10年ぶりに再会した幼馴染と、10年間一緒にいる幼馴染との青春ラブコメ

桜庭かなめ

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第4章

第28話『七夕祭り-前編-』

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 調津七夕祭り。
 毎年、七夕直前もしくは七夕当日の日曜日に、調津北公園で開催されるお祭りだ。会場の調津北公園の中にはお祭りの定番の屋台が数多く並ぶため、地域の夏祭りの一面もある。
 また、七夕祭りと冠しているのもあり、会場内には『短冊コーナー』というコーナーが設けられている。ここでは短冊に自分の願いごとを書いて、大きな笹に飾ることができるのだ。これは昔から変わらない。だからか、

「うわあっ、懐かしいです!」

 会場の調津北公園に入ってすぐ、あおいは楽しげな様子でそう言った。あおいは目を輝かせながら会場を見渡していて。そんなあおいが幼く見えて、俺もちょっと懐かしい気持ちを抱く。

「お祭りの雰囲気は昔と変わりませんね!」
「そうだな。会場の場所も、中の雰囲気も変わっていないよ。そういった場所にあおいとまた来られるなんてな。しかも、愛実達も一緒だし。不思議な感じだ」
「ふふっ、そうですか。一緒に楽しみましょうね!」
「そうだな」

 俺がそう言うと、あおいは俺を見ながらニコッと笑った。浴衣姿で俺に可愛い笑顔を見せてくれるのも昔と変わらない。
 ――ぐううっ!
 おおっ、誰かのお腹の虫が盛大に鳴り響いたな。音がした方に顔を向けると……鈴木がお腹をさすりながら朗らかに笑っていた。

「わははっ! お腹空いちまったぜ! 美味そうな匂いがするからよ!」
「お祭りでいっぱい食べるからって、力弥君は試験勉強の休憩のときもあまりおやつを食べなかったものね」
「鈴木らしいな」

 道本のツッコミもあり、俺達8人は笑いに包まれる。
 お祭りの屋台で売られている食べ物って美味しいもんな。いっぱい食べたくて、おやつを控えめにしていたのも頷ける。鈴木なら食べ物系の屋台を制覇しそうだ。

「鈴木の気持ちも分かるよ。俺も食欲そそるこの匂いでお腹空いてきたし」
「私もです」
「もう午後6時過ぎだもんね」
「夕ご飯時とも言えるものね。試験勉強をしたから、あたしもお腹空いたわ」
「みんな試験勉強を頑張ったんだね。じゃあ、そのご褒美と、美少女達の魅力的な浴衣姿を見せてくれたお礼に、先生がみんなに何か一つ奢ってあげよう。もちろん、美里ちゃんにもね」
「佐藤先生あざーっす!」

 鈴木はとても元気良くお礼を言って、佐藤先生に向かって深く頭を下げる。運動系の部活の部員らしいお礼の言い方だなぁ。須藤さんはそんな鈴木を見て上品に笑いながら、「ありがとうございます」とお礼を言った。
 鈴木&須藤さんカップルに倣い、俺達も佐藤先生にお礼を言う。

「いえいえ。じゃあ、みんなお腹が空いているみたいだし……焼きそばはどうかな?」

 佐藤先生は焼きそばの屋台の方に指さしながら、俺達にそう提案してきた。
 焼きそばか。お祭りでは定番の食べ物系屋台だな。ガッツリと食べられるし、お腹が空いている今の俺達にはもってこいだと思う。

「いいじゃないっすか、焼きそば! みんなはどうだ?」
「焼きそばいいわよね。あたしは賛成よ、力弥君」
「俺も焼きそばに賛成だ」

 須藤さん、俺と賛成の言葉を言うと、あおいや愛実達もみんな賛同の意を表明した。
 満場一致の賛成となったため、佐藤先生はニコッと笑って頷いた。

「分かった。じゃあ、みんなに焼きそばを奢ろう」

 俺達は焼きそばの屋台に行き、佐藤先生に奢ってもらうことに。
 焼きそばは1つ400円か。俺達7人に奢るから2800円。それをパッと出せるのだからさすがは社会人だ。俺のバイト代に換算すると3時間弱。放課後のバイトは3時間のシフトも結構あるから……一日分か。そう考えると、佐藤先生への有り難い気持ちがより膨らむ。
 佐藤先生も食べるそうで、焼きそばの屋台のおじさんに「焼きそば8パックお願いします」と言っていた。
 おじさんは「8パックっすか!」と一瞬驚いていた。ただ、たくさん買ってくれるからか、それとも注文したのが美人な佐藤先生だからか、

