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第3章
第25話『決戦-3rd Quarter-』
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強い。月原高校は強い。
桐明さんの素早い攻撃力はさすがで、不利と考えられている小さな体を逆に上手く利用している。
すずちゃんと言われていた黒髪の女の子も上手いと思っていたけど、まさかあそこまで攻撃的な選手に変化するなんて。一昨日の試合ではそうじゃなかったのに。彼女の変貌のおかげでこっちはかなり狂わされたと言っていい。
ただ、何よりも圧倒的なのは吉岡さん。彼女の復活ぶりは凄くて、倒れたことで何か強みを得たんじゃないかと思わせるほど。復活の一言でまとめてしまってはいけないような調子の良さだ。
その結果、第2クォーターまでに13点差を付けられてしまった。
「みんな、ここまでお疲れ様! 第1クォーターよりも点数が入ったね」
私がそう言っても、みんな、気持ちが沈み始めてしまっている。
第1クォーターが終わった直後のインターバル。そこで攻撃を増やすことに決めた。その結果、第1クォーターよりも点数を入れることはできたけど、月原が更に多くの点数を稼いでしまった。
原因はどうしても攻撃になると、あたしを中心にしてしまうこと。そして、攻撃中心にしたことによって生まれる守りの弱さ。
何度も見た攻撃の展開なら、いくらか予測がついてブロックできる。しかし、新しい攻撃スタイルを出してくるので、そのときにはあっけなく点数を取られてしまう。攻撃のバラエティの多さはきっと、月原に負ける。
けれど、ここで終わらないのが金崎なはず。
「……みんな、こっちは追う立場なの。だから、第3クォーターからは総力を挙げて点数を取りに行くわよ」
「でも、それじゃ咲ちゃんが……」
「シュートを放って点数を取るのはみんなだってできるよね。こっちは攻撃になると、あたしを中心にプレーをしていた。だから、月原の選手に予測されやすくなってしまい、ブロックやカウンターされることも結構あった」
そう、あたし中心に攻撃するから、向こうがブロックやカウンターのしやすい状況を多く作り出してしまう。その結果、点差を詰めるどころか広げられてしまった。
「今の状況をひっくり返すには、みんなで攻めて、みんなでシュートを決める。第2クォーターから出てきた黒髪の彼女のプレーを見て、みんな、驚いたでしょ?」
あたしも正直、すずちゃんと言われていたあの女の子には驚かされた。
全員、あたしの言葉に頷いた。そうだよね、みんな……あの子のプレーを見てとまどっていたもんね。
「今度はそれをこっちがやる番だと思う。幸か不幸か、こっちの攻撃はあたし中心だっていう固定概念が根付き始めている。そこを上手く利用するの」
「でも、私……広瀬先輩に攻撃を頼っていて、シュートを決める自信がない……」
実際に自分もシュートを放つとなると、プレッシャーを感じちゃう気持ちは分かる。しかも、こんな大切な試合のリードされている状況で。失敗することが怖くて仕方がないんだと思う。
「失敗するのが怖い気持ちは分かる。でも、シュートをしないと点数は絶対に入らない。きっと、これまでと同じプレーをしていたら、絶対に負ける。勝つためにはみんなのシュートが必要なの。それに、失敗したら、気にせずに次のプレーをすればいいじゃない。そのくらいの気持ちの持ちようでいいと思うの。だって、バスケはみんなでやるスポーツじゃない。誰かが失敗したら、みんなで支えて取り返していけばいいんだから」
月原高校はそれができているから、あんなに強いんだ。こっちだって、月原のようなバスケをしなくちゃいけないんだ。
敵にバスケを教えられるなんて、本当に悔しいわね。でも、この悔しさをばねにして絶対に勝利に結びつけようじゃない。
「あたしは、みんなだったらできると思う。普段の練習を見て、みんなにはその力がもうあるって信じてる。だから、みんなで勝とうよ。この状況から月原に勝ったら、最高にかっこいいって思わない?」
あたしはチームのことを信じている。みんなにはこの状況からでも月原に勝てる力があると信じている。みんなで戦うことの大切さを、この試合で月原に教えられたんだ。
ようやく、あたしの想いが伝わったのか、個々の野心に火が点いたのか、みんなの目が輝き始めた。
「みんなで点を取る。それだけを考えて、ここからはガンガン攻めていこう。そうすれば、きっと月原を逆転できるよ!」
みんなを説得するのに必死だったから、気付けばハーフタイムは終わりに近づいていた。
あたしが右手を出すと、自然とみんなが手を重ねてきた。
「まだ半分あるから。絶対に逆転して勝利しよう!」
『おー!』
よし、これなら絶対に勝てる!
