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特別編4
第1話『16歳最後の登校』
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9月16日、金曜日。
今週の日曜日は愛実の誕生日パーティーやお泊まり。パーティーの準備を午後からするので、日曜の午前中は俺の家でお家デートをすることにもなって。日曜日に楽しみな予定がいっぱいあるからか、今週の学校生活は時間の進みがとても速く感じる。気付けば、あっという間に金曜日だ。
朝、学校に行く準備をして、自室の愛実の部屋側にある窓を開ける。
すると、直後に愛実の部屋の窓も開き、部屋には制服姿の愛実が。愛実は俺と目が合うとニコッと笑い、小さく手を振ってきた。今日も愛実はとても可愛いな。そう思いながら、俺も愛実に小さく手を振った。
「おはよう、リョウ君」
「おはよう、愛実。あっという間に金曜日だな」
「そうだね。今週は特に速かった気がするよ。もうすぐ誕生日だからかな?」
「そうかもしれないな」
そう言って、愛実と俺は笑い合う。
学校へ行く前には、よほどの荒天でない限りは、こうして互いの部屋の窓を開けて愛実と話すのが恒例だ。何気ない時間だけど、愛実と付き合うようになってからはこういう時間がとても幸せに思えるようになった。
「今日も一緒に学校を頑張ろうね」
「ああ、頑張ろうな。あと、俺は放課後にバイトがあるからバイトも頑張るよ」
「バイトあるんだね。バイト頑張ってね、リョウ君」
「ああ。ありがとう」
愛実が笑顔で「頑張って」と言ってくれるだけで、今日の学校やバイトを頑張れそうだ。
「じゃあ、また後でね、リョウ君」
「ああ」
俺達はそれぞれ自分の部屋の窓を閉めた。
それから、必要なものを持って家を出発し、俺の家の前で愛実とあおいと待ち合わせをして、通っている東京都立調津高等学校に向かって歩き始める。
今日もこの時間からよく晴れている。日差しを直接浴びているけど、半袖のワイシャツとベストという服装だし、空気も爽やかなのであまり暑くない。暑さ寒さも彼岸までっていうことわざがあるのも納得だ。
「あまり暑くないし、歩くのが気持ちいい季節になってきたな」
「そうだね。空気も爽やかだし」
「最近は晴れてもそこまで暑くないですよね。ジョギングするのも気持ちいいんじゃないですか、凉我君」
「ああ。朝早い時間だし、最近は結構気持ち良く走れてるぞ」
今年のゴールデンウィーク前から、休日を中心に早朝にジョギングすることを趣味にしている。
夏の一番暑い頃は早朝でも蒸し暑く、途中で休憩をしても家に帰ると疲れを感じることがあった。
ただ、最近は朝晩は過ごしやすくなってきており、早朝の時間帯は涼しくて結構爽やかな気候になる。なので、走るのが結構気持ち良く、休憩を挟めばジョギングの後に疲れを感じることはあまりない。これからは走るのがもっと気持ち良くなるだろう。
「個人的な感覚だけど、誕生日を迎えると暑い時期が終わって、段々と涼しくなっていく印象だよ」
「9月18日ですから、お彼岸の直前ですもんね。暑さ寒さも彼岸までということわざもあるくらいですし」
「さっき、そのことわざを頭に思い浮かんだよ。確かに、愛実の誕生日を過ぎると、暑いと思う日は少なくなるな」
きっと、今年もそうなっていくのだろう。
「話は変わりますが、今週も金曜日になりましたか。明日から3連休ですし、日曜日には愛実ちゃんの誕生日パーティーがあるので、いつも以上に休みが待ち遠しいです」
「そうだね。私も待ち遠しいよ」
「俺も愛実の誕生日があるから週末が楽しみだよ」
「ふふっ、そうですか。……週末の間に誕生日を迎えるということは、愛実ちゃんにとっては今日が16歳のうちに行く最後の学校になるんですね」
「そうなるね。……何だか、今日が特別な気がしてきたよ」
ちょっと楽しげな様子でそう話す愛実。
今日が16歳最後の登校ということは、愛実は学校で誕生日プレゼントをもらうかもしれないな。今年の俺の誕生日は土曜日だったので、前日の金曜日に学校で道本や鈴木、海老名さんをはじめとした友達から誕生日プレゼントをもらったから。
