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第9話『方針』

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「アルバム鑑賞をするの、私も楽しかったです。何ヶ月かぶりに見たので」
「それは良かった。本棚を見て、この立派なハードカバーが気になって良かったよ」
「ふふっ」

 写真に写っている優奈はどれも可愛かった。なので、これからも定期的にアルバムを見せてもらうことになるだろう。今後、優奈は俺との写真も貼ってくれるそうだし。どんな写真を貼っているのか興味があるから。

「あの、和真君。アルバムを見ながら高校生活の話をして思ったことがあるのですが」
「うん、何だろう?」

 俺がそう言うと、優奈は俺の目をしっかりと見つめてくる。口元は笑っているけど、俺を見つめる視線は真剣そのもので。

「これからの学校生活についてです。私達が結婚したことについて、学校側には月曜日の朝に伝えることになっていますよね」
「そうだな」

 午前中、結婚指輪を買いに行こうとメッセージを優奈から受け取った際、来週の月曜日の朝に俺と優奈、俺の両親、優奈の御両親とおじいさんの6人で高校に赴き、高校側に俺達が結婚し、優奈の名字が有栖川から長瀬に改姓したことを伝えると言われた。

「学校の生徒のみなさんには、結婚したことをどう話しましょうか? それとも、この夫婦関係については秘密にしておきますか?」
「……話そう。優奈にしつこく絡んだり、つきまとったりする人をなくすのも俺達が結婚した一つの理由だから。それに、こうして優奈と一緒に過ごすのが楽しいから、これからの学校生活でもそうしたいんだ」
「和真君……」

 優奈は俺の名前を言うと、嬉しそうな笑顔になる。

「私も学校で和真君と話したり、一緒に過ごしたりしたいです。今みたいに和真君と一緒にいる時間が楽しいですから」
「そう思ってくれて嬉しいよ。……これまで、学校ではあまり絡みがなかっただろう? だから、結婚して夫婦になったって話せば、学校でも堂々と接することができる。それに、隠して後々に実は夫婦でしたってバレるより、早いうちに俺達から夫婦だって明かす方がいいかなと思ってる」
「なるほどです」
「……優奈は学年問わず大人気の生徒だ。そんな優奈が俺と結婚したって発表したら、俺が何か嫌なことをされるかもしれない。それを考えて、秘密にしておくかって言ってくれたんじゃないか?」
「……はい」

 やっぱりそうだったか。
 言い当てられてしまったからか、優奈は笑みこそ絶やさないものの、どこか複雑そうだ。

「心配してくれてありがとう。ただ、何か言われたり、嫌なことをされたりするかもしれないって覚悟はできてる。俺はそれよりも、プライベートではこうして一緒にいられるのに、学校ではそれを隠してこれまで通りに過ごす方が嫌だなって思うんだ」

 優奈の目をしっかりと見ながら、俺は思いの丈を口にする。
 昨日は優奈と一緒に夕食を食べて、今日は一緒に結婚指輪を買って、今は優奈の部屋でアルバムを見ながら一緒に過ごしている。それがとても楽しくて。そういった時間を学校でも優奈と一緒に過ごしたいと思ったんだ。
 優奈は彼女らしい優しい笑顔を見せる。

「私も同じ想いです。では、結婚したことをみなさんに話しましょう。……あと、気付いているかは分かりませんが、和真君って女の子の間で結構な人気なんですよ」
「そうなのか。まあ、友達の間で俺のことが話題になるらしいもんな」
「ええ。和真君は人気ですから、私も覚悟していないと」
「俺のことで何かあったら、遠慮なく言ってくれよ」
「分かりました。和真君も私のことで何かあったら遠慮なく言ってくださいね」
「分かった」

 何かされるかもしれないと覚悟している。ただ、優奈の優しい笑顔を見ると、俺達が結婚したことを発表しても何とかなりそうな気がする。これがお嫁さんの力ってやつなのかな。俺も夫として優奈のことを守っていかないとな。

「ただ、どうやってみんなに伝えようか」
「恋人として付き合うことならまだしも、結婚して夫婦になったことですからね。私達が話しても信じてもらえないかもしれません」
「確かに。冗談にしか聞こえないかもしれないな。そうなると……やっぱり、月曜日に担任の渡辺先生に言ってもらうのがいいかな」
「それがいいですね。教師から話されるのが一番分かってもらいやすいでしょう」
「俺もそう思う」

 教師が言った方が本当のことなのだと分かってくれそうだ。

「先生が言った後に、俺達からも結婚しましたって言えばいいかな」
「それがいいですね」
「よし、じゃあ方針は決まったな。このことは月曜日の朝に渡辺先生に頼むか。先生は気さくな人だし、去年からの2年連続で担任だから頼みやすい」
「去年は和真君のクラスの担任だったんですね。私は1年のときに担任でした」
「そうだったんだ。じゃあ、優奈にとっても頼みやすいな」
「そうですね」

