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最終章
第4話『愛実とのいつもの時間-半日期間編・前編-』
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放課後。
試験返却の教科もあったし、普通の授業の数Ⅱではあおいと席をくっつけたのもあり、昨日と同じくらいの早い感覚で放課後を迎えられた。
昨日は放課後にバイトがあったけど、今日は特に予定もなくフリー。愛実もフリーだ。
ただ、あおいはこの後すぐにバイトのシフトが入っているとのこと。なので、3人であおいのバイト先のドニーズというファミレスの近くまで行き、あおいとはそこで別れた。
「さてと、これからどうしようか。この時間だから、まずは昼ご飯かな」
「そうだね、リョウ君」
「じゃあ、昼ご飯にするか。愛実は何か食べたいものはあるか?」
「……提案なんだけど、今日はどこかへ食べに行くんじゃなくて、私の家で私の作ったお昼ご飯を食べない?」
上目遣いで俺を見ながら、愛実はそう言ってくる。
「愛実の作った昼ご飯か。それはいいな。愛実さえ良ければ、お言葉に甘えようかな」
「うんっ! 甘えて甘えて!」
そう言う愛実の笑顔はとても明るいもので。
愛実は料理を作るのが大好きだし、これまでに数え切れないほど、愛実の作った料理をいただいている。それに、今のような半日期間のとき、愛実の家でお昼ご飯を食べることは何度もある。だから、愛実は今回の半日期間中でも、自分の作ったお昼ご飯を俺と一緒に食べたいのかもしれない。
「リョウ君は何が食べたい? お昼はリョウ君の食べたいものがいいなって」
「そうだな……」
愛実の作る料理はどれも美味しいし、俺は嫌いな食べ物や料理がないから何でもいいと思っている。だけど、それでは愛実が困ってしまうだろう。
「今はジメッと蒸し暑いから、冷たいものがいいな……」
ハッキリとした料理がすぐに思いつかないので、まずはジャンルを伝える。温かいものも好きだけど、蒸し暑い場所にいるから今は冷たいものが食べたい気分だ。
愛実は「冷たいもの……」と呟きながら考えている様子。俺も具体的に考えよう。
「じゃあ、そうめんなんてどうかな? 冷たいし、夏らしいから。それに、リョウ君は麺類全般好きだし」
「そうめん好きだぞ。夏らしくていいな。愛実もそうめん好きだよな」
「好きだよ。じゃあ、そうめんにしようか。お中元でもらったからそうめんはたくさんあるし、薬味に良さそうな具材も家にあったはず。だから、真っ直ぐ私の家に帰ろうか」
「そうだな。じゃあ、帰るか」
「待って」
愛実はそう言い、俺が着ているベストの裾を掴んだ。歩き出そうとしていたので、ちょっと引っ張られる感覚に。
「どうした?」
「……家まで、リョウ君と相合い傘したいです」
愛実は俺を見つめながらそんなお願いをしてくる。ベストの裾を掴むほどだから何事かと思ったけど……相合い傘か。敬語でお願いするところが可愛らしい。
「ああ、いいぞ。入ってこい」
「うんっ、ありがとう」
嬉しそうに言うと、愛実は自分の傘を閉じて俺の傘の中に入ってくる。その際、今朝のあおいのように、傘の柄を持っている左手をそっと掴んだ。
「ま、愛実?」
「……傘を持つリョウ君の手を掴んだこと全然なかったから。今朝、あおいちゃんがやっているのを見て、私もやってみたいと思ったんだ」
「そうか。可愛いこと考えるな」
「……か、からかわないでよ」
とは言うけど、愛実は笑顔になっていて。その笑顔は頬を中心にほのかに赤らんでいた。そんな愛実の姿も可愛くて。
「じゃあ、愛実の家に帰るか」
「うんっ」
俺達は愛実の家に向かって歩き始める。今日返却された教科の試験のことや、昨日の放課後のことなどについて話しながら。
俺と話すのが楽しいからだろうか。それとも、俺と相合い傘をして、傘の柄を持つ俺の手を掴んでいるからだろうか。愛実はずっと上機嫌で。こんなに機嫌が良さそうなのは、俺の誕生日パーティー以来かも。