それからは誕生日のことや3人とも観ているアニメのことなどを話しながら、俺達は調津高校に登校した。
教室A棟の昇降口で上履きに履き替え、俺達の所属している2年2組の教室がある4階まで階段で向かった。2学期が始まった直後、愛実は4階まで上がるとちょっと息が上がっていたけど、慣れてきたのか今日は息一つ乱していなかった。
後方の扉から、2年2組の教室に入る。
先に登校した誰かがエアコンを点けてくれたのだろう。教室に入ると涼しい空気が体を包み込んだ。そこまで暑くなかったとはいえ、晴れている中で登校してきたので、教室の涼しさがとても心地いい。
「おっ、麻丘達が来たな! みんなおはよう!」
「麻丘、香川、桐山、おはよう」
「3人ともおはよう!」
教室に入ってすぐ、教室後方の窓の近くにいる鈴木、道本、海老名さんから朝の挨拶をされた。俺の席が窓側の最後尾、愛実の席が俺の右隣、あおいの席が愛実の一つ前の席なのもあり、登校すると道本達はあの場所で話していることが多い。
「みんなおはよう」
「おはよう、理沙ちゃん、道本君、鈴木君」
「みなさんおはようございます!」
道本達に朝の挨拶をして、俺達は荷物を自分の机に置いた。
「香川が来たから持ってくるか」
「そうだな!」
「香川。俺と鈴木から渡したいものがあるからちょっと待っててくれ」
「うん、分かった」
道本と鈴木はそれぞれ自分の席へと向かう。
鈴木と道本から渡したいものがある理由に察しが付いているのか、愛実はニコッとした笑顔になっている。
それから程なくして、道本と鈴木は紙の手提げを持ってくる。ちなみに、鈴木の持っている手提げは俺のバイト先であるサリーズというチェーンの喫茶店のものだ。
「香川。今年の誕生日は日曜日だから、直前の今日にプレゼントを渡すよ。香川、誕生日おめでとう」
「誕生日おめでとう、香川!」
「ありがとう!」
愛実は嬉しそうな笑顔でお礼を言った。
やっぱり、道本と鈴木が愛実へ渡したいものは誕生日プレゼントだったか。愛実の嬉しそうな笑顔を見ると、俺も嬉しい気持ちになるよ。
「じゃあ、まずは俺から。毎年恒例だけど、今年も美味しそうなスイーツをプレゼントするよ」
「ありがとう」
そう言い、愛実は道本から白い紙の手提げを受け取った。学校でプレゼントを受け取る場面を見ると、今年の俺の誕生日プレゼントを渡してくれたときのことを思い出す。
愛実が手提げから中身を取り出す。だいたいB5サイズほどの黄色い箱だ。
「箱にスイートポテトって描いてある」
「ああ。前に親が買ってきて、美味しかったからさ。スイーツ好きの香川も気に入りそうだと思ってそれを選んだよ」
「そうなんだね! さつまいもは大好きだから嬉しいよ。美味しくいただくね。ありがとう、道本君!」
「いえいえ」
道本はいつもの爽やかな笑顔でそう言った。
愛実がスイーツ好きなのもあり、道本は毎年、愛実への誕生日プレゼントにスイーツを贈っている。毎年、愛実は道本のプレゼントに満足している。きっと今年もそうなるんじゃないだろうか。
「じゃあ、次はオレだな! 香川、誕生日おめでとう!」
「ありがとう、鈴木君」
愛実が机に道本のプレゼントを置いた直後、鈴木はサリーズの茶色い紙の手提げを愛実に渡した。
愛実は手提げから箱を取り出す。俺のバイト先で取り扱っているものなので、その箱には見覚えがある。
「去年プレゼントしたインスタントコーヒーを気に入ってくれたから、今年もインスタントコーヒーにしたぜ。ブレンドとかモカとかアイスコーヒー専用とかセットになっているやつだ。今年も麻丘がバイトしているサリーズで買ったぜ」
「ありがとう、鈴木君。コーヒーは好きだけど、サリーズのコーヒーは特に好きだから嬉しいよ。去年と同じく、道本君がプレゼントしてくれたスイーツと一緒に楽しむよ」
「おう!」
鈴木は持ち前の明るい笑顔でそう言った。
「今年もいいプレゼントをもらえて良かったな、愛実」
「良かったですね、愛実ちゃん!」
「良かったわね、愛実」
「うんっ!」
愛実は俺とあおい、海老名さんに向かって笑顔で首肯した。
愛実も嬉しそうにしているし、一緒に楽しむと言っているから、道本がスイーツ、鈴木がコーヒーを愛実にプレゼントするのは定番になるかもしれない。
