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特別編3
エピローグ『日常が戻った。』
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9月7日、水曜日。
今日もいつも通りの平日の朝の時間を過ごしていく。一昨日はあおい、昨日は愛実が休んだので、今日こそはみんなで一緒にいつも通りの学校生活を過ごせるといいなぁと思いながら。
朝食を食べ終わり、服装や荷物のチェックをする前にスマホを確認する。今は……誰からもメッセージは届いていないか。
いつもの6人がメンバーのグループトークを開き、
『愛実。体調はどうだ?』
とメッセージを送る。愛実との個別トークで訊いてもいいけど、あおい達も愛実の体調や学校に行けるかどうか気になっているだろうから。
メッセージを送ってから10秒ほどで、俺のメッセージに『既読1』とマークが付く。誰かが俺のメッセージを見てくれたか。
『元気になったよ、リョウ君。今日は学校に行くね』
というメッセージが愛実から届いた。
愛実……元気になったか。昨日の夕方の時点で結構元気だったから、今日は学校に行けそうだと思っていたけど、こうして返事をもらうと安心できる。きっと、あおい達もこのメッセージを見たら安心するんじゃないだろうか。
――プルルッ。
愛実から個別トークの方にメッセージが届いたと通知が。通知をタップして、愛実との個別トーク画面が開くと、
『学校に行くから、いつも通りに窓を開けて話したいな』
というメッセージが届いた。その文言を見て嬉しい気持ちになる。
いいぞ、と返信を送り、俺は愛実の部屋側にある窓を開ける。
俺と同じタイミングで愛実の部屋の窓も開かれ、制服姿の愛実が姿を現す。愛実は俺と目が合うとニコッと笑みを浮かべ、俺に手を振ってくる。本当に可愛いな、俺の彼女。そう思いながら俺も手を振る。
「おはよう、リョウ君」
「おはよう、愛実。学校に行けるほどに元気になって良かったよ」
「うんっ。昨日、リョウ君達がお見舞いに来てくれたおかげだよ。あとは、リョウ君のおまじないのキスのおかげでもあるね。ありがとう」
「いえいえ」
「あおいちゃん達にもお礼を言わないと」
「ああ」
元気になった愛実の姿を見れば、あおい達もきっと喜ぶことだろう。
「リョウ君は体調は大丈夫?」
「ああ、大丈夫だよ」
「良かった」
愛実は安堵の笑みを見せる。今回の風邪はあおいからうつったのが原因である可能性がある。だから、俺が風邪を引いていないかどうか気になったのだろう。
一昨日の反省を活かして、昨日の愛実のお見舞い中はマスクをし、滞在時間も短かった。今も元気なのはそのおかげかもしれない。
「昨日はできなかったから、今日はこうして窓を開けて話せて嬉しいよ」
「俺もだよ。お互いに元気で、いつも通りに話せて嬉しい」
「ふふっ、そっか。私、この時間が結構好きなんだって実感したよ」
「そうか。俺も好きだ。愛実と付き合い始めてからはもっとな」
「……うんっ」
可愛らしく返事をすると、愛実の頬がほんのりと赤くなる。笑顔なのも相まって本当に可愛くて。
「じゃあ、また後でね」
「ああ。また後で」
俺は窓を閉めて、身だしなみと持ち物のチェックを行なう。
どちらも大丈夫だったので、スクールバッグを持って俺は自室を出る。
キッチンに行き、バッグに弁当と水筒を入れる中、母さんに愛実が元気になったことを伝える。母さんは「良かったわぁ」とほっと胸を撫で下ろしていた。
「いってきます」
自宅を出ると、うちの前にはバッグを持った愛実の姿があった。
玄関を開く音に気付いたのか、愛実は俺が家から出た直後にこちらを振り向き、笑顔でテを振ってくる。俺も手を振りながら、愛実の目の前まで向かう。
「おはよう、愛実」
