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第61話『席替え』
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「……まくん。起きてください」
5月31日、水曜日。
誰かに声を掛けられ、右肩のあたりを軽く叩かれる感触を感じる中でゆっくりと目を覚ました。すると、視界には赤いエプロンを身につけた優奈の姿が見えて。
「優奈……」
「おはようございます、和真君」
優奈は俺の目を見つめ、優しい笑顔で朝の挨拶をしてくれる。目を覚ましたときから、大好きなお嫁さんの笑顔を見られるなんて。幸せだ。
幸せすぎて、これは夢なんじゃないかと思ってしまう。なので、舌を軽く噛んでみると……確かな痛みが感じられた。これは現実なんだ。現実だと分かった瞬間、優奈の甘い匂いが感じられた。
「おはよう、優奈。起こしに来てくれてありがとう」
「いえいえ。いつも起きる時間に起きてこないので、こうして起こしに来たんです」
「そうだったのか」
「こういうことは珍しいですよね」
「あ、ああ。そうだな。昨日は優奈と一緒に寝たから、眠りが深かったのかな」
と言ったけど、本当の理由は、優奈を好きだと自覚し、優奈が隣で寝ていることにドキドキしてなかなか眠れなかったからだ。ただ、それは言えなかった。
優奈絡みのことを言ったからか、優奈は嬉しそうに笑う。それがとても可愛くてドキッとする。体が熱くなっていくのが分かる。
「和真君。ちょっと顔が赤いですね。もしかして、具合が悪いですか?」
優奈はちょっと心配した様子でそう言い、右手を俺の額に当ててくる。そのことにまたドキッとして、体がさらに熱くなる。
「ちょっと熱い気がします」
「……そうなったのは、珍しく優奈に起こしてもらってドキッとしたからだよ」
「そうですか。ならいいのですが」
優奈は微笑みながら言うと、ほっと胸を撫で下ろす。
「さあ、顔を洗ったり、歯を磨いたり、着替えたりしてください。朝食はできていますから」
「ああ、分かった」
俺がそう言うと、優奈はニコッと笑って部屋を後にする。
今日は珍しく優奈に起こされたけど、そのおかげで物凄くいい目覚めになった。今日の学校生活を頑張れそうだ。そう思いつつベッドから降りた。
今日で春が終わるからだろうか。それとも、大好きな優奈に起こしてもらったからだろうか。ベッドから出ても、温もりが体を包み込み続けていた。
優奈の作った朝食を食べて、優奈と一緒に登校して、優奈のいる教室で学校生活を過ごす。昼休みには優奈の作ったお弁当を優奈と一緒に食べて。それは一緒に住み始めてからの日常の一つだ。最近は慣れてきたけど、優奈を好きだと自覚したからこういう日常を過ごせることがとても幸せに感じる。
今日も授業中は優奈のことをいっぱい見て。たまに優奈と目が合い、優奈が微笑みかけてくれるととても嬉しくて。
また、今日で中間試験を実施した全ての教科で答案が返却された。一番低い教科で86点、一番高い教科では100点満点を取ることができた。これなら、学年上位一割に入れそうだ。いい結果になって安心した。
「みんな席に着いて。ロングホームルームを始めるよ」
担任の渡辺先生が明るく言う。
毎週水曜日の6時間目はロングホームルームの時間だ。クラスで何か決め事をしたり、学校行事の準備をしたり、定期試験が近いと試験勉強の時間に充てられたり。また、この時間は全クラスがロングホームルームなので、学年や学校単位で集会を行なったりと内容は様々だ。
水曜日はロングホームルームがあるので、他の曜日よりも授業が実質1時間少ないとも言える。なので、個人的に水曜日は好きな曜日だ。