「俺からはパーティーのときにプレゼントを渡すよ」
「あたしもね」
「私もです。楽しみにしていてください」
「分かった!」
愛実はニッコリとした笑顔でそう答えてくれる。
誕生日パーティーでプレゼントを渡したときにも、愛実が今のような笑顔になってくれると嬉しいな。
「やあやあやあ。みんなおはよう。朝礼のチャイムは鳴っていないから、まだ席に着かなくていいよ」
教卓の方から担任の佐藤樹理先生の声が聞こえてきたので、そちらを見ると……教卓の近くに、スラックスに半袖のブラウス姿の佐藤先生の姿があった。
俺達の視線に気付いたのか、佐藤先生はこちらに振り向き、落ち着いた笑顔でこちらにやってくる。
「みんなおはよう」
『おはようございます』
「……おやおやおや。愛実ちゃん、紙の手提げを持っているね。それに嬉しそうだ」
「鈴木君から誕生日プレゼントをもらったんです。道本君からももらって、それは私の机にあります。日曜日が誕生日なので」
「18日が誕生日だよね。私も愛実ちゃんにプレゼントを贈ろうと考えているよ。デジタルコンテンツだから、18日になったらすぐに愛実ちゃんのスマホに送るよ」
「分かりました。楽しみにしていますね」
デジタルコンテンツか。俺の誕生日のときには、佐藤先生はLIMEというSNSアプリで使える俺の好きな漫画のイラストスタンプをプレゼントしてくれたな。あと、去年の愛実の誕生日に、スタンプをプレゼントしてくれたって愛実が言っていたっけ。今年も、愛実にスタンプをプレゼントするのだろうか。
「18日になったらメッセージを送るつもりだけど、ここで直接言わせて。ちょっと早いけど、17歳の誕生日おめでとう、愛実ちゃん」
佐藤先生は優しい笑顔で愛実を見つめながら祝福の言葉を送り、愛実の頭を撫でた。
「ありがとうございます、佐藤先生」
愛実はニコッと笑いながら佐藤先生にお礼を言った。心温まる光景だ。
愛実は友達が多いし、今度の日曜日が愛実の誕生日なので、朝礼が始まるまでの時間や10分休み、昼休みといった時間に、友達から誕生日プレゼントをもらうことが何度もあって。そのときには愛実はとても嬉しそうにしていて。そんな愛実を見る度に、俺も嬉しい気持ちになった。
今週の日曜日は愛実の誕生日パーティーやお泊まり。パーティーの準備を午後からするので、日曜の午前中は俺の家でお家デートをすることにもなって。日曜日に楽しみな予定がいっぱいあるからか、今週の学校生活は時間の進みがとても速く感じる。気付けば、あっという間に金曜日だ。
朝、学校に行く準備をして、自室の愛実の部屋側にある窓を開ける。
すると、直後に愛実の部屋の窓も開き、部屋には制服姿の愛実が。愛実は俺と目が合うとニコッと笑い、小さく手を振ってきた。今日も愛実はとても可愛いな。そう思いながら、俺も愛実に小さく手を振った。
「おはよう、リョウ君」
「おはよう、愛実。あっという間に金曜日だな」
「そうだね。今週は特に速かった気がするよ。もうすぐ誕生日だからかな?」
「そうかもしれないな」
そう言って、愛実と俺は笑い合う。
学校へ行く前には、よほどの荒天でない限りは、こうして互いの部屋の窓を開けて愛実と話すのが恒例だ。何気ない時間だけど、愛実と付き合うようになってからはこういう時間がとても幸せに思えるようになった。
「今日も一緒に学校を頑張ろうね」
「ああ、頑張ろうな。あと、俺は放課後にバイトがあるからバイトも頑張るよ」
「バイトあるんだね。バイト頑張ってね、リョウ君」
「ああ。ありがとう」
愛実が笑顔で「頑張って」と言ってくれるだけで、今日の学校やバイトを頑張れそうだ。
「じゃあ、また後でね、リョウ君」
「ああ」
俺達はそれぞれ自分の部屋の窓を閉めた。
それから、必要なものを持って家を出発し、俺の家の前で愛実とあおいと待ち合わせをして、通っている東京都立調津高等学校に向かって歩き始める。
今日もこの時間からよく晴れている。日差しを直接浴びているけど、半袖のワイシャツとベストという服装だし、空気も爽やかなのであまり暑くない。暑さ寒さも彼岸までっていうことわざがあるのも納得だ。
「あまり暑くないし、歩くのが気持ちいい季節になってきたな」
「そうだね。空気も爽やかだし」
