175 / 302
最終章
第45話『再決戦-3rd Quarter-』
しおりを挟む
第2クォーター。月原高校とは8点のリードを許してしまった。
第1クォーターから何か変化があると思ったけど、まさかあの1年生コンビを中心に攻撃を仕掛けてくるなんて。しかも、予選のときと比べて精度も上がっている。特にすずちゃんと呼ばれている子は、予選では見られなかった攻撃的な動きを見せている。
てっきり、第1クォーターと同じように桐明さん中心に攻めるか、吉岡さんがもっと攻撃の中心になると思ったのに。あれはきっと、ポイントガードとしてチームをまとめてきているんだわ。
「向こうも変化を付けてきたんだわ」
うちはあたし中心で動いてきたプレースタイルから、チームで動くことを基本にしたプレースタイルに変えてきた。そのおかげで、第1クォーターではリードできたけど、第2クォーターでは見事に月原の変化にやられてしまった。第1クォーターよりもボールが向こうに渡っていた。
けれど、得点できた点数は第1クォーターよりも2点少ないだけ。つまり、安定して点数を重ねていけていることも事実。防御をしっかりしていきながら、これまでと同じスタイルで行くか、それとも大きく変えてみるか迷いどころだ。
「咲、私から提案があるんだけれど」
「何でしょうか、部長」
「……第3クォーターは予選のときのように、あなた中心のプレーでいきたいと考えているんだけど、どうかしら」
「予選のときと同じように、ですか……」
つまり、自然とあたしにボールが集まってきて、あたしがガンガン攻撃していくスタイル。第2クォーターまでのプレーとの変化をつけるにはそれが一番いいかもしれない。
「けれど、それは月原高校も想定していることじゃないでしょうか」
「もちろん、あなた1人で攻めてとは言っていないわ。でも、あなた中心で攻めていきたいと考えているの。それはチームのみんながあなたを信頼しているからできることよ」
部長の言っていることが本当なのかを確認する意味で、参加メンバーの顔を見ていくとみんな笑顔で頷いてくれる。その笑みは気遣いや嘘でない。本物の笑みだ。
「もちろん、あなたがダメだと思ったら、遠慮なくみんなにパスを出して。私達はそのつもりで咲をサポートしていく。これも、うちらしいチームプレーなんじゃないかしら?」
……なるほど。
以前なら、どうしてもあたしにボールが集まりがちになってしまったプレーも、今なら立派なチームプレーの1つ。あたしを信頼してくれるからこそ、あたしにボールが集まってくる。それは一見同じに見えるかもしれないけど、きっと前とは違ってくると思う。その違いが出せるかどうかで、第3クォーターで月原高校との差を縮め、逆転できるかどうかが決まってくる。
「分かりました。じゃあ、みんな……お願いします」
「大丈夫だよ、私達に任せろ」
「咲先輩のことを私達が全力でサポートしますから!」
以前と同じようなプレーをしていこうとしているのに、何だか安心感がある。それもみんながあたしを信頼してくれているからかな。
そうしているうちに、ハーフタイムも残り僅かに。
あたし達は円陣を組んで、
「第3クォーターでは絶対に月原を逆転しよう!」
『おー!』
目標を定めて、気持ちを一つにする。
みんなの力で、次の第3クォーターで月原高校を逆転していく。
「間もなく第3クォーターを始めます! 出場する選手のみなさんはコートに入ってきてください!」
あたし達はコートに入り、それぞれのポジションにつく。
月原高校の選手達は1人変わっただけで、吉岡さん、桐明さん、すずちゃん、部長と呼ばれていた選手も残ったままか。これなら行けそうな気がする。
「広瀬さん。そう簡単に逆転はさせないよ」
「……それはどうだろうね?」
吉岡さんが笑って話しかけてきたから、こっちも笑って言い返してやった。
そして、第3クォーターが始まる。
「さあ、みんなで逆転しに行くよ!」
『おー!』
このクォーターもみんなで攻めるんだ!
