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最終章
第30話『大学生になったみたいだね』
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これまでに電車に乗って出かけたことについて愛実と話が盛り上がり、調津駅から10分で到着する栄大前駅まではあっという間だった。
ホームを見ると、俺達のような学生らしき人や制服姿の人をちらほらと見かける。もしかしたら、これらの人の多くは栄治大学のオープンキャンパスに向かう人かもしれない。
エスカレーターを降りて駅の構内へ行き、改札を出る。
栄大前という名前だけあって、北口が栄治大学のキャンパスの方だと示す出口案内板があった。その案内に従い、俺達は北口から駅の外に出る。
「栄治大学のキャンパスに向かわれる方は、こちらの道を真っ直ぐ進んでくださーい」
紫紺色の半袖のTシャツを着た若い男性が、『栄大はこっちです!』と矢印付きで書かれたボードを持ちながら、栄治大学への案内をしている。おそらく、あの男性はオープンキャンパススタッフの在学生なのだろう。炎天下での道案内お疲れ様です。
道案内に従って歩くと、紫紺色の半袖のTシャツを着て道案内する若い男女を何人も見かける。
「あの紫紺色のTシャツを着ている人がスタッフさんみたいだね。『STAFF』って白い文字でプリントされてるし」
「ああ。それに、何人も着ているもんな。愛実がコンサートの物販バイトをしたときのことを思い出した」
「私もバイトを思い出した。あのシャツ、バイト代でもらえるのかな」
「気になるのそこかよ」
ははっ、と思わず笑い声が漏れてしまう。俺のそんな反応に愛実も「うん」と返事して、楽しそうな声を出して笑う。機嫌を損ねてはいないようで安心した。
愛実はコンサートの物販スタッフのバイトを3日間して、バイト中に着ていたスタッフ専用のTシャツを3日分もらった。イベントの種類は違うけど、スタッフ用のTシャツがもらえるかどうかが気になったのだろう。
それからも、オープンキャンパススタッフによる道案内に従って歩いていき、俺達は栄治大学のキャンパスの入口に到着した。
「着いたね! 結構近かったね」
「ああ。駅から5分くらいだし、さすがは栄大前っていう名前だけのことはある」
「それ言えてる。……それにしても、大学のキャンパスって凄いね!」
「そうだな」
目を輝かせ、ちょっと興奮した様子で敷地内を眺める愛実。可愛いな。
正門からでも、調津高校の校舎よりもかなり大きな建物がいくつも見える。どれも綺麗で、落ち着いた雰囲気の外観だ。
また、広大な敷地内には青々と茂った木が等間隔で植え込まれている。いくつかの植木の下にはベンチが置かれている。それもあって、ゆったりとした雰囲気も感じられる。また、オープンキャンバスだからか、受付やキャンバスの場所の案内板がいくつも設置されている。
――カシャッ。
すぐ近くからシャッター音が聞こえる。その方を向くと……愛実がここからのキャンパスの全景をスマホで撮影していた。凄いと言うほどだし、写真に収めたいと思ったのかも。俺も真似して、ここから見える風景をスマホで撮影した。
「リョウ君も撮ったんだ」
「いい風景だからな」
「そっか。……受付に行こうか」
「ああ」
俺達は案内板やキャンパススタッフの案内に従って、第一校舎と呼ばれる一番大きな建物の中に入っていく。吹き抜けになっていて開放感があるな。こういうところは高校までの校舎にはないから新鮮だ。愛実も「わあっ」と可愛らしい声を漏らす。
入口の近くに受付があるので、俺達は受付を済ませる。その際、スタッフの女子学生から今日のオープンキャンパスのリーフレットをもらった。
リーフレットを見ると、模擬授業や在学生によるイベントの予定表、このキャンパスの簡単な地図などが記載されている。事前に、スマホで見た特設ページの内容から変更はなさそうだ。
