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第47話『中間試験』

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 試験が始まるまでの期間は高野にある優奈と俺の自宅、井上さんの家、佐伯さんの家で勉強会を行なった。俺は何日かバイトがあったので、そのときは不参加だったけど。
 俺は優奈と一緒に教える立場になることが多い。ただ、そのおかげで個人的には充実した勉強会になった。それに、俺が分からないところは優奈に教えてもらって、すぐに解決できるし。2年生まで以上にいい勉強会になった。
 井上さんの家と佐伯さんの家に行くのは初めてだった。井上さんの部屋は好きなアニメのポスターが貼ってあったり、アクリルスタンドやミニフィギュアがいっぱい飾ってあるオタク部屋。佐伯さんの部屋は猫や犬のぬいぐるみがいくつもあって、可愛らしさを感じられる部屋だった。
 また、西山はうちでの勉強会を何回かした頃、廊下から優奈の部屋を覗かせてもらっていた。そのとき西山は、

「聖域中の聖域だぜ……!」

 と、物凄く歓喜していたのであった。西山、聖域中の聖域を見られて良かったな。



 そして、5月24日から26日まで、3年生になってから初めての中間試験が実施される。
 勉強会のおかげで、個人的には文系科目や英語科目中心にいい手応えだ。これなら、2年生までの順位の維持はできるだろう。
 優奈はどの科目もよくできているらしい。
 西山、井上さん、佐伯さんも手応えがあるようで、苦手な科目や不安な科目も赤点を取らずに済みそうだという。
 ちなみに、試験期間中は午前中で授業が終わるので、学校の食堂や駅周辺のお店でお昼を食べて自宅で翌日の科目の勉強会を行なった。
 この調子で、みんなで最後の科目まで駆け抜けていきたい。



 ――キーンコーンカーンコーン。

 5月26日、金曜日。
 中間試験の最終科目・コミュニケーション英語の試験時間の終了を知らせるチャイムが鳴った。これで全科目が終わったからか、男子中心に何人かの生徒が「終わったー!」と歓喜の声を上げていた。
 優奈の方を見ると、後ろの席に座っている井上さんとお喋りしている。試験が全て終わったからか、2人ともいい笑顔だ。佐伯さんも明るい笑顔で近くの席に座る女子と楽しそうに喋っている。彼女達を見ていると試験の疲れが取れていくなぁ。

「終わったぜ……!」

 後ろから、西山の歓喜の言葉が聞こえてきた。
 振り返ると、西山は持ち前の爽やかな笑みを浮かべていた。

「これで全部終わったな。お疲れ様、西山」
「おう! 長瀬もお疲れ! 長瀬達のおかげで、今日の試験も乗り越えられたぜ! 試験も終わったし、これでまたサッカーができるぜ!」
「ははっ、そうか。また今日から部活頑張れよ」
「ああ!」

 西山はとってもいい笑顔で返事をしてくれる。そういえば、西山はこれまでも定期試験が終わって部活動が解禁されると凄く嬉しそうにしていたな。西山のサッカー好きがよーく伝わってくるよ。

「長瀬はこの後、有栖川とデートか?」
「ああ。試験が終わったからな。今日の放課後は優奈と楽しい時間をたっぷりと過ごしたいと思ってる」
「ははっ、そうか。楽しんでこいよ」
「ありがとう」

 西山から、デートを楽しんでこいって言われたのはこれで何度目だろう。ただ、何度言われても嬉しいものだ。
 それからすぐに、担任の渡辺先生が教室にやってきて、終礼が行なわれた。先生は3年生初の中間試験お疲れ様と労い、今日の放課後から部活動が解禁されるとアナウンスした。

「これで、今日の終礼は終わります。また来週ね。では、委員長。号令をお願いします」

 委員長の号令によって終礼が終わり、今週の学校生活が終わった。
 終礼が終わるとすぐに、優奈と井上さんと佐伯さんがバッグを持ってこちらにやってきた。その際、みんなで試験お疲れ様と労う。

「和真君と西山君は今日の科目はどうでしたか?」
「3教科ともよくできたよ」
「俺も何とかなったぜ。生物も赤点は取らずに済みそうだ。みんなと勉強したおかげだ! ありがとな!」
「俺もありがとう」
「良かったです」

 優奈は優しい笑顔でそう言ってくれる。

「あたしもみんなと勉強したから、赤点なしで済みそうだよ! ありがとう!」
「私も。勉強会前は生物が不安だったけど、優奈達のおかげで何とかなったわ。みんなありがとね」
「そう言ってくれて嬉しいです。私もみなさんと勉強会をしたおかげで、今日の科目もよくできました。ありがとうございました」