ハーフタイムで決めた作戦をさっそく決行する。うちのボールになったとき、あたしにパスされるのが基本的な流れだ。
「……おっと」
ゴールに向かってドリブルすると、さっそく吉岡さんに阻まれる。
「簡単には通させないよ。特に広瀬さんは」
「……それは光栄だね。でも、今日のあたし達を観れば、あたしがどんな風にしていくか分かるでしょ?」
わたしはゴール側にいる部長の方に視線を向け、
「あたしがガンガン得点しに行くことをね!」
吉岡さんがパスブロックをする姿勢に入ろうとしたところを見計らって、再びドリブルをして彼女を切り抜ける。そのまま得点を決めることができた。
「……まだまだだな、私も。この前の決勝点と同じパターンだったのに」
吉岡さん、笑みは見せているけど、結構ショックかもね。まあ、それならそれでいいんだけれど。
「あたしはね、信頼しているの。金崎の仲間も、自分の力も。だから、何度でも同じプレーをやって、得点を決めてみせる」
実際には今、吉岡さんに言われて初めて思い出したんだけどね。今のプレーが予選の最後にあたしが決めたプレーと同じ流れだったことを。
「咲、やったね!」
「ありがとうございます。でも、これからですよ、部長」
「このまま咲中心でガンガン攻めていきましょう」
「ええ。でも、相手は月原です。さっきは敢えて部長にパスを回さずに、そのままゴールに行きましたけど、これからは時々、部長達にパスを回していくことが増えると思います。そうすることで、月原にあたし達の行動を予測しにくくできるんじゃないかと」
「……なるほどね、分かったわ」
あたしと部長は小声で話し合った。基本的にはハーフタイムのところでみんなに話したことと変わりはないので、おそらく対応はできると思う。
その後もあたし中心の攻撃は上手く展開されていく。仲間に程良くパスしていくことで、月原の選手を惑わせながら。順調に点数を重ねる。おまけに、月原の選手は第1クォーターから出続けている選手が4人もいる。ハーフタイムもあったけど、疲れが目立ち始めていて、こちらがボールを奪えるシーンも何度かあった。
こちらにいい流れがきたところで、第3クォーターが終了。
月原 56 – 60 金崎
3点のロングシュートも決めることができ、見事にこの第3クォーターで月原高校を逆転することに成功した。月原との差は4点だけれど、この差を埋められないように頑張っていかないと。
「作戦、上手くいったわね、咲」
「はい。何とか逆転できましたね」
「でも、差は4点。逆転される可能性は十分にある。最終クォーターも気を抜かずにいかないと」
「そうですね」
残るは最終クォーターのみ。月原に勝たずして優勝なしだと思っていたこのインターハイも、あと1クォーターで決着がつく。
杏子、楓、美緒、美月ちゃん、そして……直人。あなた達の前で優勝を掴み取ってみせる。
第1クォーターから何か変化があると思ったけど、まさかあの1年生コンビを中心に攻撃を仕掛けてくるなんて。しかも、予選のときと比べて精度も上がっている。特にすずちゃんと呼ばれている子は、予選では見られなかった攻撃的な動きを見せている。
てっきり、第1クォーターと同じように桐明さん中心に攻めるか、吉岡さんがもっと攻撃の中心になると思ったのに。あれはきっと、ポイントガードとしてチームをまとめてきているんだわ。
「向こうも変化を付けてきたんだわ」
うちはあたし中心で動いてきたプレースタイルから、チームで動くことを基本にしたプレースタイルに変えてきた。そのおかげで、第1クォーターではリードできたけど、第2クォーターでは見事に月原の変化にやられてしまった。第1クォーターよりもボールが向こうに渡っていた。
けれど、得点できた点数は第1クォーターよりも2点少ないだけ。つまり、安定して点数を重ねていけていることも事実。防御をしっかりしていきながら、これまでと同じスタイルで行くか、それとも大きく変えてみるか迷いどころだ。
「咲、私から提案があるんだけれど」
「何でしょうか、部長」
「……第3クォーターは予選のときのように、あなた中心のプレーでいきたいと考えているんだけど、どうかしら」
「予選のときと同じように、ですか……」
つまり、自然とあたしにボールが集まってきて、あたしがガンガン攻撃していくスタイル。第2クォーターまでのプレーとの変化をつけるにはそれが一番いいかもしれない。
「けれど、それは月原高校も想定していることじゃないでしょうか」
「もちろん、あなた1人で攻めてとは言っていないわ。でも、あなた中心で攻めていきたいと考えているの。それはチームのみんながあなたを信頼しているからできることよ」
部長の言っていることが本当なのかを確認する意味で、参加メンバーの顔を見ていくとみんな笑顔で頷いてくれる。その笑みは気遣いや嘘でない。本物の笑みだ。
「もちろん、あなたがダメだと思ったら、遠慮なくみんなにパスを出して。私達はそのつもりで咲をサポートしていく。これも、うちらしいチームプレーなんじゃないかしら?」
……なるほど。
以前なら、どうしてもあたしにボールが集まりがちになってしまったプレーも、今なら立派なチームプレーの1つ。あたしを信頼してくれるからこそ、あたしにボールが集まってくる。それは一見同じに見えるかもしれないけど、きっと前とは違ってくると思う。その違いが出せるかどうかで、第3クォーターで月原高校との差を縮め、逆転できるかどうかが決まってくる。
「分かりました。じゃあ、みんな……お願いします」
「大丈夫だよ、私達に任せろ」
「咲先輩のことを私達が全力でサポートしますから!」
以前と同じようなプレーをしていこうとしているのに、何だか安心感がある。それもみんながあたしを信頼してくれているからかな。
そうしているうちに、ハーフタイムも残り僅かに。
あたし達は円陣を組んで、
「第3クォーターでは絶対に月原を逆転しよう!」
『おー!』
目標を定めて、気持ちを一つにする。
みんなの力で、次の第3クォーターで月原高校を逆転していく。
「間もなく第3クォーターを始めます! 出場する選手のみなさんはコートに入ってきてください!」
あたし達はコートに入り、それぞれのポジションにつく。
月原高校の選手達は1人変わっただけで、吉岡さん、桐明さん、すずちゃん、部長と呼ばれていた選手も残ったままか。これなら行けそうな気がする。
「広瀬さん。そう簡単に逆転はさせないよ」
「……それはどうだろうね?」
吉岡さんが笑って話しかけてきたから、こっちも笑って言い返してやった。
そして、第3クォーターが始まる。
「さあ、みんなで逆転しに行くよ!」
『おー!』
このクォーターもみんなで攻めるんだ!
