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第4章
第16話『体育祭⑥-部活動対抗リレー-』
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午後0時過ぎ。
ほぼ定刻通りに午前の部が全て終了し、1時間の昼休憩に入った。
普段の学校生活と同じで、教室など好きな場所でお昼ご飯を食べていいことになっている。俺達は2年2組の教室に戻り、いつもの6人で昼食を食べることに。
借り物競走があってか、教室に戻るまでの間にかなりの生徒から視線を浴びたり、別のクラスの友人から「凄かったなぁ」とか「よくやった」と言われたりした。どうやら、あのレースで俺は有名人になってしまったようだ。
また、あおいと愛実は女子の友人達から「良かったねぇ」とか「羨ましいなぁ」と言われて。そのことに照れくさそうにしているときもあった。
お昼ご飯は両親が作ってくれたお弁当だ。おかずは玉子焼きや唐揚げといった定番メニューが多い。ただ、今日は体育祭であり、勝つためのゲン担ぎなのか、登場頻度があまり高くないとんかつも入っていた。それもあって、今日のお弁当はいつも以上に美味しかった。
午後1時。
定刻通りに体育祭午後の部が始まる。日差しが強くなってきて、午前中よりも暑さを感じられるように。
現在、緑チームは1位。だけど、2位の青チームとはあまり差が開いていない。午後の種目もいっぱいあるから、まだまだどうなるかは分からない。
午後の部で俺が参加する種目は、ラストのチーム対抗の混合リレー。しかもアンカー。最後の最後まで選手としての出番はない。それまでは、緑チームのみんなへの応援を頑張ろう。
『ただいまより、体育祭午後の部を開始いたします!』
午前の部の男子生徒から交代したのか、女子生徒によってアナウンスされる。実況を担当するだけあって、この女子生徒の声も聞き取りやすい。
午後の部が開幕したのもあり、会場にいる人達からは拍手が送られる。
『最初の種目は部活動対抗リレーです。文化系部活部門、運動系部活男子部門、運動系部活女子部門の計3レースを実施します。また、どのリレーにも、顧問の先生方を集めた先生チームも参加しますので、その点にも注目して楽しんでください!』
午後の部最初の種目は部活動対抗リレーだ。
文化系部活部門にはキッチン部の一員として愛実が、運動系部活男子部門には陸上部の一員として道本が出場する。道本はこのリレーでもアンカーを務める予定だ。彼は短距離部門のエースだし、先日の都大会のリレーでもアンカーを務めた。妥当な選出だろう。
また、文化系部活部門の先生チームの一員として、佐藤先生も出場する。先生もアンカーで走るらしい。
部活動リレーに参加しない俺はあおい、海老名さん、鈴木と一緒にレジャーシートから観戦することに。
「部活動対抗リレー楽しみですね! これまで通った学校の体育祭でもありまして、他の競技とは違った雰囲気で楽しかったですね」
「部活動リレーも体育祭の定番だもんな。普通の種目とは部活単位での戦いだし、結構面白いよな」
俺は中1のときは陸上部の一員として参加し、中2以降は部活に入っていないので観戦している。ただ、個人的には走っても見ても面白い種目だと思う。運動系部活のレースはガチで走るし、文化系部活は服装やバトン、走る途中のパフォーマンスといったエンタメ要素がいっぱいだから。
『まずは文化系部活部門のレースを始めます。各部活の第1走者のみなさんはスタート地点に立ってください』
リレーのスタート地点を見ると、男女問わず多くの生徒と1人の先生が立っている。パッと見た感じ10人以上いるだろうか。非常に人数が多いため、クラウチングスタートやスタンディングスタートの姿勢は取っていない。
この部門に参加する部活は服装もバトンも個性的だ。
愛実のいるキッチン部は体操着の上にエプロンを身につけていて、バトンはおたま。グラウンドの中には体操着の上にピンクのエプロンを身につける愛実がいる。とても可愛い。
他にも吹奏楽部はマーチングバンドの制服でバトンがフルート、書道部は大会用なのか袴を着ていてバトンが物凄く大きい筆、佐藤先生が顧問の理科部は体育着の上に白衣を着ていてバトンは試験管と部活の特徴がよく出ている。スタートしてないけど既に面白い。先生チームはみんな服装はバラバラで普通のバトンだ。
――パァン!