愛実から伝わる手の温もりは、今朝のあおいと同じくらいに強くて、優しく感じられた。あと、あおいとはまた違った甘い匂いが良くて。
愛実と話すのが楽しくて、気付けば俺や愛実、あおいの家が見えていた。
あおいの家、俺の家と通り過ぎて、俺は愛実の家の玄関前に到着する。
「相合い傘してくれてありがとう」
「いえいえ。これまで何度もしているし」
「ふふっ。楽しかったよ」
愛実はスクールバッグからキーホルダーを取り出し、家の鍵を玄関に差し込んだ。
――ガチャッ。
と、鍵が解錠される音が聞こえ、愛実は玄関を開けた。
「どうぞ」
「お邪魔します」
俺は愛実の家の中に入る。中に入った瞬間、愛実のような甘くていい匂いがほのかに感じられた。
「今日、お母さんはお昼前から夕方までパートだからいないんだ」
「そうなんだ」
父親の宏明さんは仕事で外出中だから、母親の真衣さんのパートが終わる夕方までは愛実と2人きりか。ちょっと緊張する。これまで、愛実の家で愛実と2人きりの状況はたくさんあったし、こういう感覚には全然ならなかったんだけどな。
愛実が自分の部屋で膝丈のスカートに半袖の肩開きシャツに着替えた後、俺は部屋にスクールバッグを置かせてもらった。
1階のキッチンに行き、愛実は赤いエプロンを身につけてそうめん作りを始める。
「愛実。俺に手伝ってほしいことはあるか?」
「そうだね……今回は気持ちだけ受け取っておくよ。ただ、キッチンでゆっくりしてほしいかな。リョウ君が近くにいる方がいいから」
「分かった」
「ただ、その前に洗面所で手を洗ってきて。学校から帰ってきたばかりだから」
「ああ」
愛実の言う通り、洗面所に行って手を綺麗に洗う。
手を洗ってキッチンに戻ると、愛実は薬味で使うと思われるネギを切っていた。カニカマやわかめ、キュウリと思われる具材もあって。また、その横にあるIHでは、鍋に入った水を温めているところで。手を洗いに行くときには台所にはまだ全然なかったので、愛実の料理の手際の良さを再認識する。
俺は食卓の椅子に座って、そうめん作りをする愛実の後ろ姿を眺めることに。最近作った料理や、キッチン部で作ったものについて愛実と話しながら。その中で、キッチン部は明日の放課後に1学期最後の活動があり、スイーツをいくつか作ると知った。
学校から愛実と2人でこの家に帰ってきて、愛実が食事を作る光景を見ると、半日期間なんだなって実感する。
高1のときは、俺と愛実の予定が空いていれば2人きりで行動することは結構あった。あおいがいなかったし、道本や鈴木、海老名さんは陸上部があったから。だから、こうして愛実の家で愛実の作ったお昼ご飯を食べることは一つの選択肢になっていた。一度もここで食べなかった半日期間はなかったくらいだ。
時折、薬味の入った小鉢が食卓に置かれる。わかめ、カニカマ、細切りにしたキュウリ、ごま、ネギか。どれもそうめんに合いそうだ。
5つの薬味が置かれたときには、鍋に入っているお湯から湯気が出ていた。
それから程なくして、愛実は鍋にそうめんの乾麺を入れ、茹でていく。落ち着いているし、エプロン姿なのもあって愛実は普段よりも大人っぽく見える。
そうめんなので1分ほどで茹で終わり、愛実はそうめんを冷水で締める。その後、ガラス皿にそうめんをよそう。
「お待たせしました、リョウ君」
愛実はそうめんが乗ったガラス皿を俺の前に置いてくれる。
「ありがとう。……美味しそうだ」
そうめんが氷水に浸っているし、容器がガラス皿なので見ただけで涼しさを感じられる。そうめんを見たらよりお腹が空いてきた。
愛実は自分の分のそうめんを食卓に置き、俺と向かい合う形で椅子に座る。また、その際にエプロンを脱いだ。
俺と愛実はそれぞれ、麺汁入れで自分の好きな濃さの麺汁を作る。
「じゃあ、麺汁の用意もできたし、食べようか」
「ああ。いただきます」
「いただきますっ」
まずは何も薬味を入れずに一口食べるか。
ガラス皿から、箸で一口分のそうめんを掬って、半分ほどを麺汁につける。ズズッ、とそうめんをすすった。
