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特別編-小さな晩夏-
第24話『晩夏の朝』
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8月31日、土曜日。
ゆっくりと目を覚ますと……やっぱり、元の体に戻っていなかった。渚が持ってきたワンピース型の寝間着がきつくなっていない。
夜中に湊先生からメールやメッセージが来ているかもしれないと思い、スマートフォンを確認してみたけど、全くそういった連絡はないか。まだ、森さんは……会うか会わないかまだ決断できていないということかな。
今日で8月も終わる。曜日の関係で夏休みは明日までだけれど。
個人的な希望としては、日下さんと森さんが再会して和解し、俺の体も元に戻って穏やかに夏が終われば一番いいなと思っている。
「みんなもまだ寝てるな……」
彩花は俺の隣でぐっすりと寝ていて、渚と咲は昨日のことがあったからか、お互いに背を向けて眠っている。
部屋の中の時計を見ると今は午前7時過ぎか。ということは、8時間くらい寝たことになるか。
「直人先輩……おはようございます」
「おはよう、彩花。……起こしちゃったかな?」
「いえ、自然と目が覚めました。さすがに……まだ元の体には戻りませんね」
「日下さんや水代さんに、目的が果たせるまではこの姿のままでいいって言ったからな。まあ、そういう俺も目が覚めたときに体がどうなっているか確認したけど」
「ふふっ、そうですか」
そう言うと、彩花は俺のことを抱き寄せて目覚めのキスをしてくる。体は小さくても、彩花の温もりを唇から感じることができると安心する。
「……今日で小さな直人先輩とお別れかもしれないので、ちょっと長めにキスをしちゃいました」
「……そうか」
「そういえば、夜中に湊先生から連絡がありましたか?」
「俺の方は特になかったなぁ」
「そうですか。私の方はどうだろう……」
と、彩花はスマートフォンを確認する。
「……ないですね」
「俺にも彩花にもないってことは、渚や咲に連絡が来ている可能性はなさそうだな。2人にも起きたら訊いてみるか」
「そうしましょう。あっ、今日はお二人が寝ぼけてキスしていませんね。ちょっとつまらないですね」
「……意外と彩花ってSなんだな」
似たような経験を4ヶ月近く前にしているのに。自分が関わっていないと途端にからかいたくなるタイプなのかな?
「あまりそういうことは考えなかったですね。でも、直人先輩に対してはMだと思いますよ」
きゃっ、と彩花は楽しそうに笑っている。本人はMだと主張しているけれど、俺に対してはむしろドSのような気がするんだけど。
「直人先輩はSとMのどちらですか?」
「えぇ……」
どっちだろうな。考えたこともなかったよ。
「ま、真ん中あたり? というか、本音はいじるのも好きじゃなければ、いじられるのも好きじゃないからな……」
ただ、小さくなってからは3人の意見に流され、反論しても却下されると諦めているからそういう意味ではMの気質があるのかな?
