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最終章
第15話『熱気』
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なおくんのお見舞いの後に、月原高校に行って女子バスケットボール部の練習の様子を見ることを考えていた。
容体も落ち着き、みんなと一緒なら外出の許可も出ているので、なおくんに月原高校に行こうと誘ったんだけど、体調が優れないからと丁重に断られてしまった。今はまだ彩花ちゃん達と会いたい気分ではないかもしれないと思ったので、一度断れたら無理に連れ出すようなことはしない。私と美月ちゃんの2人で月原高校に行くことにした。
病院を後にして、私達は月原高校に行く途中のところで、洲崎にもあるファストフード店に入ってお昼ご飯を食べた。同じチェーン店でも、都会のお店の方が美味しいという噂を聞いていたけど、それは嘘だったみたい。洲崎と変わらない美味しさだった。
午後1時半。
私と美月ちゃんは月原高校に到着する。さすがは都会の私立高校だけあって、本当に学校かな、って思ってしまうくらいに立派な佇まい。まだ、校門を入っただけなのに、なおくんの学舎が凄いという感想を抱く。
「ここにお兄ちゃんと彩花さん、渚さんが通っているんだね」
「そう。凄く立派な学校だね」
なおくんは彩花ちゃんや渚ちゃんとここで出会ったんだ。私が洲崎高校に通っているとき、なおくんはこの場所で2人と一緒に過ごしたんだ。
「やっと、今のなおくんに追いつけるような気がする」
「どういうこと?」
「私の中ではどうしても、中学を卒業したときのなおくんで止まっちゃっているんだ。月原に来て、彼の家に住んで、彼の通っている高校に来て、ようやく高校2年生になったなおくんの背中を追いかけることができるような気がして」
ゴールデンウィークの数日間だけでは、まだ昔のなおくんが目の前にいるような感じだったから。
「今のお兄ちゃんをやっと知ることができたって感じ?」
「うん、そんな感じかな」
「そっか。じゃあ、さっそく体育館に行こうよ。彩花さんも待ってくれていることだし」
「そうだね」
彩花ちゃんに連絡して、1時半過ぎに体育館前で会うことになっている。もう約束の時間だから、急がないと。
事前に彩花ちゃんから教えてもらったルートで体育館まで向かう。体育館の入り口には体育気姿の彩花ちゃんが立っていた。私達に気付いたのか、彩花ちゃんは元気よく手を振ってくる。
「椎名さんに美月ちゃん」
「彩花ちゃん、迷わずに来ることができたよ」
「そうですか、良かったです」
「彩花さん、今は女バスの練習中ですか?」
「うん、そうだよ。今はクラスメイトの子がサポートに回ってくれているの」
「そうなんですか。彩花さんも体操着姿ってことは、練習に参加したりするんですか?」
「ううん、制服よりもこの方が動きやすくて涼しいってだけだよ。私は女バスのサポートに徹底してる」
「もう立派なマネージャーじゃないですか! 凄いなぁ」
「あははっ、そうなるかな」
彩花ちゃんは快活に笑った。女バスのマネージャーかぁ。部活をやっていないから、彩花ちゃんのことが眩しいよ。
「じゃあ、そろそろ行きましょうか」
彩花ちゃんの案内で月原高校の体育館の中に入る。
体育館の中は暑くなく、むしろ涼しいくらい。もしかして、空調されているのかな。外のように蒸してもいないし。
「香奈ちゃん、惜しかったね! 次は入れていこう!」
「すずちゃん、ナイスシュート!」
走る音やボールが床に付く音が響く中で、渚ちゃんの声が聞こえる。その言葉は他のメンバーの気持ちを鼓舞させるものばかり。
「インターハイも近くなって、夏休みにもなりましたから、普段以上に渚先輩も気合いが入っていて。また、試合直前に倒れないように私がちゃんとサポートしていかないと」