そんな確信を胸にあたし達は第3クォーターに臨む。
月原は相変わらず、吉岡さん、桐明さん、すずちゃんと呼ばれている女の子を中心に多彩な攻撃の仕方で得点を重ねている。
でも、この第3クォーターではこっちだって負けていない。これまでのあたし中心の攻撃から、全員による総攻撃で月原のディフェンスを崩し始める。追いかける展開だから、みんな積極的にシュートを放っている。
ボールを奪ったら基本、ゴールに向かって一直線。場合に応じてシュートの放てそうな選手にパスを出す。そのスタンスでどんどんシュートを放っていくと、段々と月原の差が詰まってきた。
「面白くなってきたね。さすがは金崎」
差が迫ってくる中でも、吉岡さんは爽やかな笑みを浮かべていた。ようやく本気を出してきたと思って楽しくなっているのか。彼女の笑顔の真っ直ぐさはムカつくほどに眩しかった。さすがは月原のエース。
けれど、そんなことに負けていちゃいけない。
「当たり前じゃない。金崎の底力を舐めないでよね」
「そのつもりだよ。実際に点差が縮まっているしね」
「……あなた達のおかげよ、この展開になったのは。勝つ前に礼を言っておくわ」
「相当自信があるみたいだね。でも、こっちだって負けるつもりはないから」
吉岡さんはあたしから離れていく。
こっちだって負けるつもりはない。だから、ここからさらにエンジンをかけていくつもり。
「ここまでいい調子だよ! みんなで守って、みんなで攻めていくよ!」
あたしの言葉にうちのメンバーは笑顔で頷いてくれる。その様子を見て、ようやく本当のチームになれたような気がして嬉しかった。そうしてくれたのは月原だ。だからこそ、絶対に月原に勝ちたい。
そんなあたしの想いがみんなに通じたのか、その後も全員での攻撃が続いた。
第3クォーターが終了した。
月原 61 – 59 金崎
月原にシュート1本分までに点差を縮められた。スリーポイントなら逆転もできる。
これが全員でやるバスケをした成果だ。みんなで攻めたことが功を奏し、月原が一番多く点数を稼いでいた第2クォーターよりも多い。その反面、月原高校はこのクォーターが一番点数を稼げていない。
まだリードされているけど、みんなの表情はとてもいい。
「やっぱり、あたしの信じたとおりだったよ。このまま、最終クォーターも攻め続けて逆転優勝しよう!」
『おー!』
最後のインターバルではみんなにそう声をかけた。
今は女バスだけじゃなくて、金崎高校全員で月原高校と戦っている。個人的には今日、ここに駆けつけてくれたあたしの親友も一緒に。
「……楓」
彼女は金崎高校の生徒と一緒に盛り上がっていた。あたしと目が合うと、嬉しそうに手を振ってくれる。彼女、この3年間で堅さがけっこう取れたわね。中学時代以上にかわいくなってる。
親友の顔を見たら、最終クォーターへの緊張がいくらか和らいだ気がする。
そういえば、昨日の夜に美緒から連絡があったけれど、彼女は両校応援するって言っていたっけ。あっちには直人や吉岡さん、宮原さんっていう知り合いがいるもんね。とても彼女らしいと思う。
「……直人」
彼は宮原さん、一ノ瀬さんと一緒に月原高校の応援席にいた。
宮原さんと一ノ瀬さんは一生懸命応援しているようだけど、直人は何だか複雑そうな表情でコートの方を見ていた。やっぱり、苦しんでいるのかな。こんなことになって。もし、そうだとしたらそれはあたしのせいだ。
「絶対に勝つからね、直人」
試合に勝って、あたしの恋人にして直人を幸せにする。直人と一緒に幸せになる。それがあたしのしたいことだから。待ってて、直人。あなたの苦しみがなくなるようにあたし、頑張るから。
「みんな、行こう!」
勝利を掴むために。あたし達はコートに向かうのであった。
桐明さんの素早い攻撃力はさすがで、不利と考えられている小さな体を逆に上手く利用している。
すずちゃんと言われていた黒髪の女の子も上手いと思っていたけど、まさかあそこまで攻撃的な選手に変化するなんて。一昨日の試合ではそうじゃなかったのに。彼女の変貌のおかげでこっちはかなり狂わされたと言っていい。
