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特別編-入れ替わりの夏-
第33話『シスター』
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今後どうするべきか考えを纏めた俺達は、相良さんと話した方がいいという結論になり、海を後にした。
着替えが終わり、俺のスマートフォンを使って、先ほど相良さんからもらった名刺に書いてある番号に電話をかけてみる。番号を見ると携帯電話の番号だとは思うけど。
『はい、相良です』
「藍沢です」
『藍沢様ですか。お世話になっております。私の携帯電話の番号にかけてくるということは、何かあったのでしょうか』
名刺に書いてある電話番号は、やっぱり相良さんの携帯電話の番号だったのか。業務用の電話かもしれないけど。
「あの後、4人に相良さんが教えてくださったこと話しました。俺達6人で今後どうすべきか考えを纏めたので、それを相良さんにお伝えしたいのです」
『そうですか。こちらは特に外せない用事というのはないので、藍沢様達さえよければ今すぐにでもそちらに向かいますが』
「分かりました。この後すぐにお話ししましょう。場所はどこにしましょうか。今、俺達は更衣室の前にいるんですけど」
『更衣室の前にいるのであれば、お昼に藍沢様と坂井様にお話ししたときと同じく、ロビーでお話しするのはどうでしょうか』
「分かりました。では、ロビーに向かいますのでまた後ほどよろしくお願いします」
『宜しくお願いいたします。私もすぐに向かいます』
相良さんの方から通話を切った。
「この後すぐ、ロビーで相良さんと話すことになりました。なので、今からロビーに行きましょう」
俺達はすぐに更衣室前からロビーへと直行する。
チェックインが始まってからある程度時間が経ったからか、ロビーにはあまり人がおらずゆったりとした雰囲気だ。相良さんの姿は……まだないか。
「とりあえず、そこのソファーに座りましょうか」
俺達6人が近くのソファーに座ろうとしたとき、
「お待たせしました」
相良さんが急いだ様子で俺達の所にやってきた。顔が汗ばんでいるし、ちょっと息苦しそうなので走ってここまできたのかな。彼女はソファーに腰を下ろすとふぅ、と大きく息を吐いた。
「大丈夫ですか、相良さん」
「ちょっと走っただけなので大丈夫ですよ、藍沢様。さっそくですが、皆様のご意見を聞かせていただけますか」
「分かりました」
俺達は相良さんに、さっき浜辺で纏めた考えを話す。
「……なるほど。氷高さんからの脅迫に対抗するのですか」
「対抗するというよりも、脅迫を無くすことをきっかけに、水代さんの自殺に関わる全てのことに決着を付けるということです」
「藍沢さん達と話して、相良さんが一番恐れていることは……水代さんのご家族に何らかのご迷惑がかかってしまうことだと考えています。特に、水代さんが亡くなった後に生まれた妹さんに辛い想いをさせたくないと考えているのでは」
坂井さんがそう言うと相良さんは口元では笑っているものの俯いている。そうなったタイミングは「妹さん」という言葉を坂井さんが口にしたときだ。
「……その通りです。先ほど、藍沢様と原田様にはホテルの経営危機、円加のご家族へのバッシングが心配だと言いました。確かにそれもありますが、何よりも心配なのは円加の妹の晴実ちゃんのことです」
「やっぱり、そうですか」
「晴実ちゃんが高校に入学してからも会ったことがあります。彼女……円加以上に大人しい子で。姉である円加のことは……いじめや自殺という内容ですから、晴実ちゃんが小学校高学年になってから話したそうです。しかし、そのときは号泣して……自分は円加の代わりでしかないのか、と叫んだと」
そういえば、昼過ぎに相良さんから聞いた話では……水代さんの御両親は気持ちをようやく立て直したとき、もう一度子供を育てたいと考えた。子供を作り、水代さんが亡くなっておよそ2年後に妹の晴実さんが生まれた。そのことを本人が聞いたら、お姉さんの代わりでしかないと考えてしまっても仕方ないか。
「その話を聞いたとき、とても心が痛みました。ですが、円加の御両親からも、晴実ちゃん本人からも私を非難するような言葉を言われたことはありません。本心は分かりませんが、私が記憶している限りでは、晴実ちゃんは円加によく似た優しい女の子です」