「えっと、確か……愛実は文学部の日本文学専攻と法学部の模擬授業を受けたいって言っていたよな」
「うん。タイトルを見て特に面白いなって思ったの。リョウ君はどう?」
「俺もその2つを聞きたいな。面白そうだし」
「じゃあ、一緒に受けようね」
愛実は嬉しそうに言った。そんな愛実を見つめながら俺は頷く。今日は愛実と一緒に模擬授業を受けよう。
リーフレットを見て、2つの学部のそれぞれの模擬授業の時間と実施場所を確認する。
「えっと……文学部が10時半から11時で、法学部は11時半から12時に模擬授業をやるんだな」
「そうだね。じゃあ、文学部、法学部の順番で受けようか。文学部の模擬授業場所は……この第一校舎の地下1階にある001教室だって」
「そうか。10時を過ぎているから、さっそくその教室に行くか」
「うんっ」
俺達は受付を後にする。
リーフレットによると、今いる受付は1階にあるから、階段やエレベーターを使って降りないといけないな。ここのキャンパスに来るのは初めてだから、スタッフTシャツを着ている学生に階段やエスカレーターがどこにあるか訊いてみるか。そう思って周りを見ると、
「文学部日本文学専攻の模擬授業を受けたい方は、こちらの階段から地下1階に降りてくださーい!」
近くにいたスタッフTシャツを着た女子学生がそうアナウンスしてくれる。開始時間も近いし、受講する高校生もたくさんいるから案内してくれるのかな。
俺達は女子学生のアナウンスに従って、階段を使って地下1階に降りる。
模擬授業の会場になっているからか、『001教室はこちら』とプリントされた紙が随所に壁に貼られている。
「これなら迷わずに行けそうだね」
「ああ。初めて来るから安心だよ」
「そうだね」
愛実はいつもの可愛い笑顔を浮かべながらそう言う。
愛実が笑顔で歩いているのもあってか、男性中心にこちらを見てくる人が多い。ただ、俺と手を繋いでいるから、愛実に声を掛けようとする人はいない。愛実が大学に入学したら、男子中心に注目を浴びる存在になりそうだ。
「日本文学専攻の模擬授業の会場はこちらの教室でーす。受講する方はこの教室に入って、入口近くのテーブルに置いてある資料を1部ずつ取ってください」
と、スタッフTシャツを来た男子学生がアナウンスしてくれる。無事に模擬授業の会場の前まで到着できてほっとした。
俺達は001教室の中に入る。
個人的に大学の教室というと階段教室のイメージが強いけど、ここは階段ではない教室だ。ただ、高校までの教室よりもかなり広く、座席も一人一人の机と椅子ではなく、3人用の長テーブルが4列の形でたくさん並んでいる。だから、高校までとは違った雰囲気を感じる。
「階段教室じゃないけど、高校までとは違った感じの教室だね。結構広いし」
「愛実もそう思ったか。あと、大学といえば階段教室のイメージだよな」
「だよね」
こういうことでも、愛実と考えているのが重なるのは嬉しいな。
入口近くの長テーブルに置いてある資料を一部手に取った。
さてと、どこに座ろうか。模擬授業まであと15分ほどだから、既に結構な数の人が来ている。ただ、前だと緊張するのか、真ん中から後ろの席に座っている人が多い。
「愛実、どこに座ろうか? 前の方は結構空いているけど」
「前の方でかまわないよ」
俺達は前から5列目のスクリーンが正面に見える長テーブルの座席に座る。テーブルに配布資料と筆記用具を置く。
「こうしていると、本当にここの学生になったみたいだよね」
「そうだな。そういう感覚を味わえるのを含めて模擬授業なのかもな」
「それ言えてる」
楽しげな様子で愛実はそう言った。
模擬授業ももうすぐなので、配布資料をペラペラとめくる。どうやら、パワーポイントを印刷したもののようだ。
