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第4章

第30話『七夕祭り-後編-』

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 それからも、たこ焼きや焼き鳥などの屋台を楽しんだり、小学校や中学校まで一緒だった友人と会ってあおいを紹介したりするなどして、お祭りの時間を過ごしていく。
 気付けば、陽も完全に暮れ、会場内は提灯や屋台の灯りに照らされる。暖色系の灯りが、お祭り会場の独特な雰囲気を演出している。
 会場内を一通り廻ったところで、俺達は短冊コーナーで願いごとを書くことに。
 短冊コーナーはこの七夕祭りのメインコーナー。それもあって、短冊を書く場所に向かって伸びる列は結構な長さだ。俺達はその列の最後尾に並ぶ。ちなみに、2列で並ぶことになっており、前から鈴木&須藤さん、愛実&海老名さん、あおい&俺、道本&佐藤先生の順番で並んでいる。

「こうして隣に立って並んでいると、ゴールデンウィークに行ったオリティアのことを思い出しますね」
「そうだな。あのときも2列で並んだもんな。さすがに、あのときよりは早く先頭に行けそうだ」
「ふふっ、そうですね。愛実ちゃんや理沙ちゃん達もいますからあっという間でしょうね」
「ああ」

 きっと、すぐに俺達の番になるだろう。
 オリティアに参加してから2ヶ月くらい経つのか。あっという間に日々が過ぎていくけど、振り返ると結構昔のことのように感じる。お泊まりとか中間試験とか体育祭とか、学校生活でもプライベートでも大きなイベントがいくつもあったからかな。

「話は変わりますが、涼我君は中学生までの間にたくさん友達ができたんですね。色々な人に声を掛けられていましたから」
「クラスや部活で仲良くなった友達は結構いるよ。男子はもちろんだけど、愛実と一緒にいることが多いから、愛実繋がりで女子の友達もできたな」
「愛実ちゃんだけでなく、涼我君にも気軽に話しかける女の子が何人もいましたもんね」
「私もリョウ君のおかげで、男女問わずお友達ができたよ」
「そうですか」
「中学では1年ちょっとだけど、麻丘君は陸上部に入っていたからね。あと、麻丘君があおいのことを紹介すると、大抵の友達が『こんなに綺麗な幼馴染もいたの』って反応していたのが面白かったわ」

 そのときのことを思い出しているのか、海老名さんはもちろん、愛実、いっぱい驚かれたご本人のあおいも楽しそうに笑っている。俺達の話が聞こえたのか、後ろから道本と佐藤先生の笑い声も聞こえる。

「確かに、あおいのことで驚いた友達がほとんどだったな」

 ただ、それは仕方のないことなのかも。
 小中学校時代の友人には、あおいについては「幼稚園の頃に一年間一緒に過ごし、卒園直後に引っ越した幼馴染の女の子がいた」と何度か話したくらいだ。忘れている可能性は高いだろう。アルバムにある幼稚園時代のあおいの写真を見せた友人もいるけど、それを覚えていても、あおいの雰囲気が中性的な感じから清楚な美人に変わったから。

「ただ、中学時代までの涼我君や愛実ちゃん達に触れられた気がして嬉しかったです。あと、幼稚園で遊んでいた子と再会できたことも」
「そうか。良かったな、あおい」
「はいっ」

 あおいはとても柔らかい笑顔を見せてくれる。
 会場を廻っているとき、あおいや俺と幼稚園で遊び、別の小学校に入学した女子と再会したのだ。俺と一緒にいたのもあるかもしれないけど、その子は俺達が紹介する前にあおいだと気付いて。10年ぶりの再会に、その子もあおいもとても嬉しそうにしていた。
 地元のお祭りに行くと、卒園や卒業のタイミングで別離した友人達と久しぶりに再会できることがあるからいいなって思える。今年はあおいと久しぶりに来たのもあり、その思いが例年よりも強い。
 あおいと愛実、海老名さんと話したから、気付けば先頭に近いところまで来ていた。

「もうすぐ私達の番ですね。涼我君は何を書くか決めていますか?」
「ああ、決めてるよ。といっても、誕生日が七夕のすぐ後だから、毎年書く内容はほとんど同じなんだけどな」
「7月9日が誕生日ですもんね。なるほどです」
「確かに、リョウ君は毎年短冊に書くことは同じだよね。あと、誕生日当日はあおいちゃんと一緒に、リョウ君の好きなものを作るからね」
「頑張りましょうね!」
「楽しみにしているよ」