「おはよう、リョウ君。……おはようのキスをしてもいい? 昨日のお見舞いのお礼も込めて」
「ああ、いいぞ」
「ありがとう」
愛実は笑顔でお礼を言うと、俺におはようのキスをしてきた。
愛実の唇は柔らかくて、唇からは優しい温もりが伝わってくる。その温もりはこれまでにキスしたときと変わらないので、愛実の熱が下がったのだと実感する。
昨日の朝は俺が「早く治るおまじない」と称してキスしたけど、互いに元気な中でキスをするのが一番いいな。そんなキスができることを幸せに思う。
10秒ほどして、愛実の方から唇を離す。すると、目の前には恍惚とした笑顔で俺を見つめる愛実がいて。
「リョウ君とおはようのキスができてとても幸せです」
「俺もだよ。今日はとてもいい一日になりそうだ」
「そうだねっ」
愛実はニッコリと笑い、弾んだ声でそう言ってくれる。それがとても嬉しかった。
「いってきまーす」
「いってらっしゃい」
あおいと麻美さんの声が聞こえたので、あおいの家の方を見てみると……制服姿のあおいが玄関から出てきたところだった。
あおいは俺達の方を見ると明るい笑顔になり、小走りでこちらにやってきた。
「おはようございます、涼我君、愛実ちゃん! 愛実ちゃん元気になって良かったです!」
そう言うと、あおいは嬉しそうな様子で愛実を抱きしめた。
「うんっ! 昨日はお見舞いに来て、お着替えを手伝ってくれたり、いちごゼリーを食べさせたりしてくれてありがとう」
「いえいえ!」
「今日からまた一緒に学校に行こうね」
「はいっ!」
「じゃあ、学校へ行くか」
「うんっ」
「行きましょう!」
俺達はいつも通り3人で学校に向かって歩き始める。
今日も朝から晴れているからなかなか暑い。ただ、愛実と繋いでいる左手から伝わる温もりは優しくて心地良く感じられる。
「こうして3人で一緒に登校するのは久しぶりな感じがします」
「そうだな」
「一昨日はあおいちゃん、昨日は私が休みだったもんね。だから、3人で登校するのは……先週の金曜日以来になるんだ」
「それを聞いたら、もっと久しぶりな感じがしてきました!」
「あおいの気持ち分かるな。5日ぶりなんだって思うと凄く久しぶりに思える」
「ふふっ、そうだね」
土日を挟んだし、月曜日と火曜日はあおいと愛実がそれぞれ風邪を引く予想外の事態だった。だから、こうしていつも通りに3人で登校するのが凄く久しぶりに思えるのだ。
「昨日、登校するときに涼我君と話しましたが、3人で一緒に登校するのが一番いいですね」
「そうだな、あおい」
「嬉しいな。私も月曜はあおいちゃんがいないのは寂しいって思っていたから、3人で登校するのがいいなって思うよ」
「愛実ちゃん……! 嬉しいですっ!」
あおいはとても嬉しそうな笑顔で愛実の左腕を抱きしめた。そのことに愛実も嬉しそうにしていて。お互いに、相手がいないことを寂しく思う気持ちが重なったことや、物理的に密着できるのが嬉しいのかも。
それからは今週に入ってからの学校のことや、最近観たアニメの話をしながら調津高校まで向かった。学校に到着するまで、あおいは愛実の腕をずっと抱きしめていた。
昇降口で上履きに履き替え、2年2組の教室がある4階まではいつも通り階段で上がっていく。愛実に階段かエレベーターのどっちで行くか訊くと、
「いつも通り階段でいいよ」
と言ったからだ。ただ、愛実のことを考えて、ゆっくりとした速度で。それもあって、愛実は特に疲れた様子は見せていなかった。
後方の扉から、2年2組の教室に入る。
「あおいちゃん、愛実ちゃん、麻丘君、おはよう! 今日は3人で来られたんだね!」
「やっと3人で来たかぁ」
と、友人中心に声を掛けられる。一昨日はあおい、昨日は愛実が休んだから、いつも通り3人一緒に登校したことを嬉しそうにしている。
俺達は声を掛けてくれた人達に「おはよう」と挨拶して、自分達の席に向かう。
「おっ、みんなおはよう」
「おはようだぜ!」
「3人で来たわね。愛実、あおい、麻丘君おはよう」
いつも通り、窓側の後方のスペースにいる道本達は俺達に朝の挨拶をする。久しぶりに3人一緒に来たから、3人とも嬉しそうだ。
「みんなおはよう」
「おはようございます!」
「理沙ちゃん、道本君、鈴木君、おはよう。元気になりました」
俺達はそう挨拶して、自分達の荷物をそれぞれの机の上に置いた。
道本達のいるところへ向かうと、海老名さんはとても嬉しそうな様子で愛実のことをぎゅっと抱きしめる。
「元気になって良かったわ」
「ありがとう、理沙ちゃん。理沙ちゃん達がお見舞いに来てくれたおかげもあって、一日で元気になれました。ありがとう」
海老名さん達にお礼を言うと、愛実は海老名さんのことを抱きしめる。そういえば、中学時代から、愛実が元気になってまた登校すると、海老名さんと教室で抱きしめ合うことが多かったっけ。
「いえいえ。愛実に会いたかったし」
「友達の顔を見ておきたかったからな。香川は親友の恋人でもあるし」
「そうだな! 元気になって良かったぜ!」
海老名さんは嬉しそうな笑顔で、道本は爽やかな笑顔で、鈴木はとても明るい笑顔でそれぞれそう言ってくれる。そのことに愛実は嬉しそうだった。
「あと、これでようやく6人が揃ったな! やっぱり6人がしっくりくるぜ! 随分と久しぶりな感じがするぜ!」
「そうだな、鈴木。先週の金曜日以来だもんな」
「学校に向かっているときも、3人一緒に歩くのは久しぶりだと話しましたね」
「話したよね、あおいちゃん」
「いつも麻丘達は3人で来るもんな。これでようやく日常が戻った感じがする」
「そうね、道本君」
ようやく日常が戻った、か。道本の言う通りだな。土日は休みで、月曜日はあおい、火曜日は愛実が休んだから、久しぶりにいつも通りの光景を見られている気がする。
海老名さんだけでなく、あおい達も道本の言葉に同意しているのか、穏やかな笑顔を見せている。
「やあやあやあ、みんなおはよう」
今日も朝礼のチャイムが鳴る前に、佐藤先生が教室にやってきた。きっと、登校してきた愛実を抱きしめたくて早めに来たのだろう。
半袖でロングスカートの丈のワンピース姿の佐藤先生は、いつも通りの落ち着いた笑みを浮かべながらこちらにやってくる。
「みんなおはよう。愛実ちゃん、元気になったね」
「はい。みんながお見舞いに来てくれたり、樹理先生がお見舞いのメッセージをくれたりしたので1日で治りました。先生、ありがとうございました」
「いえいえ。治った記念に抱きしめてもいいかな? 昨日、あおいちゃんを抱きしめたし」
「はいっ、いいですよ」
そう言うと、愛実は佐藤先生のすぐ目の前まで行く。
佐藤先生は優しい笑顔になって、愛実のことを抱きしめた。
抱きしめられた愛実はとても嬉しそうで。1年の頃も体調が良くなって、また学校に来ると佐藤先生が抱きしめていたからな。
「愛実ちゃんが元気になって良かった」
優しい声色でそう言い、佐藤先生は愛実の頭を撫でる。それが気持ちいいのか、愛実は柔らかな笑顔になって。
「あおいちゃんの抱き心地もいいけど、愛実ちゃんの抱き心地もいいね。今日も仕事を頑張れそうだ」
「ふふっ、良かったです。私も先生に抱きしめられるのが気持ちいいです」
「それは良かった。……これでようやく、いつもの6人が揃ったね。先生はそれが嬉しいよ」
俺達のことを見ながら、佐藤先生はそう言った。
いつもの6人が揃った……か。あおいと愛実が休んだことで、あおいが一緒にいることが当たり前になって、この6人で過ごすことが今の俺にとっての日常なのだと実感した。
それから程なくして、朝礼を知らせるチャイムが鳴り、今日も学校生活が始まる。
隣の席には愛実がいて。愛実の前にはあおいがいて。教室を見渡すと道本、鈴木、海老名さんがいて。
戻った日常が、再び始まる。
特別編3 おわり
次の話から特別編4です。
今日もいつも通りの平日の朝の時間を過ごしていく。一昨日はあおい、昨日は愛実が休んだので、今日こそはみんなで一緒にいつも通りの学校生活を過ごせるといいなぁと思いながら。
朝食を食べ終わり、服装や荷物のチェックをする前にスマホを確認する。今は……誰からもメッセージは届いていないか。
いつもの6人がメンバーのグループトークを開き、
『愛実。体調はどうだ?』
とメッセージを送る。愛実との個別トークで訊いてもいいけど、あおい達も愛実の体調や学校に行けるかどうか気になっているだろうから。
メッセージを送ってから10秒ほどで、俺のメッセージに『既読1』とマークが付く。誰かが俺のメッセージを見てくれたか。
『元気になったよ、リョウ君。今日は学校に行くね』
というメッセージが愛実から届いた。
愛実……元気になったか。昨日の夕方の時点で結構元気だったから、今日は学校に行けそうだと思っていたけど、こうして返事をもらうと安心できる。きっと、あおい達もこのメッセージを見たら安心するんじゃないだろうか。
――プルルッ。
愛実から個別トークの方にメッセージが届いたと通知が。通知をタップして、愛実との個別トーク画面が開くと、
『学校に行くから、いつも通りに窓を開けて話したいな』
というメッセージが届いた。その文言を見て嬉しい気持ちになる。
いいぞ、と返信を送り、俺は愛実の部屋側にある窓を開ける。
俺と同じタイミングで愛実の部屋の窓も開かれ、制服姿の愛実が姿を現す。愛実は俺と目が合うとニコッと笑みを浮かべ、俺に手を振ってくる。本当に可愛いな、俺の彼女。そう思いながら俺も手を振る。
「おはよう、リョウ君」
「おはよう、愛実。学校に行けるほどに元気になって良かったよ」
「うんっ。昨日、リョウ君達がお見舞いに来てくれたおかげだよ。あとは、リョウ君のおまじないのキスのおかげでもあるね。ありがとう」
「いえいえ」
「あおいちゃん達にもお礼を言わないと」
「ああ」
元気になった愛実の姿を見れば、あおい達もきっと喜ぶことだろう。
「リョウ君は体調は大丈夫?」
「ああ、大丈夫だよ」
「良かった」
愛実は安堵の笑みを見せる。今回の風邪はあおいからうつったのが原因である可能性がある。だから、俺が風邪を引いていないかどうか気になったのだろう。
一昨日の反省を活かして、昨日の愛実のお見舞い中はマスクをし、滞在時間も短かった。今も元気なのはそのおかげかもしれない。
「昨日はできなかったから、今日はこうして窓を開けて話せて嬉しいよ」
「俺もだよ。お互いに元気で、いつも通りに話せて嬉しい」
「ふふっ、そっか。私、この時間が結構好きなんだって実感したよ」
「そうか。俺も好きだ。愛実と付き合い始めてからはもっとな」
「……うんっ」
可愛らしく返事をすると、愛実の頬がほんのりと赤くなる。笑顔なのも相まって本当に可愛くて。
「じゃあ、また後でね」
「ああ。また後で」
俺は窓を閉めて、身だしなみと持ち物のチェックを行なう。
どちらも大丈夫だったので、スクールバッグを持って俺は自室を出る。
キッチンに行き、バッグに弁当と水筒を入れる中、母さんに愛実が元気になったことを伝える。母さんは「良かったわぁ」とほっと胸を撫で下ろしていた。
「いってきます」
自宅を出ると、うちの前にはバッグを持った愛実の姿があった。
玄関を開く音に気付いたのか、愛実は俺が家から出た直後にこちらを振り向き、笑顔でテを振ってくる。俺も手を振りながら、愛実の目の前まで向かう。
「おはよう、愛実」
「おはよう、リョウ君。……おはようのキスをしてもいい? 昨日のお見舞いのお礼も込めて」
「ああ、いいぞ」
「ありがとう」
愛実は笑顔でお礼を言うと、俺におはようのキスをしてきた。