席に座ってから数分ほど経つと、トートバッグを持った半袖のワンピース姿の女性が教室に入り、教壇の前に立った。スタッフTシャツを着ているような女性達よりも大人っぽい雰囲気がある。あの女性が、模擬授業を担当される教授や准教授なのだろうか。母さんや真衣さんよりも若そうな人だけど。
模擬授業開始時刻の午前10時半となる。ワンピース姿の女性はマイクを持って、俺達の方を向く。
『みなさん、こんにちは。今日は栄治大学文学部の日本文学専攻の模擬授業を受けに来てくださりありがとうございます。私、文学部教授の斎藤と申します』
ワンピースの女性……斎藤教授は柔らかな笑顔でそう語る。やはり、あの人はこの大学の教授だったか。
教授の自己紹介が終わり、さっそく模擬授業が始まる。テーマは『近代文学におけるオノマトペ』。
オノマトペとはざっくり言えば物事の状態や動きなどを、音として表現する言葉のことだ。小説や漫画、ラノベなどはもちろん、普段の日常会話でも使っているため、この模擬授業は結構面白く感じる。
予想通り、配布資料はスクリーンに映し出されたパワーポイントを印刷したもの。なので、教授が話したことを、資料に適宜書き込むことに。
模擬授業も面白いけど、隣に座っている愛実のことをたまに見てしまう。スクリーンを真剣に見たり、資料にメモしたりしているから、愛実が大学生のように見えて。その姿が大人っぽくてドキッとする。また、愛実と目が合うと彼女は微笑んできて。
愛実と一緒の大学に通うようになったら、こういう感じで講義を受けるのだろうか。そう思いながら、模擬授業を受けていった。
『以上で模擬授業は終わります。ありがとうございました。もし、文学が面白いと思ったり、興味が出たりしたら文学部を受験してくださいね。本学の学生となったみなさんと会えるのを楽しみにしています』
という締めで、文学部日本文学専攻の模擬授業が終わった。
オノマトペは身近にあるものだし、国語や現代文の教科書にも出てくる文豪の作品も紹介されたから、あっという間の30分だったな。
「結構面白くてあっという間に終わったね」
「ああ。模擬授業とはいえ、もっと堅い雰囲気かと思ったんだけど、結構楽しかったな」
「私達も使う言葉のことだし、学校の授業でやった作品の紹介もあったからね」
「そうだな」
「それと……リョウ君と隣同士に座って模擬授業を受けられたのも楽しかったよ。この前のあおいちゃんみたいに教科書を忘れたとき以外は、こうやって隣同士に座るのは小学生以来だから。あと、リョウ君と同じ大学に通ったら、こういう日々を送るのかなって思ってた。たまにリョウ君の方を見ていたんだ」
えへへっ、と愛実は頬をほんのりと赤らめながら笑う。その姿が可愛らしいのと、同じようなことを考えていたのもあってキュンとする。頬がちょっと熱くなってきた。
「俺も同じようなことを考えながら、愛実の方を何度か見てた。同じ大学に通ったらこんな感じなのかなって」
「そうだったんだ。リョウ君と目が合ったのが嬉しかったよ」
「……そうか」
授業中に目が合ったときに微笑んでいたとはいえ、目が合うと嬉しいと言われると俺も嬉しい気持ちになる。気付けば頬が緩んでいた。また、そんな俺を見て、愛実の口角が上がっていった。
「次は法学部の模擬授業か」
「そうだね。始まるまで30分あるけど、初めて来たところだからもう行こうか」
「そうだな」
筆記用具や配付資料をトートバッグに入れ、俺は愛実と手を繋いで001教室を後にする。
リーフレットによると、法学部の模擬授業の会場は第二校舎の1階にある大教室1。別の校舎なので、とりあえずはさっき歩いたところを戻って、1階の受付まで戻った。
スタッフTシャツを着た男子学生に第二校舎がどこかを聞くと、校舎を出て右側にある白い外観の建物が第二校舎とのこと。
男子学生スタッフにお礼を言って、俺達は第一校舎の外に出る。涼しい建物の中にいたから結構暑いな……と思いながら右側を向くと、白い外観の大きな建物が見える。
「あそこが第二校舎か」
「そうだね、行こうか」
「ああ」
第二校舎に向かって歩き始める。
敷地内にいるからこそ、今までいた第一校舎と、これから行く第二校舎がとても大きいと実感できる。それ以外の校舎も大きくて。今歩いている広場も開放的な雰囲気があって。高校までの校舎とは本当に違うな。
暑い中歩いているけど、愛実はとても楽しそうな雰囲気だ。
「凄く楽しそうだな、愛実」
「うんっ。授業ごとに、こうして荷物を持って移動するのも大学生みたいだなって」
「確かに。高校まではクラスの教室っていう拠点があって、授業を担当する先生が教室に来てくれるもんな。俺達が移動するのは体育とか一部の授業で、その授業に必要なものだけを持って移動するし」
「でしょう? だから、新鮮で楽しいの。キャンパスの雰囲気もいいし」
「そうか」
今の愛実との会話もあり、暑い中歩くのも悪くないと思えるように。
第一校舎を出たところから見えるほどなので、第二校舎の入口まではすぐだった。
第二校舎に入ると……第一校舎よりも落ち着いた雰囲気だ。
先ほどの001教室と同様で、『大教室1はこちら』とプリントされた紙が貼られている。その案内に従って歩いていくと、
「こちらの大教室1で、午前11時半から法学部法律学科の模擬授業を行ないまーす。興味のある方は是非、来てくださーい」
と、スタッフTシャツを着た女子学生が、大教室1の入口前で呼びかけていた。1階だけあって、第二校舎に入ったらすぐに辿り着けたな。
大教室1の近くにお手洗いがあったので、それぞれお手洗いを済ませてから大教室1の中に入った。
「おおっ……」
「凄いね……」
大教室1は001教室よりも広くて、しかも階段教室。なので、教室の中に入ってすぐに自然とそんな声が漏れた。
「あったな、階段教室」
「そうだねっ。まさに大学って感じだね」
そう話す愛実の声は弾んでおり、ワクワクとした笑みが浮かんでいて。これぞ大学って感じの教室に来られたから歓喜しているのかも。可愛いな。
入口近くの長テーブルには資料が置かれており、『法学部法律学科の模擬授業を受ける方は1部取ってください』と書かれた紙が貼られている。さっきと同じで、説明用のスライドを印刷したものだろうか。そう思いながら俺達は資料を1部手に取った。
教室内を見ると……まだ20分ほど前だけど、席に座っている人もそこそこいる。座っている場所は先ほどと同様に真ん中から後ろ側が多い。
「どこに座ろうか、愛実」
「さっきと同じで、前から5列目くらいでいいんじゃない? 空いているし」
「そうだな」
教室内の階段を上がっていき、前から5列目の長テーブルの席に愛実と隣同士に座る。さっきと同じく、前方にあるスクリーンが正面に見える場所だ。
「5列目でも少し高さを感じるな」
「そうだね。階段教室の席に座るとこんな感じなんだ。こういうのも新鮮だね」
「高校までの校舎にはなかったからな」
さっきの模擬授業よりも、大学の授業を受けている感じがしそうだな。
それからは、配付資料をペラペラとめくって内容を予習したり、愛実とさっき受けた文学部の模擬授業の話をしたりして時間を潰す。
開始時間の直前になり、スーツのワイシャツ姿の男性が大教室の中に入り、前方の教壇のところでノートパソコンを開き始めた。おそらく、あの男性が模擬授業を担当する方なのだろう。
開始予定時間の11時半となり、
『では、11時半ですので模擬授業を始めましょう。私、法学部法律学科教授の山本といいます。よろしくお願いします』
ワイシャツ姿の男性がそう自己紹介して、模擬授業が始まった。
模擬授業のテーマは『SNSと法律について』。日頃、LIMEを中心にSNSを使うので、この授業もなかなか面白く感じる。スクリーンに映るスライドを印刷した配付資料に、教授の話した内容をメモ書きしていく。
また、さっきと同じで、隣に座る愛実のことをたまに見てしまう。愛実は模擬授業を真剣に聞いていて。たまに、俺と目が合って微笑みかけてくれるときもあって。それらの愛実の姿がとても素敵で。
こうして、愛実と隣同士に座って大学の授業を受けることは、あり得る未来の一つなんだよな。そう思いながら、俺は模擬授業を受けるのであった。
ホームを見ると、俺達のような学生らしき人や制服姿の人をちらほらと見かける。もしかしたら、これらの人の多くは栄治大学のオープンキャンパスに向かう人かもしれない。
エスカレーターを降りて駅の構内へ行き、改札を出る。
栄大前という名前だけあって、北口が栄治大学のキャンパスの方だと示す出口案内板があった。その案内に従い、俺達は北口から駅の外に出る。
「栄治大学のキャンパスに向かわれる方は、こちらの道を真っ直ぐ進んでくださーい」
紫紺色の半袖のTシャツを着た若い男性が、『栄大はこっちです!』と矢印付きで書かれたボードを持ちながら、栄治大学への案内をしている。おそらく、あの男性はオープンキャンパススタッフの在学生なのだろう。炎天下での道案内お疲れ様です。
道案内に従って歩くと、紫紺色の半袖のTシャツを着て道案内する若い男女を何人も見かける。
「あの紫紺色のTシャツを着ている人がスタッフさんみたいだね。『STAFF』って白い文字でプリントされてるし」
「ああ。それに、何人も着ているもんな。愛実がコンサートの物販バイトをしたときのことを思い出した」
「私もバイトを思い出した。あのシャツ、バイト代でもらえるのかな」
「気になるのそこかよ」
ははっ、と思わず笑い声が漏れてしまう。俺のそんな反応に愛実も「うん」と返事して、楽しそうな声を出して笑う。機嫌を損ねてはいないようで安心した。
愛実はコンサートの物販スタッフのバイトを3日間して、バイト中に着ていたスタッフ専用のTシャツを3日分もらった。イベントの種類は違うけど、スタッフ用のTシャツがもらえるかどうかが気になったのだろう。
それからも、オープンキャンパススタッフによる道案内に従って歩いていき、俺達は栄治大学のキャンパスの入口に到着した。
「着いたね! 結構近かったね」
「ああ。駅から5分くらいだし、さすがは栄大前っていう名前だけのことはある」
「それ言えてる。……それにしても、大学のキャンパスって凄いね!」
「そうだな」
目を輝かせ、ちょっと興奮した様子で敷地内を眺める愛実。可愛いな。
正門からでも、調津高校の校舎よりもかなり大きな建物がいくつも見える。どれも綺麗で、落ち着いた雰囲気の外観だ。
また、広大な敷地内には青々と茂った木が等間隔で植え込まれている。いくつかの植木の下にはベンチが置かれている。それもあって、ゆったりとした雰囲気も感じられる。また、オープンキャンバスだからか、受付やキャンバスの場所の案内板がいくつも設置されている。
――カシャッ。
すぐ近くからシャッター音が聞こえる。その方を向くと……愛実がここからのキャンパスの全景をスマホで撮影していた。凄いと言うほどだし、写真に収めたいと思ったのかも。俺も真似して、ここから見える風景をスマホで撮影した。
「リョウ君も撮ったんだ」
「いい風景だからな」
「そっか。……受付に行こうか」
「ああ」
俺達は案内板やキャンパススタッフの案内に従って、第一校舎と呼ばれる一番大きな建物の中に入っていく。吹き抜けになっていて開放感があるな。こういうところは高校までの校舎にはないから新鮮だ。愛実も「わあっ」と可愛らしい声を漏らす。
入口の近くに受付があるので、俺達は受付を済ませる。その際、スタッフの女子学生から今日のオープンキャンパスのリーフレットをもらった。
リーフレットを見ると、模擬授業や在学生によるイベントの予定表、このキャンパスの簡単な地図などが記載されている。事前に、スマホで見た特設ページの内容から変更はなさそうだ。
「えっと、確か……愛実は文学部の日本文学専攻と法学部の模擬授業を受けたいって言っていたよな」
「うん。タイトルを見て特に面白いなって思ったの。リョウ君はどう?」
「俺もその2つを聞きたいな。面白そうだし」
「じゃあ、一緒に受けようね」
愛実は嬉しそうに言った。そんな愛実を見つめながら俺は頷く。今日は愛実と一緒に模擬授業を受けよう。
リーフレットを見て、2つの学部のそれぞれの模擬授業の時間と実施場所を確認する。
「えっと……文学部が10時半から11時で、法学部は11時半から12時に模擬授業をやるんだな」
「そうだね。じゃあ、文学部、法学部の順番で受けようか。文学部の模擬授業場所は……この第一校舎の地下1階にある001教室だって」
「そうか。10時を過ぎているから、さっそくその教室に行くか」
「うんっ」
俺達は受付を後にする。
リーフレットによると、今いる受付は1階にあるから、階段やエレベーターを使って降りないといけないな。ここのキャンパスに来るのは初めてだから、スタッフTシャツを着ている学生に階段やエスカレーターがどこにあるか訊いてみるか。そう思って周りを見ると、
「文学部日本文学専攻の模擬授業を受けたい方は、こちらの階段から地下1階に降りてくださーい!」
近くにいたスタッフTシャツを着た女子学生がそうアナウンスしてくれる。開始時間も近いし、受講する高校生もたくさんいるから案内してくれるのかな。
俺達は女子学生のアナウンスに従って、階段を使って地下1階に降りる。
模擬授業の会場になっているからか、『001教室はこちら』とプリントされた紙が随所に壁に貼られている。
「これなら迷わずに行けそうだね」
「ああ。初めて来るから安心だよ」
「そうだね」
愛実はいつもの可愛い笑顔を浮かべながらそう言う。
愛実が笑顔で歩いているのもあってか、男性中心にこちらを見てくる人が多い。ただ、俺と手を繋いでいるから、愛実に声を掛けようとする人はいない。愛実が大学に入学したら、男子中心に注目を浴びる存在になりそうだ。
「日本文学専攻の模擬授業の会場はこちらの教室でーす。受講する方はこの教室に入って、入口近くのテーブルに置いてある資料を1部ずつ取ってください」
と、スタッフTシャツを来た男子学生がアナウンスしてくれる。無事に模擬授業の会場の前まで到着できてほっとした。
俺達は001教室の中に入る。
個人的に大学の教室というと階段教室のイメージが強いけど、ここは階段ではない教室だ。ただ、高校までの教室よりもかなり広く、座席も一人一人の机と椅子ではなく、3人用の長テーブルが4列の形でたくさん並んでいる。だから、高校までとは違った雰囲気を感じる。
「階段教室じゃないけど、高校までとは違った感じの教室だね。結構広いし」
「愛実もそう思ったか。あと、大学といえば階段教室のイメージだよな」
「だよね」
こういうことでも、愛実と考えているのが重なるのは嬉しいな。
入口近くの長テーブルに置いてある資料を一部手に取った。
さてと、どこに座ろうか。模擬授業まであと15分ほどだから、既に結構な数の人が来ている。ただ、前だと緊張するのか、真ん中から後ろの席に座っている人が多い。
「愛実、どこに座ろうか? 前の方は結構空いているけど」
「前の方でかまわないよ」
俺達は前から5列目のスクリーンが正面に見える長テーブルの座席に座る。テーブルに配布資料と筆記用具を置く。
「こうしていると、本当にここの学生になったみたいだよね」
「そうだな。そういう感覚を味わえるのを含めて模擬授業なのかもな」
「それ言えてる」
楽しげな様子で愛実はそう言った。
模擬授業ももうすぐなので、配布資料をペラペラとめくる。どうやら、パワーポイントを印刷したもののようだ。
席に座ってから数分ほど経つと、トートバッグを持った半袖のワンピース姿の女性が教室に入り、教壇の前に立った。スタッフTシャツを着ているような女性達よりも大人っぽい雰囲気がある。あの女性が、模擬授業を担当される教授や准教授なのだろうか。母さんや真衣さんよりも若そうな人だけど。
模擬授業開始時刻の午前10時半となる。ワンピース姿の女性はマイクを持って、俺達の方を向く。