ただ、何よりも圧倒的なのは吉岡さん。彼女の復活ぶりは凄くて、倒れたことで何か強みを得たんじゃないかと思わせるほど。復活の一言でまとめてしまってはいけないような調子の良さだ。
その結果、第2クォーターまでに13点差を付けられてしまった。
「みんな、ここまでお疲れ様! 第1クォーターよりも点数が入ったね」
私がそう言っても、みんな、気持ちが沈み始めてしまっている。
第1クォーターが終わった直後のインターバル。そこで攻撃を増やすことに決めた。その結果、第1クォーターよりも点数を入れることはできたけど、月原が更に多くの点数を稼いでしまった。
原因はどうしても攻撃になると、あたしを中心にしてしまうこと。そして、攻撃中心にしたことによって生まれる守りの弱さ。
何度も見た攻撃の展開なら、いくらか予測がついてブロックできる。しかし、新しい攻撃スタイルを出してくるので、そのときにはあっけなく点数を取られてしまう。攻撃のバラエティの多さはきっと、月原に負ける。
けれど、ここで終わらないのが金崎なはず。
「……みんな、こっちは追う立場なの。だから、第3クォーターからは総力を挙げて点数を取りに行くわよ」
「でも、それじゃ咲ちゃんが……」
「シュートを放って点数を取るのはみんなだってできるよね。こっちは攻撃になると、あたしを中心にプレーをしていた。だから、月原の選手に予測されやすくなってしまい、ブロックやカウンターされることも結構あった」
そう、あたし中心に攻撃するから、向こうがブロックやカウンターのしやすい状況を多く作り出してしまう。その結果、点差を詰めるどころか広げられてしまった。
「今の状況をひっくり返すには、みんなで攻めて、みんなでシュートを決める。第2クォーターから出てきた黒髪の彼女のプレーを見て、みんな、驚いたでしょ?」
あたしも正直、すずちゃんと言われていたあの女の子には驚かされた。
全員、あたしの言葉に頷いた。そうだよね、みんな……あの子のプレーを見てとまどっていたもんね。
「今度はそれをこっちがやる番だと思う。幸か不幸か、こっちの攻撃はあたし中心だっていう固定概念が根付き始めている。そこを上手く利用するの」
「でも、私……広瀬先輩に攻撃を頼っていて、シュートを決める自信がない……」
実際に自分もシュートを放つとなると、プレッシャーを感じちゃう気持ちは分かる。しかも、こんな大切な試合のリードされている状況で。失敗することが怖くて仕方がないんだと思う。
「失敗するのが怖い気持ちは分かる。でも、シュートをしないと点数は絶対に入らない。きっと、これまでと同じプレーをしていたら、絶対に負ける。勝つためにはみんなのシュートが必要なの。それに、失敗したら、気にせずに次のプレーをすればいいじゃない。そのくらいの気持ちの持ちようでいいと思うの。だって、バスケはみんなでやるスポーツじゃない。誰かが失敗したら、みんなで支えて取り返していけばいいんだから」
月原高校はそれができているから、あんなに強いんだ。こっちだって、月原のようなバスケをしなくちゃいけないんだ。
敵にバスケを教えられるなんて、本当に悔しいわね。でも、この悔しさをばねにして絶対に勝利に結びつけようじゃない。
「あたしは、みんなだったらできると思う。普段の練習を見て、みんなにはその力がもうあるって信じてる。だから、みんなで勝とうよ。この状況から月原に勝ったら、最高にかっこいいって思わない?」
あたしはチームのことを信じている。みんなにはこの状況からでも月原に勝てる力があると信じている。みんなで戦うことの大切さを、この試合で月原に教えられたんだ。
ようやく、あたしの想いが伝わったのか、個々の野心に火が点いたのか、みんなの目が輝き始めた。
「みんなで点を取る。それだけを考えて、ここからはガンガン攻めていこう。そうすれば、きっと月原を逆転できるよ!」
みんなを説得するのに必死だったから、気付けばハーフタイムは終わりに近づいていた。
あたしが右手を出すと、自然とみんなが手を重ねてきた。
「まだ半分あるから。絶対に逆転して勝利しよう!」
『おー!』
よし、これなら絶対に勝てる!