今日のロングホームルームではどんなことをやるんだろう? 定期試験も明けたし、近日中に何か学校行事があるわけじゃないけど。
「定期試験も明けてキリがいいので、今日は初めての席替えを行ないます!」
渡辺先生はニコッと明るい笑顔でそう言った。
席替えというワードもあってか、男女問わず何人かのクラスメイトが「おおっ!」などと声を上げている。そのうちの2人は西山と佐伯さんだ。
「席替え楽しみだなぁ!」
西山がそう言うので後ろに振り返ると、西山は楽しげな様子。高1の頃から西山は席替えを楽しみにしていたっけ。高校生になっても、席替えって心惹かれる魅力があるよな。
そういえば、渡辺先生が担任だった去年も……定期試験明けに席替えをしていたな。あとは学期が始まった時期とかにも。間隔やタイミング的にちょうどいいのだろう。
「2年生までに私のクラスだった人は知っていると思うけど、席替えの方法はくじ引きで決めるよ」
渡辺先生は黒板に6×6の格子状の図を描いていく。うちのクラスは36人だし、あれが新しい座席表なのだろう。
2年生のときに渡辺先生のクラスだったけど、くじ引きだったな。他の先生のときもくじ引きで決めることが多かった。この方法が一番公平でいいのだろう。
「くじ引きをやる前に、黒板が見えづらいから最前列の席がいい人はいる?」
と、渡辺先生は問いかけてくる。
去年もくじ引きをやる前に今のことを聞いていたっけ。視力の悪い生徒や背の低い生徒は、座る場所や前に座っている生徒によって黒板が見えづらいもんな。黒板が見えづらかったら授業を受けるのに支障が出るし、そのための配慮なのだろう。
メガネを掛けている男子生徒と女子生徒、背の小さい女子生徒が挙手。3人は最前列の席に座ることになり、黒板の座席表に名前が書かれた。
渡辺先生は窓側最前列の席から番号を振っていく。最前列の席を3人希望したので、1から33まで。
できれば、窓側か通路側。一番後ろの列の席がいいな。窓側は1から6。通路側は28から33。一番後ろの列は6、11、16、21、27、33か。ただ、一番引きたいのは優奈の側の席だ。
番号を振り終わると、渡辺先生は小さな白い紙袋を教卓に置く。
「これでOKと。じゃあ、出席番号順にこの紙袋から一つずつくじを引いて、黒板の座席表に名前を書いてね。34から36番を引いたらもう一枚引いてね」
『はーい!』
席替えだからいい返事をする生徒が多いな。そのことに渡辺先生は「ははっ」と声に出して笑った。
「じゃあ、優奈ちゃんから」
「はい」
出席番号順だから優奈が最初に引くのか。優奈の側の席に座りたいから、優奈がどこを引くのか注目だ。人気者の優奈だから、大半のクラスメイトが優奈のことを見ている。
優奈は席を立ち上がり、教卓に向かう。
優奈は紙袋に右手を入れて、白い紙のくじを1枚引く。
「えっと……11番ですね」
11番……おお、窓から2列目の一番後ろの席か。いいところを引いたな。優奈は11番のところに『長瀬優奈』と書いた。
優奈の側の席を引きたい。一番は両隣、次に前、その次に斜め。両隣は6と16、前の席は10、斜めだと5と15か。自分の番までそれらの席が引かれないことを祈ろう。
「次は萌音ちゃんね」
「はい」
井上さんは教卓に行き、紙袋からくじを引く。
「おっ、15だ。優奈から近い」
井上さんは嬉しそうに言った。優奈の右斜め前の席か。優奈の親友で俺以外では優奈と一緒にいることが一番多いのもあって引けたのかも。優奈も嬉しそうだ。
井上さんは黒板に自分の名前を書き、自分の名前を書いて戻っていった。
その後もくじ引きは続いていく。その中で佐伯さんは、
「31か。廊下側だ。やった」