『みなさん、こんにちは。今日は栄治大学文学部の日本文学専攻の模擬授業を受けに来てくださりありがとうございます。私、文学部教授の斎藤と申します』
ワンピースの女性……斎藤教授は柔らかな笑顔でそう語る。やはり、あの人はこの大学の教授だったか。
教授の自己紹介が終わり、さっそく模擬授業が始まる。テーマは『近代文学におけるオノマトペ』。
オノマトペとはざっくり言えば物事の状態や動きなどを、音として表現する言葉のことだ。小説や漫画、ラノベなどはもちろん、普段の日常会話でも使っているため、この模擬授業は結構面白く感じる。
予想通り、配布資料はスクリーンに映し出されたパワーポイントを印刷したもの。なので、教授が話したことを、資料に適宜書き込むことに。
模擬授業も面白いけど、隣に座っている愛実のことをたまに見てしまう。スクリーンを真剣に見たり、資料にメモしたりしているから、愛実が大学生のように見えて。その姿が大人っぽくてドキッとする。また、愛実と目が合うと彼女は微笑んできて。
愛実と一緒の大学に通うようになったら、こういう感じで講義を受けるのだろうか。そう思いながら、模擬授業を受けていった。
『以上で模擬授業は終わります。ありがとうございました。もし、文学が面白いと思ったり、興味が出たりしたら文学部を受験してくださいね。本学の学生となったみなさんと会えるのを楽しみにしています』
という締めで、文学部日本文学専攻の模擬授業が終わった。
オノマトペは身近にあるものだし、国語や現代文の教科書にも出てくる文豪の作品も紹介されたから、あっという間の30分だったな。
「結構面白くてあっという間に終わったね」
「ああ。模擬授業とはいえ、もっと堅い雰囲気かと思ったんだけど、結構楽しかったな」
「私達も使う言葉のことだし、学校の授業でやった作品の紹介もあったからね」
「そうだな」
「それと……リョウ君と隣同士に座って模擬授業を受けられたのも楽しかったよ。この前のあおいちゃんみたいに教科書を忘れたとき以外は、こうやって隣同士に座るのは小学生以来だから。あと、リョウ君と同じ大学に通ったら、こういう日々を送るのかなって思ってた。たまにリョウ君の方を見ていたんだ」
えへへっ、と愛実は頬をほんのりと赤らめながら笑う。その姿が可愛らしいのと、同じようなことを考えていたのもあってキュンとする。頬がちょっと熱くなってきた。
「俺も同じようなことを考えながら、愛実の方を何度か見てた。同じ大学に通ったらこんな感じなのかなって」
「そうだったんだ。リョウ君と目が合ったのが嬉しかったよ」
「……そうか」
授業中に目が合ったときに微笑んでいたとはいえ、目が合うと嬉しいと言われると俺も嬉しい気持ちになる。気付けば頬が緩んでいた。また、そんな俺を見て、愛実の口角が上がっていった。
「次は法学部の模擬授業か」
「そうだね。始まるまで30分あるけど、初めて来たところだからもう行こうか」
「そうだな」
筆記用具や配付資料をトートバッグに入れ、俺は愛実と手を繋いで001教室を後にする。
リーフレットによると、法学部の模擬授業の会場は第二校舎の1階にある大教室1。別の校舎なので、とりあえずはさっき歩いたところを戻って、1階の受付まで戻った。
スタッフTシャツを着た男子学生に第二校舎がどこかを聞くと、校舎を出て右側にある白い外観の建物が第二校舎とのこと。
男子学生スタッフにお礼を言って、俺達は第一校舎の外に出る。涼しい建物の中にいたから結構暑いな……と思いながら右側を向くと、白い外観の大きな建物が見える。
「あそこが第二校舎か」
「そうだね、行こうか」
「ああ」
第二校舎に向かって歩き始める。
敷地内にいるからこそ、今までいた第一校舎と、これから行く第二校舎がとても大きいと実感できる。それ以外の校舎も大きくて。今歩いている広場も開放的な雰囲気があって。高校までの校舎とは本当に違うな。
暑い中歩いているけど、愛実はとても楽しそうな雰囲気だ。