 俺の誕生日……幼稚園の年長組のときはあおいの家族と、小学1年生からは愛実の家族が毎年一緒に祝ってくれている。それもあり、今年の誕生日は愛実とあおいの両家族が俺の誕生日を祝ってくれる予定になっている。当日は俺の好きな料理を愛実とあおいが中心となって作ってくれるらしい。楽しみだ。
 それから程なくして、俺達が短冊の願いを書く番になった。また、書いた短冊はみんなで近くに飾ろうということになった。
 短冊の近くには長いテーブルが2つ置かれている。俺はあおいと一緒に空いたスペースに向かった。
 テーブルには油性の黒いサインペンと、赤、青、黄色、緑、桃色など様々な色の短冊が用意されている。俺は一番好きな緑色の短冊を1枚取り、サインペンで願いごとを書いていく。

『16歳はとてもいい1年間だった。17歳の1年間もとてもいい1年でありますように。  麻丘涼我』

 七夕と自分の誕生日がほんの少ししか違わないから、年齢単位での1年間の幸福を願いごととして書くのだ。例年は『いい1年間』だけど、16歳の間にあおいと再会できたから、今年は『とてもいい1年間』と書いた。

「……よし、書けた」
「私も書けました」

 そう言うあおいは青い短冊を持っていた。やっぱり、あおいは青色の短冊を選ぶと思ったよ。あおいだし。

「麻丘、桐山、ここに飾ろうぜ!」
「ここならまだまだスペースがあるから」

 鈴木と須藤さんが手招きしながらそう言ってくれる。
 俺とあおいは鈴木と須藤さんのところへ行き、その近くにある笹に自分の願いごとを書いた短冊を飾った。その後に愛実、海老名さんと続く。

「笹……凄く綺麗ですね!」
「そうだね。ライトアップされているし、色んな色の短冊が飾られてカラフルだもんね」
「綺麗だよな」

 時間が経つにつれて笹がどんどんカラフルに彩られていくのも、調津七夕祭りの名物の一つだ。ライトアップされてとても綺麗なので、スマホで笹の写真を撮る人が何人もいる。
 道本と佐藤先生も、願いごとを書いた短冊を笹に飾った。
 あおいと鈴木が「みんなどんな願いごとを書いてあるかみたい」と言ったので、俺達は許可した。俺もみんなの願いごとを見てみることに。


『幼馴染や友達と一緒に、東京の夏を楽しく過ごしたいです!  桐山あおい』

『みんなと楽しく過ごしていけますように。  香川愛実』

『陸上部のみんなが大会でいい結果を残せますように。  海老名理沙』

『初めてのインターハイで、一つでも上のステージに進みたい。  道本翔太』

『インターハイ優勝を目指す!  鈴木力弥』

『力弥君と素敵な夏を過ごせますように。  須藤美里』

『次元を問わず、美しい光景、美しい物語と出会えますように。  佐藤樹理』


 みんな、それぞれの個性が感じられるいい願いごとだな。
 あおいは……俺達と一緒に東京の夏を楽しく過ごしたいか。再会してから、幼馴染としてあおいをすぐ近くから見てきたけど、あおいは楽しそうにしていることが多い。だから、この願いはきっと叶うんじゃないだろうか。
 あおい以外は去年の短冊も見たけど、去年と似ている願いごとを書いている人もいれば、初のインターハイを決めた道本と鈴木のように今年ならではの願いごとを書く人もいる。

「17歳としての1年間がとてもいい1年でありますように……ですか。とても素敵な願いごとですね」
「ありがとう。誕生日が近いからな。あおいの願いごともいいな」
「私もいいと思うよ、あおいちゃん」
「ありがとうございます! みなさんの願い……叶うといいですね」
「そうだな」

 短冊には書いてないけど「みんなの願いごとが叶いますように」っていうのも、一つの願いごとになるな。
 俺の場合、来年の七夕で「17歳としての1年間はとても良かった」と思えたら、今日書いた願いごとが叶ったことになるのだろう。そうなるように頑張りたい。
 ただ、梅雨の時期だけど、運良く雨も降らず涼しい中でお祭りを迎えられたから、みんなの書いた願いごとが叶いそうな気がする。夜空を見上げると……雲の切れ間から星が見えているし。
 その後、あおいがスマホでみんなの願いごとが書かれた短冊を1枚で撮影し、グループトークに送ってくれた。
 みんなの願いごとがどうか叶いますように。そう願いながら、あおいが送ってくれた写真をスマホに保存したのであった。
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