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最終章
第16話『追いかけたいもの』
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「いやぁ、気付いたら飛ばしちゃってたよ」
渚ちゃんは快活な笑顔を浮かべながらそう言った。首筋を流れる汗をスポーツタオルで拭き取る姿はかっこいいな。
「インターハイのことだったり、直人先輩のことだったり……焦る気持ちは分かりますが、飛ばしすぎたら体調を崩すだけですよ?」
「やっぱり、そう見えちゃうんだね。自分ではただ一生懸命にやっているだけなんだけど。心のどこかで焦ってるのかな……」
インターハイでよりよい結果を出したいために、今までよりも練習量を増やしてしまいがちになるんだと思う。渚ちゃんは地区大会の決勝戦で、咲ちゃん率いる金崎高校に負けた経験がある。その試合によって、なおくんは咲ちゃんの彼氏になった。もっと練習していればという後悔があったのかも。
「いや、焦ってるな」
そう言うと、渚ちゃんは水筒を手にとってゴクゴクと飲んだ。
「あの日、最終戦で金崎高校に負けて、直人がどこか遠くに行っちゃった気がしてさ。インターハイでも、どこかで負けたら直人は私の手の届かないところに離れて行っちゃう気がするの。直人を元気にするには、優勝するしかない。そんな想いが日に日に増しているんだ……」
その言葉で渚ちゃんの複雑な心境をひしひしと伝わってくる。
けれど、最終戦で戦い抜いた末に負けてしまった瞬間をコートの上で味わった渚ちゃんには私より深く、言葉では表しきれない気持ちが今でも居座っているんだと思う。
「直人のことを追いかけたい気持ちでいっぱい。直人の手を掴みたくて……」
「渚先輩の気持ちは分かります。ただ、直人先輩に向かって走り続けていても、体力には限界があります。無理は禁物です」
「うん。私も直人のことばかり考えちゃって、周りのことが見えなくなるときがある。だから、彩花ちゃん達がいてくれて本当に良かったと思っているよ。本当にありがとう」
渚ちゃんは爽やかな笑みを見せて、彩花ちゃんの頭を優しく撫でる。すると、怒り気味な彩花ちゃんの表情が柔らかくなった。
「渚さんは周りのことをちゃんを見ていると思いますよ。だって、色々な人に対してアドバイスをしたり、励ましたりして。エースってこういう人のことを言うんだなって。本当に渚さんはかっこいいです!」
「……美月ちゃんがそう言ってくれると、気持ちが軽くなるよ」
私も美月ちゃんの言うことに同感。渚ちゃんは自分が言うほど、周りのことを見ていない女の子じゃないと思う。むしろ、自分よりもチーム全体のことを考えていて、チームプレーを第一にしているのが分かる。
「コート上ではあたしやすずちゃん達が支えますから」
「そうです。みんな、吉岡先輩について行くつもりで練習しているんです。それに、チームで試合をするのですから、先輩が1人で抱え込まずに、みんなで一緒に戦っていけばいいんだと思います」
「……私も彩花ちゃんと一緒に女バスのみなさんを支え、戦っていくつもりです。みんなで優勝を目指して、藍沢先輩に少しでも元気になってもらえるように頑張りましょう」
香奈ちゃん、すずちゃん、真由ちゃんの笑顔から発せられる温かな言葉は、渚ちゃんが信頼されている何よりの証拠。月原高校の女バスが、どうしてチーム感が溢れているのかがやっと分かった気がする。
「私は人に恵まれているな。だから、私ももっと――」
「渚先輩」
「わ、分かってるって。ちゃんと休むときには休むし、体調管理はしっかりするようにするから」
「心がけてくださいね。こんなにもたくさん、渚先輩を支えてくれている人がいるんですから。たまには私に甘えてくれていいので」
