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最終章

第21話『幼馴染の母親達がアピールしてくる件』

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 7月26日、火曜日。
 今日も朝からよく晴れており、最高気温は35度と猛暑日予想。この先しばらくは晴れてとても暑い日が続くらしい。梅雨明け十日とはよく言ったものだ。
 今日は午前9時から午後3時までサリーズでバイト。6時間と長めのシフトだけど、涼しい店内での仕事だし、夏休み中で結構多くのお客様が来店された。なので、バイトが終わるまであっという間だった。
 シフト通りの午後3時にバイトが終わり、家に帰る前にアニメイクへ向かった。漫画やラノベの新刊コーナーを見ると、読んでいる日常系漫画の最新巻と、好きなラノベ作家のラブコメの新作が陳列されていたので、その2冊を購入した。
 漫画やラノベを買えたので、俺は帰路に就く。
 今は午後3時半過ぎだけど……まだまだ暑いな。さすがに猛暑日になると予想されていただけのことはある。早く家に帰って、涼しい自分の部屋でゆっくりしたい。気付けば、家に向かう足取りが速くなっていた。

「ただいま」

 外に比べると、家の中はちょっとだけ涼しい。ただ、立ち止まったからか、急に汗が出てきた。
 持っているタオルハンカチで汗を拭いていると、土間に女性もののパンプスがいくつもあることに気付いた。そのうちの何足かは見覚えがある。
 そういえば、リビングやキッチンの方から、女性と思われる何人もの話し声や笑い声が聞こえてきて。その中には馴染みのある声も。何人もお客さんが来ているし、一言挨拶しておこう。
 汗が出なくなったので、家に上がってリビングの扉を開ける。

「おかえり、涼我。バイトお疲れ様」
「おかえりなさい、涼我君!」
「リョウ君、おかえり」
「おかえり。バイトお疲れ様、涼我君」
「おかえり、涼我君。お疲れ様」

 リビングに入ると、母さん、あおい、愛実、麻美さん、真衣さんが笑顔でそんな言葉を掛けてくれた。どうやら、5人は紅茶やクッキー、マシュマロを楽しんでいるようだ。
 土間にあるパンプスに見覚えがあったり、馴染みのある声が聞こえたりしたのは、お客さんが桐山母娘と香川母娘だからだったのか。

「母さん、ただいま。バイトしてきたよ。あと、みなさんいらっしゃい」

 俺がそう言うと、桐山母娘と香川母娘が『お邪魔してま~す』と言ってきた。事前に打ち合わせでもしていたのか、見事に声が揃っている。

「えっと……お茶会ですか。午後ですし、飲んでいるのは紅茶ですからヌン活ですか」
「ううん、女子会よ、涼我」
「女子会」

 母さんが楽しげに女子会なんて言ってくるから、思わずオウム返しのように言ってしまった。

「うん、女子会。お母さん3人はみんな午後の予定が空いていてね。愛実ちゃんとあおいちゃんは、あおいちゃんの家で午前中から夏休みの課題をしていたの。麻美さんを誘ったら、2人も参加したいって言ってくれてね。だから、5人でこうして女子会を楽しんでいるの」
「そ、そうなのか」

 過半数が母親だけど、女子高生のあおいと愛実がいるから、女子会といってもおかしくはない……のかな? まあ、麻美さんと真衣さんも高校生の娘がいるとは思えないほどに若々しいし、母さんも……息子の目から見ても、同年代の女性より若く見える。息子と同い年の幼馴染女子2人と話して気持ちも若返り、女子会と言っているのかもしれない。そう考えたら、この面子で『女子会』と称すことの違和感もなくなってきた。

「涼我があおいちゃんだけじゃなくて、愛実ちゃんからも告白されたから、恋バナとかで盛り上がっているわ」
「愛実ちゃんとあおいから涼我君の話を聞いたり、お母さん達が主人との出会いから付き合っている間までの話をしたりしてね」
「あおいちゃんと愛実もいますから、本当に気持ちが若返りますよね」

 ねー、と母親3人は笑顔で声を揃えて言う。自分の母親も含まれているのにちょっと可愛いと思ってしまう。
 楽しげな母親達とは対照的に、あおいと愛実は……笑みこそ浮かべているけど、ちょっと恥ずかしそうにも見える。母親達に俺絡みのことで色々と訊かれたのだろうか。

「涼我君のことは好きですけど、お母さん達に好きなところを話すのはちょっと恥ずかしかったですね」
「照れくさかったよね、あおいちゃん」
「そ、そうだったんだな」
「あと、お母さん達のそれぞれの恋愛話にはキュンとなりました」
「みんな今でも仲がいいのが納得できたよね」
「そうですね!」

 そう話すと、あおいも愛実も楽しそうな様子に。照れくさかったこともあったようだけど、2人にとっても楽しい女子会になっているようで良かった。
 あと、年代問わず、女性は恋愛話が大好物なのかな。特に自分のことや親しい人の話になると。

「ところで、涼我君」

 麻美さんはそう言うと、クッションから立ち上がって、俺のすぐ側まで近づいてくる。その流れで俺の右腕をそっと抱きしめてきた。その瞬間、あおいと愛実が「えっ」と声を漏らす。

「あ、麻美さん?」
「いつか、涼我君にはあおいと結婚して、あたしの義理の息子になってほしいなぁ。涼我君、すっごくいい子だし。あおいが大人になったら、あたしみたいになるかもしれないわよ? 親戚やママ友からは、あおいはあたしと雰囲気が似ているって言われることもあるし」