氷水に浸してあるから、そうめんをすすった瞬間から口の中に結構な冷たさが。麺の茹で方や、その後の締め方がいいからかコシがあって。噛むとそうめんの風味も感じられて。
「凄く美味しいな、このそうめん。冷たくて最高だ」
「リョウ君にそう言ってもらえて良かった。外が蒸し暑かったから冷たいのっていいよね」
「そうだな。あと、冷たい麺類は冬以外はどの時期でも普通に食べるけど、そうめんを食べると夏って感じがする」
「分かる気がする。そうめんを食べるのって……思い返せば、夏とその前後くらいかも」
「俺の家もそのくらいの時期だけかな」
暑いと感じる時期を中心に食べるから、自分の中では「そうめんを食べると夏」って感覚になるんだろうな。あと、4月に佐藤先生の家でそうめんをいただいたけど、あの日も晴れて暖かく感じられる日だった。
その後は麺汁にネギやごまを入れて味変したり、わかめやカニカマ、キュウリと一緒に食べて食感を楽しんだりする。それもあって、かなり美味しくそうめんを食べられている。愛実も美味しそうにそうめんを食べていて。
「そういえば、こうして私の家で、私の作った料理をリョウ君と2人きりで食べるのっていつ以来だろう?」
「春休みにあおいが調津に戻ってきたからなぁ。もしかしたら、1年の学年末試験の後の半日期間以来かもしれない」
「……確かにそうかも。あおいちゃんが引っ越してきてから色々あったから、随分と昔のことのように感じるよ」
「そうだな」
あおいが調津に戻ってきて……3ヶ月半か。本当に色々なことがあったから、3ヶ月半しか経っていないのが嘘じゃないかと思えるほどだ。
「お昼ご飯を作るのも楽しいし、リョウ君が美味しそうに食べてくれるのは嬉しいから……これからも、半日期間にはこうして私の家でお昼ご飯を食べようね。もちろん、それ以外のときにも」
「ああ、そうだな」
愛実の目を見てそう言うと、愛実の笑顔が嬉しそうなものに変わって。そんな愛実を見ていると、俺も嬉しくなってくる。俺もこうして愛実とお昼ご飯を食べるのは楽しいと思っているから。
それからも、愛実と一緒にそうめんを楽しんだ。
試験返却の教科もあったし、普通の授業の数Ⅱではあおいと席をくっつけたのもあり、昨日と同じくらいの早い感覚で放課後を迎えられた。
昨日は放課後にバイトがあったけど、今日は特に予定もなくフリー。愛実もフリーだ。
ただ、あおいはこの後すぐにバイトのシフトが入っているとのこと。なので、3人であおいのバイト先のドニーズというファミレスの近くまで行き、あおいとはそこで別れた。
「さてと、これからどうしようか。この時間だから、まずは昼ご飯かな」
「そうだね、リョウ君」
「じゃあ、昼ご飯にするか。愛実は何か食べたいものはあるか?」
「……提案なんだけど、今日はどこかへ食べに行くんじゃなくて、私の家で私の作ったお昼ご飯を食べない?」
上目遣いで俺を見ながら、愛実はそう言ってくる。
「愛実の作った昼ご飯か。それはいいな。愛実さえ良ければ、お言葉に甘えようかな」
「うんっ! 甘えて甘えて!」
そう言う愛実の笑顔はとても明るいもので。
愛実は料理を作るのが大好きだし、これまでに数え切れないほど、愛実の作った料理をいただいている。それに、今のような半日期間のとき、愛実の家でお昼ご飯を食べることは何度もある。だから、愛実は今回の半日期間中でも、自分の作ったお昼ご飯を俺と一緒に食べたいのかもしれない。
「リョウ君は何が食べたい? お昼はリョウ君の食べたいものがいいなって」
「そうだな……」
愛実の作る料理はどれも美味しいし、俺は嫌いな食べ物や料理がないから何でもいいと思っている。だけど、それでは愛実が困ってしまうだろう。
「今はジメッと蒸し暑いから、冷たいものがいいな……」
ハッキリとした料理がすぐに思いつかないので、まずはジャンルを伝える。温かいものも好きだけど、蒸し暑い場所にいるから今は冷たいものが食べたい気分だ。
愛実は「冷たいもの……」と呟きながら考えている様子。俺も具体的に考えよう。
