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最終章

第7話『あおいとのお家デート-後編-』

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 お昼ご飯を食べ終わり、昨日と同じように俺が志願して、お昼ご飯の後片付けをすることになった。
 俺は鍋や食器を洗い、ふきんで拭くところまでを行なう。ただ、これらがどの場所に閉まってあるかは分からないので、元の場所に戻すのはあおいの役目に。だからか、

「共同作業って感じでいいですね!」

 と、あおいはかなり機嫌が良かった。家事を一緒にやっていると、生活感が出て同棲気分を味わえるのかもしれない。
 後片付けが終わった後は、あおいと一緒に彼女の部屋に戻る。その際、あおいは自分と俺の分のアイスティーの入ったマグカップを持って。
 昨日の深夜に放送された、ラノベ原作の女性主人公の異世界ファンタジーのアニメを観ることに。その際、あおいとは隣同士でクッションに座って。しかも、あおいが軽く俺に寄り掛かり、頭を俺の肩にそっと乗せてきて。こんな体勢は今までに一度もなかった。好きだと告白したし、俺と寄り添う体勢で観たいのだろう。

「こういう体勢で観てもいいですか?」

 上目遣いで俺を見つめながら、あおいは問いかけてくる。そのことにキュンとなって。あおいの温もりや柔らかさ、甘い匂いも感じられるので、心臓を中心に熱が全身へと広がり始める。

「ああ。いいぞ」
「ありがとうございますっ」

 あおいは嬉しそうにお礼を言ってくれる。そんなあおいも可愛くて。
 俺はあおいと寄り添った体勢でアニメを観始める。昼食を食べた直後なので、あおいの淹れてくれたアイスティーを飲みながら。体が熱くなってきているので、アイスティーの冷たさに癒やされていく。
 今観ている作品は、俺はタイトルだけ知っており、アニメで初めて内容に触れる。ただ、あおいは原作も持っていて、昨日の深夜にもリアルタイムで観たとのこと。それもあって、たまに俺に解説したり、このキャラがいいんですよと言ったりしてくれる。そのおかげで、アニメの内容もすんなりと入ってきて結構楽しめている。
 寄り添ってアニメを観るのは初めてだけど、あおいと喋りながら観るのはこれまでと変わらず楽しいな。

「今週の話も本当に面白いですね! 面白いエピソードは何度観ても面白いです!」
「あおいが解説してくれたおかげで俺も楽しかったよ」

 結構楽しめたから、30分があっという間だったな。
 もし、解説がなかったら、あおいと寄り添っていることにドキドキして、アニメの内容がろくに頭に入らなかったかもしれない。

「この作品みたいに、女性が主人公で、男性キャラの多いアニメはあまり観てこなかったけど、結構面白いな」
「この作品は女性中心に人気ですし、女性向けと言う人もいますからね。ただ、涼我君に面白いと思ってもらえて嬉しいです! もしよければ、原作小説や漫画をお貸ししましょうか?」
「じゃあ、漫画の方を後で貸してもらおうかな」
「分かりました!」

 あおいは快活な笑顔でそう言ってくれる。
 このアニメのような作風はあまり慣れていないから、漫画から読んだ方が作品を楽しみやすいかもしれない。それに、過去にも漫画から読み始めて、それが面白かったから原作小説も読むようになった作品はいくつもあるし。

「いやぁ、それにしても、中盤の騎士隊長が主人公を壁に追い詰めて、『俺が守る』って言ったシーンはキュンとしましたね!」
「騎士隊長かっこよかったよな。胸が熱くなった」
「個人的にこの話でのベストシーンだと思います! あと、あのシーンを観て思ったのですが……」

 小さな声でそう言うと、あおいは頬を赤くして俺のことをチラチラと見てくる。いったいどうしたんだろう?

「涼我君に……壁ドンされてみたいなって……」

 あおいは俺の目を見つめながらそう言ってきた。
 壁ドンか。今、あおいと話したシーンを思い出すと……確かに、壁ドンのようにも見えるな。好きな人から一度は壁ドンされてみたいのかも。俺、あおいに壁ドンをしたことないし。