 そう話すと、麻美さんは上目遣いで俺のことを見つめてくる。
 明るい雰囲気とか綺麗な顔立ちは、まさにあおいの母親と言える。あおいが大人になったら麻美さんのような感じになりそうな気がする。

「ふふっ、それなら私だって」

 真衣さんは穏やかな笑顔でそう言うと、麻美さんと同じくクッションから立ち上がり、俺の左腕を抱きしめてくる。麻美さんに対抗しているのだろうか。

「涼我君には愛実と結婚してもらって、私の義理の息子になってもらいたいな。涼我君はとてもいい子だし、愛実と私の肩凝りを解消してくれるし。私だって親戚やママ友から、愛実と似ているとか姉妹みたいだって言われるのよ。だから、愛実の大人になった姿の参考にしてくれたら嬉しいな」

 真衣さんはそう話すと、俺の左腕を抱く力を強くして、俺のこと見上げてくる。
 真衣さんと愛実も雰囲気の似た親子だと思う。柔らかな雰囲気とか可愛らしい顔立ちとか。あとは……か、かなり大きな胸とか。愛実が大人になったら、真衣さんのようになるんだろうなと思わせてくれる。
 それにしても、麻美さんも真衣さんも腕をしっかりと抱きしめてくるから、どちらの腕も優しい温もりに包まれていて。胸なのか柔らかなものもしっかり当たっているし。どちらからも甘い匂いが香ってきて。幼馴染の母親達なのに、ちょっとドキッとするよ。

「愛実ちゃんも可愛くて素敵な子だけど、うちのあおいの方が涼我君にお似合いだと思うよ。10年ぶり再会したけどそう思う」
「あおいちゃんだって可愛くて素敵な子だけど、愛実の方が涼我君の恋人や妻によりお似合いだと思うわ。10年間ずっと隣に住んでいてそう思うわ」
「いえっ、あおいの方がお似合いですよ」
「愛実の方がお似合いですって」

 麻美さんと真衣さんはそう言い合うと、それぞれ俺の腕を引っ張ってくる。2人とも楽しそうな雰囲気だけど、これがいわゆる修羅場ってやつなのかな?
 まさか、幼馴染の母親達に腕を引っ張られる展開になるとは。さてどうしたものか。

「母親同士でバトルする展開になるとは思いませんでした」
「私もだよ」

 あおいと愛実が苦笑いしながら俺達のことを見ている。

「えっと、その……参考にしますね。ただ、麻美さんも真衣さんも魅力的ですから、より迷っちゃうかもしれないですね」
「あらぁ……」
「涼我くぅん……」

 正直な気持ちを伝えると、俺の腕の引っ張るのが止まり、麻美さんも真衣さんもうっとりとした様子で俺のこと見つめてくる。

「今の言葉にちょっとキュンってきちゃった」
「私もです。愛実がずっと好きなのも納得です」
「あおいが惚れるのにも納得しました。……あたしも恋人候補になりたくなっちゃう」
「私も。ちなみに、幼馴染のお母さんってどう思う?」
「お、お母さんっ! なってはダメですよ! お父さんがいるんですから!」
「お母さんもだよ! 不倫、絶対、ダメっ!」

 あおいと愛実は怒った表情で言うと、それぞれ自分の母親を俺から引き離した。2人がここまで怒った様子を見せるのは初めてかもしれない。

「ふふっ、ならないわよ、あおい。不倫になっちゃうし、あおいと争うことになっちゃうもの」
「私もよ、愛実。涼我君の言葉にキュンとなったから、冗談で言っちゃったの」
「あたしもよ」
「冗談で良かったですよ……」
「ほっとしたけど、こういう冗談はつかないでほしいよ、お母さん」
「ごめんね、あおい」
「愛実、ごめんなさい」

 麻美さんと真衣さんは苦笑いでそう言った。そんな2人を見てか、あおいと愛実はほっと胸を撫で下ろしていた。
 麻美さんと真衣さんから恋人候補になりたいと言われたときは驚いたけど、2人とも冗談で本当に良かった。あのうっとりとした表情で言われたら本気なんじゃないかと思ったけど。

「ただ、あおいを選んで結婚して、義理の息子になってほしいのは本当よ」
「私もよ、涼我君」
「ふふっ。私から見ると、あおいちゃんも愛実ちゃんもお似合いだと思いますよ。ただ、涼我は絶賛迷い中のようですし、とりあえず、我々親達はすぐ近くから3人を見守っていましょう」

 母さんは落ち着いた笑顔でそう話す。そんな母さんの言葉に、麻美さんと真衣さんは「そうですね」と納得した様子で頷いていた。
 麻美さんも真衣さんも俺のことを義理の息子にしたいと思ってくれるのは嬉しい。あおいと愛実のことを、より考えていかないとなって思わせてくれる。
 今は女子会中ということで、男の俺はリビングを後にして、自分の部屋に戻る。
 エアコンのスイッチを入れて、部屋を涼しくする中でこれから何をして過ごそうか考えていたら、あおいと愛実が俺の部屋にやってきた。まだ夕方だし、俺と一緒にいたいのだという。可愛い幼馴染達だ。
 昨日の深夜に録画したアニメをまだ観ていない。その中にはあおいも愛実も観ているアニメがある。なので、一緒にその作品を観るかと誘うと、2人は喜んで賛成してくれた。
 それからは3人で昨日の深夜に放送されたアニメを観始める。その際、あおいと愛実に挟まれる形でクッションに座り、右からは愛実、左からはあおいに寄り添われて。2人同時に寄り添われるのは初めてなので、2人のことが気になってしまい、アニメを観るのに集中できなかった。
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