廊下側のやや後ろの席である31番を引いた。やった、と言うだけあって佐伯さんは微笑んでいた。いいと思える席を引けて良かった。
くじ引きは滞りなく進み、
「次、長瀬君」
「はい」
俺の番になったので席から立ち上がる。
黒板の座席表を見ると……優奈の周辺の席はまだ空きがある。左隣の6番と、前の席の10番の2つだ。このどちらかを引きたい。
教卓に行き、白い紙袋に右手を入れる。
6か10。どっちか来い! 念じながら、紙袋からくじを1枚引いた。
『35』
くじを開くと、書いてあったのは空くじである35番だった。
「35番でした」
「じゃあ、もう1枚引いてね」
3枚しかない空くじを引いたからか、何人かの生徒が『おおっ』と言った。
6と10ではなかったけど、まだチャンスはある。そう思えば、35番を引けたのはいいことな気がした。
再び紙袋に手を突っ込む。
6か10。どっちか来い。来い来い来い来い来い! 今度は強く念じながら、紙袋からくじを1枚引いた。
『6』
くじを開くと、書いてあったのは優奈の左隣の席である6番だった! そのことに自然と頬が緩み、口角が上がったのが分かった。よし、と左手を強く握りしめた。
「6番です」
渡辺先生にそう言い、俺は6番の場所に『長瀬和真』と書いた。『長瀬和真』と『長瀬優奈』が隣同士に書かれているのを見て幸せな気持ちになる。
優奈の方に振り返ると、優奈はとても嬉しそうな笑顔になっている。そのことで幸せな持ちが膨らむ。
「よろしく、優奈」
「はいっ」
「優奈、良かったわね」
「ええ!」
井上さんの言葉に優奈はとても元気良く返事をする。その反応に幸せな気持ちがさらに膨らんでいく。
多幸感に包まれる中、俺は自分の席に戻っていった。
「有栖川と隣同士になれて良かったな」
「ありがとう。運が良かった」
「そっか。俺は長瀬夫婦を少し遠くから見られる席を引きたいな」
「そうか」
「次、西山君」
「はい」
俺が席に着いた直後、西山は教卓に向かった。
西山は白い紙袋からくじを1枚引く。さあ、果たして彼はどの席を引いたかな?
「32です」
32か。黒板に書かれている座席表を見ると……32は佐伯さんの一つ後ろの席か。廊下側の席だから、優奈と俺のことを少し遠くから見られるんじゃないだろうか。西山は満足そうな笑みを浮かべていた。
また、自分の後ろに西山が来るからか、佐伯さんはちょっと嬉しそうで。
その後もくじ引きが続き、クラス全員の新しい席順が決定した。渡辺先生は黒板に書かれた新しい座席表をスマホで撮影していた。
「はい。じゃあ、みんな新しい席に移動してね」
『はーい』
クラス全員が荷物を持って新しい席へ移動し始める。
俺はスクールバッグと物入れに入れてある荷物を持って、新しい座席に行く。
窓側の最後尾……とてもいい席だ。授業中に気分転換に6階からの景色を眺められるし。ゆったりとできそうだ。何よりも、
「これからよろしくお願いします、和真君」
俺の右隣の席が優奈だから。授業を受けているときも、自然と優奈の姿が視界に入るし。特等席を引けたな。
「よろしくな、優奈」
「はいっ! これからの学校生活がより楽しくなりそうです!」
優奈はとても嬉しそうに言ってくれる。可愛い笑顔を向けてくれる優奈がすぐに近くにいることに幸せを感じる。
「そうだな。明日から、より楽しい高校生活になりそうだ」
「ええ!」
優奈は元気良く返事をしてくれた。
大好きな優奈がすぐ近くにいるから、明日からは学校生活をより楽しく送れそうだ。
ただ、俺が優奈に好きだと伝えて、優奈と好き合う夫婦になれたら。優奈ともっと近くにいられるような気がして。優奈も俺も、もっと楽しい学校生活を送れるんじゃないかと思う。そういった日々を優奈と一緒に過ごしていきたい。そうなるためにも、今夜……優奈に好きだと告白しよう。