スターターピストルが鳴り響き、レースがスタートする。
『さあ、文化系部活部門のレースがスタートしました! 各部活6人でのチーム戦です! どの部活が1位になるでしょうか!』
文化系部活のレースでも、会場はさっそく盛り上がっている。
吹奏楽部や演劇部がレース序盤から本気の走りをしてトップ争いを繰り広げている。吹奏楽部も演劇部もかなりの体力が必要らしいから、足の速い部員が多いのかも。
キッチン部は第1走者が早いのか、体操着にエプロンという服装だからなのか理科部や美術部などの生徒と3位争いを繰り広げている。また、その後ろでは40代くらいと思われる先生チームの男性教師が必死に走っている。先生が参加するのはこの種目だけだから、ここに全力を注いでいるのかもしれない。
どうやら1人半周走るルールのようで、スタート地点の他にも、俺達のいるレジャーシートの近くでバトンパスが行われる。大きなバトンや重たそうなバトンの部活は、一旦立ち止まって丁寧に渡していて。そういったところも面白い。
全ての部活が第1走者から第2走者にバトンパスが終わったので、第4走者の生徒がトラックに出始める。その中には愛実もいる。
「愛実ちゃんが出てきましたね」
「ああ。愛実は第4走者みたいだな」
「そのようね。愛実、頑張って!」
「頑張ってくださーいっ!」
海老名さんとあおいが、トラックに立っている愛実に向かって大きな声でエールを送る。結構近いところにいるので、愛実はすぐに気付いて、俺達に向かって笑顔で手を振っていた。
その後もレースが続き、今は第3走者が走っている。もうそろそろ愛実へバトンパスだな。
トップ争いを続ける吹奏楽部と演劇部が第4走者にバトンパス。その次に理科部もバトンパス。そして、
「愛実!」
「はいっ!」
キッチン部は4位で、第3走者から第4走者の愛実におたまバトンがパスされた。
愛実は一生懸命になって走っている。体操着にエプロンというシンプルな服装だから、いいフォームで走れているな。そんな愛実に向かって俺達4人は大きな声で応援していく。
5位でバトンパスした先生チームの若手女性教師が、愛実を猛追している。ただ、愛実の頑張りもあってか、先生チームの教師に抜かれることなく、4位で第5走者にバトンパスすることができた。
「愛実ちゃん頑張りましたね!」
「ああ。粘って4位のままバトンパスできたな」
「先生チームの教師が速いからドキドキしたわ」
「いい走りだったぜ!」
あおい達も愛実の走りをいいと思ったようだ。
そういえば、実況が各部活6人でのチーム戦って言っていたな。もう終盤戦か。スタート地点とは反対側の場所を見てみると、そこには先生チームアンカー・佐藤先生の姿もあった。キッチン部もいるけど、俺達は先生に「頑張れ」とエールを送った。先生は俺達に向かって微笑みながら手を振る。
戦況は最初から変わらず吹奏楽部と演劇部が優勝争い。3位は理科部で、キッチン部は先生チームと4位争いを繰り広げている。
『さあ、アンカーにバトンが渡りました! 吹奏楽部と演劇部がほぼ同時! 優勝はこの2つのどちらか? それとも、それ以外の部活が逆転するのでしょうか!』
クライマックスなのもあって、女子生徒が声を張り上げて実況している。そのことで会場も盛り上がっていく。
3位の理科部、その直後にキッチン部と先生チームがほぼ同時でアンカーにバトンが渡る。
『おおっ!』
先生チームのアンカー・佐藤先生はバトンを受け取った瞬間、まずはキッチン部を追い抜いた。先生はかなり脚が速く、そのすぐ後に自分が顧問を務めている理科部の生徒も追い抜く。その速さを目の当たりにしてか、生徒達からどよめきが。
愛実と同じ第4走者の先生も速かったけど、佐藤先生はそれ以上だ。1位争いをしている吹奏楽部と演劇部との差がどんどん詰まっている。
「佐藤先生すげー!」
「めっちゃ速いな!」
「樹理先生かっこいいー! 頑張って!」
「そのままあたしのところに来て! そして抱きしめてー!」
『アンカーの佐藤先生速いです! 先生チームが一気に3位まで躍り出ました! このまま優勝まで突き進むのでしょうか!』
男女問わず、佐藤先生の走りを称賛する声が多数。また、女子生徒達からは「きゃーっ!」と黄色い声が絶えず聞こえてくる。セミロングの亜麻色の髪を揺らし、真剣な様子で走る様子のかっこよさはもちろんのこと、生徒相手にも本気で走っているから、ここまで歓声が沸くのだろう。
「速い! 速いですよ! 樹理先生!」
「速いわね! あおい!」
佐藤先生の走りを見てか、あおいと海老名さんはかなり興奮している。そんな2人は寄り添っていて。
佐藤先生の猛追は続き、コーナーを回り終わったところで、1位争いをする吹奏楽部と演劇部の男子生徒とは数メートルほどの差に詰めていた。この展開に会場はさらに盛り上がる。
そして、佐藤先生はついに吹奏楽部と演劇部の横についた!