「じゃあ、彩花ちゃんに膝枕してもらおうっと」
横座りしている彩花ちゃんの太腿の上に、渚ちゃんは頭を乗せる。
「あぁ、気持ちいい」
「甘えてくれていいとは言いましたけど、そういう甘え方ではないんですけどね……」
と言いながらも、彩花ちゃんは自分の脚の上に頭を乗せて、横になっている渚ちゃんの頭を優しく撫でている。嬉しそうだ。
「そういえば、椎名さんと美月ちゃん、直人のお見舞いに行ってきたんだよね。直人の様子はどうだった?」
「カステラを持っていったら美味しそうに食べてたよ。まあ、実際には私が食べさせてあげたんだけれどね」
「う、羨ましい……」
彩花ちゃんのそんな呟きが聞こえる。
「あいつ、カステラが大好きだからね。1年生のときに、女バスの活動がない日に一緒に下校したとき、喫茶店に行ったことがあって。そのとき、直人はコーヒーと一緒にカステラを頼んでた。カステラを食べているときの直人は、凄く幸せそうだった。普段はクールなのに、こんな表情を見せるんだなって」
「それが、渚先輩が藍沢先輩を好きになった瞬間ですか?」
「それよりも前から好きになっていたよ、香奈ちゃん! あのときは、その……直人のことがより好きになっただけ!」
「そんなこと言って、凄く顔が赤くなってますよ」
「これは体育館が暑いだけっ! 先輩のことをからかうのはやめなさーい!」
「吉岡先輩可愛いです」
「す、すずちゃんまで……」
恥ずかしくなったのか、顔が真っ赤な渚ちゃんは彩花ちゃんの胸の中に顔を埋める。渚ちゃんって、けっこう女の子らしいところもあるんだなぁ。
「……いいなぁ」
彩花ちゃんはそう言って、少し頬を膨らませた。きっと、嫉妬しているんだと思う。私も同じだよ。高校に入学してからの私の知らないなおくんの側に、こんなにも魅力的な女の子と一緒にいたんだから。
彩花ちゃんや渚ちゃんはなおくんが元気になるために頑張っている。私もなおくんのことを笑顔にしたいし、追いかけたい。なおくんが決断するその瞬間まで、なおくんのことをずっと。
渚ちゃんは快活な笑顔を浮かべながらそう言った。首筋を流れる汗をスポーツタオルで拭き取る姿はかっこいいな。
「インターハイのことだったり、直人先輩のことだったり……焦る気持ちは分かりますが、飛ばしすぎたら体調を崩すだけですよ?」
「やっぱり、そう見えちゃうんだね。自分ではただ一生懸命にやっているだけなんだけど。心のどこかで焦ってるのかな……」
インターハイでよりよい結果を出したいために、今までよりも練習量を増やしてしまいがちになるんだと思う。渚ちゃんは地区大会の決勝戦で、咲ちゃん率いる金崎高校に負けた経験がある。その試合によって、なおくんは咲ちゃんの彼氏になった。もっと練習していればという後悔があったのかも。
「いや、焦ってるな」
そう言うと、渚ちゃんは水筒を手にとってゴクゴクと飲んだ。
「あの日、最終戦で金崎高校に負けて、直人がどこか遠くに行っちゃった気がしてさ。インターハイでも、どこかで負けたら直人は私の手の届かないところに離れて行っちゃう気がするの。直人を元気にするには、優勝するしかない。そんな想いが日に日に増しているんだ……」
その言葉で渚ちゃんの複雑な心境をひしひしと伝わってくる。
けれど、最終戦で戦い抜いた末に負けてしまった瞬間をコートの上で味わった渚ちゃんには私より深く、言葉では表しきれない気持ちが今でも居座っているんだと思う。
「直人のことを追いかけたい気持ちでいっぱい。直人の手を掴みたくて……」
「渚先輩の気持ちは分かります。ただ、直人先輩に向かって走り続けていても、体力には限界があります。無理は禁物です」
「うん。私も直人のことばかり考えちゃって、周りのことが見えなくなるときがある。だから、彩花ちゃん達がいてくれて本当に良かったと思っているよ。本当にありがとう」