5月31日、水曜日。
誰かに声を掛けられ、右肩のあたりを軽く叩かれる感触を感じる中でゆっくりと目を覚ました。すると、視界には赤いエプロンを身につけた優奈の姿が見えて。
「優奈……」
「おはようございます、和真君」
優奈は俺の目を見つめ、優しい笑顔で朝の挨拶をしてくれる。目を覚ましたときから、大好きなお嫁さんの笑顔を見られるなんて。幸せだ。
幸せすぎて、これは夢なんじゃないかと思ってしまう。なので、舌を軽く噛んでみると……確かな痛みが感じられた。これは現実なんだ。現実だと分かった瞬間、優奈の甘い匂いが感じられた。
「おはよう、優奈。起こしに来てくれてありがとう」
「いえいえ。いつも起きる時間に起きてこないので、こうして起こしに来たんです」
「そうだったのか」
「こういうことは珍しいですよね」
「あ、ああ。そうだな。昨日は優奈と一緒に寝たから、眠りが深かったのかな」
と言ったけど、本当の理由は、優奈を好きだと自覚し、優奈が隣で寝ていることにドキドキしてなかなか眠れなかったからだ。ただ、それは言えなかった。
優奈絡みのことを言ったからか、優奈は嬉しそうに笑う。それがとても可愛くてドキッとする。体が熱くなっていくのが分かる。
「和真君。ちょっと顔が赤いですね。もしかして、具合が悪いですか?」
優奈はちょっと心配した様子でそう言い、右手を俺の額に当ててくる。そのことにまたドキッとして、体がさらに熱くなる。
「ちょっと熱い気がします」
「……そうなったのは、珍しく優奈に起こしてもらってドキッとしたからだよ」
「そうですか。ならいいのですが」
優奈は微笑みながら言うと、ほっと胸を撫で下ろす。
「さあ、顔を洗ったり、歯を磨いたり、着替えたりしてください。朝食はできていますから」
「ああ、分かった」
俺がそう言うと、優奈はニコッと笑って部屋を後にする。
今日は珍しく優奈に起こされたけど、そのおかげで物凄くいい目覚めになった。今日の学校生活を頑張れそうだ。そう思いつつベッドから降りた。
今日で春が終わるからだろうか。それとも、大好きな優奈に起こしてもらったからだろうか。ベッドから出ても、温もりが体を包み込み続けていた。
優奈の作った朝食を食べて、優奈と一緒に登校して、優奈のいる教室で学校生活を過ごす。昼休みには優奈の作ったお弁当を優奈と一緒に食べて。それは一緒に住み始めてからの日常の一つだ。最近は慣れてきたけど、優奈を好きだと自覚したからこういう日常を過ごせることがとても幸せに感じる。
今日も授業中は優奈のことをいっぱい見て。たまに優奈と目が合い、優奈が微笑みかけてくれるととても嬉しくて。
また、今日で中間試験を実施した全ての教科で答案が返却された。一番低い教科で86点、一番高い教科では100点満点を取ることができた。これなら、学年上位一割に入れそうだ。いい結果になって安心した。
「みんな席に着いて。ロングホームルームを始めるよ」
担任の渡辺先生が明るく言う。
毎週水曜日の6時間目はロングホームルームの時間だ。クラスで何か決め事をしたり、学校行事の準備をしたり、定期試験が近いと試験勉強の時間に充てられたり。また、この時間は全クラスがロングホームルームなので、学年や学校単位で集会を行なったりと内容は様々だ。
水曜日はロングホームルームがあるので、他の曜日よりも授業が実質1時間少ないとも言える。なので、個人的に水曜日は好きな曜日だ。
今日のロングホームルームではどんなことをやるんだろう? 定期試験も明けたし、近日中に何か学校行事があるわけじゃないけど。
「定期試験も明けてキリがいいので、今日は初めての席替えを行ないます!」