「分かった。壁ドンしてみるか」
「ありがとうございますっ!」

 あおい、凄く嬉しそうにお礼を言ってくれる。相当してほしかったのだと窺える。

「東側の窓の横は何もないので、そこで壁ドンをしてもらえますか。アニメのように、壁ドンしたときには『俺が守る』って言ってもらえると嬉しいです」
「分かった」

 せっかくだから、アニメのシーンの実現をしたいと思っているのかな。前にも、憧れのシーンだからと、幼馴染の俺を起こしに来たことがあったし。あおいの希望を叶えてあげよう。
 あおいはクッションから立ち上がって、東側にある窓の横に立つ。
 俺もクッションから立ち上がり、あおいと向かい合う形に。これから壁ドンをするから、ちょっとドキドキするな。

「では……お願いします」
「ああ」

 アニメの騎士隊長はなかなか強いパワーで、主人公の女子を壁に追い詰めていたな。この家には俺達以外に誰もいないし、多少強く壁を叩いても大丈夫だろう。
 俺はあおいに向かってゆっくり近づく。
 ――ドンッ!
 右手であおいの顔のすぐ側の壁を強めに叩いて、

「俺が守る」

 至近距離であおいのことを見つめながらそう言った。
 あおいから頼まれたこととはいえ、実際に壁ドンすると結構ドキドキする。それに、すぐ目の前にあおいがいて、あおいの甘い匂いが香ってくるから。寄り添ってアニメを観ていたときよりも匂いが濃く感じられる。
 壁ドンされたからか、あおいは見る見るうちに顔が赤くなっていって。ただ、強めに壁を叩いたからか、あおいの目は見開いており、表情が全然ない。
 また、ドキドキしているのか、あおいは「はあっ、はあっ……」と呼吸が荒くなって。そんな彼女の吐息が俺の首から胸元の辺りにかかり、温かく感じられた。

「……初壁ドンでしたし、涼我君が凄くかっこいいですからキュンとして、ドキドキしますね。強く壁を叩いていたので驚きましたが、それを含めて凄く良かったです……!」

 あおいはそう言うと、ようやく俺に向かって笑顔を見せてくれる。強く壁を叩いてまずかったかなと思っていたけど、それを含めて良かったと言ってもらえて安心した。

「あおいが喜んでくれて良かったよ」
「はいっ! 涼我君、ありがとうございますっ!」
「いえいえ」

 あおいに満足してもらえたようで何よりである。
 壁ドンが終わったのであおいから離れようとしたときだった。
 ――ぎゅっ。
 あおいが俺のことをぎゅっと抱いてきたのだ。そのことで体の前面の多くがあおいの前面と触れる形に。胸もしっかり当たっているので、あおいの体がかなり柔らかく感じられて。
 前面はもちろんのこと、背中からもあおいの温もりを感じる。だから、あおいに包まれている感覚になる。あおいの熱を取り込むかのように、体が急激に熱くなっていく。

「あ、あおい……」
「好きな人に壁ドンされて、好きな人が目の前にいますから抱きしめたくなって」

 あおいは甘い声色でそう言い、壁ドンしたときよりもさらに近いところから俺に真っ赤な笑顔を向けてくる。そのことで体がさらに熱くなって。ただ、そんな中でもあおいからの優しい温もりはちゃんと分かった。

「壁ドンされて、抱きしめて……涼我君のことがもっと好きになってます」
「……そうか」
「……涼我君、顔赤いですよ? 体も熱いですし」
「そりゃ、この体勢だとな。あおいにぎゅっと抱きしめられているから、色々と体に当たっているし。む、胸とか」

 正直に言うと、あおいは特に怒る様子はなく、「ふふっ」と上品に笑う。

「愛実ちゃんほど大きくはありませんが、私の胸でも意識してくれるんですね。嬉しいです」
「どうして愛実の名前が出てくるんだ」
「だって、いつも一緒にいる女の子ですから。愛実ちゃんの胸は服越しでもしっかり主張できるほどの大きさですし。そんな胸の持ち主が側にいたら、私の胸には魅力を抱かないかもしれないって思っちゃいますよ」

 上目遣いで俺を見つめながらそう言うあおい。そんなあおいの笑みはちょっと切なげで。
 春休みの段階であおいはDカップで、愛実はFカップだったか。しかも、あおいが愛実の胸の大きさを知るきっかけは、自分のセーラー服を愛実に着せた際、愛実に「胸がキツい」と言ったことからだった。ゴールデンウィークのお泊まりの際にもお風呂で見ているだろうし。そういったことから、自分の胸には魅力がないと思っているのかも。

「そんなことないさ。あおいだってスタイルいいし、胸もなかなか大きいじゃないか。Dカップだったっけ。あおいの胸……魅力的だと思うぞ。そうじゃなきゃ、こんなにも体が熱くなることはないよ」