渚ちゃんは爽やかな笑みを見せて、彩花ちゃんの頭を優しく撫でる。すると、怒り気味な彩花ちゃんの表情が柔らかくなった。
「渚さんは周りのことをちゃんを見ていると思いますよ。だって、色々な人に対してアドバイスをしたり、励ましたりして。エースってこういう人のことを言うんだなって。本当に渚さんはかっこいいです!」
「……美月ちゃんがそう言ってくれると、気持ちが軽くなるよ」
私も美月ちゃんの言うことに同感。渚ちゃんは自分が言うほど、周りのことを見ていない女の子じゃないと思う。むしろ、自分よりもチーム全体のことを考えていて、チームプレーを第一にしているのが分かる。
「コート上ではあたしやすずちゃん達が支えますから」
「そうです。みんな、吉岡先輩について行くつもりで練習しているんです。それに、チームで試合をするのですから、先輩が1人で抱え込まずに、みんなで一緒に戦っていけばいいんだと思います」
「……私も彩花ちゃんと一緒に女バスのみなさんを支え、戦っていくつもりです。みんなで優勝を目指して、藍沢先輩に少しでも元気になってもらえるように頑張りましょう」
香奈ちゃん、すずちゃん、真由ちゃんの笑顔から発せられる温かな言葉は、渚ちゃんが信頼されている何よりの証拠。月原高校の女バスが、どうしてチーム感が溢れているのかがやっと分かった気がする。
「私は人に恵まれているな。だから、私ももっと――」
「渚先輩」
「わ、分かってるって。ちゃんと休むときには休むし、体調管理はしっかりするようにするから」
「心がけてくださいね。こんなにもたくさん、渚先輩を支えてくれている人がいるんですから。たまには私に甘えてくれていいので」
「じゃあ、彩花ちゃんに膝枕してもらおうっと」
横座りしている彩花ちゃんの太腿の上に、渚ちゃんは頭を乗せる。
「あぁ、気持ちいい」
「甘えてくれていいとは言いましたけど、そういう甘え方ではないんですけどね……」
と言いながらも、彩花ちゃんは自分の脚の上に頭を乗せて、横になっている渚ちゃんの頭を優しく撫でている。嬉しそうだ。
「そういえば、椎名さんと美月ちゃん、直人のお見舞いに行ってきたんだよね。直人の様子はどうだった?」
「カステラを持っていったら美味しそうに食べてたよ。まあ、実際には私が食べさせてあげたんだけれどね」
「う、羨ましい……」
彩花ちゃんのそんな呟きが聞こえる。
「あいつ、カステラが大好きだからね。1年生のときに、女バスの活動がない日に一緒に下校したとき、喫茶店に行ったことがあって。そのとき、直人はコーヒーと一緒にカステラを頼んでた。カステラを食べているときの直人は、凄く幸せそうだった。普段はクールなのに、こんな表情を見せるんだなって」
「それが、渚先輩が藍沢先輩を好きになった瞬間ですか?」
「それよりも前から好きになっていたよ、香奈ちゃん! あのときは、その……直人のことがより好きになっただけ!」
「そんなこと言って、凄く顔が赤くなってますよ」
「これは体育館が暑いだけっ! 先輩のことをからかうのはやめなさーい!」
「吉岡先輩可愛いです」
「す、すずちゃんまで……」
恥ずかしくなったのか、顔が真っ赤な渚ちゃんは彩花ちゃんの胸の中に顔を埋める。渚ちゃんって、けっこう女の子らしいところもあるんだなぁ。
「……いいなぁ」
彩花ちゃんはそう言って、少し頬を膨らませた。きっと、嫉妬しているんだと思う。私も同じだよ。高校に入学してからの私の知らないなおくんの側に、こんなにも魅力的な女の子と一緒にいたんだから。
彩花ちゃんや渚ちゃんはなおくんが元気になるために頑張っている。私もなおくんのことを笑顔にしたいし、追いかけたい。なおくんが決断するその瞬間まで、なおくんのことをずっと。
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