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第41話『シスターズ-後編-』

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 美夢と有希のことをリビングへと連れて行く。
 すると、そこにはいつもと違って緊張した様子の愛実ちゃんと、いつもと変わらず落ち着いた様子のリサさんが。

「美夢と有希は、リサさんや愛実ちゃんとも初対面なんだよね。お互いに写真は見せたけれど、改めて紹介するよ。こちらのメイド服の女性が、ダイマ王星からやってきたリサ・オリヴィアさん。エリカさんのメイドをやっているんだ。それで、こちらのブラウス姿の女性が、俺の会社の3年後輩で一緒の仕事をしている白石愛実ちゃん。そして、こちらのセーターを着ている方が大学生の美夢で、ワンピース姿の方が高校生の有希といいます」
「初めまして、リサ・オリヴィアと申します。エリカ様のメイドとして、ここに住まわせてもらっております。宏斗様にはお世話になっております」
「白石愛実といいます。社会人2年生です。宏斗先輩とは配属されてからずっと一緒に仕事をしているんだよ。よろしくね」
「風見美夢です。大学2年生で文学部の日本文学を専攻しています」
「風見有希です。高校1年です。よろしくお願いします」
「自己紹介が済んだし、そこの椅子に適当に座って」
「では、全員分の麦茶を持ってきますね」

 今朝、エリカさんとリサさんの複製能力によって、椅子を2つ複製してもらったので、ここにいる6人分ある。
 俺とエリカさんが隣同士に座り、テーブルを挟んだ向かい側に美夢と有希が座る。俺の正面には美夢がいる形に。
 また、愛実ちゃんと全員分の麦茶を持ってきたリサさんが向かい合う形で座った。

「それにしても、兄さんが女性と一緒に住む日が来るとは思わなかったよ」
「そうだね。兄さんのこの家は広いから、いずれは有希と私が一緒に住もうと思っていたのにね。とりあえずは長期休暇の間とかは」
「えっ、そうだったのか?」
「それはあたしも初耳なんだけど」

 前に美夢と有希が遊びに来たときは、エリカさんとリサさんの部屋になっているところは空いていたもんな。美夢の性格上、夏休みや年度末の休みに限っても、家に住もうと考えていたのは納得できるかな。

「美夢ちゃん、有希ちゃん。うちの会社では先輩は女性社員から人気だけれど、学生の間はどうだったのかな」
「私や有希の友達が家に遊びに来て、お兄ちゃんのことを大半は喜んでいたり、興奮していたりしていたよね」
「そうだね。あたしの場合、兄さんは一回りくらい上だけれど、憧れの存在だって言っている友達がいたな」
「やっぱり、昔からそんな感じだったんだね。さすがです、宏斗先輩!」
「さすがだね、宏斗さん!」
「……俺は普通に過ごしていただけなんですけどね」

 ただ、思い返せば美夢や有希の友達が遊びに来たときは、大半の子が嬉しそうにしていたような気がする。

「でも、お兄ちゃんは男の子の友達を連れてくることはたまにあったけど、女性の友達を連れてくることはあまりなかったよね」
「そうだね。男友達も一緒だったことあったけれど、女の子だけっていうのはそんなになかったかな」
「でしょう? それなのに、会社の後輩の愛実ちゃんを連れてくるなんて。もしかして、実は愛実ちゃんのことが好きだったりするの?」
「姉さん、みんなの前で何てことを訊くの。あたしも気になるけれど……」

 美夢が気になるのは納得だけど、有希もこういう話題に興味があるのは意外だ。
 美夢からストレートな質問をされたせいか、愛実ちゃんは頬を赤くして視線をちらつかせている。ここは俺がちゃんとフォローしなければ。

「愛実ちゃんは……いい後輩だと思っているよ。仕事も一生懸命に取り組むし。彼女が配属されてから、ずっと一緒に仕事をしている俺が保証します」
「そう言っていただけて嬉しいです、宏斗先輩。実際はあたしが先輩のことが好きで。まあ、一昨日の出張で告白してフラれちゃったんだけどね」
「……そうだったんだ。ごめん、こんなことを訊いちゃって……」
「いいのいいの、気にしないで。先輩に告白できて気持ちもスッキリしたし」

 愛実ちゃんはその言葉通りの爽やかな笑みを浮かべている。きっと、俺にフラれたことについて、彼女なりに気持ちの整理することができたのだろう。

「と、ところでエリカさん。エリカさんは地球との繋がりを作るために、ダイマ王星から来たと言っていましたよね。そんな中で兄さんのことが好きになったと」
「そうだよ。ご実家の近くにある山に到着してね。周りの様子を見るためのカメラに宏斗さんが映っていてね。一目惚れしちゃった」
「……あれ? お兄ちゃんって数年前に社会人になったのを機に一人暮らししたよね。たまに実家に帰省するけれど、近くの山に行くことってあったっけ?」
「あたしも同じことを思った、姉さん」
「社会人になってからは一度もないよ」

 普段はのんびりとしているけれど、的確なことをしっかり言うんだよな、美夢って。
 どうやら、エリカさんは宇宙船の中で、20年間眠り続けたことを美夢や有希に言っていないようだ。