「なるほどです。でも、私の印象では先輩は見た目からの印象だとSですけど、実際はMの方だと思っています」
「……彩花が納得しているならそれでいいよ」
というか、夏の終わりの朝に恋人とベッドの上でSMトークをするなんて。しかも、小さくなった状態で。
俺達が目を覚ましてから30分ほど経ったところで、渚と咲が目を覚ましたので2人にも湊先生から連絡があるかどうか確かめてもらったところ、彼女からの連絡がなかった。
「そう簡単には決められないのでしょうかね、やはり」
「そうだな。後は……一晩寝た方がいい判断ができるときもあるし、今日になってから考えているかもしれないな」
昨日の夜の時点で、奥さんには相談しているようだけど。奥さんも日下さんと会うことに賛成だと水代さんは言っていた。
「とりあえず、私達は朝ご飯を食べて湊先生からの連絡待ちですね」
「そうだな」
彩花の作った朝食を食べ、食休みも十分にできた午前9時半頃、
――プルルッ。
俺のスマートフォンが鳴った。確認すると、発信者は『湊麻衣』になっている。
「湊先生からだ」
俺がそう言うと、彩花達は俺の周りに集まる。彼女達に聞こえるようにスピーカーホンにして、湊先生からの電話に出る。
「もしもし、藍沢です。おはようございます」
『おはよう、藍沢君。森先生から連絡来たわよ』
「そうですか! それで森さんは……」
緊張するな。本人から直接言われるわけじゃないのに。
『日下さんと会うって』
湊先生からそう言われた瞬間、思わず大きく息を吐いた。
「そうですか。森さん……日下さんと会う決断をしたんですね」
『ええ。ただし、あたし達が居合わせるという条件付きだけど、大丈夫だよね?』
「もちろんですよ」
彩花達のことを見ると、彼女らは嬉しそうな笑みを浮かべながら頷いた。
『まあ、あたしも行くからその旨を森先生に言ったら、午前11時頃に月原総合病院の前で森先生と待ち合わせをすることになったよ』
「分かりました。11時頃に月原総合病院の前……ですね」
『うん、そうだよ。これで、先生と陽子先輩が和解できるといいわね』
「ええ。そのために俺達も頑張りましょう」
これは俺の勘だけど……俺達は2人のすぐ側で見守っていれば大丈夫な気がする。何かあったらすぐに助けられるようにしておこう。
『じゃあ、また後でね』
「はい、分かりました。失礼します」
こちらの方から通話を切った。
「やりましたね! 先輩!」
「これで一安心だね」
日下さんと森さんが会うことに喜んでいる彩花と渚。それに対して、
「吉岡さんの言うとおり、確かに一安心だけど……何が起こるか分からないよ。そういった経験をしたからかな」
咲は俺のことをチラッと見た。きっと、俺と付き合うことになった直後、俺が体調不良で倒れて、記憶喪失になったことを思い出しているんだろう。
「会わないって言うかもしれないと思っていたから、会うことを決断したことは嬉しいけど……咲の言うように何が起こるか分からない。俺達は2人の近くで見守ることにしよう。それで、何かあったらすぐに助けられるようにしよう」
ただ、平和に和解まで進むと信じたい。
俺達は少しゆっくりして、待ち合わせの時刻である午前11時……月原総合病院で湊先生や森さんと会うために家を出発するのであった。
ゆっくりと目を覚ますと……やっぱり、元の体に戻っていなかった。渚が持ってきたワンピース型の寝間着がきつくなっていない。
夜中に湊先生からメールやメッセージが来ているかもしれないと思い、スマートフォンを確認してみたけど、全くそういった連絡はないか。まだ、森さんは……会うか会わないかまだ決断できていないということかな。
今日で8月も終わる。曜日の関係で夏休みは明日までだけれど。
個人的な希望としては、日下さんと森さんが再会して和解し、俺の体も元に戻って穏やかに夏が終われば一番いいなと思っている。
「みんなもまだ寝てるな……」
彩花は俺の隣でぐっすりと寝ていて、渚と咲は昨日のことがあったからか、お互いに背を向けて眠っている。
部屋の中の時計を見ると今は午前7時過ぎか。ということは、8時間くらい寝たことになるか。
「直人先輩……おはようございます」
「おはよう、彩花。……起こしちゃったかな?」
「いえ、自然と目が覚めました。さすがに……まだ元の体には戻りませんね」
「日下さんや水代さんに、目的が果たせるまではこの姿のままでいいって言ったからな。まあ、そういう俺も目が覚めたときに体がどうなっているか確認したけど」
「ふふっ、そうですか」
そう言うと、彩花は俺のことを抱き寄せて目覚めのキスをしてくる。体は小さくても、彩花の温もりを唇から感じることができると安心する。
「……今日で小さな直人先輩とお別れかもしれないので、ちょっと長めにキスをしちゃいました」
「……そうか」
「そういえば、夜中に湊先生から連絡がありましたか?」
「俺の方は特になかったなぁ」
「そうですか。私の方はどうだろう……」
と、彩花はスマートフォンを確認する。
「……ないですね」
「俺にも彩花にもないってことは、渚や咲に連絡が来ている可能性はなさそうだな。2人にも起きたら訊いてみるか」
「そうしましょう。あっ、今日はお二人が寝ぼけてキスしていませんね。ちょっとつまらないですね」
「……意外と彩花ってSなんだな」
似たような経験を4ヶ月近く前にしているのに。自分が関わっていないと途端にからかいたくなるタイプなのかな?