ハーフタイムで決めた作戦をさっそく決行する。うちのボールになったとき、あたしにパスされるのが基本的な流れだ。
「……おっと」
ゴールに向かってドリブルすると、さっそく吉岡さんに阻まれる。
「簡単には通させないよ。特に広瀬さんは」
「……それは光栄だね。でも、今日のあたし達を観れば、あたしがどんな風にしていくか分かるでしょ?」
わたしはゴール側にいる部長の方に視線を向け、
「あたしがガンガン得点しに行くことをね!」
吉岡さんがパスブロックをする姿勢に入ろうとしたところを見計らって、再びドリブルをして彼女を切り抜ける。そのまま得点を決めることができた。
「……まだまだだな、私も。この前の決勝点と同じパターンだったのに」
吉岡さん、笑みは見せているけど、結構ショックかもね。まあ、それならそれでいいんだけれど。
「あたしはね、信頼しているの。金崎の仲間も、自分の力も。だから、何度でも同じプレーをやって、得点を決めてみせる」
実際には今、吉岡さんに言われて初めて思い出したんだけどね。今のプレーが予選の最後にあたしが決めたプレーと同じ流れだったことを。
「咲、やったね!」
「ありがとうございます。でも、これからですよ、部長」
「このまま咲中心でガンガン攻めていきましょう」
「ええ。でも、相手は月原です。さっきは敢えて部長にパスを回さずに、そのままゴールに行きましたけど、これからは時々、部長達にパスを回していくことが増えると思います。そうすることで、月原にあたし達の行動を予測しにくくできるんじゃないかと」
「……なるほどね、分かったわ」
あたしと部長は小声で話し合った。基本的にはハーフタイムのところでみんなに話したことと変わりはないので、おそらく対応はできると思う。
その後もあたし中心の攻撃は上手く展開されていく。仲間に程良くパスしていくことで、月原の選手を惑わせながら。順調に点数を重ねる。おまけに、月原の選手は第1クォーターから出続けている選手が4人もいる。ハーフタイムもあったけど、疲れが目立ち始めていて、こちらがボールを奪えるシーンも何度かあった。
こちらにいい流れがきたところで、第3クォーターが終了。
月原 56 – 60 金崎
3点のロングシュートも決めることができ、見事にこの第3クォーターで月原高校を逆転することに成功した。月原との差は4点だけれど、この差を埋められないように頑張っていかないと。
「作戦、上手くいったわね、咲」
「はい。何とか逆転できましたね」
「でも、差は4点。逆転される可能性は十分にある。最終クォーターも気を抜かずにいかないと」
「そうですね」
残るは最終クォーターのみ。月原に勝たずして優勝なしだと思っていたこのインターハイも、あと1クォーターで決着がつく。
杏子、楓、美緒、美月ちゃん、そして……直人。あなた達の前で優勝を掴み取ってみせる。
0
お気に入りに追加
23
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
【完結】俺のセフレが幼なじみなんですが?
おもち
恋愛
アプリで知り合った女の子。初対面の彼女は予想より断然可愛かった。事前に取り決めていたとおり、2人は恋愛NGの都合の良い関係(セフレ)になる。何回か関係を続け、ある日、彼女の家まで送ると……、その家は、見覚えのある家だった。
『え、ここ、幼馴染の家なんだけど……?』
※他サイトでも投稿しています。2サイト計60万PV作品です。
社長の奴隷
星野しずく
恋愛
セクシー系の商品を販売するネットショップを経営する若手イケメン社長、茂手木寛成のもとで、大のイケメン好き藤巻美緒は仕事と称して、毎日エッチな人体実験をされていた。そんな二人だけの空間にある日、こちらもイケメン大学生である信楽誠之助がアルバイトとして入社する。ただでさえ異常な空間だった社内は、信楽が入ったことでさらに混乱を極めていくことに・・・。(途中、ごくごく軽いBL要素が入ります。念のため)
女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。
矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。
女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。
取って付けたようなバレンタインネタあり。
カクヨムでも同内容で公開しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる