上 下
122 / 236
第4章

第31話『誕生日前日』

しおりを挟む
 7月5日から、1学期の期末試験がスタートした。
 期末試験は中間試験も実施した10科目と、情報、保健が実施される。12科目を4日間で実施するので、1日3科目ずつ試験がある。なので、中間試験よりもちょっとキツい。
 ただ、今回もあおいや愛実達と一緒に勉強会をしたおかげで、どの科目も結構な手応えがある。この調子で最終日の最終科目の試験まで駆け抜けていきたい。



 7月8日、金曜日。
 今日は期末試験の最終日。今日の試験科目は日本史と数学Bと生物だ。どの科目も中間試験でいい点数を取れていたけど、油断せずに期末試験に臨もう。
 今日が最終日だからだろうか。苦手意識のある数学Bの試験があるけど、登校中はあおいも愛実も表情が明るかった。
 2年2組の教室に到着すると、普段と同じように何人かで談笑する生徒もいれば、試験直前の追い込みなのか席に座って教科書やノートを熱心に見ている生徒もいる。

「おっ、麻丘達が来たな! おはよう!」
「おはよう、麻丘君、愛実、あおい」
「3人ともおはよう」

 道本と鈴木と海老名さんは……鈴木の席の周りで3人一緒にいる。ただ、鈴木の机には教科書やノートが開かれた状態で置いてあるので、今日の試験科目について3人で話しているのだろう。
 俺達は道本達に「おはよう」と声を掛けて、試験期間中の自分の席に荷物を置く。出席番号順なので、俺の席は中間試験明けまで自分の席だった窓側の一番前。だから、この席に行くとちょっと懐かしい気持ちになる。

「麻丘君」

 海老名さんの声が聞こえたので、彼女の方を向くと……海老名さんと道本、鈴木が俺の席の近くまでやってきていた。いつもは俺達が3人のところに行くのに。3人ともいい笑顔だし、今日の日付を考えると理由は何となく想像できる。

「どうした?」
「明日、麻丘君の誕生日じゃない。明日は土曜日で学校がないから、今日、誕生日プレゼントを渡そうと思って」
「おぉ!」

 やっぱり、俺に誕生日プレゼントを渡してくれるためか。予想はできていても、実際にもらえると嬉しいものだ。
 去年までも海老名さん達は誕生日当日や、誕生日が休日のときは今日みたいに直前の日の朝礼前にプレゼントを渡してくれた。海老名さん達がどんなものをプレゼントしてくれるのか楽しみだ。

「じゃあ、まずはあたしから。麻丘君、誕生日おめでとう」
「ありがとう、海老名さん」

 海老名さんからスポーツショップの白い袋を受け取る。
 袋に入っているものを見てみると……水色のスポーツタオルと緑色のスポーツタオルが入っていた。

「スポーツタオルだ。2枚入ってる」
「麻丘君、ジョギングを始めたから。これから夏本番になって汗もより掻きやすくなるから、スポーツタオルにしたの。細長いから首に掛けながら走れるし。水色と緑がいい感じだったから、どっちもプレゼント。タオルなら何枚あってもいいと思って」
「そうだな。緑も水色も好きだから嬉しいよ。ありがとう。さっそく使わせてもらうよ」
「うんっ」

 海老名さんは笑顔で頷いてくれる。
 色合いもいいし、触り心地もふかふかで凄くいい。これなら、これからの季節のジョギングも気持ち良くできそうだ。

「じゃあ、次は俺が渡すよ。誕生日おめでとう、麻丘」
「ありがとう、道本」

 俺は道本から緑色の袋を受け取る。
 海老名さんのものよりもやや小さめの袋だけど、どんなものを用意してくれたんだろう。そう思いながら、袋の中を見てみる。何か、細長い箱みたいなものが入っているな。それを取り出すと――。