しかし、その瞬間に、吹奏楽部の男子がラストスパートを掛けて、佐藤先生と演劇部の男子を引き離す。そして、
『ゴール! 1位は吹奏楽部! そして、2位は5位から追い上げた先生チーム! 3位は演劇部となりました!』
1位は吹奏楽部、2位は先生チーム、3位は演劇部がゴール。その少し後に4位がキッチン部で、5位が理科部となった。
佐藤先生が2位まで追い上げたことや力の入った実況もあって、会場はかなり盛り上がり大きな拍手が送られた。
「佐藤先生凄かったですね!」
「凄く速かったな、桐山! オレ、かなり興奮したぜ!」
「かっこよかったわね。キッチン部も4位で大健闘ね」
「そうだな、海老名さん。キッチン部も先生チームも凄かった」
胸が熱くなるいいレースだったと思う。
グラウンドを見ると、4位に入ったからか愛実はキッチン部のみんなと喜び合っている。
また、その近くでは佐藤先生が、第4走者として走った若い女性教師に抱きしめられていて。先生は爽やかな笑みを浮かべながら、女性教師の頭を撫でていた。その光景を見てか「きゃあっ!」とか「羨ましいー!」黄色い声を上げる女子生徒が何人もいた。
それからすぐに、文化系部活部門の参加者はグラウンドを後にする。
愛実は佐藤先生と一緒にレジャーシートに戻ってきた。
「みんな、ただいま」
「ただいま。いやぁ、あと少しで1位だったんだけどね。惜しかったな」
とは言いながらも、佐藤先生は結構満足そうな笑みを浮かべていた。
俺達は愛実と佐藤先生に「お疲れ様」と労いの言葉を掛ける。あおいと海老名さんは愛実の頭を撫ででいて。
「愛実ちゃん羨ましいね。私にもご褒美に頭を撫でてほしいな」
佐藤先生がそんなおねだりをし、あおいと海老名さんと愛実が先生の頭を撫でていた。それが嬉しかったようで、先生は可愛い笑みを浮かべていた。
また、怒濤の追い上げを見せたのもあってか、佐藤先生はクラスの女子からはもちろん、他クラスの女子からも「凄いです!」とか「かっこよかったです!」と言われていた。それが嬉しいのか、先生はにんまりとした笑みに。
その後、運動系部活男子部門のリレーがスタートする。どの部活も試合のユニフォームを着ている。実況の女子生徒曰く、人数は文化系と同じ6人だけど、走る長さがトラック一周になるそうだ。
各部活のプライドを賭けているのか、どの部活も本気で走っていてかなり速い。その中でも、陸上部とサッカー部と男子バスケ部で1位争いをしている。
陸上部のメンバーは、道本を含めて、短距離走専門でその中でもタイムの速い部員ばかりだ。本気の布陣である。
俺達も陸上部を応援するのだが、
「いけえっ! 陸上部頑張れええっ!」
「頑張ってー!」
部員の鈴木とマネージャーの海老名さんはかなり大きな声で応援していた。鈴木に至ってはレジャーシートの前に立って応援するほどだ。
中盤から陸上部が1位になるが、サッカー部とバスケ部も少し後ろで走り続けている。サッカーは走る距離が結構長く、バスケはダッシュで走る場面がたくさんあると聞く。だからこそ、陸上部に引けを取らない走りをする部員が多いのだろう。
サッカー部とバスケ部と差があまりないまま、アンカーの道本にバトンが渡った。