愛実の唇は柔らかくて、唇からは優しい温もりが伝わってくる。その温もりはこれまでにキスしたときと変わらないので、愛実の熱が下がったのだと実感する。
昨日の朝は俺が「早く治るおまじない」と称してキスしたけど、互いに元気な中でキスをするのが一番いいな。そんなキスができることを幸せに思う。
10秒ほどして、愛実の方から唇を離す。すると、目の前には恍惚とした笑顔で俺を見つめる愛実がいて。
「リョウ君とおはようのキスができてとても幸せです」
「俺もだよ。今日はとてもいい一日になりそうだ」
「そうだねっ」
愛実はニッコリと笑い、弾んだ声でそう言ってくれる。それがとても嬉しかった。
「いってきまーす」
「いってらっしゃい」
あおいと麻美さんの声が聞こえたので、あおいの家の方を見てみると……制服姿のあおいが玄関から出てきたところだった。
あおいは俺達の方を見ると明るい笑顔になり、小走りでこちらにやってきた。
「おはようございます、涼我君、愛実ちゃん! 愛実ちゃん元気になって良かったです!」
そう言うと、あおいは嬉しそうな様子で愛実を抱きしめた。
「うんっ! 昨日はお見舞いに来て、お着替えを手伝ってくれたり、いちごゼリーを食べさせたりしてくれてありがとう」
「いえいえ!」
「今日からまた一緒に学校に行こうね」
「はいっ!」
「じゃあ、学校へ行くか」
「うんっ」
「行きましょう!」
俺達はいつも通り3人で学校に向かって歩き始める。
今日も朝から晴れているからなかなか暑い。ただ、愛実と繋いでいる左手から伝わる温もりは優しくて心地良く感じられる。
「こうして3人で一緒に登校するのは久しぶりな感じがします」
「そうだな」
「一昨日はあおいちゃん、昨日は私が休みだったもんね。だから、3人で登校するのは……先週の金曜日以来になるんだ」
「それを聞いたら、もっと久しぶりな感じがしてきました!」
「あおいの気持ち分かるな。5日ぶりなんだって思うと凄く久しぶりに思える」
「ふふっ、そうだね」
土日を挟んだし、月曜日と火曜日はあおいと愛実がそれぞれ風邪を引く予想外の事態だった。だから、こうしていつも通りに3人で登校するのが凄く久しぶりに思えるのだ。
「昨日、登校するときに涼我君と話しましたが、3人で一緒に登校するのが一番いいですね」
「そうだな、あおい」
「嬉しいな。私も月曜はあおいちゃんがいないのは寂しいって思っていたから、3人で登校するのがいいなって思うよ」
「愛実ちゃん……! 嬉しいですっ!」
あおいはとても嬉しそうな笑顔で愛実の左腕を抱きしめた。そのことに愛実も嬉しそうにしていて。お互いに、相手がいないことを寂しく思う気持ちが重なったことや、物理的に密着できるのが嬉しいのかも。
それからは今週に入ってからの学校のことや、最近観たアニメの話をしながら調津高校まで向かった。学校に到着するまで、あおいは愛実の腕をずっと抱きしめていた。
昇降口で上履きに履き替え、2年2組の教室がある4階まではいつも通り階段で上がっていく。愛実に階段かエレベーターのどっちで行くか訊くと、
「いつも通り階段でいいよ」
と言ったからだ。ただ、愛実のことを考えて、ゆっくりとした速度で。それもあって、愛実は特に疲れた様子は見せていなかった。
後方の扉から、2年2組の教室に入る。
「あおいちゃん、愛実ちゃん、麻丘君、おはよう! 今日は3人で来られたんだね!」
「やっと3人で来たかぁ」
と、友人中心に声を掛けられる。一昨日はあおい、昨日は愛実が休んだから、いつも通り3人一緒に登校したことを嬉しそうにしている。
俺達は声を掛けてくれた人達に「おはよう」と挨拶して、自分達の席に向かう。
「おっ、みんなおはよう」
「おはようだぜ!」
「3人で来たわね。愛実、あおい、麻丘君おはよう」
いつも通り、窓側の後方のスペースにいる道本達は俺達に朝の挨拶をする。久しぶりに3人一緒に来たから、3人とも嬉しそうだ。