「これは……水筒か」

 箱に水筒の写真がプリントされている。
 箱から取り出してみると……黒くてかっこいいデザインの水筒だ。それを見てか、あおいと愛実は「おぉっ」と可愛い声を漏らす。

「いいデザインの水筒だな。あと、軽いな」
「そうだろう? 俺の水筒と同じメーカーなんだ。それは軽いし、ワンタッチで開けられるし、保冷性も抜群だ。ジョギングしても負担にならないように350mlにした」
「そうか。今は280mlのペットボトルに麦茶とかスポーツドリンクを入れているからな。今のところ、それでも足りているから、350mlの水筒でちょうどいいな」
「それなら良かった」
「これも、さっそくジョギングで使わせてもらうよ」
「ああ、使ってくれ」

 道本はいつもの爽やかな笑みを浮かべる。
 これからの季節はより水分補給が大切になるし、この水筒は大活躍することだろう。
 春からジョギングを始めたから、道本も海老名さんもジョギングに良さそうなものをプレゼントしてくれたな。鈴木も陸上部員だし、ジョギングや運動に適したものだろうか。

「最後はオレだな! 麻丘、誕生日おめでとう! 美里からのプレゼントも入ってるぜ!」
「須藤さんも用意してくれたのか。ありがとう」

 鈴木からベージュの袋を受け取る。袋の大きさは道本と海老名さんの間くらいか。
 袋の中を見ると……黒いキャップと紺色のタオルハンカチが入っている。どっちが鈴木でどっちが須藤さんだろう。そう思いながら2つとも袋から出す。

「キャップにタオルハンカチか」
「帽子の方はオレからのプレゼントだ! 麻丘がジョギングを始めたから、オレもそのときに使えそうなものを選んだんだ! これから本格的な夏になるし、日差し除けにもキャップがいいと思ってな!」
「なるほどな。今まではキャップは被らなかったけど、熱中症対策にもキャップは被った方がいいよな」

 そう言いながら、俺はランニングキャップを被る。

「うん、いい被り心地だ」
「そりゃ良かった! あと、似合っているぜ、麻丘!」

 鈴木は満面の笑みでそう言うと、俺に向かって右手でサムズアップしてくれる。そんな彼に俺もサムズアップ。
 キャップのつばのおかげで、顔に影ができる。これなら、強い日差しの中でも眩しさを感じずにジョギングできそうだ。

「涼我君似合っていますよ!」
「似合っているよ、リョウ君!」
「ありがとう」
「もしよければ写真撮らせてください!」
「ああ、いいぞ」
「ありがとうございますっ!」

 その後、あおいはキャップを被った俺をスマホで何枚も撮影した。あおいの要望でピースサインしたり、海老名さんからプレゼントされたタオルを首に掛けたりして。
 似合っていると言うだけあってか、あおいはとても楽しそうに撮影していた。嬉しそうにも見えて。

「いい写真が何枚も撮れました!」
「私に送ってくれるかな」
「あ、あたしにも」
「分かりました。では、3人のグループトークにアップしておきますね」

 愛実や海老名さんもキャップ姿の俺の写真を欲しがるとは。まあ、誕生日プレゼントのささやかなお礼ってことで、あおいが2人と写真を共有するのを快諾した。

「キャップが鈴木ってことは、このタオルハンカチは須藤さんからか」
「おう! あと、早めだけどお誕生日おめでとうって言っていたぜ!」
「そうか。俺からメッセージを送るけど、鈴木からもありがとうって須藤さんに言っておいてくれないか」
「おう、分かったぜ!」

 彼氏の友人にプレゼントを用意してくれるなんて。須藤さんも律儀な人だ。ただ、鈴木という彼氏がいるし、俺も気兼ねなく使えるものとしてタオルハンカチを選んだのだろう。
 ちなみに、去年は4色ボールペンをプレゼントしてくれた。書きやすいし、インクがなくなったら芯を入れ替えできるタイプなので、今でも授業を中心に活躍している。