『さあ、アンカーにパトンパス! 1位は陸上部! 2位はサッカー部でそのすぐ後にバスケ部が続きます!』
文化系部門のレースと同様、会場のボルテージが上がっていく。
「いけえええっ!! 道本おおおっ!」
「道本君、いい調子よっ!」
鈴木と海老名さんの応援もより一層に熱が入る。そんな2人に引っ張られるようにして、俺、あおい、愛実、佐藤先生の応援の声も大きくなっていく。
俺達の応援の声が届いたのだろうか。それとも、道本のポテンシャルが高いからだろうか。第5走者まではあまりなかったサッカー部とバスケ部との差が、見る見るうちに開いていく。
「差が開いてきたね!」
「ええ! 道本君速いです!」
「おぉ、素晴らしい走りだ」
「凄いですよね! さすがは道本だ!」
陸上部の短距離走を牽引するエースで、関東大会進出を決めるだけのことはある。中学時代から、道本は凄いスプリンターだ。
道本のとても速い走りを目の当たりにしてか、男子生徒達の「おおおっ!」という野太い声や女子生徒達の「きゃあああっ!」という黄色い声が聞こえてくる。
誰も道本を捉えることはできない。2位以降の部活との差はどんどん広がっていって。道本は物凄い速さを保ったまま、ゴールテープを切って駆け抜けた。
『ゴール! 陸上部が圧倒的な速さで1位をゴールしました!』
張り上げた声による実況と共に、会場はとても盛り上がる。
「道本やったぜ!」
「さすがだわ!」
やったね! と、鈴木と海老名さんはとても嬉しそうにハイタッチする。そのハイタッチは俺、あおい、愛実、佐藤先生に広がり、6人でハイタッチし合った。
道本はグラウンドで陸上部のリレーメンバーと嬉しそうにハイタッチしている。どのメンバーもマネージャー手伝いを通じて知っているから、彼らの嬉しそうな表情を見るとこっちまで嬉しくなるな。
道本はこちらを向き、いつもの爽やかな笑顔で大きく手を振ってくる。
「道本やったな! みんなおめでとうだぜ!」
「1位おめでとう! みんなお疲れ様!」
鈴木と俺は、陸上部のリレーメンバーに向かって大きな声でそう言う。
道本だけでなく、メンバー全員に言ったのもあり、
『ありがとう!』
陸上部の男子リレーメンバー全員が笑顔でお礼を言ってくれた。そんな彼らが今、グラウンドの中で一番輝いていた。
また、男子の後で行われた女子部門でも、陸上部は颯田部長を中心に奮闘して1位でゴール。陸上部は完全制覇を果たしたのであった。
ほぼ定刻通りに午前の部が全て終了し、1時間の昼休憩に入った。
普段の学校生活と同じで、教室など好きな場所でお昼ご飯を食べていいことになっている。俺達は2年2組の教室に戻り、いつもの6人で昼食を食べることに。
借り物競走があってか、教室に戻るまでの間にかなりの生徒から視線を浴びたり、別のクラスの友人から「凄かったなぁ」とか「よくやった」と言われたりした。どうやら、あのレースで俺は有名人になってしまったようだ。
また、あおいと愛実は女子の友人達から「良かったねぇ」とか「羨ましいなぁ」と言われて。そのことに照れくさそうにしているときもあった。
お昼ご飯は両親が作ってくれたお弁当だ。おかずは玉子焼きや唐揚げといった定番メニューが多い。ただ、今日は体育祭であり、勝つためのゲン担ぎなのか、登場頻度があまり高くないとんかつも入っていた。それもあって、今日のお弁当はいつも以上に美味しかった。