相良さんがそう言うってことは、晴実さんを見れば、自殺したお姉さんの人柄がおおよそ分かるということかな。
「つまり、昔……晴実さんがお姉さんのことを話して号泣したからこそ、氷高さんにお姉さんの自殺について公表されたくない、ということですか。再び、晴実さんが深い悲しみに包まれてしまうかもしれないから」
絢さんがそう言うと、相良さんはゆっくりと頷いた。
「ええ。御両親は私が円加の自殺に関わっていたことについては伏せていますが、インターネット上にある情報を見ていたら既に気付いているでしょう。それでも、氷高さんが円加の自殺の真実を世間に公表し、その内容を知ることで晴実ちゃんがショックを受けてしまわないかどうか心配なんです。氷高さんのことですから、自分の思惑通りに動かなかった私への報復として事実を歪曲して世間に公表する可能性もあります」
「……時として事実ではないことを加えたり、悪く脚色したりして、それが真実であると世間に公表されるときがありますからね」
2年前、唯が亡くなった事件について……警察が転落死という事故という公式見解を示した。それなのに、唯が亡くなる直前に俺と会って告白したところを目撃した人物がいたことで、彼女は俺のせいで自殺したとを複数のメディアが報じたからな。相良さんはそれと同じようなことを恐れているのかもしれない。
「直人先輩、もしかして……」
「……ああ。でも、大丈夫だよ。あのことがあったから、相良さんの気持ちも分かるんだ……」
顔に出ちゃっていたのかな。唯の亡くなった事件について知っている彩花は俺の考えていることに気付いたか。
「直人さん、あのことというのは?」
気になったのか、遥香さんが反応を示した。
「そういえば、遥香さんと2人きりでいるときにも話してなかったですね。簡単に言うと、2年前に俺の幼なじみの女の子が、岬から転落死したんです。ただ、その直前に俺に告白して振られたんです。それを見ていた同級生がいたので、一時期、彼女は俺のせいで自殺したんだと報道されるようになって。そのことで、俺もいじめを受けていて。事件が起こってから2年以上経った今年の春にようやく事実が明らかになったんです」
事実が明らかになってからも、気持ちの整理をするまでには随分と時間が掛かってしまったけれど。記憶を失ったり、精神的に崩れてしまったり。ただ、彩花達が側にいてくれたから、こうして立ち直ることができたんだ。
「直人さんはそんな辛い経験をしたんですね」
「なるほど、それが午前中に彩花ちゃんが言っていた、直人さんにあったことだったんですね」
彩花は絢さん達に唯の事件の詳細までは話していなかったのか。
「自殺と転落死では違うところもありますが、人の死に悲しむことやそこから立ち直ることは経験しています。俺は彩花をはじめとする多くの方が周りにいたからこそ、今、こうして彩花と一緒に旅行を楽しむほどになれました。多分、20年前の事件に決着を付けることに必要なのは、晴実さんやあなたを支える人達なんじゃないでしょうか」
もしかしたら、それを水代さんは分かっていて、自殺をしてから20年以上経った今になってようやく、2人を支えることができると思える人を見つけられたかもしれない。だからこそ、彩花と遥香さんの体を入れ替えた。
「……私は分かるような気がします。直人さんと同じようなことを経験しましたから。幸い、自殺をしようとした女の子は1年ほど眠って、今は元気に暮らしていますが」
絢さんはちょっと切なそうな笑みを浮かべながらそう言った。絢さんも俺と同じような経験をしていたのか。
まさか、水代さんは俺達の過去を知った上で2人の入れ替わりを起こしたのかな。それは分からないけど、
「俺達6人に相良さんと晴実さんと……水代さんを支えさせていただけませんか」
それが今の俺達の総意だ。3人のことを支え、氷高さんとの決着を付ける。それをした上で2人の体を元に戻す。
相良さんは目に涙を浮かべながら微笑んでいた。
「……お気持ちありがとうございます。皆様も氷高さんも……このホテルに滞在するのはあと2日間になります。その間に何ができるのかを、私の方も考えていきたいと思います。もしかしたら、皆様にご協力していただくことがあるかもしれません。その時は宜しくお願いします」
相良さんはそう言うと、ゆっくりと立ち上がって深く頭を下げた。