 優奈達も順調に今回の中間試験を終えることができたか。良かった。手応え通りの結果になれば何よりだ。
 みんな掃除当番ではないため、それからすぐに俺達5人は教室を後にする。
 掃除当番になっている女子と遊ぶ予定のある井上さんとは教室前の廊下で、これから部活動がある西山と佐伯さんとは昇降口の近くで別れた。
 優奈と俺は2人きりになって下校し、高野駅方面に向かって歩き始める。

「結構暖かいですね」
「そうだな。今はお昼だからな。今日は朝からよく晴れているし」
「ええ。今日は試験最終日ですし、和真君と放課後デートをするのを楽しみに頑張りました」
「嬉しいな。俺もデートがあるから、いつもの試験最終日よりも頑張れたよ」
「そうでしたか。嬉しいですっ」

 えへへっ、と優奈は嬉しそうに笑う。それと同時に、俺の右手を握る力がちょっと強くなった気がした。

「明日と明後日はバイトで日中は一緒にいられないから、その分も今日の放課後デートを楽しもう」
「そうですね!」

 試験期間中はもちろん、その直前の時期もバイトはしない。そのため、バイトをしない日が数日から1週間ほど続く。なので、その埋め合わせとして、試験明けの週末はどちらもシフトに入ることが多い。

「これまで、優奈って定期試験が終わった日の放課後ってどうやって過ごしてた?」
「お昼に終わるので、まずは萌音ちゃん達と一緒に駅周辺のお店でお昼を食べますね。その後は高野カクイなどのお店で買い物をしたり、スイーツを楽しんだり。放課後の時間が長いので、カラオケに行ったりもしました」
「カラオケか。俺も試験が終わった日に、友達とカラオケに行くことが何度かあったな」

 数人ほどで行くし、みんな歌うのでカラオケの滞在時間は長くなる。なので、平日に行くのは、今日のようなお昼に終わる試験明けの日が多い。
 あと、カラオケにはドリンクバーがあって色々なものが飲めるし、軽食も注文できる。だから、カラオケは色々と楽しめていいんだよな。

「そうですか! カラオケいいですよね。あとは誰かの家に行ってアニメを観たり、観たい映画が公開されているときは琴宿の映画館に観に行ったりすることもありましたね」
「そうなんだ。俺も録画したり、DVDをレンタルしたりしたアニメを友達と一緒に観たことがあったな」

 それまでは試験勉強をしていたから、お菓子やジュースを口にしながらアニメを観て結構盛り上がった記憶がある。

「カラオケに行ったり、アニメを観たりすること以外では、和真君はどのように試験明けの放課後を過ごしていましたか?」
「俺は友達と買い物したり、ゲームセンターで遊んだり。あと、今日みたいに暖かい日だと、カクイの中にあるアイス屋さんに行ってアイスを食べたりしたな」
「私も暖かい日はアイスを食べたりしましたね」
「そうなんだ。そういう日のアイスって美味いよな」
「ですね」

 優奈は柔らかい笑顔で同意してくれる。それがとても嬉しい。
 こうして話をすると、試験明けの放課後の過ごし方は優奈とそこまで違いはないのだと分かった。

「今日もお昼に終わったから、今言ったようなことで放課後デートを楽しみたいなって思ってる。どうかな?」
「いいですね! 試験明けらしい時間を和真君と過ごしたいです」
「そう言ってくれて良かった。優奈は何かしたいことってある?」
「そうですね……カラオケは是非行きたいですね。連休中に音楽ショップに行ったとき、和真君と音楽の趣味が合うと分かりましたし。誕生日ケーキを食べたときに歌った『ハッピーバースデートゥーユー』が上手でしたし。和真君の歌を聞きたいです」
「嬉しいな。俺も同じ理由でカラオケ行きたいなぁ。優奈の歌声も姿も良かったし。優奈の歌を聞きたいし。あと、一緒に歌いたい」
「一緒に歌いたいですね!」
「じゃあ、カラオケは決定だな」

 優奈と共通して好きな曲やアーティストは結構あるし、優奈の歌声が綺麗なことも分かっている。優奈とのカラオケ……楽しみだな。

「他には何がしたい?」
「あとは……ゲームセンターも興味があります。和真君と一緒に行ったことがありませんから」
「……そういえば、ゲームセンターとかショッピングセンターのゲームコーナーには優奈と一緒に行ったことないな。俺も優奈と行ってみたい」
「そう言ってもらえて良かったです」
「じゃあ、まずはお昼を食べて、その後にゲームセンターに行って、それでカラオケに行く流れにしようか」
「そうしましょう。楽しみですっ!」
「楽しみだな。一緒に楽しもう」
「はいっ!」

 優奈はとても元気良く返事をしてくれる。優奈の可愛い笑顔を見ると、今日の放課後デートも楽しめそうな気がする。
 デートの予定を決めながら歩いていたから、気付けば高野駅の近くまで来ていた。初夏の強い日差しが駅周辺の景色を照らしている。見慣れた光景だけど、これから優奈と放課後デートをするからちょっと輝いて見えたのであった。
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