「じゃあ、そうめんなんてどうかな? 冷たいし、夏らしいから。それに、リョウ君は麺類全般好きだし」
「そうめん好きだぞ。夏らしくていいな。愛実もそうめん好きだよな」
「好きだよ。じゃあ、そうめんにしようか。お中元でもらったからそうめんはたくさんあるし、薬味に良さそうな具材も家にあったはず。だから、真っ直ぐ私の家に帰ろうか」
「そうだな。じゃあ、帰るか」
「待って」
愛実はそう言い、俺が着ているベストの裾を掴んだ。歩き出そうとしていたので、ちょっと引っ張られる感覚に。
「どうした?」
「……家まで、リョウ君と相合い傘したいです」
愛実は俺を見つめながらそんなお願いをしてくる。ベストの裾を掴むほどだから何事かと思ったけど……相合い傘か。敬語でお願いするところが可愛らしい。
「ああ、いいぞ。入ってこい」
「うんっ、ありがとう」
嬉しそうに言うと、愛実は自分の傘を閉じて俺の傘の中に入ってくる。その際、今朝のあおいのように、傘の柄を持っている左手をそっと掴んだ。
「ま、愛実?」
「……傘を持つリョウ君の手を掴んだこと全然なかったから。今朝、あおいちゃんがやっているのを見て、私もやってみたいと思ったんだ」
「そうか。可愛いこと考えるな」
「……か、からかわないでよ」
とは言うけど、愛実は笑顔になっていて。その笑顔は頬を中心にほのかに赤らんでいた。そんな愛実の姿も可愛くて。
「じゃあ、愛実の家に帰るか」
「うんっ」
俺達は愛実の家に向かって歩き始める。今日返却された教科の試験のことや、昨日の放課後のことなどについて話しながら。
俺と話すのが楽しいからだろうか。それとも、俺と相合い傘をして、傘の柄を持つ俺の手を掴んでいるからだろうか。愛実はずっと上機嫌で。こんなに機嫌が良さそうなのは、俺の誕生日パーティー以来かも。
愛実から伝わる手の温もりは、今朝のあおいと同じくらいに強くて、優しく感じられた。あと、あおいとはまた違った甘い匂いが良くて。
愛実と話すのが楽しくて、気付けば俺や愛実、あおいの家が見えていた。
あおいの家、俺の家と通り過ぎて、俺は愛実の家の玄関前に到着する。
「相合い傘してくれてありがとう」
「いえいえ。これまで何度もしているし」
「ふふっ。楽しかったよ」
愛実はスクールバッグからキーホルダーを取り出し、家の鍵を玄関に差し込んだ。
――ガチャッ。
と、鍵が解錠される音が聞こえ、愛実は玄関を開けた。
「どうぞ」
「お邪魔します」
俺は愛実の家の中に入る。中に入った瞬間、愛実のような甘くていい匂いがほのかに感じられた。
「今日、お母さんはお昼前から夕方までパートだからいないんだ」
「そうなんだ」
父親の宏明さんは仕事で外出中だから、母親の真衣さんのパートが終わる夕方までは愛実と2人きりか。ちょっと緊張する。これまで、愛実の家で愛実と2人きりの状況はたくさんあったし、こういう感覚には全然ならなかったんだけどな。
愛実が自分の部屋で膝丈のスカートに半袖の肩開きシャツに着替えた後、俺は部屋にスクールバッグを置かせてもらった。
1階のキッチンに行き、愛実は赤いエプロンを身につけてそうめん作りを始める。
「愛実。俺に手伝ってほしいことはあるか?」
「そうだね……今回は気持ちだけ受け取っておくよ。ただ、キッチンでゆっくりしてほしいかな。リョウ君が近くにいる方がいいから」
「分かった」
「ただ、その前に洗面所で手を洗ってきて。学校から帰ってきたばかりだから」
「ああ」
愛実の言う通り、洗面所に行って手を綺麗に洗う。
手を洗ってキッチンに戻ると、愛実は薬味で使うと思われるネギを切っていた。カニカマやわかめ、キュウリと思われる具材もあって。また、その横にあるIHでは、鍋に入った水を温めているところで。手を洗いに行くときには台所にはまだ全然なかったので、愛実の料理の手際の良さを再認識する。
俺は食卓の椅子に座って、そうめん作りをする愛実の後ろ姿を眺めることに。最近作った料理や、キッチン部で作ったものについて愛実と話しながら。その中で、キッチン部は明日の放課後に1学期最後の活動があり、スイーツをいくつか作ると知った。