「たまにさ、兄ちゃんが昔見た流れ星の話をしたことは覚えてる?」
「言っていたね。私が生まれる年の夏のことだっけ」
「そう、美夢が母さんのお腹の中にいた頃の話だ。夏休みに入ってすぐに、俺の部屋から山に向かって流れ星が落ちていくのを見たんだ。それがエリカさんの乗っていた宇宙船だったんだよ」
『えええっ!』

 美夢と有希、愛実ちゃんは大きな声を出して驚いている。

「お兄ちゃん。じゃあ、昔の予言者が言っていた『1999年の7の月に恐怖の大王が降りてくる』っていうのは本当だったの?」
「恐怖の大王っていう部分を除けばね」
「地球人も侮れないなって思ったよ」

 そう言って、エリカさんはドヤ顔を見せる。俺が話したときは恐怖の大王なんて失礼なって感じで怒っていたのに。

「ということは、宇宙船のカメラに映っていたのは20年前の兄さんの姿だったんですか? 兄さんの話だと、流れ星を見てから何日間か山で捜索をしていましたから」
「そうだよ。それに映る幼い頃の宏斗さんが可愛くて。当時の宏斗さんの姿を頼りに探して、彼と出会ったの。もちろん、今の宏斗さんも素敵だよ」
「なるほど。では、20年も探し続けていたんですね」
「……いやぁ、そうじゃないんだよなぁ」

 さっきまでのドヤ顔が嘘だったかのように、エリカさんは苦笑いをしている。20年間眠り続けていたことは言い辛いか。

「エリカ様は20年間宇宙船の中で眠り続けていたのです。寝具が気持ち良すぎて」
「……な、なるほど。スケールの大きい睡眠でしたね」
「私も気持ち分かる! おふとんが気持ちいいとついついたくさん眠っちゃうよね」
「そうだよね! 美夢ちゃんいい子!」

 感激したのか、エリカさんは美夢と固く握手を交わしている。そんな2人のことを有希は苦笑いをして見ていた。
 改めて考えてみると20年って長いよなぁ。当時は母親のお腹の中にいた美夢が、ここまで大学2年生までに成長するんだから。美夢は……エリカさん以上の大きなものを持っているんだな。20年はデカい。

「だから、先輩の持っているダイマフォンは20年以上前に作られたものだったんですね」
「そうだね。そうか、愛実ちゃんにはエリカさんが20年眠り続けていたことを話していなかったのか」
「ちょっと待ってください。では、20年間眠り続けたということは、エリカさんって今はおいくつなんですか? とても綺麗な方なので」
「110歳だよ」
「えええっ!」

 有希がここまで驚くのは久しぶりに見たな。地球人の女性で110歳といったら世界でも有数の長寿だし、みんなおばあさんになっているもんな。

「でも、地球人とは違って、平均で600歳まで生きて、長ければ800歳以上生きる人もいるんだよ。子供だって400歳くらいまで生むことができるし。ダイマ星人の場合、50歳から成人扱いだから、地球人だと20代半ばくらいじゃないかな」
「ちなみに、私は115歳です。なので、生まれてからずっと王女であるエリカ様の面倒を見てきました」
「……世の中には美しい100歳越えの人がいるんですね」
「そうだね。リサちゃんは特に可愛いよね」

 よしよし、と美夢がリサさんの頭を撫でている。そのことにリサさんも嬉しそうな笑みを浮かべている。確かに可愛らしい。

「ただ、ダイマ星人の平均年齢600歳で、エリカさんは110歳ですか。仮に兄さんと結婚したら、兄さんが亡くなってからの時間が400年は続くことになりますが、それでもエリカさんは大丈夫なのですか?」
「そうだね……」

 有希の鋭い指摘に、エリカさんの表情が曇る。
 日本人男性の平均寿命はおよそ80歳。もし結婚したとしても、俺とエリカさんが一緒にいられるのは数十年ほど。俺が亡くなってからの時間の方がよっぽど長いのだ。

「確かに、お互いに平均寿命通りに生きたらそうなるね。宏斗さんが亡くなってからのことを考えたら、正直心苦しくなるよ。私の人生の中で宏斗さんと一緒にいられる時間は短いけれど、一目惚れした宏斗さんと一緒にいたいって強く思うよ。それに、宏斗さんと一緒にいる思い出と、彼への愛情は一生ものだからね」
「……そうですか。それを聞いて安心しました」

 有希は落ち着いた笑みを浮かべる。
 何だか、今のエリカさんの言葉を聞いて気持ちが凄く温かくなったな。こういった性格も考えて、ルーシーさんはエリカさんに地球へ行くことを命じたのかも。

「でも、宏斗さんが死ぬのは悲しいよ。宏斗さん、できるだけ長く生きてね」
「私もお兄ちゃんが死ぬことを考えたら悲しくなってきちゃった。お兄ちゃん、長生きしてね」
「……頑張るよ」

 エリカさんと美夢、今にも泣きそうになっている。エリカさんは俺のことをぎゅっと抱きしめているし。
 あと、長生きしてほしいって言われると、急におじいさんになった気分になる。そんなことを考えながら、麦茶をすするのであった。
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