん、愛実様や美夢様、有希様という素敵な友人もいますからね。日本の色々な文化が好きになりましたし。こんな私で良ければ、これからもよろしくお願いいたします」

 目元は赤くなっていたけれど、リサさんはいつも通りの落ち着いた優しい笑みを浮かべてそう言ってくれた。

「ありがとう、リサ」
「ふふっ、じゃあ、これからもエリカや風見さんの身の回りのお世話と、地球調査をよろしくね、リサ」
「かしこまりました、女王様」
「良かった。これからも地球にいるんだね、リサちゃん!」
「これからもよろしくお願いします、リサさん」
「よろしくお願いいたします。……ただ、宏斗様。エリカ様と結婚するのですから、浮気などをしないよう気を付けてくださいね。万が一、そのようなことがあったら、出会った頃にしたことなんて比にならないくらいのお仕置きをしますからね!」
「き、気を付けます」

 本当に気をつけないといけないな。もちろん、エリカさんを悲しませるようなことはするつもりは全くないけれど。
 エリカさんに想いを伝えることができたし、リサさんはこれまで通りに一緒に住んでくれる。最良の形で一歩を進むことができたと思うのであった。
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