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第10話『お風呂』

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 途中から水や麦茶を飲んだことで、食事が終わったときには酔いも覚め始めていた。
 しかし、エリカさんはアルコール度数が低いお酒ばかり呑んでいたけれど、たくさん呑んでいたので、食後にはソファーの上で仰向けになっていた。

「エリカさん。お水置いておきますね。少し酔いを覚ましてからお風呂に入りましょう」
「は~い」

 エリカさんは柔らかな笑みを浮かべながら、俺に小さく手を振っている。ダイマ王星にいる頃もこのくらい呑んでいたのかな。
 エリカさんが酔いを覚ましている間に俺は夕食の後片付けをする。エリカさんの呑んだお酒の缶も洗うけれど……数本呑んでいたか。もしかしたら、酔った影響で明日の起床はかなり遅い時間になるかもしれないな。あと、明日の朝食用に炊飯の準備もした。
 それらを終わらせて再びエリカさんのところに戻ると、エリカさんはソファーに座ってウトウトしていた。ちなみに、さっき渡した水は全部飲んでいた。

「エリカさん。眠いのであれば、今日はもう寝ますか? お風呂はいつでも入っていいですから」
「……一緒に入る。宏斗さんのくれたお水飲んで酔いも少し覚めたもん」

 エリカさん、再び頬を膨らませている。どうやら、絶対に俺と一緒に入浴したいようだ。

「分かりました。一緒に入りましょうか。ただ、今の眠たそうなエリカさんでは不安なので、台所でいいですから顔を洗ってください。そうすれば、少しは眠気が飛ぶでしょう」
「はーい」

 すると、エリカさんはソファーからすっと立ち上がり、台所へ行って顔を洗う。酔っ払うと我が儘になりやすいけれど、俺の言うことも聞いてくれるので良かったよ。

「宏斗さん、何だかスッキリしたよ! これで一緒にお風呂に入れるね!」
「さっきよりはシャキッとしていますね。では、寝間着や下着を持って洗面所に行きましょう」
「うん!」

 ただ、酔いは残っているので、浴室にいるときはしっかりと見守っていなければ。
 俺は寝室から下着と寝間着を持って、洗面所へと向かう。まさか、この家で女性と一緒にお風呂に入ることになるとは。しかも、その女性が異星人の女王様だなんて。

「お待たせ、宏斗さん。さっそく服を脱ごうか」

 そう言うと、エリカさんは俺の着ている服を脱がそうとする。

「ちょっと待ってください。どうして俺の服を脱がそうとするんですか?」
「好きな人の服って剥ぎ取る……脱がせてあげたくなっちゃうじゃない」
「本音が聞こえたような気がしますが……今回は自分の服は自分で脱ぎましょう。それでお願いします」
「宏斗さんがそう言うなら」

 良かった、エリカさんが納得してくれて。さすがに大人になってまで誰かに服を脱がせてもらうのはさすがに恥ずかしい。
 エリカさんに背を向けた状態で俺は服を脱いでいく。そんな中、たまに背中に毛のようなものが当たるけれど、それは彼女のしっぽなのかな。……そういえば、しっぽってどう洗えばいいんだろう。毛で覆われているしシャンプーかな。
 あれ、背中に毛が当たるだけじゃなくて、空気の動きも感じるな。

「あぁ、宏斗さんの匂いはいいなぁ。直接嗅ぐのが一番いいね」

 振り返ると、すぐ目の前に既に服や下着を脱ぎ、タオルを持ったエリカさんがいた。

「何をやっているんですか」
「だって、宏斗さんの匂いが好きなんだもん」
「はいはい、そうですか。さあ、入りますよ」
「はーい」

 妹達と負けず劣らずの綺麗な肌だな。110年生きてきた人とは思えないくらいだ。ただ、あまり見てしまわないように気を付けよう。今のエリカさんを見ると、さすがにドキドキしてくる。
 俺はエリカさんと一緒に浴室へと入る。一人だと広く感じるけれど、エリカさんと一緒だと少し狭く感じるな。
 エリカさんの希望で、お互いの髪を洗うことになった。
 まずは俺がエリカさんの髪を洗う。あと、しっぽもシャンプーで洗うのかどうか訊いてみると、俺の予想とは違ってしっぽはボディーソープで洗うとのこと。
 エリカさんの髪は地球人と変わらないな。あと、耳は前に触られるとくすぐったいと言っていたので、そこについて優しく洗うことに。

「エリカさん、どうですか?」
「うん、気持ちいいよぉ。こうしてもらっていると小さい頃、リサやお姉ちゃん達と一緒にお風呂に入ったことを思い出すよ」
「そうですか。エリカさんの住む王宮には、こういった浴槽付きのお風呂はあるんですか?」
「うん、あるよ」
「そうですか。俺も美夢や有希が小さい頃は一緒にお風呂に入ってました」
「そうなんだ。じゃあ、2人の髪も洗ってあげていたの? 凄く上手だから慣れているのかなって」
「正解です。特に上の妹が俺に甘えてきて。一時期は毎日髪を洗わないと泣かれてしまうほどで」
「きっと、宏斗さんの洗い方がとても良かったんだねぇ。妹さんがそうなる気持ち、ちょっと分かるかも。凄く気持ちいいもん。あぁ。眠くなってきた」