「3人とも、素敵な誕生日プレゼントをありがとう。どのプレゼントもすぐに使えそうなものばかりだから、さっそくジョギングのときに使わせてもらうよ」
「ええ。タオルだから、ジョギングでも体育の授業のある日でも使ってね」
「水筒もジョギングだけじゃなくて、バイトやどこか出かけるときにも使ってほしい」
「キャップ被って快適にジョギングしてくれたら嬉しいぜ!」

 道本、鈴木、海老名さんは明るい笑顔でそう言ってくれた。道本と海老名さんが言うように、水筒とタオルはジョギング以外でも使えそうな場面がある。3人と須藤さんからもらったプレゼントを大切に使わせてもらおう。

「涼我君良かったですね! 私は明日の誕生日パーティーのときにプレゼントを渡しますね」
「私もね。楽しみにしていてね、リョウ君」
「ああ。2人からのプレゼントも楽しみにしているよ」

 2人はどんなものをプレゼントしてくれるだろうか。あおいは11年ぶりなのもあって特に楽しみだ。
 また、俺達の会話を聞いていたのか、朝礼が始まるまでの間に、数人ほどのクラスメイトが俺に誕生日プレゼントとして飴やガム、タブレット菓子をくれた。今日も試験があるから、これらで糖分補給しよう。
 友人やクラスメイトが誕生日プレゼントをくれたのもあり、今日実施された定期試験はどの科目も結構できたのであった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

サクラブストーリー

桜庭かなめ
恋愛
 高校1年生の速水大輝には、桜井文香という同い年の幼馴染の女の子がいる。美人でクールなので、高校では人気のある生徒だ。幼稚園のときからよく遊んだり、お互いの家に泊まったりする仲。大輝は小学生のときからずっと文香に好意を抱いている。  しかし、中学2年生のときに友人からかわれた際に放った言葉で文香を傷つけ、彼女とは疎遠になってしまう。高校生になった今、挨拶したり、軽く話したりするようになったが、かつてのような関係には戻れていなかった。  桜も咲く1年生の修了式の日、大輝は文香が親の転勤を理由に、翌日に自分の家に引っ越してくることを知る。そのことに驚く大輝だが、同居をきっかけに文香と仲直りし、恋人として付き合えるように頑張ろうと決意する。大好物を作ってくれたり、バイトから帰るとおかえりと言ってくれたりと、同居生活を送る中で文香との距離を少しずつ縮めていく。甘くて温かな春の同居&学園青春ラブストーリー。  ※特別編7-球技大会と夏休みの始まり編-が完結しました!(2024.5.30)  ※お気に入り登録や感想をお待ちしております。

まずはお嫁さんからお願いします。

桜庭かなめ
恋愛
 高校3年生の長瀬和真のクラスには、有栖川優奈という女子生徒がいる。優奈は成績優秀で容姿端麗、温厚な性格と誰にでも敬語で話すことから、学年や性別を問わず人気を集めている。和真は優奈とはこの2年間で挨拶や、バイト先のドーナッツ屋で接客する程度の関わりだった。  4月の終わり頃。バイト中に店舗の入口前の掃除をしているとき、和真は老齢の男性のスマホを見つける。その男性は優奈の祖父であり、日本有数の企業グループである有栖川グループの会長・有栖川総一郎だった。  総一郎は自分のスマホを見つけてくれた和真をとても気に入り、孫娘の優奈とクラスメイトであること、優奈も和真も18歳であることから優奈との結婚を申し出る。  いきなりの結婚打診に和真は困惑する。ただ、有栖川家の説得や、優奈が和真の印象が良く「結婚していい」「いつかは両親や祖父母のような好き合える夫婦になりたい」と思っていることを知り、和真は結婚を受け入れる。  デート、学校生活、新居での2人での新婚生活などを経て、和真と優奈の距離が近づいていく。交際なしで結婚した高校生の男女が、好き合える夫婦になるまでの温かくて甘いラブコメディ!  ※特別編3が完結しました!(2024.8.29)  ※小説家になろうとカクヨムでも公開しています。  ※お気に入り登録、感想をお待ちしております。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

