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特別編
『今生の覚悟-前編-』
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特別編
8月11日、日曜日。
彩花と付き合うことになった俺は、彼女と共に送る生活が再び始まる。
しかし、以前、一時的にでも咲と付き合ったことで、彩花の荷物の多くは彼女の実家にある状態だ。その量はかなり多いので、俺も一緒に荷物を運ぶことにした。
今は彩花と一緒に彼女の実家へと向かっているところだ。事前に、彩花がめぐみさんに僕と一緒に荷物を取りに行くと連絡を入れてある。
「ごめんなさい、直人先輩。色々とあったばかりなのに……」
「気にしなくていいよ。それに、彩花のご家族に、彩花と付き合う彼氏として一度、ちゃんと挨拶しておかないと」
「……そうですよね。直人先輩、私の彼氏……なんですよね。私、直人先輩の彼女なんですよね……」
えへへっ、と彩花は嬉しそうに笑っている。
彩花の母親であるめぐみさんと、彩花のお姉さんである茜さんとは以前にお会いしたことがあるけど、父親だけは会ったことがない。今日は日曜日だし、おそらく彩花の父親と会えるだろう。そう思うと緊張してきた。
ちなみに、彩花と付き合うことになったと俺の実家に連絡をしたら、父さんが、
『おっ、直人がついに男になったか! 孫のためにもますます元気でいないとな!』
と、想像よりも斜め上の返答がきた。孫ができるのは当分先の話だろうし、父さんの場合は現状維持で十分だと思う。ますます元気になられたらやっかいだ。
「俺の家の方は大丈夫だったけれど、彩花の家の方は大丈夫かな。何せ、これまでかなり迷惑を掛けちゃったし……」
「記憶を失ったこととか、気持ちが安定しなかったことも直人先輩が悪いわけではありませんから大丈夫ですよ。それに、お父さんに対しても、お母さんとお姉ちゃんと私の3人で直人先輩はいい方だとずっと言っていますので」
「……それは本当に有り難いです」
「それに、一度は私が直人先輩と過ごすことを許してくれたんですよ。しっかりと話せば、付き合うことだってきっと許してくれると思います」
「……そういう場面になったら、男としてきちんと気持ちを伝えるよ。それで、彩花のお父さんに納得してもらおう」
「ふふっ、頼りにしていますよ、先輩」
誰と付き合うかを真剣に考えた上で彩花と付き合うことに決めたんだ。彩花への想いをきちんと伝えれば、きっと許可を出してくれるはずだ。もし、駄目だと言われたら、いいと言われるまで粘り強くお願いするだけ。
「もうすぐで到着しますよ」
「ああ」
もうすぐ、と言われると緊張感が増してくるな。敷居を跨がせないと言われたらどうしようか。熱いアスファルトの上で土下座も覚悟しておかないと。
「そんなに緊張する必要はないと思いますよ」
「そうかもしれないけど、付き合うことになった彼女の父親と話すとなると緊張するんだよ……」
「もう、直人先輩ったら。普段はクールなのに」
彩花は可愛らしい笑顔を見せながらそう言う。普段がクールかどうかなんて、今は関係ないと思うけど。
やがて、白い外観の一軒家が見えてくる。まさか、あそこが彩花の実家だったりして。
「あそこが私の実家です」
と、彩花は白い外観の一軒家に指さした。立派な実家だなぁ。
実家ということもあってか、彩花はインターホンを押すことなく門をくぐって、何の躊躇いもなく玄関の扉を開けた。
「ただいま。直人先輩も連れてきたよ」
彩花は落ち着いた口調でそう言った。
「お、お邪魔します……」
すると、リビングから白いワイシャツを着たメガネの男性がこちらに向かってやってくる。この方が彩花のお父さんなのかな?
「……君が藍沢直人君かな?」
「は、はい。初めまして、藍沢直人といいます」
「そうか。初めまして、俺は宮原浩樹。彩花の父親だ」
「そうですか。彩花さんにはいつもお世話になっております」
「こちらこそ。春に彩花のことを助けていただき、本当にありがとう。礼を言うのが遅れてしまって申し訳ない」
「いえ、そんな……自分の方こそ、これまで彩花さんには色々とご迷惑を掛けてしまって」
「……そうだったな」
浩樹さん、物凄く俺のことを睨んできているぞ。春に彩花を不良から助けたことがあるとはいえ、その後に彩花にかなり迷惑を掛けてしまったし、咲と付き合っていた時期もあったからそれで怒っているのかもしれない。
「あ、あの! 浩樹さん!」
こうなったら、この場でしっかりと、浩樹さんに僕の彩花に対する気持ちを伝えておかないと。
そんな感じで気持ちを固めている間に、いつの間にかめぐみさんと茜さんの姿も。彩花の家族全員の前で伝えよう!