彩花ちゃんは苦笑いをした。
渚ちゃんは咲ちゃんとの試合の直前に倒れてしまって、なおくんが連日に渡って彼女のことを看病したと楓ちゃんから聞いている。全力を出すためには、ここで体調を崩すわけにはいかないか。
練習の邪魔にならないように、私達はコートの端の方に行く。
声、表情、振動、空気の流れ……色々なところから、女バスの練習の本気度が伝わってくる。インターハイに出場するだけあって、どの部員も動きが凄い。素人でもそれはすぐに分かった。
「みんな、いい調子だよ!」
部員の中でも特に凄かったのはもちろん、渚ちゃん。さすがはエースと呼ばれるだけの存在感があって、彼女を中心にチームがまとまっているのが分かる。
「すずちゃん、この感覚を覚えておいて!」
「香奈ちゃん、今の動き……もっと精度を上げよう!」
エースっていう感じの人がいると、その人ばかりが動いてしまうイメージがあるけど、月原高校は違う。まるでみんながエースのように、色々な動きをしている。特に香奈ちゃん、すずちゃんと呼ばれている女の子は。
「インターハイに出場する部活の練習って凄いね」
「そうだね、美月ちゃん」
みんな、真剣で……全身からたくさんの汗を掻いて。疲れるだろうし、辛いかもしれないけれど……それでも、バスケが楽しいっていう雰囲気が凄く伝わってきて。インターハイに出場するチームであることに納得させられる。
「直人先輩と一緒だから、バスケのサポートをしようって決めたんです。でも、今は……こんなにも一生懸命な人達の助けになりたいと思って。直人先輩がいない今、一ノ瀬真由ちゃんっていうクラスメイトの女の子と一緒に、女バスをサポートしているんです。いえ、私達も女バスの一員として一緒に戦っているつもりです」
ゴールデンウィークに会ったときこんなにも強い女の子だったのかな。そう思ってしまうほど、彩花ちゃんはとても強く頼もしい女の子になったように思える。
「彩花ちゃんと真由ちゃんがサポートしているから、ここにいる女バスのみんなが頑張ることができているんだろうね」
「かもしれないね、美緒ちゃん。彩花さん、とてもかっこいいです!」
「そ、そんなことないよ、美月ちゃん。私はかっこいい女バスのみなさんをサポートしているだけですから」
彩花ちゃんは頬を赤くしてはにかんでいる。私も彩花ちゃんのことかっこいいと思うけれどなぁ。
改めて見てみると、女バスのみんなはとってもかっこいい。特にエースの渚ちゃんは輝いて見える。
「なおくんにみんなの姿を見せたら、きっとなおくんの背中を押すことができそうな気がするんだけれどなぁ」
「私もそう思っています。いつものことを一生懸命やることが大切なんだと思います。浩一さんはそういう意味を込めて、私達に敢えて普段通りの生活を送ってほしいと言ったんじゃないでしょうか」
「そうかもしれないね」
「宮原さん! ちょっといいかな?」
「はい! 今行きます! 顧問の先生に呼ばれたので失礼します」
彩花ちゃんはすっと立ち上がって、顧問の女の先生らしき人のところへ行って何かを話し始めたみたい。
「何かあったのかな。彩花さん、真剣な表情をして……」
「うん……」
私達が来てからの練習の様子は全く変わらずに、充実したものだと思うんだけれど。
彩花ちゃんの近くにいるあの黒髪のロングヘアの女の子が真由ちゃんなのかな。3人で何やら話し込み、そして、
「よし、ここで一休みをしよう! ここまでお疲れ様!」
顧問の先生らしき方がそう言って、休憩に入った。
彩花ちゃんと黒髪の女の子と一緒に部員にタオルや飲み物を渡している。そんな彼女が立派な女バスの一員に見えた。あの2人はサポートではなくて、選手だ。
彩花ちゃんは私達のところに戻ってくると、
「みなさん、段々疲れが目立ってきたので休憩です。特に渚先輩は頑張っていましたからね」
笑顔でさらりと言った。私には全然分からなかったな。さすがは普段から女バスのことを見ているだけある。