「凄く楽しそうだな、愛実」
「うんっ。授業ごとに、こうして荷物を持って移動するのも大学生みたいだなって」
「確かに。高校まではクラスの教室っていう拠点があって、授業を担当する先生が教室に来てくれるもんな。俺達が移動するのは体育とか一部の授業で、その授業に必要なものだけを持って移動するし」
「でしょう? だから、新鮮で楽しいの。キャンパスの雰囲気もいいし」
「そうか」
今の愛実との会話もあり、暑い中歩くのも悪くないと思えるように。
第一校舎を出たところから見えるほどなので、第二校舎の入口まではすぐだった。
第二校舎に入ると……第一校舎よりも落ち着いた雰囲気だ。
先ほどの001教室と同様で、『大教室1はこちら』とプリントされた紙が貼られている。その案内に従って歩いていくと、
「こちらの大教室1で、午前11時半から法学部法律学科の模擬授業を行ないまーす。興味のある方は是非、来てくださーい」
と、スタッフTシャツを着た女子学生が、大教室1の入口前で呼びかけていた。1階だけあって、第二校舎に入ったらすぐに辿り着けたな。
大教室1の近くにお手洗いがあったので、それぞれお手洗いを済ませてから大教室1の中に入った。
「おおっ……」
「凄いね……」
大教室1は001教室よりも広くて、しかも階段教室。なので、教室の中に入ってすぐに自然とそんな声が漏れた。
「あったな、階段教室」
「そうだねっ。まさに大学って感じだね」
そう話す愛実の声は弾んでおり、ワクワクとした笑みが浮かんでいて。これぞ大学って感じの教室に来られたから歓喜しているのかも。可愛いな。
入口近くの長テーブルには資料が置かれており、『法学部法律学科の模擬授業を受ける方は1部取ってください』と書かれた紙が貼られている。さっきと同じで、説明用のスライドを印刷したものだろうか。そう思いながら俺達は資料を1部手に取った。
教室内を見ると……まだ20分ほど前だけど、席に座っている人もそこそこいる。座っている場所は先ほどと同様に真ん中から後ろ側が多い。
「どこに座ろうか、愛実」
「さっきと同じで、前から5列目くらいでいいんじゃない? 空いているし」
「そうだな」
教室内の階段を上がっていき、前から5列目の長テーブルの席に愛実と隣同士に座る。さっきと同じく、前方にあるスクリーンが正面に見える場所だ。
「5列目でも少し高さを感じるな」
「そうだね。階段教室の席に座るとこんな感じなんだ。こういうのも新鮮だね」
「高校までの校舎にはなかったからな」
さっきの模擬授業よりも、大学の授業を受けている感じがしそうだな。
それからは、配付資料をペラペラとめくって内容を予習したり、愛実とさっき受けた文学部の模擬授業の話をしたりして時間を潰す。
開始時間の直前になり、スーツのワイシャツ姿の男性が大教室の中に入り、前方の教壇のところでノートパソコンを開き始めた。おそらく、あの男性が模擬授業を担当する方なのだろう。
開始予定時間の11時半となり、
『では、11時半ですので模擬授業を始めましょう。私、法学部法律学科教授の山本といいます。よろしくお願いします』
ワイシャツ姿の男性がそう自己紹介して、模擬授業が始まった。
模擬授業のテーマは『SNSと法律について』。日頃、LIMEを中心にSNSを使うので、この授業もなかなか面白く感じる。スクリーンに映るスライドを印刷した配付資料に、教授の話した内容をメモ書きしていく。
また、さっきと同じで、隣に座る愛実のことをたまに見てしまう。愛実は模擬授業を真剣に聞いていて。たまに、俺と目が合って微笑みかけてくれるときもあって。それらの愛実の姿がとても素敵で。
こうして、愛実と隣同士に座って大学の授業を受けることは、あり得る未来の一つなんだよな。そう思いながら、俺は模擬授業を受けるのであった。
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