「あまりそういうことは考えなかったですね。でも、直人先輩に対してはMだと思いますよ」
きゃっ、と彩花は楽しそうに笑っている。本人はMだと主張しているけれど、俺に対してはむしろドSのような気がするんだけど。
「直人先輩はSとMのどちらですか?」
「えぇ……」
どっちだろうな。考えたこともなかったよ。
「ま、真ん中あたり? というか、本音はいじるのも好きじゃなければ、いじられるのも好きじゃないからな……」
ただ、小さくなってからは3人の意見に流され、反論しても却下されると諦めているからそういう意味ではMの気質があるのかな?
「なるほどです。でも、私の印象では先輩は見た目からの印象だとSですけど、実際はMの方だと思っています」
「……彩花が納得しているならそれでいいよ」
というか、夏の終わりの朝に恋人とベッドの上でSMトークをするなんて。しかも、小さくなった状態で。
俺達が目を覚ましてから30分ほど経ったところで、渚と咲が目を覚ましたので2人にも湊先生から連絡があるかどうか確かめてもらったところ、彼女からの連絡がなかった。
「そう簡単には決められないのでしょうかね、やはり」
「そうだな。後は……一晩寝た方がいい判断ができるときもあるし、今日になってから考えているかもしれないな」
昨日の夜の時点で、奥さんには相談しているようだけど。奥さんも日下さんと会うことに賛成だと水代さんは言っていた。
「とりあえず、私達は朝ご飯を食べて湊先生からの連絡待ちですね」
「そうだな」
彩花の作った朝食を食べ、食休みも十分にできた午前9時半頃、
――プルルッ。
俺のスマートフォンが鳴った。確認すると、発信者は『湊麻衣』になっている。
「湊先生からだ」
俺がそう言うと、彩花達は俺の周りに集まる。彼女達に聞こえるようにスピーカーホンにして、湊先生からの電話に出る。
「もしもし、藍沢です。おはようございます」
『おはよう、藍沢君。森先生から連絡来たわよ』
「そうですか! それで森さんは……」
緊張するな。本人から直接言われるわけじゃないのに。
『日下さんと会うって』
湊先生からそう言われた瞬間、思わず大きく息を吐いた。
「そうですか。森さん……日下さんと会う決断をしたんですね」
『ええ。ただし、あたし達が居合わせるという条件付きだけど、大丈夫だよね?』
「もちろんですよ」
彩花達のことを見ると、彼女らは嬉しそうな笑みを浮かべながら頷いた。
『まあ、あたしも行くからその旨を森先生に言ったら、午前11時頃に月原総合病院の前で森先生と待ち合わせをすることになったよ』
「分かりました。11時頃に月原総合病院の前……ですね」
『うん、そうだよ。これで、先生と陽子先輩が和解できるといいわね』
「ええ。そのために俺達も頑張りましょう」
これは俺の勘だけど……俺達は2人のすぐ側で見守っていれば大丈夫な気がする。何かあったらすぐに助けられるようにしておこう。
『じゃあ、また後でね』
「はい、分かりました。失礼します」
こちらの方から通話を切った。
「やりましたね! 先輩!」
「これで一安心だね」
日下さんと森さんが会うことに喜んでいる彩花と渚。それに対して、
「吉岡さんの言うとおり、確かに一安心だけど……何が起こるか分からないよ。そういった経験をしたからかな」
咲は俺のことをチラッと見た。きっと、俺と付き合うことになった直後、俺が体調不良で倒れて、記憶喪失になったことを思い出しているんだろう。
「会わないって言うかもしれないと思っていたから、会うことを決断したことは嬉しいけど……咲の言うように何が起こるか分からない。俺達は2人の近くで見守ることにしよう。それで、何かあったらすぐに助けられるようにしよう」
ただ、平和に和解まで進むと信じたい。
俺達は少しゆっくりして、待ち合わせの時刻である午前11時……月原総合病院で湊先生や森さんと会うために家を出発するのであった。
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