渚ちゃんはようやく気付いたのか、私達の方を見ると笑みを浮かべて大きく手を振ってくるのであった。
容体も落ち着き、みんなと一緒なら外出の許可も出ているので、なおくんに月原高校に行こうと誘ったんだけど、体調が優れないからと丁重に断られてしまった。今はまだ彩花ちゃん達と会いたい気分ではないかもしれないと思ったので、一度断れたら無理に連れ出すようなことはしない。私と美月ちゃんの2人で月原高校に行くことにした。
病院を後にして、私達は月原高校に行く途中のところで、洲崎にもあるファストフード店に入ってお昼ご飯を食べた。同じチェーン店でも、都会のお店の方が美味しいという噂を聞いていたけど、それは嘘だったみたい。洲崎と変わらない美味しさだった。
午後1時半。
私と美月ちゃんは月原高校に到着する。さすがは都会の私立高校だけあって、本当に学校かな、って思ってしまうくらいに立派な佇まい。まだ、校門を入っただけなのに、なおくんの学舎が凄いという感想を抱く。
「ここにお兄ちゃんと彩花さん、渚さんが通っているんだね」
「そう。凄く立派な学校だね」
なおくんは彩花ちゃんや渚ちゃんとここで出会ったんだ。私が洲崎高校に通っているとき、なおくんはこの場所で2人と一緒に過ごしたんだ。
「やっと、今のなおくんに追いつけるような気がする」
「どういうこと?」
「私の中ではどうしても、中学を卒業したときのなおくんで止まっちゃっているんだ。月原に来て、彼の家に住んで、彼の通っている高校に来て、ようやく高校2年生になったなおくんの背中を追いかけることができるような気がして」
ゴールデンウィークの数日間だけでは、まだ昔のなおくんが目の前にいるような感じだったから。
「今のお兄ちゃんをやっと知ることができたって感じ?」
「うん、そんな感じかな」
「そっか。じゃあ、さっそく体育館に行こうよ。彩花さんも待ってくれていることだし」
「そうだね」
彩花ちゃんに連絡して、1時半過ぎに体育館前で会うことになっている。もう約束の時間だから、急がないと。
事前に彩花ちゃんから教えてもらったルートで体育館まで向かう。体育館の入り口には体育気姿の彩花ちゃんが立っていた。私達に気付いたのか、彩花ちゃんは元気よく手を振ってくる。
「椎名さんに美月ちゃん」
「彩花ちゃん、迷わずに来ることができたよ」
「そうですか、良かったです」
「彩花さん、今は女バスの練習中ですか?」
「うん、そうだよ。今はクラスメイトの子がサポートに回ってくれているの」
「そうなんですか。彩花さんも体操着姿ってことは、練習に参加したりするんですか?」
「ううん、制服よりもこの方が動きやすくて涼しいってだけだよ。私は女バスのサポートに徹底してる」
「もう立派なマネージャーじゃないですか! 凄いなぁ」
「あははっ、そうなるかな」
彩花ちゃんは快活に笑った。女バスのマネージャーかぁ。部活をやっていないから、彩花ちゃんのことが眩しいよ。
「じゃあ、そろそろ行きましょうか」
彩花ちゃんの案内で月原高校の体育館の中に入る。
体育館の中は暑くなく、むしろ涼しいくらい。もしかして、空調されているのかな。外のように蒸してもいないし。
「香奈ちゃん、惜しかったね! 次は入れていこう!」
「すずちゃん、ナイスシュート!」
走る音やボールが床に付く音が響く中で、渚ちゃんの声が聞こえる。その言葉は他のメンバーの気持ちを鼓舞させるものばかり。
「インターハイも近くなって、夏休みにもなりましたから、普段以上に渚先輩も気合いが入っていて。また、試合直前に倒れないように私がちゃんとサポートしていかないと」
彩花ちゃんは苦笑いをした。
渚ちゃんは咲ちゃんとの試合の直前に倒れてしまって、なおくんが連日に渡って彼女のことを看病したと楓ちゃんから聞いている。全力を出すためには、ここで体調を崩すわけにはいかないか。