渡辺先生はニコッと明るい笑顔でそう言った。
席替えというワードもあってか、男女問わず何人かのクラスメイトが「おおっ!」などと声を上げている。そのうちの2人は西山と佐伯さんだ。
「席替え楽しみだなぁ!」
西山がそう言うので後ろに振り返ると、西山は楽しげな様子。高1の頃から西山は席替えを楽しみにしていたっけ。高校生になっても、席替えって心惹かれる魅力があるよな。
そういえば、渡辺先生が担任だった去年も……定期試験明けに席替えをしていたな。あとは学期が始まった時期とかにも。間隔やタイミング的にちょうどいいのだろう。
「2年生までに私のクラスだった人は知っていると思うけど、席替えの方法はくじ引きで決めるよ」
渡辺先生は黒板に6×6の格子状の図を描いていく。うちのクラスは36人だし、あれが新しい座席表なのだろう。
2年生のときに渡辺先生のクラスだったけど、くじ引きだったな。他の先生のときもくじ引きで決めることが多かった。この方法が一番公平でいいのだろう。
「くじ引きをやる前に、黒板が見えづらいから最前列の席がいい人はいる?」
と、渡辺先生は問いかけてくる。
去年もくじ引きをやる前に今のことを聞いていたっけ。視力の悪い生徒や背の低い生徒は、座る場所や前に座っている生徒によって黒板が見えづらいもんな。黒板が見えづらかったら授業を受けるのに支障が出るし、そのための配慮なのだろう。
メガネを掛けている男子生徒と女子生徒、背の小さい女子生徒が挙手。3人は最前列の席に座ることになり、黒板の座席表に名前が書かれた。
渡辺先生は窓側最前列の席から番号を振っていく。最前列の席を3人希望したので、1から33まで。
できれば、窓側か通路側。一番後ろの列の席がいいな。窓側は1から6。通路側は28から33。一番後ろの列は6、11、16、21、27、33か。ただ、一番引きたいのは優奈の側の席だ。
番号を振り終わると、渡辺先生は小さな白い紙袋を教卓に置く。
「これでOKと。じゃあ、出席番号順にこの紙袋から一つずつくじを引いて、黒板の座席表に名前を書いてね。34から36番を引いたらもう一枚引いてね」
『はーい!』
席替えだからいい返事をする生徒が多いな。そのことに渡辺先生は「ははっ」と声に出して笑った。
「じゃあ、優奈ちゃんから」
「はい」
出席番号順だから優奈が最初に引くのか。優奈の側の席に座りたいから、優奈がどこを引くのか注目だ。人気者の優奈だから、大半のクラスメイトが優奈のことを見ている。
優奈は席を立ち上がり、教卓に向かう。
優奈は紙袋に右手を入れて、白い紙のくじを1枚引く。
「えっと……11番ですね」
11番……おお、窓から2列目の一番後ろの席か。いいところを引いたな。優奈は11番のところに『長瀬優奈』と書いた。
優奈の側の席を引きたい。一番は両隣、次に前、その次に斜め。両隣は6と16、前の席は10、斜めだと5と15か。自分の番までそれらの席が引かれないことを祈ろう。
「次は萌音ちゃんね」
「はい」
井上さんは教卓に行き、紙袋からくじを引く。
「おっ、15だ。優奈から近い」
井上さんは嬉しそうに言った。優奈の右斜め前の席か。優奈の親友で俺以外では優奈と一緒にいることが一番多いのもあって引けたのかも。優奈も嬉しそうだ。
井上さんは黒板に自分の名前を書き、自分の名前を書いて戻っていった。
その後もくじ引きは続いていく。その中で佐伯さんは、
「31か。廊下側だ。やった」
廊下側のやや後ろの席である31番を引いた。やった、と言うだけあって佐伯さんは微笑んでいた。いいと思える席を引けて良かった。
くじ引きは滞りなく進み、
「次、長瀬君」
「はい」
俺の番になったので席から立ち上がる。