午後1時。
定刻通りに体育祭午後の部が始まる。日差しが強くなってきて、午前中よりも暑さを感じられるように。
現在、緑チームは1位。だけど、2位の青チームとはあまり差が開いていない。午後の種目もいっぱいあるから、まだまだどうなるかは分からない。
午後の部で俺が参加する種目は、ラストのチーム対抗の混合リレー。しかもアンカー。最後の最後まで選手としての出番はない。それまでは、緑チームのみんなへの応援を頑張ろう。
『ただいまより、体育祭午後の部を開始いたします!』
午前の部の男子生徒から交代したのか、女子生徒によってアナウンスされる。実況を担当するだけあって、この女子生徒の声も聞き取りやすい。
午後の部が開幕したのもあり、会場にいる人達からは拍手が送られる。
『最初の種目は部活動対抗リレーです。文化系部活部門、運動系部活男子部門、運動系部活女子部門の計3レースを実施します。また、どのリレーにも、顧問の先生方を集めた先生チームも参加しますので、その点にも注目して楽しんでください!』
午後の部最初の種目は部活動対抗リレーだ。
文化系部活部門にはキッチン部の一員として愛実が、運動系部活男子部門には陸上部の一員として道本が出場する。道本はこのリレーでもアンカーを務める予定だ。彼は短距離部門のエースだし、先日の都大会のリレーでもアンカーを務めた。妥当な選出だろう。
また、文化系部活部門の先生チームの一員として、佐藤先生も出場する。先生もアンカーで走るらしい。
部活動リレーに参加しない俺はあおい、海老名さん、鈴木と一緒にレジャーシートから観戦することに。
「部活動対抗リレー楽しみですね! これまで通った学校の体育祭でもありまして、他の競技とは違った雰囲気で楽しかったですね」
「部活動リレーも体育祭の定番だもんな。普通の種目とは部活単位での戦いだし、結構面白いよな」
俺は中1のときは陸上部の一員として参加し、中2以降は部活に入っていないので観戦している。ただ、個人的には走っても見ても面白い種目だと思う。運動系部活のレースはガチで走るし、文化系部活は服装やバトン、走る途中のパフォーマンスといったエンタメ要素がいっぱいだから。
『まずは文化系部活部門のレースを始めます。各部活の第1走者のみなさんはスタート地点に立ってください』
リレーのスタート地点を見ると、男女問わず多くの生徒と1人の先生が立っている。パッと見た感じ10人以上いるだろうか。非常に人数が多いため、クラウチングスタートやスタンディングスタートの姿勢は取っていない。
この部門に参加する部活は服装もバトンも個性的だ。
愛実のいるキッチン部は体操着の上にエプロンを身につけていて、バトンはおたま。グラウンドの中には体操着の上にピンクのエプロンを身につける愛実がいる。とても可愛い。
他にも吹奏楽部はマーチングバンドの制服でバトンがフルート、書道部は大会用なのか袴を着ていてバトンが物凄く大きい筆、佐藤先生が顧問の理科部は体育着の上に白衣を着ていてバトンは試験管と部活の特徴がよく出ている。スタートしてないけど既に面白い。先生チームはみんな服装はバラバラで普通のバトンだ。
――パァン!