俺達も……これから具体的にどう行動すればいいか考えていかないと。氷高さんと決着を付け、同時に3人を救うのが目標だから。
着替えが終わり、俺のスマートフォンを使って、先ほど相良さんからもらった名刺に書いてある番号に電話をかけてみる。番号を見ると携帯電話の番号だとは思うけど。
『はい、相良です』
「藍沢です」
『藍沢様ですか。お世話になっております。私の携帯電話の番号にかけてくるということは、何かあったのでしょうか』
名刺に書いてある電話番号は、やっぱり相良さんの携帯電話の番号だったのか。業務用の電話かもしれないけど。
「あの後、4人に相良さんが教えてくださったこと話しました。俺達6人で今後どうすべきか考えを纏めたので、それを相良さんにお伝えしたいのです」
『そうですか。こちらは特に外せない用事というのはないので、藍沢様達さえよければ今すぐにでもそちらに向かいますが』
「分かりました。この後すぐにお話ししましょう。場所はどこにしましょうか。今、俺達は更衣室の前にいるんですけど」
『更衣室の前にいるのであれば、お昼に藍沢様と坂井様にお話ししたときと同じく、ロビーでお話しするのはどうでしょうか』
「分かりました。では、ロビーに向かいますのでまた後ほどよろしくお願いします」
『宜しくお願いいたします。私もすぐに向かいます』
相良さんの方から通話を切った。
「この後すぐ、ロビーで相良さんと話すことになりました。なので、今からロビーに行きましょう」
俺達はすぐに更衣室前からロビーへと直行する。
チェックインが始まってからある程度時間が経ったからか、ロビーにはあまり人がおらずゆったりとした雰囲気だ。相良さんの姿は……まだないか。
「とりあえず、そこのソファーに座りましょうか」
俺達6人が近くのソファーに座ろうとしたとき、
「お待たせしました」
相良さんが急いだ様子で俺達の所にやってきた。顔が汗ばんでいるし、ちょっと息苦しそうなので走ってここまできたのかな。彼女はソファーに腰を下ろすとふぅ、と大きく息を吐いた。
「大丈夫ですか、相良さん」
「ちょっと走っただけなので大丈夫ですよ、藍沢様。さっそくですが、皆様のご意見を聞かせていただけますか」
「分かりました」
俺達は相良さんに、さっき浜辺で纏めた考えを話す。
「……なるほど。氷高さんからの脅迫に対抗するのですか」
「対抗するというよりも、脅迫を無くすことをきっかけに、水代さんの自殺に関わる全てのことに決着を付けるということです」
「藍沢さん達と話して、相良さんが一番恐れていることは……水代さんのご家族に何らかのご迷惑がかかってしまうことだと考えています。特に、水代さんが亡くなった後に生まれた妹さんに辛い想いをさせたくないと考えているのでは」
坂井さんがそう言うと相良さんは口元では笑っているものの俯いている。そうなったタイミングは「妹さん」という言葉を坂井さんが口にしたときだ。
「……その通りです。先ほど、藍沢様と原田様にはホテルの経営危機、円加のご家族へのバッシングが心配だと言いました。確かにそれもありますが、何よりも心配なのは円加の妹の晴実ちゃんのことです」
「やっぱり、そうですか」
「晴実ちゃんが高校に入学してからも会ったことがあります。彼女……円加以上に大人しい子で。姉である円加のことは……いじめや自殺という内容ですから、晴実ちゃんが小学校高学年になってから話したそうです。しかし、そのときは号泣して……自分は円加の代わりでしかないのか、と叫んだと」
そういえば、昼過ぎに相良さんから聞いた話では……水代さんの御両親は気持ちをようやく立て直したとき、もう一度子供を育てたいと考えた。子供を作り、水代さんが亡くなっておよそ2年後に妹の晴実さんが生まれた。そのことを本人が聞いたら、お姉さんの代わりでしかないと考えてしまっても仕方ないか。
「その話を聞いたとき、とても心が痛みました。ですが、円加の御両親からも、晴実ちゃん本人からも私を非難するような言葉を言われたことはありません。本心は分かりませんが、私が記憶している限りでは、晴実ちゃんは円加によく似た優しい女の子です」
相良さんがそう言うってことは、晴実さんを見れば、自殺したお姉さんの人柄がおおよそ分かるということかな。