 優奈は優しい笑顔でそう言う。
 優奈に言ったように、俺達のクラス担任の渡辺夏実わたなべなつみ先生は明るくて気さくな雰囲気の女性教師だ。ちなみに、担当科目は現代文と古典で、1年生の頃から授業でもお世話になっている。
 俺達が結婚したことを知ったら、渡辺先生がどんな反応をするかは分からない。だけど、クラスメイトに俺達の結婚を話してほしいと言ったら、きっと先生は引き受けてくれると思う。
 渡辺先生からクラスメイトに俺達の結婚について話せば、うちのクラスから学校中に広まっていくだろう。

「月曜日に結婚していることを明かすので、それまでは伏せておきましょうか」
「そうしよう」

 よく話す友人なら事前に話してもいいかもしれないけど、結婚したことが本当だと分かってくれるかどうかは微妙だし。
 俺でいうと、よく話す友人は西山だけど……あいつは優奈のファンだ。俺との結婚を事実として理解してくれるかどうか。混乱させてしまう可能性もある。理解したとしてもどう反応するか。西山は告白せず、少し遠くから見ていたいタイプだけれど。彼にも月曜日に話すか。

「今は……午後4時近くですか。もう少しここにいますか?」
「ああ。他に予定はないし」
「では、一緒にアニメを観ませんか? 読んでいる本の趣味も合っていましたから、アニメも共通して楽しんでいる作品があるかなって」
「アニメもラブコメと日常系を中心によく観るよ」
「そうなんですね! 私もラブコメや日常系作品はよく観ます」
「そうか。じゃあ、ラブコメか日常系作品を一緒に観るか」
「はいっ」

 優奈は楽しそうに返事をすると、テレビのハードディスクに録画されたリストや、アニメを録画したBlu-rayケースを見せてくれる。
 Blu-rayケースに入っていた『この着せ替え人形に恋をする。』という最近大ヒットしたラブコメアニメを一緒に観る。この作品は優奈も俺も観ており、原作漫画も持っているのでキャラクターやストーリーについて話が結構盛り上がった。一人で観るのもいいけど、誰かと一緒に観るのも楽しいな。
 話のキリの良い第5話まで観終わったときには、午後6時近くになっていた。なので、俺は帰ることに。ここには初めて来たので、駅に繋がる大通りに出るところまで優奈に送ってもらうことにした。

「お邪魔しました。優奈ととても楽しく過ごせました」
「それは何よりじゃ」
「いつでも遊びに来るといいよ、長瀬君」
「そうね。義理の息子だものね」
「お家デートしてくださいね!」

 と、御両親とおじいさん、小一時間ほど前に部活から帰ってきた陽葵ちゃんが温かい言葉を掛けてくれた。
 俺は優奈と一緒に彼女の家を後にして、駅前の大通りに向かって歩き始める。その際、優奈と手を繋いで。
 優奈の家に来たときは暖かかったけど、今は陽がだいぶ傾いてきたのもあって結構涼しくなっている。

「一気に5話まで観たな」
「ええ。面白い作品ですし、和真君と話すのも楽しかったですから」
「そうだな。これからは、お互いに好きな作品は一緒に観ていきたいな。近いうちに一緒に住み始めるし」
「そうですねっ」

 弾んだ声でそう言うと、優奈は俺を見ながらニコッと笑う。俺と一緒にアニメを観るのを楽しんでくれたのが分かって嬉しい。

「今日のデートが楽しかったから、明日のバイトを頑張れそうだ」
「バイト頑張ってくださいね。……もし良ければ、明日、バイト先に行ってもいいですか? 旦那さんになってからの初バイトの和真君を見たくて。ドーナッツも食べたいですし」
「いいぞ。優奈が来てくれるなら、もっと頑張れそうだ」

 俺がそう言うと、優奈は頬をほんのりと赤らめて「ふふっ」と笑った。

「明日はいつシフトに入っていますか?」
「えっと……午前10時から午後4時までだな」
「午前10時から午後4時ですね。分かりました」

 優奈は微笑みながらそう言った。
 優奈と話しながら歩いていたので、大通りに出るところまではあっという間だった。ここまで来ると、都心の賑わいを感じられるように。閑静な住宅街の中に優奈の家があるから、ここが都心であることを忘れていた。

「ここまで来れば、駅にも行けるよ。送ってくれてありがとう」
「いえいえ。気をつけて帰ってくださいね」
「ああ。優奈もな。……初デート楽しかったよ」
「私も楽しかったです。結婚指輪を買って、うちではアルバムを見たり、アニメを観たりして。盛りだくさんでしたね」
「そうだな」

 盛りだくさんだったから、琴宿駅で優奈と待ち合わせしたのが随分と前のことのように感じる。思い返すと、今日のデートはとても楽しかったな。

「優奈、また明日」
「はい、また明日です」

 優奈は俺の右手を離して、笑顔で手を振る。
 俺は優奈に手を振り、一人で駅に向かって歩き始める。
 たまに吹く柔らかな風によって、体が段々と冷やされていく。さっきまで優奈に握られていた右手も。優奈の優しい温もりを少しでも長く感じていたくて、右手をスラックスのポケットに突っ込んだ。
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