スターターピストルが鳴り響き、レースがスタートする。
『さあ、文化系部活部門のレースがスタートしました! 各部活6人でのチーム戦です! どの部活が1位になるでしょうか!』
文化系部活のレースでも、会場はさっそく盛り上がっている。
吹奏楽部や演劇部がレース序盤から本気の走りをしてトップ争いを繰り広げている。吹奏楽部も演劇部もかなりの体力が必要らしいから、足の速い部員が多いのかも。
キッチン部は第1走者が早いのか、体操着にエプロンという服装だからなのか理科部や美術部などの生徒と3位争いを繰り広げている。また、その後ろでは40代くらいと思われる先生チームの男性教師が必死に走っている。先生が参加するのはこの種目だけだから、ここに全力を注いでいるのかもしれない。
どうやら1人半周走るルールのようで、スタート地点の他にも、俺達のいるレジャーシートの近くでバトンパスが行われる。大きなバトンや重たそうなバトンの部活は、一旦立ち止まって丁寧に渡していて。そういったところも面白い。
全ての部活が第1走者から第2走者にバトンパスが終わったので、第4走者の生徒がトラックに出始める。その中には愛実もいる。
「愛実ちゃんが出てきましたね」
「ああ。愛実は第4走者みたいだな」
「そのようね。愛実、頑張って!」
「頑張ってくださーいっ!」
海老名さんとあおいが、トラックに立っている愛実に向かって大きな声でエールを送る。結構近いところにいるので、愛実はすぐに気付いて、俺達に向かって笑顔で手を振っていた。
その後もレースが続き、今は第3走者が走っている。もうそろそろ愛実へバトンパスだな。
トップ争いを続ける吹奏楽部と演劇部が第4走者にバトンパス。その次に理科部もバトンパス。そして、
「愛実!」
「はいっ!」
キッチン部は4位で、第3走者から第4走者の愛実におたまバトンがパスされた。
愛実は一生懸命になって走っている。体操着にエプロンというシンプルな服装だから、いいフォームで走れているな。そんな愛実に向かって俺達4人は大きな声で応援していく。
5位でバトンパスした先生チームの若手女性教師が、愛実を猛追している。ただ、愛実の頑張りもあってか、先生チームの教師に抜かれることなく、4位で第5走者にバトンパスすることができた。
「愛実ちゃん頑張りましたね!」
「ああ。粘って4位のままバトンパスできたな」
「先生チームの教師が速いからドキドキしたわ」
「いい走りだったぜ!」
あおい達も愛実の走りをいいと思ったようだ。
そういえば、実況が各部活6人でのチーム戦って言っていたな。もう終盤戦か。スタート地点とは反対側の場所を見てみると、そこには先生チームアンカー・佐藤先生の姿もあった。キッチン部もいるけど、俺達は先生に「頑張れ」とエールを送った。先生は俺達に向かって微笑みながら手を振る。
戦況は最初から変わらず吹奏楽部と演劇部が優勝争い。3位は理科部で、キッチン部は先生チームと4位争いを繰り広げている。
『さあ、アンカーにバトンが渡りました! 吹奏楽部と演劇部がほぼ同時! 優勝はこの2つのどちらか? それとも、それ以外の部活が逆転するのでしょうか!』
クライマックスなのもあって、女子生徒が声を張り上げて実況している。そのことで会場も盛り上がっていく。
3位の理科部、その直後にキッチン部と先生チームがほぼ同時でアンカーにバトンが渡る。
『おおっ!』
先生チームのアンカー・佐藤先生はバトンを受け取った瞬間、まずはキッチン部を追い抜いた。先生はかなり脚が速く、そのすぐ後に自分が顧問を務めている理科部の生徒も追い抜く。その速さを目の当たりにしてか、生徒達からどよめきが。
愛実と同じ第4走者の先生も速かったけど、佐藤先生はそれ以上だ。1位争いをしている吹奏楽部と演劇部との差がどんどん詰まっている。
「佐藤先生すげー!」
「めっちゃ速いな!」
「樹理先生かっこいいー! 頑張って!」
「そのままあたしのところに来て! そして抱きしめてー!」
『アンカーの佐藤先生速いです! 先生チームが一気に3位まで躍り出ました! このまま優勝まで突き進むのでしょうか!』
男女問わず、佐藤先生の走りを称賛する声が多数。また、女子生徒達からは「きゃーっ!」と黄色い声が絶えず聞こえてくる。セミロングの亜麻色の髪を揺らし、真剣な様子で走る様子のかっこよさはもちろんのこと、生徒相手にも本気で走っているから、ここまで歓声が沸くのだろう。
「速い! 速いですよ! 樹理先生!」
「速いわね! あおい!」
佐藤先生の走りを見てか、あおいと海老名さんはかなり興奮している。そんな2人は寄り添っていて。
佐藤先生の猛追は続き、コーナーを回り終わったところで、1位争いをする吹奏楽部と演劇部の男子生徒とは数メートルほどの差に詰めていた。この展開に会場はさらに盛り上がる。
そして、佐藤先生はついに吹奏楽部と演劇部の横についた!