「最近は晴れてもそこまで暑くないですよね。ジョギングするのも気持ちいいんじゃないですか、凉我君」
「ああ。朝早い時間だし、最近は結構気持ち良く走れてるぞ」
今年のゴールデンウィーク前から、休日を中心に早朝にジョギングすることを趣味にしている。
夏の一番暑い頃は早朝でも蒸し暑く、途中で休憩をしても家に帰ると疲れを感じることがあった。
ただ、最近は朝晩は過ごしやすくなってきており、早朝の時間帯は涼しくて結構爽やかな気候になる。なので、走るのが結構気持ち良く、休憩を挟めばジョギングの後に疲れを感じることはあまりない。これからは走るのがもっと気持ち良くなるだろう。
「個人的な感覚だけど、誕生日を迎えると暑い時期が終わって、段々と涼しくなっていく印象だよ」
「9月18日ですから、お彼岸の直前ですもんね。暑さ寒さも彼岸までということわざもあるくらいですし」
「さっき、そのことわざを頭に思い浮かんだよ。確かに、愛実の誕生日を過ぎると、暑いと思う日は少なくなるな」
きっと、今年もそうなっていくのだろう。
「話は変わりますが、今週も金曜日になりましたか。明日から3連休ですし、日曜日には愛実ちゃんの誕生日パーティーがあるので、いつも以上に休みが待ち遠しいです」
「そうだね。私も待ち遠しいよ」
「俺も愛実の誕生日があるから週末が楽しみだよ」
「ふふっ、そうですか。……週末の間に誕生日を迎えるということは、愛実ちゃんにとっては今日が16歳のうちに行く最後の学校になるんですね」
「そうなるね。……何だか、今日が特別な気がしてきたよ」
ちょっと楽しげな様子でそう話す愛実。
今日が16歳最後の登校ということは、愛実は学校で誕生日プレゼントをもらうかもしれないな。今年の俺の誕生日は土曜日だったので、前日の金曜日に学校で道本や鈴木、海老名さんをはじめとした友達から誕生日プレゼントをもらったから。
それからは誕生日のことや3人とも観ているアニメのことなどを話しながら、俺達は調津高校に登校した。
教室A棟の昇降口で上履きに履き替え、俺達の所属している2年2組の教室がある4階まで階段で向かった。2学期が始まった直後、愛実は4階まで上がるとちょっと息が上がっていたけど、慣れてきたのか今日は息一つ乱していなかった。
後方の扉から、2年2組の教室に入る。
先に登校した誰かがエアコンを点けてくれたのだろう。教室に入ると涼しい空気が体を包み込んだ。そこまで暑くなかったとはいえ、晴れている中で登校してきたので、教室の涼しさがとても心地いい。
「おっ、麻丘達が来たな! みんなおはよう!」
「麻丘、香川、桐山、おはよう」
「3人ともおはよう!」
教室に入ってすぐ、教室後方の窓の近くにいる鈴木、道本、海老名さんから朝の挨拶をされた。俺の席が窓側の最後尾、愛実の席が俺の右隣、あおいの席が愛実の一つ前の席なのもあり、登校すると道本達はあの場所で話していることが多い。
「みんなおはよう」
「おはよう、理沙ちゃん、道本君、鈴木君」
「みなさんおはようございます!」
道本達に朝の挨拶をして、俺達は荷物を自分の机に置いた。
「香川が来たから持ってくるか」
「そうだな!」
「香川。俺と鈴木から渡したいものがあるからちょっと待っててくれ」
「うん、分かった」
道本と鈴木はそれぞれ自分の席へと向かう。
鈴木と道本から渡したいものがある理由に察しが付いているのか、愛実はニコッとした笑顔になっている。
それから程なくして、道本と鈴木は紙の手提げを持ってくる。ちなみに、鈴木の持っている手提げは俺のバイト先であるサリーズというチェーンの喫茶店のものだ。
「香川。今年の誕生日は日曜日だから、直前の今日にプレゼントを渡すよ。香川、誕生日おめでとう」
「誕生日おめでとう、香川!」
「ありがとう!」
愛実は嬉しそうな笑顔でお礼を言った。
やっぱり、道本と鈴木が愛実へ渡したいものは誕生日プレゼントだったか。愛実の嬉しそうな笑顔を見ると、俺も嬉しい気持ちになるよ。
「じゃあ、まずは俺から。毎年恒例だけど、今年も美味しそうなスイーツをプレゼントするよ」
「ありがとう」
そう言い、愛実は道本から白い紙の手提げを受け取った。学校でプレゼントを受け取る場面を見ると、今年の俺の誕生日プレゼントを渡してくれたときのことを思い出す。