 ふああっ、とエリカさんは大きくあくびをした。こういうところは美夢にそっくりだな。
 鏡越しでエリカさんのことを見ると、彼女はとても満足そうな表情を浮かべている。毎日は勘弁してほしいけど、たまにならエリカさんの髪を洗ってもいいかな。

「泡を落とすので目を瞑ってくださいね」
「はーい」

 シャワーを使って、エリカさんの髪からシャンプーの泡を落としていく。本当に綺麗な茶髪だなと思う。
 エリカさんの髪を洗った後、彼女は自分で体を洗った。なるべく見ないようにしたけれど、しっぽを洗うところだけはしっかりと見た。さすがに自分で触っているときは、くすぐったそうにしていたり、体の力が抜けたりしている様子は見られなかった。何だか、今までに見たことのない場面を見ると、冷静になってこれまで抱いていたドキドキが薄れるな。
 エリカさんが体を洗い終わると、俺とポジションチェンジ。いよいよ、エリカさんに髪を洗ってもらうときがやってきた。期待半分、不安半分だな。

「さあ、宏斗さん。はりきって洗っちゃうよ!」
「力を込めて俺の頭蓋骨を割ったり、脳を潰したりしないでくださいね」
「そんなことしないって」

 そう言って、エリカさんはパンパンと肩を叩く。それがとても痛い。今のことで不安しかなくなってしまった。酔っ払って力の加減があまりできないのかな。
 そんなことを考える中、エリカさんは俺の髪を洗い始める。力が強くて首が動いてしまうな。美夢や有希が小さい頃、俺の髪を一生懸命洗ってくれたことを思い出す。きっと、今のエリカさんも同じなのだろう。

「宏斗さん。気持ちいいですかぁ?」
「悪くはないですけど、もう少し優しく洗ってくれると嬉しいですね」
「はぁい、分かりました」

 力を弱めてくれたこともあって、首も安定し、気持ち良く感じられる。背中に何か柔らかいものが当たっているけれど……気にしない方がいいだろう。まだお酒が残っているせいか、段々眠くなってきたな。

「ほらほら、眠っちゃダメですよ」
「あっ、すみません」
「ふふっ。あと、目を瞑った宏斗さんの顔は可愛いね」

 気付かない間にウトウトしてしまったか。あと、エリカさんに眠ってはダメだと注意されると複雑な気持ちを抱いてしまうのは何故なのか。

「はい、シャワーで泡を落とすから目を閉じて。でも、眠っちゃダメですよ」
「……気を付けます」

 エリカさんにシャワーで泡を落としてもらう。あぁ、このお湯の温かさがとても心地いい。さっきよりも強い眠気が襲ってきたけど、ここで眠ったら窒息死する。
 何とか堪えて泡を落としてもらった後は、自分で体を洗う。その間、湯船に入ったエリカさんにずっと見つめられていた。なので、なるべく大事なところは彼女に見られないように心がけた。
 体を洗い終わって、俺はエリカさんの入っている湯船に浸かることに。
 俺一人だとゆったりできるけれど、エリカさんと二人だとギリギリだな。脚が当たってしまう。そのことでまたドキドキしてきた。肩まで浸かっているエリカさんがとても艶やかに見える。

「気持ちいいね、宏斗さん」
「ええ、そうですね。すみません、こんな広さの浴槽で。きっと、エリカさんのお屋敷のお風呂よりも狭いでしょう」
「そうだね。でも、宏斗さんと一緒に入るなら、このくらいの広さがちょうどいいかも」
「……そうですか」

 良かった、エリカさんが気に入ってくれて。
 ただ、エリカさんのお屋敷にあるお風呂がどれだけ広いのか興味があるな。ホテルの大浴場くらいの広さがあったりして。
 
「あぁ、眠くなってきた。ねえ、宏斗さん。今夜も一緒に寝てもいい? 昨日はとても気持ち良く眠れたし、起きたときに宏斗さんの姿があったのがとても幸せだったから」
「……いいですよ。じゃあ、お風呂から出たらすぐに寝ましょうか」
「うん!」

 この調子で、毎日エリカさんと一緒に寝る未来が見える。少なくとも、リサさんがやってくるまでは。寝相も酷くないしいいか。
 ただ、お風呂は……刺激が強いのでしばらくは控えた方がいいかな。


 お風呂から出た後は歯を磨いて、エリカさんと一緒に俺の寝室に向かう。早くも俺のベッドにエリカさんが横になっている光景が自然に思えてきた。

「今日は楽しい一日になったよ。ありがとう、宏斗さん」
「それは良かったです。明日も日曜日で仕事はお休みですから、一緒にゆっくりと過ごしましょう」
「うん。じゃあ、おやすみなさい」
「おやすみなさい」

 エリカさんは俺の頬にキスをして目を瞑ると、すぐに寝息を立て始めた。これもお酒の酔いの影響なのかな。
 俺も酒の酔いが残っているからか、ベッドに入ったら一段と眠くなってきた。エリカさんの温もりと匂いを強く感じながら眠りにつくのであった。
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