「みんなおはよう」
「おはようございます!」
「理沙ちゃん、道本君、鈴木君、おはよう。元気になりました」
俺達はそう挨拶して、自分達の荷物をそれぞれの机の上に置いた。
道本達のいるところへ向かうと、海老名さんはとても嬉しそうな様子で愛実のことをぎゅっと抱きしめる。
「元気になって良かったわ」
「ありがとう、理沙ちゃん。理沙ちゃん達がお見舞いに来てくれたおかげもあって、一日で元気になれました。ありがとう」
海老名さん達にお礼を言うと、愛実は海老名さんのことを抱きしめる。そういえば、中学時代から、愛実が元気になってまた登校すると、海老名さんと教室で抱きしめ合うことが多かったっけ。
「いえいえ。愛実に会いたかったし」
「友達の顔を見ておきたかったからな。香川は親友の恋人でもあるし」
「そうだな! 元気になって良かったぜ!」
海老名さんは嬉しそうな笑顔で、道本は爽やかな笑顔で、鈴木はとても明るい笑顔でそれぞれそう言ってくれる。そのことに愛実は嬉しそうだった。
「あと、これでようやく6人が揃ったな! やっぱり6人がしっくりくるぜ! 随分と久しぶりな感じがするぜ!」
「そうだな、鈴木。先週の金曜日以来だもんな」
「学校に向かっているときも、3人一緒に歩くのは久しぶりだと話しましたね」
「話したよね、あおいちゃん」
「いつも麻丘達は3人で来るもんな。これでようやく日常が戻った感じがする」
「そうね、道本君」
ようやく日常が戻った、か。道本の言う通りだな。土日は休みで、月曜日はあおい、火曜日は愛実が休んだから、久しぶりにいつも通りの光景を見られている気がする。
海老名さんだけでなく、あおい達も道本の言葉に同意しているのか、穏やかな笑顔を見せている。
「やあやあやあ、みんなおはよう」
今日も朝礼のチャイムが鳴る前に、佐藤先生が教室にやってきた。きっと、登校してきた愛実を抱きしめたくて早めに来たのだろう。
半袖でロングスカートの丈のワンピース姿の佐藤先生は、いつも通りの落ち着いた笑みを浮かべながらこちらにやってくる。
「みんなおはよう。愛実ちゃん、元気になったね」
「はい。みんながお見舞いに来てくれたり、樹理先生がお見舞いのメッセージをくれたりしたので1日で治りました。先生、ありがとうございました」
「いえいえ。治った記念に抱きしめてもいいかな? 昨日、あおいちゃんを抱きしめたし」
「はいっ、いいですよ」
そう言うと、愛実は佐藤先生のすぐ目の前まで行く。
佐藤先生は優しい笑顔になって、愛実のことを抱きしめた。
抱きしめられた愛実はとても嬉しそうで。1年の頃も体調が良くなって、また学校に来ると佐藤先生が抱きしめていたからな。
「愛実ちゃんが元気になって良かった」
優しい声色でそう言い、佐藤先生は愛実の頭を撫でる。それが気持ちいいのか、愛実は柔らかな笑顔になって。
「あおいちゃんの抱き心地もいいけど、愛実ちゃんの抱き心地もいいね。今日も仕事を頑張れそうだ」
「ふふっ、良かったです。私も先生に抱きしめられるのが気持ちいいです」
「それは良かった。……これでようやく、いつもの6人が揃ったね。先生はそれが嬉しいよ」
俺達のことを見ながら、佐藤先生はそう言った。
いつもの6人が揃った……か。あおいと愛実が休んだことで、あおいが一緒にいることが当たり前になって、この6人で過ごすことが今の俺にとっての日常なのだと実感した。
それから程なくして、朝礼を知らせるチャイムが鳴り、今日も学校生活が始まる。
隣の席には愛実がいて。愛実の前にはあおいがいて。教室を見渡すと道本、鈴木、海老名さんがいて。
戻った日常が、再び始まる。
特別編3 おわり
次の話から特別編4です。
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