練習の邪魔にならないように、私達はコートの端の方に行く。
声、表情、振動、空気の流れ……色々なところから、女バスの練習の本気度が伝わってくる。インターハイに出場するだけあって、どの部員も動きが凄い。素人でもそれはすぐに分かった。
「みんな、いい調子だよ!」
部員の中でも特に凄かったのはもちろん、渚ちゃん。さすがはエースと呼ばれるだけの存在感があって、彼女を中心にチームがまとまっているのが分かる。
「すずちゃん、この感覚を覚えておいて!」
「香奈ちゃん、今の動き……もっと精度を上げよう!」
エースっていう感じの人がいると、その人ばかりが動いてしまうイメージがあるけど、月原高校は違う。まるでみんながエースのように、色々な動きをしている。特に香奈ちゃん、すずちゃんと呼ばれている女の子は。
「インターハイに出場する部活の練習って凄いね」
「そうだね、美月ちゃん」
みんな、真剣で……全身からたくさんの汗を掻いて。疲れるだろうし、辛いかもしれないけれど……それでも、バスケが楽しいっていう雰囲気が凄く伝わってきて。インターハイに出場するチームであることに納得させられる。
「直人先輩と一緒だから、バスケのサポートをしようって決めたんです。でも、今は……こんなにも一生懸命な人達の助けになりたいと思って。直人先輩がいない今、一ノ瀬真由ちゃんっていうクラスメイトの女の子と一緒に、女バスをサポートしているんです。いえ、私達も女バスの一員として一緒に戦っているつもりです」
ゴールデンウィークに会ったときこんなにも強い女の子だったのかな。そう思ってしまうほど、彩花ちゃんはとても強く頼もしい女の子になったように思える。
「彩花ちゃんと真由ちゃんがサポートしているから、ここにいる女バスのみんなが頑張ることができているんだろうね」
「かもしれないね、美緒ちゃん。彩花さん、とてもかっこいいです!」
「そ、そんなことないよ、美月ちゃん。私はかっこいい女バスのみなさんをサポートしているだけですから」
彩花ちゃんは頬を赤くしてはにかんでいる。私も彩花ちゃんのことかっこいいと思うけれどなぁ。
改めて見てみると、女バスのみんなはとってもかっこいい。特にエースの渚ちゃんは輝いて見える。
「なおくんにみんなの姿を見せたら、きっとなおくんの背中を押すことができそうな気がするんだけれどなぁ」
「私もそう思っています。いつものことを一生懸命やることが大切なんだと思います。浩一さんはそういう意味を込めて、私達に敢えて普段通りの生活を送ってほしいと言ったんじゃないでしょうか」
「そうかもしれないね」
「宮原さん! ちょっといいかな?」
「はい! 今行きます! 顧問の先生に呼ばれたので失礼します」
彩花ちゃんはすっと立ち上がって、顧問の女の先生らしき人のところへ行って何かを話し始めたみたい。
「何かあったのかな。彩花さん、真剣な表情をして……」
「うん……」
私達が来てからの練習の様子は全く変わらずに、充実したものだと思うんだけれど。
彩花ちゃんの近くにいるあの黒髪のロングヘアの女の子が真由ちゃんなのかな。3人で何やら話し込み、そして、
「よし、ここで一休みをしよう! ここまでお疲れ様!」
顧問の先生らしき方がそう言って、休憩に入った。
彩花ちゃんと黒髪の女の子と一緒に部員にタオルや飲み物を渡している。そんな彼女が立派な女バスの一員に見えた。あの2人はサポートではなくて、選手だ。
彩花ちゃんは私達のところに戻ってくると、
「みなさん、段々疲れが目立ってきたので休憩です。特に渚先輩は頑張っていましたからね」
笑顔でさらりと言った。私には全然分からなかったな。さすがは普段から女バスのことを見ているだけある。
渚ちゃんはようやく気付いたのか、私達の方を見ると笑みを浮かべて大きく手を振ってくるのであった。
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