そんな確信を胸にあたし達は第3クォーターに臨む。
月原は相変わらず、吉岡さん、桐明さん、すずちゃんと呼ばれている女の子を中心に多彩な攻撃の仕方で得点を重ねている。
でも、この第3クォーターではこっちだって負けていない。これまでのあたし中心の攻撃から、全員による総攻撃で月原のディフェンスを崩し始める。追いかける展開だから、みんな積極的にシュートを放っている。
ボールを奪ったら基本、ゴールに向かって一直線。場合に応じてシュートの放てそうな選手にパスを出す。そのスタンスでどんどんシュートを放っていくと、段々と月原の差が詰まってきた。
「面白くなってきたね。さすがは金崎」
差が迫ってくる中でも、吉岡さんは爽やかな笑みを浮かべていた。ようやく本気を出してきたと思って楽しくなっているのか。彼女の笑顔の真っ直ぐさはムカつくほどに眩しかった。さすがは月原のエース。
けれど、そんなことに負けていちゃいけない。
「当たり前じゃない。金崎の底力を舐めないでよね」
「そのつもりだよ。実際に点差が縮まっているしね」
「……あなた達のおかげよ、この展開になったのは。勝つ前に礼を言っておくわ」
「相当自信があるみたいだね。でも、こっちだって負けるつもりはないから」
吉岡さんはあたしから離れていく。
こっちだって負けるつもりはない。だから、ここからさらにエンジンをかけていくつもり。
「ここまでいい調子だよ! みんなで守って、みんなで攻めていくよ!」
あたしの言葉にうちのメンバーは笑顔で頷いてくれる。その様子を見て、ようやく本当のチームになれたような気がして嬉しかった。そうしてくれたのは月原だ。だからこそ、絶対に月原に勝ちたい。
そんなあたしの想いがみんなに通じたのか、その後も全員での攻撃が続いた。
第3クォーターが終了した。
月原 61 – 59 金崎
月原にシュート1本分までに点差を縮められた。スリーポイントなら逆転もできる。
これが全員でやるバスケをした成果だ。みんなで攻めたことが功を奏し、月原が一番多く点数を稼いでいた第2クォーターよりも多い。その反面、月原高校はこのクォーターが一番点数を稼げていない。
まだリードされているけど、みんなの表情はとてもいい。
「やっぱり、あたしの信じたとおりだったよ。このまま、最終クォーターも攻め続けて逆転優勝しよう!」
『おー!』
最後のインターバルではみんなにそう声をかけた。
今は女バスだけじゃなくて、金崎高校全員で月原高校と戦っている。個人的には今日、ここに駆けつけてくれたあたしの親友も一緒に。
「……楓」
彼女は金崎高校の生徒と一緒に盛り上がっていた。あたしと目が合うと、嬉しそうに手を振ってくれる。彼女、この3年間で堅さがけっこう取れたわね。中学時代以上にかわいくなってる。
親友の顔を見たら、最終クォーターへの緊張がいくらか和らいだ気がする。
そういえば、昨日の夜に美緒から連絡があったけれど、彼女は両校応援するって言っていたっけ。あっちには直人や吉岡さん、宮原さんっていう知り合いがいるもんね。とても彼女らしいと思う。
「……直人」
彼は宮原さん、一ノ瀬さんと一緒に月原高校の応援席にいた。
宮原さんと一ノ瀬さんは一生懸命応援しているようだけど、直人は何だか複雑そうな表情でコートの方を見ていた。やっぱり、苦しんでいるのかな。こんなことになって。もし、そうだとしたらそれはあたしのせいだ。
「絶対に勝つからね、直人」
試合に勝って、あたしの恋人にして直人を幸せにする。直人と一緒に幸せになる。それがあたしのしたいことだから。待ってて、直人。あなたの苦しみがなくなるようにあたし、頑張るから。
「みんな、行こう!」
勝利を掴むために。あたし達はコートに向かうのであった。
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