愛実が手提げから中身を取り出す。だいたいB5サイズほどの黄色い箱だ。
「箱にスイートポテトって描いてある」
「ああ。前に親が買ってきて、美味しかったからさ。スイーツ好きの香川も気に入りそうだと思ってそれを選んだよ」
「そうなんだね! さつまいもは大好きだから嬉しいよ。美味しくいただくね。ありがとう、道本君!」
「いえいえ」
道本はいつもの爽やかな笑顔でそう言った。
愛実がスイーツ好きなのもあり、道本は毎年、愛実への誕生日プレゼントにスイーツを贈っている。毎年、愛実は道本のプレゼントに満足している。きっと今年もそうなるんじゃないだろうか。
「じゃあ、次はオレだな! 香川、誕生日おめでとう!」
「ありがとう、鈴木君」
愛実が机に道本のプレゼントを置いた直後、鈴木はサリーズの茶色い紙の手提げを愛実に渡した。
愛実は手提げから箱を取り出す。俺のバイト先で取り扱っているものなので、その箱には見覚えがある。
「去年プレゼントしたインスタントコーヒーを気に入ってくれたから、今年もインスタントコーヒーにしたぜ。ブレンドとかモカとかアイスコーヒー専用とかセットになっているやつだ。今年も麻丘がバイトしているサリーズで買ったぜ」
「ありがとう、鈴木君。コーヒーは好きだけど、サリーズのコーヒーは特に好きだから嬉しいよ。去年と同じく、道本君がプレゼントしてくれたスイーツと一緒に楽しむよ」
「おう!」
鈴木は持ち前の明るい笑顔でそう言った。
「今年もいいプレゼントをもらえて良かったな、愛実」
「良かったですね、愛実ちゃん!」
「良かったわね、愛実」
「うんっ!」
愛実は俺とあおい、海老名さんに向かって笑顔で首肯した。
愛実も嬉しそうにしているし、一緒に楽しむと言っているから、道本がスイーツ、鈴木がコーヒーを愛実にプレゼントするのは定番になるかもしれない。
「俺からはパーティーのときにプレゼントを渡すよ」
「あたしもね」
「私もです。楽しみにしていてください」
「分かった!」
愛実はニッコリとした笑顔でそう答えてくれる。
誕生日パーティーでプレゼントを渡したときにも、愛実が今のような笑顔になってくれると嬉しいな。
「やあやあやあ。みんなおはよう。朝礼のチャイムは鳴っていないから、まだ席に着かなくていいよ」
教卓の方から担任の佐藤樹理先生の声が聞こえてきたので、そちらを見ると……教卓の近くに、スラックスに半袖のブラウス姿の佐藤先生の姿があった。
俺達の視線に気付いたのか、佐藤先生はこちらに振り向き、落ち着いた笑顔でこちらにやってくる。
「みんなおはよう」
『おはようございます』
「……おやおやおや。愛実ちゃん、紙の手提げを持っているね。それに嬉しそうだ」
「鈴木君から誕生日プレゼントをもらったんです。道本君からももらって、それは私の机にあります。日曜日が誕生日なので」
「18日が誕生日だよね。私も愛実ちゃんにプレゼントを贈ろうと考えているよ。デジタルコンテンツだから、18日になったらすぐに愛実ちゃんのスマホに送るよ」
「分かりました。楽しみにしていますね」
デジタルコンテンツか。俺の誕生日のときには、佐藤先生はLIMEというSNSアプリで使える俺の好きな漫画のイラストスタンプをプレゼントしてくれたな。あと、去年の愛実の誕生日に、スタンプをプレゼントしてくれたって愛実が言っていたっけ。今年も、愛実にスタンプをプレゼントするのだろうか。
「18日になったらメッセージを送るつもりだけど、ここで直接言わせて。ちょっと早いけど、17歳の誕生日おめでとう、愛実ちゃん」
佐藤先生は優しい笑顔で愛実を見つめながら祝福の言葉を送り、愛実の頭を撫でた。
「ありがとうございます、佐藤先生」
愛実はニコッと笑いながら佐藤先生にお礼を言った。心温まる光景だ。
愛実は友達が多いし、今度の日曜日が愛実の誕生日なので、朝礼が始まるまでの時間や10分休み、昼休みといった時間に、友達から誕生日プレゼントをもらうことが何度もあって。そのときには愛実はとても嬉しそうにしていて。そんな愛実を見る度に、俺も嬉しい気持ちになった。
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