学校から愛実と2人でこの家に帰ってきて、愛実が食事を作る光景を見ると、半日期間なんだなって実感する。
高1のときは、俺と愛実の予定が空いていれば2人きりで行動することは結構あった。あおいがいなかったし、道本や鈴木、海老名さんは陸上部があったから。だから、こうして愛実の家で愛実の作ったお昼ご飯を食べることは一つの選択肢になっていた。一度もここで食べなかった半日期間はなかったくらいだ。
時折、薬味の入った小鉢が食卓に置かれる。わかめ、カニカマ、細切りにしたキュウリ、ごま、ネギか。どれもそうめんに合いそうだ。
5つの薬味が置かれたときには、鍋に入っているお湯から湯気が出ていた。
それから程なくして、愛実は鍋にそうめんの乾麺を入れ、茹でていく。落ち着いているし、エプロン姿なのもあって愛実は普段よりも大人っぽく見える。
そうめんなので1分ほどで茹で終わり、愛実はそうめんを冷水で締める。その後、ガラス皿にそうめんをよそう。
「お待たせしました、リョウ君」
愛実はそうめんが乗ったガラス皿を俺の前に置いてくれる。
「ありがとう。……美味しそうだ」
そうめんが氷水に浸っているし、容器がガラス皿なので見ただけで涼しさを感じられる。そうめんを見たらよりお腹が空いてきた。
愛実は自分の分のそうめんを食卓に置き、俺と向かい合う形で椅子に座る。また、その際にエプロンを脱いだ。
俺と愛実はそれぞれ、麺汁入れで自分の好きな濃さの麺汁を作る。
「じゃあ、麺汁の用意もできたし、食べようか」
「ああ。いただきます」
「いただきますっ」
まずは何も薬味を入れずに一口食べるか。
ガラス皿から、箸で一口分のそうめんを掬って、半分ほどを麺汁につける。ズズッ、とそうめんをすすった。
氷水に浸してあるから、そうめんをすすった瞬間から口の中に結構な冷たさが。麺の茹で方や、その後の締め方がいいからかコシがあって。噛むとそうめんの風味も感じられて。
「凄く美味しいな、このそうめん。冷たくて最高だ」
「リョウ君にそう言ってもらえて良かった。外が蒸し暑かったから冷たいのっていいよね」
「そうだな。あと、冷たい麺類は冬以外はどの時期でも普通に食べるけど、そうめんを食べると夏って感じがする」
「分かる気がする。そうめんを食べるのって……思い返せば、夏とその前後くらいかも」
「俺の家もそのくらいの時期だけかな」
暑いと感じる時期を中心に食べるから、自分の中では「そうめんを食べると夏」って感覚になるんだろうな。あと、4月に佐藤先生の家でそうめんをいただいたけど、あの日も晴れて暖かく感じられる日だった。
その後は麺汁にネギやごまを入れて味変したり、わかめやカニカマ、キュウリと一緒に食べて食感を楽しんだりする。それもあって、かなり美味しくそうめんを食べられている。愛実も美味しそうにそうめんを食べていて。
「そういえば、こうして私の家で、私の作った料理をリョウ君と2人きりで食べるのっていつ以来だろう?」
「春休みにあおいが調津に戻ってきたからなぁ。もしかしたら、1年の学年末試験の後の半日期間以来かもしれない」
「……確かにそうかも。あおいちゃんが引っ越してきてから色々あったから、随分と昔のことのように感じるよ」
「そうだな」
あおいが調津に戻ってきて……3ヶ月半か。本当に色々なことがあったから、3ヶ月半しか経っていないのが嘘じゃないかと思えるほどだ。
「お昼ご飯を作るのも楽しいし、リョウ君が美味しそうに食べてくれるのは嬉しいから……これからも、半日期間にはこうして私の家でお昼ご飯を食べようね。もちろん、それ以外のときにも」
「ああ、そうだな」
愛実の目を見てそう言うと、愛実の笑顔が嬉しそうなものに変わって。そんな愛実を見ていると、俺も嬉しくなってくる。俺もこうして愛実とお昼ご飯を食べるのは楽しいと思っているから。
それからも、愛実と一緒にそうめんを楽しんだ。
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