管理人さんといっしょ。

桜庭かなめ
恋愛
 桐生由弦は高校進学のために、学校近くのアパート「あけぼの荘」に引っ越すことに。  しかし、あけぼの荘に向かう途中、由弦と同じく進学のために引っ越す姫宮風花と二重契約になっており、既に引っ越しの作業が始まっているという連絡が来る。  風花に部屋を譲ったが、あけぼの荘に空き部屋はなく、由弦の希望する物件が近くには一切ないので、新しい住まいがなかなか見つからない。そんなとき、 「責任を取らせてください! 私と一緒に暮らしましょう」  高校2年生の管理人・白鳥美優からのそんな提案を受け、由弦と彼女と一緒に同居すると決める。こうして由弦は1学年上の女子高生との共同生活が始まった。  ご飯を食べるときも、寝るときも、家では美少女な管理人さんといつもいっしょ。優しくて温かい同居&学園ラブコメディ!  ※特別編10が完結しました!(2024.6.21)  ※お気に入り登録や感想をお待ちしております。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

僕が美少女になったせいで幼馴染が百合に目覚めた

楠富 つかさ
恋愛
ある朝、目覚めたら女の子になっていた主人公と主人公に恋をしていたが、女の子になって主人公を見て百合に目覚めたヒロインのドタバタした日常。 この作品はハーメルン様でも掲載しています。

恋人、はじめました。

桜庭かなめ
恋愛
 紙透明斗のクラスには、青山氷織という女子生徒がいる。才色兼備な氷織は男子中心にたくさん告白されているが、全て断っている。クールで笑顔を全然見せないことや銀髪であること。「氷織」という名前から『絶対零嬢』と呼ぶ人も。  明斗は半年ほど前に一目惚れしてから、氷織に恋心を抱き続けている。しかし、フラれるかもしれないと恐れ、告白できずにいた。  ある春の日の放課後。ゴミを散らしてしまう氷織を見つけ、明斗は彼女のことを助ける。その際、明斗は勇気を出して氷織に告白する。 「これまでの告白とは違い、胸がほんのり温かくなりました。好意からかは分かりませんが。断る気にはなれません」 「……それなら、俺とお試しで付き合ってみるのはどうだろう?」  明斗からのそんな提案を氷織が受け入れ、2人のお試しの恋人関係が始まった。  一緒にお昼ご飯を食べたり、放課後デートしたり、氷織が明斗のバイト先に来たり、お互いの家に行ったり。そんな日々を重ねるうちに、距離が縮み、氷織の表情も少しずつ豊かになっていく。告白、そして、お試しの恋人関係から始まる甘くて爽やかな学園青春ラブコメディ!  ※特別編8が完結しました!(2024.7.19)  ※小説家になろう(N6867GW)、カクヨムでも公開しています。  ※お気に入り登録、感想などお待ちしています。

手が届かないはずの高嶺の花が幼馴染の俺にだけベタベタしてきて、あと少しで我慢も限界かもしれない

みずがめ
恋愛
 宮坂葵は可愛くて気立てが良くて社長令嬢で……あと俺の幼馴染だ。  葵は学内でも屈指の人気を誇る女子。けれど彼女に告白をする男子は数える程度しかいなかった。  なぜか? 彼女が高嶺の花すぎたからである。  その美貌と肩書に誰もが気後れしてしまう。葵に告白する数少ない勇者も、ことごとく散っていった。  そんな誰もが憧れる美少女は、今日も俺と二人きりで無防備な姿をさらしていた。  幼馴染だからって、とっくに体つきは大人へと成長しているのだ。彼女がいつまでも子供気分で困っているのは俺ばかりだった。いつかはわからせなければならないだろう。  ……本当にわからせられるのは俺の方だということを、この時点ではまだわかっちゃいなかったのだ。

処理中です...