黒板の座席表を見ると……優奈の周辺の席はまだ空きがある。左隣の6番と、前の席の10番の2つだ。このどちらかを引きたい。
教卓に行き、白い紙袋に右手を入れる。
6か10。どっちか来い! 念じながら、紙袋からくじを1枚引いた。
『35』
くじを開くと、書いてあったのは空くじである35番だった。
「35番でした」
「じゃあ、もう1枚引いてね」
3枚しかない空くじを引いたからか、何人かの生徒が『おおっ』と言った。
6と10ではなかったけど、まだチャンスはある。そう思えば、35番を引けたのはいいことな気がした。
再び紙袋に手を突っ込む。
6か10。どっちか来い。来い来い来い来い来い! 今度は強く念じながら、紙袋からくじを1枚引いた。
『6』
くじを開くと、書いてあったのは優奈の左隣の席である6番だった! そのことに自然と頬が緩み、口角が上がったのが分かった。よし、と左手を強く握りしめた。
「6番です」
渡辺先生にそう言い、俺は6番の場所に『長瀬和真』と書いた。『長瀬和真』と『長瀬優奈』が隣同士に書かれているのを見て幸せな気持ちになる。
優奈の方に振り返ると、優奈はとても嬉しそうな笑顔になっている。そのことで幸せな持ちが膨らむ。
「よろしく、優奈」
「はいっ」
「優奈、良かったわね」
「ええ!」
井上さんの言葉に優奈はとても元気良く返事をする。その反応に幸せな気持ちがさらに膨らんでいく。
多幸感に包まれる中、俺は自分の席に戻っていった。
「有栖川と隣同士になれて良かったな」
「ありがとう。運が良かった」
「そっか。俺は長瀬夫婦を少し遠くから見られる席を引きたいな」
「そうか」
「次、西山君」
「はい」
俺が席に着いた直後、西山は教卓に向かった。
西山は白い紙袋からくじを1枚引く。さあ、果たして彼はどの席を引いたかな?
「32です」
32か。黒板に書かれている座席表を見ると……32は佐伯さんの一つ後ろの席か。廊下側の席だから、優奈と俺のことを少し遠くから見られるんじゃないだろうか。西山は満足そうな笑みを浮かべていた。
また、自分の後ろに西山が来るからか、佐伯さんはちょっと嬉しそうで。
その後もくじ引きが続き、クラス全員の新しい席順が決定した。渡辺先生は黒板に書かれた新しい座席表をスマホで撮影していた。
「はい。じゃあ、みんな新しい席に移動してね」
『はーい』
クラス全員が荷物を持って新しい席へ移動し始める。
俺はスクールバッグと物入れに入れてある荷物を持って、新しい座席に行く。
窓側の最後尾……とてもいい席だ。授業中に気分転換に6階からの景色を眺められるし。ゆったりとできそうだ。何よりも、
「これからよろしくお願いします、和真君」
俺の右隣の席が優奈だから。授業を受けているときも、自然と優奈の姿が視界に入るし。特等席を引けたな。
「よろしくな、優奈」
「はいっ! これからの学校生活がより楽しくなりそうです!」
優奈はとても嬉しそうに言ってくれる。可愛い笑顔を向けてくれる優奈がすぐに近くにいることに幸せを感じる。
「そうだな。明日から、より楽しい高校生活になりそうだ」
「ええ!」
優奈は元気良く返事をしてくれた。
大好きな優奈がすぐ近くにいるから、明日からは学校生活をより楽しく送れそうだ。
ただ、俺が優奈に好きだと伝えて、優奈と好き合う夫婦になれたら。優奈ともっと近くにいられるような気がして。優奈も俺も、もっと楽しい学校生活を送れるんじゃないかと思う。そういった日々を優奈と一緒に過ごしていきたい。そうなるためにも、今夜……優奈に好きだと告白しよう。
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