「既にご存知かもしれませんが、俺は彩花さんと付き合うことに決めました。これまで、彩花さんには色々と迷惑を掛けて、心配させてしまうこともありましたが、彩花さんと付き合っていくことを許していただけないでしょうか。お願いします!」
緊張してしまったけど、気持ちをどうにか言葉にして頭を下げる。
「……顔を上げなさい、藍沢君」
浩樹さんにそう言われたので、俺はゆっくりと顔を上げると、
――ドスッ。
そんな鈍い音と同時に、俺の左頬に激しい痛みが。そして、俺はその場で倒れてしまうのであった。
8月11日、日曜日。
彩花と付き合うことになった俺は、彼女と共に送る生活が再び始まる。
しかし、以前、一時的にでも咲と付き合ったことで、彩花の荷物の多くは彼女の実家にある状態だ。その量はかなり多いので、俺も一緒に荷物を運ぶことにした。
今は彩花と一緒に彼女の実家へと向かっているところだ。事前に、彩花がめぐみさんに僕と一緒に荷物を取りに行くと連絡を入れてある。
「ごめんなさい、直人先輩。色々とあったばかりなのに……」
「気にしなくていいよ。それに、彩花のご家族に、彩花と付き合う彼氏として一度、ちゃんと挨拶しておかないと」
「……そうですよね。直人先輩、私の彼氏……なんですよね。私、直人先輩の彼女なんですよね……」
えへへっ、と彩花は嬉しそうに笑っている。
彩花の母親であるめぐみさんと、彩花のお姉さんである茜さんとは以前にお会いしたことがあるけど、父親だけは会ったことがない。今日は日曜日だし、おそらく彩花の父親と会えるだろう。そう思うと緊張してきた。
ちなみに、彩花と付き合うことになったと俺の実家に連絡をしたら、父さんが、
『おっ、直人がついに男になったか! 孫のためにもますます元気でいないとな!』
と、想像よりも斜め上の返答がきた。孫ができるのは当分先の話だろうし、父さんの場合は現状維持で十分だと思う。ますます元気になられたらやっかいだ。
「俺の家の方は大丈夫だったけれど、彩花の家の方は大丈夫かな。何せ、これまでかなり迷惑を掛けちゃったし……」
「記憶を失ったこととか、気持ちが安定しなかったことも直人先輩が悪いわけではありませんから大丈夫ですよ。それに、お父さんに対しても、お母さんとお姉ちゃんと私の3人で直人先輩はいい方だとずっと言っていますので」
「……それは本当に有り難いです」
「それに、一度は私が直人先輩と過ごすことを許してくれたんですよ。しっかりと話せば、付き合うことだってきっと許してくれると思います」
「……そういう場面になったら、男としてきちんと気持ちを伝えるよ。それで、彩花のお父さんに納得してもらおう」
「ふふっ、頼りにしていますよ、先輩」
誰と付き合うかを真剣に考えた上で彩花と付き合うことに決めたんだ。彩花への想いをきちんと伝えれば、きっと許可を出してくれるはずだ。もし、駄目だと言われたら、いいと言われるまで粘り強くお願いするだけ。
「もうすぐで到着しますよ」
「ああ」
もうすぐ、と言われると緊張感が増してくるな。敷居を跨がせないと言われたらどうしようか。熱いアスファルトの上で土下座も覚悟しておかないと。
「そんなに緊張する必要はないと思いますよ」
「そうかもしれないけど、付き合うことになった彼女の父親と話すとなると緊張するんだよ……」
「もう、直人先輩ったら。普段はクールなのに」
彩花は可愛らしい笑顔を見せながらそう言う。普段がクールかどうかなんて、今は関係ないと思うけど。
やがて、白い外観の一軒家が見えてくる。まさか、あそこが彩花の実家だったりして。
「あそこが私の実家です」
と、彩花は白い外観の一軒家に指さした。立派な実家だなぁ。
実家ということもあってか、彩花はインターホンを押すことなく門をくぐって、何の躊躇いもなく玄関の扉を開けた。
「ただいま。直人先輩も連れてきたよ」
彩花は落ち着いた口調でそう言った。
「お、お邪魔します……」
すると、リビングから白いワイシャツを着たメガネの男性がこちらに向かってやってくる。この方が彩花のお父さんなのかな?
「……君が藍沢直人君かな?」
「は、はい。初めまして、藍沢直人といいます」
「そうか。初めまして、俺は宮原浩樹。彩花の父親だ」
「そうですか。彩花さんにはいつもお世話になっております」
「こちらこそ。春に彩花のことを助けていただき、本当にありがとう。礼を言うのが遅れてしまって申し訳ない」
「いえ、そんな……自分の方こそ、これまで彩花さんには色々とご迷惑を掛けてしまって」
「……そうだったな」
浩樹さん、物凄く俺のことを睨んできているぞ。春に彩花を不良から助けたことがあるとはいえ、その後に彩花にかなり迷惑を掛けてしまったし、咲と付き合っていた時期もあったからそれで怒っているのかもしれない。
「あ、あの! 浩樹さん!」
こうなったら、この場でしっかりと、浩樹さんに僕の彩花に対する気持ちを伝えておかないと。
そんな感じで気持ちを固めている間に、いつの間にかめぐみさんと茜さんの姿も。彩花の家族全員の前で伝えよう!
「既にご存知かもしれませんが、俺は彩花さんと付き合うことに決めました。これまで、彩花さんには色々と迷惑を掛けて、心配させてしまうこともありましたが、彩花さんと付き合っていくことを許していただけないでしょうか。お願いします!」
緊張してしまったけど、気持ちをどうにか言葉にして頭を下げる。
「……顔を上げなさい、藍沢君」
浩樹さんにそう言われたので、俺はゆっくりと顔を上げると、
――ドスッ。
そんな鈍い音と同時に、俺の左頬に激しい痛みが。そして、俺はその場で倒れてしまうのであった。
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