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最終章

第6話『あおいとのお家デート-前編-』

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『涼我君! 明日の放課後って予定は空いていますか?』

 夜。
 今日の授業の復習と、明日の授業の予習をしていたら、あおいからLIMEでそんなメッセージが送られてきた。
 明日の放課後も確か……バイトのシフトはなかったはず。そう思ってカレンダーアプリを見ると……明日はバイトを含めて特に予定は書かれていなかった。なので、明日の放課後はフリーだとあおいに返信する。
 トーク画面を開いているのか、俺の返信にすぐに『既読』が付き、

『良かったです! もし良ければ、明日の放課後は私の家でお家デートしませんか? 私が作ったお昼ご飯を一緒に食べて、私の部屋でゆっくりと過ごしたいです。お母さんもパートでいないので2人きりになれますし。さっき、愛実ちゃんと理沙ちゃんとメッセージして。その中で、愛実ちゃんから今日の放課後の話を聞いて、いいなぁと思って』

 という返信が届いた。すぐなのに結構な長文で驚く。
 愛実から今日の放課後のことを聞いたのか。愛実の作ったお昼ご飯を俺と一緒に食べて、前日夜に放送されたアニメや2人とも好きなアニメを観る。肩のマッサージをしてもらう。……思い返すと、あおいが羨ましそうなことばかりだ。だから、自分も家で一緒に過ごしたいと思って、俺に明日の予定を訊いたと。俺が好きだから、それは自然な心境なんだろうけど、可愛いなって思う。

『なるほどな。明日は予定ないし、放課後はあおいの家でデートしようか』

 あおいにそう返信する。
 先ほどと同じように、俺の返信にすぐに『既読』マークが付き、

『はいっ! ちなみに、涼我君は明日のお昼に何を食べたいですか?』

 とメッセージが送られる。まさか、同じ日に2人の幼馴染からお昼ご飯は何を食べたいか訊かれるとは。
 今日のお昼ご飯のそうめんは美味しかったな。明日も蒸し暑くなる予報だから、冷たい麺類を食べたい気分だ。その中でも、これからの時期にピッタリなのは、

『冷やし中華を食べたいな。あおいは冷やし中華って好きか?』

 これまで、ラーメンを含めて麺類を食べることはあったけど、冷やし中華は一緒に食べた記憶がないから。それに、一緒に食べるなら2人とも好きな料理がいいし。今日、愛実と一緒に食べたそうめんは、愛実も俺も好きだったから。

『冷やし中華いいですね! 私、好きですし作れますよ! では、冷やし中華にしましょう!』

 というメッセージがすぐに送られた。あおいも冷やし中華好きか。良かった、あおいの好きな料理で。
 あと、冷やし中華は作れる料理か。これまで食べたあおいの料理は玉子焼きとハンバーグ。愛実と一緒に作ったカレーやサラダ、唐揚げなど。そのどれもが美味しかったので、明日の冷やし中華を楽しみにしよう。その後、あおいと一緒に過ごすことも。



 7月13日、水曜日。
 今日も一部の教科が期末試験の返却と解説だったため、放課後になるまであっという間に感じられた。
 佐藤先生と掃除当番である鈴木とは教室で、1学期最後のキッチン部の活動がある愛実とは渡り廊下がある3階で、陸上部の活動がある道本と海老名さんとは昇降口でそれぞれ別れ、あおいと2人きりになった。

「では、私と2人で一緒に帰りましょうか!」

 あおいはとても元気良くそう言った。これからあおいの家でお家デートだし、俺と2人きりの時間を過ごすからな。それもあってか、あおいは朝からずっと上機嫌だった。
 校舎を出ると、ジメッと蒸し暑い空気が俺達の体を包み込んでいく。お昼に冷やし中華を食べたいとリクエストして正解だったな。
 雨が降っているので、俺はあおいと相合い傘をすることに。その際、昨日の朝と同じであおいは傘の柄を握る俺の手を握って。ただ、これからお家デートするのもあって、あおいの手から伝わる温もりは昨日よりも強く感じられた。
 あおいと相合い傘した状態で、俺達は学校を後にする。

「涼我君、帰る途中にスーパーで冷やし中華を買わせてください」
「分かった。お昼ご飯のことは昨日の夜に決めたもんな」
「ええ。ところで、涼我君は冷やし中華のタレは何が好きですか? 酢醤油とごまダレが主流ですが」
「その2つが好きだなぁ。酢醤油はさっぱりしているし、ごまダレは濃厚な味わいだし。あおいは何のタレが好き?」
「酢醤油もごまダレも好きですよ。ただ、小学生の頃は酢の酸っぱさが苦手だったので、ごまダレの方が好きでしたね」
「そうだったんだ。俺も小学生くらいまではごまダレ派だったかな」
「そうだったんですねっ。同じで嬉しいです」

 えへへっ、と嬉しそうに笑うあおい。

「話の流れ的にごまダレが食べたい気分になってきました。涼我君、どうでしょう?」
「いいぞ。ごまダレにしよう」

 昨日、愛実と一緒に食べたそうめんはさっぱりしていたし、今日は濃厚な雰囲気のごまダレがいいだろう。
 そういえば、愛実もあおいと一緒で、小学生くらいまでは酸味のある酢醤油は苦手だったな。酢醤油しか売っていなかったとき、愛実だけは家にあるごましゃぶのタレをかけていたこともあったっけ。
 それから2、3分ほどでスーパーに到着する。
 麺コーナーに行くと、お目当ての2人分のごまダレの冷やし中華が置かれていた。そのことにあおいは安心している様子だった。
 また、午後のおやつにチョコマシュマロやスティック形のじゃがいもスナック菓子も買うことに。これらをあおいと割り勘して購入した。
 スーパーを後にして、俺達は再びあおいの家に向かう。もちろん、俺の傘で相合い傘をして。
 スーパーは近所にあるし、あおいと話しながら歩いたので、あっという間にあおいの家の前まで到着した。
 あおいはバッグのポケットからキーホルダーを取り出し、玄関の鍵を解錠する。

「どうぞ」
「お邪魔します」

 あおいと一緒に彼女の家の中に入る。
 家の中は照明が一切点いておらず、「おかえり」という声も聞こえてこない。あおいと2人きりなのだと実感する。
 今までに何度もあおいの家に来たことはあるけど、あおいに告白されてからは初めてだ。2人きりなのもあってドキドキしてくる。あと、あおいが近くにいるからなのか、家の中は甘くていい匂いがする。
 あおいの部屋に行き、買ってきたお菓子をローテーブルに置いた。また、俺のスクールバッグをあおいの勉強机に置かせてもらった。
 あおいが制服から私服に着替えるため、俺は冷やし中華の入ったスーパーのレジ袋を持ってあおいの部屋を出る。
 俺とあおいの2人しかいなくて家の中が静かだからか、部屋の中から布の擦れる音やあおいの鼻歌が聞こえてきて。そのことにドキッとした。

「お待たせしました」

 2、3分ほどして、あおいが部屋から出てきた。あおいはジーンズパンツにノースリーブの白いブラウスを着ている。爽やかでありつつ、あおいのスタイルの良さも分かって。制服を着ているときよりも大人っぽく感じられた。

「似合ってるな」
「ありがとうございますっ」

 えへへっ、とあおいは嬉しそうに笑う。その笑顔が素敵で、より今の服装が似合っていると思えた。
 あおいと一緒に、1階のキッチンに行く。そういえば、この家のキッチンに来たことは全然なかったな。広くて綺麗なところだ。
 あおいは青いエプロンを身につける。エプロン姿は前にも見たことがあるけど、やっぱり可愛い。

「さてと、冷やし中華を作りましょうか」
「楽しみだな。俺に手伝ってほしいことはあるか?」
「今回はお気持ちだけを受け取っておきます。涼我君に料理を振る舞いたいですから。キッチンでゆっくりしてもらえればと」

 あおいは微笑みながらそう言う。昨日の愛実みたいだ。

「分かった。じゃあ、お言葉に甘えて。ただ、何かしてほしいことがあったら遠慮なく言ってくれ」
「ありがとうございます!」

 ニッコリと笑いながらあおいはお礼を言った。
 その後、俺は食卓の椅子に座ったり、邪魔にならない程度にあおいの近くに立ったりしながら、冷やし中華を作るあおいの姿を見ることに。
 そういえば、あおいが一人で料理をする姿を見るのは初めてだな。麻美さんや愛実と一緒にやっているところは見たことがあるけど。
 あおいは鍋に水を入れ、IHを使って温めていく。
 お湯が温まる間に冷蔵庫からハム、カニカマ、キュウリ、薄い玉子焼きを取り出す。どの具材も冷やし中華の定番だな。ちなみに、薄い玉子焼きは麻美さん指導の下で作ったそうで、錦糸玉子にするとのこと。
 あおいは包丁を使ってキュウリを千切りし始める。
 どんな感じにやっているか見たくて、俺は椅子から立って、あおいの様子を見る。……さすがに料理し慣れている愛実ほどではないけど、落ち着いた包丁さばきでキュウリを千切りしている。それもあって、普段よりもあおいが大人っぽく見えて。こういう家庭的な姿はあまり見なかったし、そそられる部分がある。

「……じっと見られると何だか照れくさいですね」

 千切りしながらあおいはそう言う。そんなあおいの頬はほんのりと紅潮していた。

「あおいが一人で料理する姿を見るのは初めてだからさ。具材を切る姿を近くで見たくて」
「ふふっ、そうですか。ちゃんとできていますか?」
「できてるできてる」
「良かったですっ」