「あいよっ! 作りたて出しますんで、ちょっと待ってくだせえっ!」

 と凄く嬉しそうに注文を受けていた。
 おじさんはニコニコしながら、鉄板で焼きそばを作っていく。おじさんの手さばきもいいし、ソースをかけたときに広がる香ばしい匂いもいいな。これは期待できそうだ。鈴木とあおいは目を輝かせながら鉄板を見ていた。

「へいっ! 焼きそば8パックお待ち!」
「どうも」

 佐藤先生はおじさんから焼きそばが入った袋を受け取った。
 他の人の邪魔にならないように、休憩スペースになっているところへ向かう。その中で、屋台で買ったと思われる食べ物を楽しんでいる人がたくさん見かけて。そんな光景を見るとますますお腹が減ってくる。
 休憩スペースに到着し、俺達は佐藤先生から焼きそばと割り箸を受け取る。
 パックの蓋を開けると、作りたてだからソースの香ばしい匂いが濃く香ってきて。物凄く美味しそうだ。

「佐藤先生、あざっす! いただきまーす!」
『いただきます!』

 鈴木の号令で俺達は焼きそばを食べ始める。
 割り箸で焼きそばを一口分掬い、何度か息を吹きかけて、口の中に入れる。
 ソースの濃さも絶妙だし、具材の豚肉とキャベツの旨みが感じられて美味しい。鉄板で作ったからか、麺の一部がちょっと焦げていてパリッとした食感になっているのもいい。屋台の焼きそばらしくていいな。

「う~んっ! 焼きそば凄く美味しいですっ!」
「出来たてだから凄く美味しいよね、あおいちゃん。具材が豚肉とキャベツだけっていうシンプルさがいいね」
「屋台の焼きそばって感じがしていいよな。麺もちょっとパリッとしているし」

 俺がそう言うと、あおいと愛実は満面の笑みで頷いてくれる。
 あおいとも愛実とも、この七夕祭りで焼きそばを食べたことがある。ただ、こうして2人同時に焼きそばを食べている姿を見るのは初めてだから、何だか新鮮な気分に。これからは、お祭りではこういった光景を見るのが当たり前になるのかな。

「めっちゃうめーっ!」
「本当に美味しいわね、力弥君」

 鈴木と須藤さんも美味しそうに食べているな。特に鈴木はモリモリと食べていて。そんな鈴木を須藤さんがうっとりと見つめているのが印象的で。

「本当に美味しいわね、この焼きそば」
「出来たてだもんな、海老名。これをタダでいただけるとは。先生、ありがとうございます」
「いえいえ。みんなが美味しそうに食べてくれて私は嬉しいよ。それにしても、この焼きそばは本当に美味しいね」

 海老名さんと道本、佐藤先生も焼きそばに満足しているようだ。
 道本の言うように、こんなに美味しい焼きそばをタダでいただけるとは。佐藤先生に感謝だ。そう思いながら焼きそばを食べると……さっきよりも美味しく感じられた。奢ってもらうのは、食べ物を美味しくさせてくれるスパイスなのかもしれない。

「本当に美味しいですね。これなら、余裕で全部食べられそうです」
「そうだな。お腹も空いているし」
「ですね。今では1パックは普通に食べられますけど、幼稚園のときは涼我君と半分ずつ食べましたよね。覚えていますか?」
「覚えてるよ。焼きそば食べたいってあおいと一緒におねだりして。親達が割り勘して買ってくれて、半分ずつ食べたな」
「そうでしたね。覚えていてくれて嬉しいです」

 ふふっ、と嬉しそうに笑うあおい。
 11年前のことだけど、あおいと焼きそばを半分ずつ食べたのは鮮明に覚えている。あのときも、今と同じようにあおいが笑顔で食べていることも。

「あおいちゃんもリョウ君と半分こしたんだね。私も、小学校低学年の頃はリョウ君と焼きそばを半分こしたんだよ」
「そうだったんですね。子供には半分くらいがちょうどいいのかもしれませんね。色々な屋台がありますし」
「たこ焼きとかも半分こしたんだよ。リョウ君、覚えてる?」
「よく覚えてるよ」