「つまり、昔……晴実さんがお姉さんのことを話して号泣したからこそ、氷高さんにお姉さんの自殺について公表されたくない、ということですか。再び、晴実さんが深い悲しみに包まれてしまうかもしれないから」
絢さんがそう言うと、相良さんはゆっくりと頷いた。
「ええ。御両親は私が円加の自殺に関わっていたことについては伏せていますが、インターネット上にある情報を見ていたら既に気付いているでしょう。それでも、氷高さんが円加の自殺の真実を世間に公表し、その内容を知ることで晴実ちゃんがショックを受けてしまわないかどうか心配なんです。氷高さんのことですから、自分の思惑通りに動かなかった私への報復として事実を歪曲して世間に公表する可能性もあります」
「……時として事実ではないことを加えたり、悪く脚色したりして、それが真実であると世間に公表されるときがありますからね」
2年前、唯が亡くなった事件について……警察が転落死という事故という公式見解を示した。それなのに、唯が亡くなる直前に俺と会って告白したところを目撃した人物がいたことで、彼女は俺のせいで自殺したとを複数のメディアが報じたからな。相良さんはそれと同じようなことを恐れているのかもしれない。
「直人先輩、もしかして……」
「……ああ。でも、大丈夫だよ。あのことがあったから、相良さんの気持ちも分かるんだ……」
顔に出ちゃっていたのかな。唯の亡くなった事件について知っている彩花は俺の考えていることに気付いたか。
「直人さん、あのことというのは?」
気になったのか、遥香さんが反応を示した。
「そういえば、遥香さんと2人きりでいるときにも話してなかったですね。簡単に言うと、2年前に俺の幼なじみの女の子が、岬から転落死したんです。ただ、その直前に俺に告白して振られたんです。それを見ていた同級生がいたので、一時期、彼女は俺のせいで自殺したんだと報道されるようになって。そのことで、俺もいじめを受けていて。事件が起こってから2年以上経った今年の春にようやく事実が明らかになったんです」
事実が明らかになってからも、気持ちの整理をするまでには随分と時間が掛かってしまったけれど。記憶を失ったり、精神的に崩れてしまったり。ただ、彩花達が側にいてくれたから、こうして立ち直ることができたんだ。
「直人さんはそんな辛い経験をしたんですね」
「なるほど、それが午前中に彩花ちゃんが言っていた、直人さんにあったことだったんですね」
彩花は絢さん達に唯の事件の詳細までは話していなかったのか。
「自殺と転落死では違うところもありますが、人の死に悲しむことやそこから立ち直ることは経験しています。俺は彩花をはじめとする多くの方が周りにいたからこそ、今、こうして彩花と一緒に旅行を楽しむほどになれました。多分、20年前の事件に決着を付けることに必要なのは、晴実さんやあなたを支える人達なんじゃないでしょうか」
もしかしたら、それを水代さんは分かっていて、自殺をしてから20年以上経った今になってようやく、2人を支えることができると思える人を見つけられたかもしれない。だからこそ、彩花と遥香さんの体を入れ替えた。
「……私は分かるような気がします。直人さんと同じようなことを経験しましたから。幸い、自殺をしようとした女の子は1年ほど眠って、今は元気に暮らしていますが」
絢さんはちょっと切なそうな笑みを浮かべながらそう言った。絢さんも俺と同じような経験をしていたのか。
まさか、水代さんは俺達の過去を知った上で2人の入れ替わりを起こしたのかな。それは分からないけど、
「俺達6人に相良さんと晴実さんと……水代さんを支えさせていただけませんか」
それが今の俺達の総意だ。3人のことを支え、氷高さんとの決着を付ける。それをした上で2人の体を元に戻す。
相良さんは目に涙を浮かべながら微笑んでいた。
「……お気持ちありがとうございます。皆様も氷高さんも……このホテルに滞在するのはあと2日間になります。その間に何ができるのかを、私の方も考えていきたいと思います。もしかしたら、皆様にご協力していただくことがあるかもしれません。その時は宜しくお願いします」
相良さんはそう言うと、ゆっくりと立ち上がって深く頭を下げた。
俺達も……これから具体的にどう行動すればいいか考えていかないと。氷高さんと決着を付け、同時に3人を救うのが目標だから。
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