 俺のことをチラッと見ながら、あおいはニッコリと笑う。
 それから程なくして、キュウリの千切りが終わり、あおいはハムを細切りにしたり、薄い玉子焼きを錦糸玉子にしたりしていく。その間、あおいはずっと上機嫌で可愛い。
 カニカマを適度に裂いて、具を全て用意し終わったときには、鍋に入れた水は沸騰していた。
 あおいは帰る途中に購入した冷やし中華の麺を鍋に入れる。ここまで来るともうすぐで冷やし中華ができるんだって実感があるな。
 3分後。あおいは茹で上がった麺をシンクに置いてあるざるに流し、水道水で締めていく。昨日、愛実も茹で上がったそうめんを水で締めているとき、こういう感じでやっていたんだろうなぁ。
 麺を締め終わると、あおいは予め用意していた2枚のお皿に乗せる。その後、ハム、キュウリ、錦糸玉子、カニカマの順で冷やし中華の具材を麺の上に綺麗に乗せていった。

「はいっ、完成です!」
「おおっ」

 テキパキと綺麗に盛りつけたのもあり、気付けば拍手を送っていた。そんな俺にあおいは「ふふっ」と楽しそうに笑いながら、冷やし中華を食卓の上に置いた。
 無事に作り終えたので、さっき座っていた食卓の椅子に座る。とても綺麗に盛りつけられているので、スマホで冷やし中華を撮った。
 あおいは冷蔵庫から冷やし中華のごまダレの袋が入った器を取り出して、俺と向かい合うようにして椅子に座った。

「では、食べましょうか」
「ああ。美味しそうな冷やし中華だ。いただきます」
「いただきますっ!」

 あおいと2人きりの昼食の時間が始まった。
 器からごまダレの袋を一つ取って、冷やし中華にごまダレをかける。食卓に具材やタレがこぼれてしまわないように、箸でゆっくりとかき混ぜていく。そのことで、ごまダレの優しい匂いがほのかに香ってきて。ますますお腹が空いてきた。
 具材やタレがいい感じに混ざったところで、箸で一口分掬い上げ、すすっていく。
 口の中に入った瞬間、ごまダレの濃厚な味わいが口の中に広がって。水でしっかりと締めたから、麺にコシがあっていいな。キュウリを筆頭に具材の様々な味と食感が楽しめて楽しい。タレがほんのり冷たいのも爽やかでいいな。

「美味しいよ、この冷やし中華。あと、錦糸玉子もちょうどいい薄さだと思う」
「涼我君にそう言ってもらえて嬉しいです! 美味しくできていて良かったです」

 あおいは嬉しそうにそう言いつつも、ほっと胸を撫で下ろしていた。一人で作ったお昼ご飯を俺に振る舞うのは初めてだからかな。
 まさか、2日連続で別々の幼馴染が作った美味しいお昼ご飯を食べられるとは。俺は幸せ者だ。

「タレがほんのりと冷たくなっているのがいいな。外が蒸し暑かったからさ」
「少しでも冷たい方がいいと思って、作り始める際に冷蔵庫に入れたのですが正解でしたね」
「そうだな。冷やし中華も食べると夏って感じがするな。昨日、愛実の家でそうめんを食べたときにも思ったけど」
「ふふっ。確かに、冷やし中華もそうめんも夏中心に食べますもんね。涼我君の言うこと分かります。冷たいものがとても美味しい季節になりましたよね」
「そうだな。冷やし中華をリクエストして良かった」
「美味しく作れて良かったです」

 あおいは明るい笑顔でそう言い、冷やし中華を食べる。美味しいからか、あおいは「う~んっ!」と可愛い声を出しながらモグモグと食べていて。そんなあおいがとても可愛らしく思えた。
 冷やし中華をもう一口食べると……さっき、一口目を食べたときよりも味わい深く感じられる。

「本当に美味しいなぁ」
「美味しく食べてくれて嬉しいです。こうして向かい合って涼我君と2人きりで食べていると……ど、同棲している感じがしていいですねっ。幸せな気持ちになれます」

 その言葉が本心である示すように、あおいは恍惚とした笑顔を俺に向けてくれる。
 俺と2人で帰ってきて、ご飯を作って、それを俺と一緒に美味しく食べる。確かに、同棲している感じがするな。お家デートにしたのは、昨日の放課後の愛実を羨ましがっただけでなく、俺との同棲気分を味わってみたかったのもありそうだ。
 あおいと一緒に帰ってきたし、エプロン姿で料理をするあおいをすぐ近くで見たし、こうしてあおいと一緒に冷やし中華を食べている。俺もあおいと同棲しているような気分になってきた。俺を見つめる笑顔のあおいが可愛いのもあって体が熱くなってきて。

「涼我君、顔がちょっと赤くなりましたね。同棲している感じがすると言ったから、ドキッとしちゃいましたか?」
「……帰ってきてからの流れを考えたら、同棲みたいっていうのも分かるからさ」
「ふふっ、そうですか」

 自分の言葉に共感してくれたのが嬉しかったのか、あおいの口角がさらに上がって。そんなあおいも可愛いから、体の熱が上がるばかりだ。そんな中で冷やし中華を一口食べると、冷たさがとても心地良く感じられて。冷やし中華を食べたいって言って本当に良かったよ。
 それからは料理のことや、最近始まったアニメのことなどについて話しながら、あおいとのお昼ご飯を楽しんだ。
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