 俺がそう言うと、愛実はニッコリと笑いかけてくれる。
 焼きそばやたこ焼きとか量の多い食べ物は、愛実と折半して買って、半分ずつ食べたな。両親から夏祭り用のお小遣いをもらっていたけど、当時はそこまで多くなかったし。半分ずつ食べるのを採用したから、小さいときも色々な屋台を楽しめた。

「りょ、涼我君。小さい頃みたいに、一口……食べさせ合いませんか?」

 あおいはそう言うと、割り箸で掴んだ焼きそばを俺の口元に近づけてくる。そんなあおいの顔は頬を中心にほのかに赤くなっていて。
 そういえば、昔はあおいと焼きそばを何度か食べさせ合ったっけ。あのとき以来のお祭りだし、当時を再現したいのかもしれない。

「分かった。いいよ」
「ありがとうございますっ。では、あ~ん」

 俺はあおいに焼きそばを食べさせてもらう。
 俺のものと同じタイミングで作られた焼きそばだけど、自分で食べるよりも美味しく感じられる。

「美味しい」
「良かったです。では、次は私の番ですねっ」

 あおいは口を少し大きめに開く。そんなあおいが可愛くて、ちょっと幼く見える。
 俺は割り箸で焼きそばを一口分掴み上げる。作ってからそこまで時間が経っていないから、湯気が結構出ていて。あおいが火傷しないように、何度か息を吹きかけた。

「はい、あおい。あーん」
「あ~ん」

 あおいに焼きそばを食べさせる。
 あおいは幸福感溢れる笑顔で焼きそばをモグモグ食べている。大人っぽくなったけど、美味しそうに食べる姿は昔と変わらない。ただ、浴衣姿なのもあって、今のあおいがとても魅力的に見える。

「美味しいですっ」
「良かった」
「リョ、リョウ君っ。私とも一口交換してほしいな」
「いいよ。……おっ」

 愛実の方に振り向くと、愛実は既に俺に焼きそばを食べさせるスタンバイをしていた。そこまでしているとは思っていなかったから、思わず声が漏れた。あおいと一口交換したのを見て、自分もやりたくなって準備していたのかも。

「はい、涼我君。あ~ん」
「あーん」

 愛実に焼きそばを食べさせてもらう。
 さっき、あおいに食べさせてもらったときと同じくらいに美味しいな。こうして誰かに食べさせてもらうことも、美味しくさせるスパイスの一つなのかも。

「美味しい」
「良かった」
「次は愛実の番だな」

 さっきのあおいのときと同じく、割り箸で焼きそばを一口分掴んで、何度か息を吹きかけた。その焼きそばを愛実の口元まで持っていく。

「はい、愛実。あーん」
「あ~ん」

 愛実に焼きそばを食べさせる。
 愛実は焼きそばをモグモグと食べながら、ふふっ、と可愛い笑顔を見せる。その姿はあおいに負けず劣らずの魅力があって。

「凄く美味しい。リョウ君が息を吹きかけて冷ましてから食べさせてくれたからかな」
「ははっ、そうか。まだまだ熱そうだったからな。美味しく食べてくれて嬉しいよ」
「ありがとう、リョウ君」
「……いやぁ、いい光景だねぇ」

 佐藤先生が満足そうな様子で俺達のことを見ている。道本と海老名さんも焼きそばを食べながらこっちを見ていて。
 また、鈴木と須藤さんは、俺達の真似なのか焼きそばを食べさせ合っている。2人とも幸せそうだ。

「君達3人が一口交換している光景は何度も見ているけど、愛実ちゃんとあおいちゃんが浴衣姿だから特別感があっていいね。ごちそうさま」
「そういう風に言われると、ちょっと恥ずかしいですね」
「そうだね、あおいちゃん」

 あおいと愛実は頬をほんのりと赤くさせて俺の方をチラッと見てくる。そんな反応をされると、俺までちょっと恥ずかしい気分に。でも、2人と一口交換して良かった気持ちは揺るがない。
 それからも焼きそばを食べ続ける。美味しいけど、2人に食べさせてもらった焼きそばの方が美味しかった。
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