 あおいの目を見ながらそう言った。あおいの胸について思いの丈を伝えたから恥ずかしさはある。ただ、さっきの切なそうな笑顔を見たら、思いを素直に言うのがいいと思ったのだ。セクハラだろうけど。嫌に思ったら謝らないと。
 あおいは俺を抱きしめる力を強くして、

「……そう思ってもらえていて嬉しいです」

 と、言葉通りの嬉しそうな笑顔でそう言った。そんなあおいの笑顔を見ると、俺も嬉しい気持ちになる。
 あおいは俺の胸に顔を埋めてくる。そのことで俺の胸はかなり温かくなって。

「少しの間、こうしていていいですか? いい匂いですし、温かくて気持ちいいですし」
「ああ、いいよ」
「ありがとうございます」

 それから少しの間、あおいは俺の胸元に顔を埋め続ける。
 あおいに抱きしめ続けられているのもあって、あおいはこの10年でかなり成長したのだと改めて実感する。告白されたのもあり、凄く女性らしさを感じて。そんなことを考えながらあおいの頭を撫でると、ボディーソープの甘い匂いが鼻腔をくすぐった。ただ、その感覚が心地良かった。


 顔を埋め終わった直後は、何とも言えない雰囲気が俺達を包み込んで。お互いに体が熱いからか、あまり言葉を交わさず、マグカップに入ったアイスティーを飲むだけの時間が少し続いた。
 ただ、あおいが、

「クリスのアニメを観ませんか? 涼我君とはまだ観たことのない好きなエピソードがいっぱいあるので」

 と言ってくれたのをきっかけに、一緒にクリスのアニメを観始めた。ただ、クッションで隣同士に座るけど、あおいは俺に寄り添う体勢にはならなかった。
 あおいだけじゃなくて俺も好きなエピソードであるため、段々といつものように話が盛り上がっていく。帰る途中で買ったお菓子を食べ、それが美味しいのもあってか、あおいにいつもの元気な笑顔が戻った。やはり、あおいにはこういった明るい笑顔が一番いい。そんな笑顔を見せるようになると、再び俺に寄り添う体勢を取るようになった。
 クリス中心にアニメをたくさん観て、気付けば午後6時近くになっていた。

「もうこんな時間か」
「楽しかったですから、あっという間でしたね」
「そうだな。そろそろ帰ろうかな。といってもお隣だけど」
「ふふっ。涼我君が家に帰るのはちょっと寂しいですけど、それでもすぐ近くにいると思うと不思議な気持ちになります。好きな人がお隣さんで良かったです」

 あおいは優しい笑顔でそう言う。
 家が隣同士だから、いつでも会おうと思えば会える。だからこそ、少しの寂しさで済んでいるのだろう。

「今日は誘ってくれてありがとう。楽しかったよ。あと、昼ご飯も美味しかった」
「誘って良かったです。私も楽しかったですよ! それに、涼我君に寄り添ってアニメを観られましたし、壁ドンしてもらえましたし、私の胸についての思いも聞けましたからとても幸せな時間でした」

 それらのときのことを思い出しているのか、あおいの頬がほんのりと赤くなっている。そんなあおいを見て、体が少し熱くなった。

「また今日みたいな時間を過ごしたいです」
「そうだな。じゃあ、また明日な」
「はいっ、また明日です!」

 その後、あおいが玄関まで見送ってくれるとのことで、あおいと一緒に部屋を出る。
 1階に降りると、母親の麻美さんが帰ってきたことに気付く。なので、リビングにいる麻美さんに挨拶すると、

「2人とも、お家デートは楽しめた?」

 と、物凄く楽しそうに訊いてきた。あおい曰く、俺に告白したことを日曜日に御両親へ伝えており、今日も俺とお家デートをすると知っていたとのこと。
 俺と一緒に楽しかったと伝え、あおいは「念願の壁ドンしてもらいました!」と嬉しそうに報告していた。そのときの笑顔がとても可愛くて。

「良かったわね、あおい。2人が楽しめたようで何よりだわ」

 と、麻美さんは明るい笑顔で言った。そこからは特に深く訊かれることはなく、ほっとした。
 あおいと麻美さんに見送られる中、俺は桐山家を後にして、帰路に就いた。……といっても、隣だから15秒ほどで自宅に入ったけど。
 あおいとの初めてのお家デートは、これまでのような楽しい時間を過ごしつつも、あおいとの距離が少し縮まった時間になったのであった。
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