しかし、その瞬間に、吹奏楽部の男子がラストスパートを掛けて、佐藤先生と演劇部の男子を引き離す。そして、
『ゴール! 1位は吹奏楽部! そして、2位は5位から追い上げた先生チーム! 3位は演劇部となりました!』
1位は吹奏楽部、2位は先生チーム、3位は演劇部がゴール。その少し後に4位がキッチン部で、5位が理科部となった。
佐藤先生が2位まで追い上げたことや力の入った実況もあって、会場はかなり盛り上がり大きな拍手が送られた。
「佐藤先生凄かったですね!」
「凄く速かったな、桐山! オレ、かなり興奮したぜ!」
「かっこよかったわね。キッチン部も4位で大健闘ね」
「そうだな、海老名さん。キッチン部も先生チームも凄かった」
胸が熱くなるいいレースだったと思う。
グラウンドを見ると、4位に入ったからか愛実はキッチン部のみんなと喜び合っている。
また、その近くでは佐藤先生が、第4走者として走った若い女性教師に抱きしめられていて。先生は爽やかな笑みを浮かべながら、女性教師の頭を撫でていた。その光景を見てか「きゃあっ!」とか「羨ましいー!」黄色い声を上げる女子生徒が何人もいた。
それからすぐに、文化系部活部門の参加者はグラウンドを後にする。
愛実は佐藤先生と一緒にレジャーシートに戻ってきた。
「みんな、ただいま」
「ただいま。いやぁ、あと少しで1位だったんだけどね。惜しかったな」
とは言いながらも、佐藤先生は結構満足そうな笑みを浮かべていた。
俺達は愛実と佐藤先生に「お疲れ様」と労いの言葉を掛ける。あおいと海老名さんは愛実の頭を撫ででいて。
「愛実ちゃん羨ましいね。私にもご褒美に頭を撫でてほしいな」
佐藤先生がそんなおねだりをし、あおいと海老名さんと愛実が先生の頭を撫でていた。それが嬉しかったようで、先生は可愛い笑みを浮かべていた。
また、怒濤の追い上げを見せたのもあってか、佐藤先生はクラスの女子からはもちろん、他クラスの女子からも「凄いです!」とか「かっこよかったです!」と言われていた。それが嬉しいのか、先生はにんまりとした笑みに。
その後、運動系部活男子部門のリレーがスタートする。どの部活も試合のユニフォームを着ている。実況の女子生徒曰く、人数は文化系と同じ6人だけど、走る長さがトラック一周になるそうだ。
各部活のプライドを賭けているのか、どの部活も本気で走っていてかなり速い。その中でも、陸上部とサッカー部と男子バスケ部で1位争いをしている。
陸上部のメンバーは、道本を含めて、短距離走専門でその中でもタイムの速い部員ばかりだ。本気の布陣である。
俺達も陸上部を応援するのだが、
「いけえっ! 陸上部頑張れええっ!」
「頑張ってー!」
部員の鈴木とマネージャーの海老名さんはかなり大きな声で応援していた。鈴木に至ってはレジャーシートの前に立って応援するほどだ。
中盤から陸上部が1位になるが、サッカー部とバスケ部も少し後ろで走り続けている。サッカーは走る距離が結構長く、バスケはダッシュで走る場面がたくさんあると聞く。だからこそ、陸上部に引けを取らない走りをする部員が多いのだろう。
サッカー部とバスケ部と差があまりないまま、アンカーの道本にバトンが渡った。
『さあ、アンカーにパトンパス! 1位は陸上部! 2位はサッカー部でそのすぐ後にバスケ部が続きます!』
文化系部門のレースと同様、会場のボルテージが上がっていく。
「いけえええっ!! 道本おおおっ!」
「道本君、いい調子よっ!」
鈴木と海老名さんの応援もより一層に熱が入る。そんな2人に引っ張られるようにして、俺、あおい、愛実、佐藤先生の応援の声も大きくなっていく。
俺達の応援の声が届いたのだろうか。それとも、道本のポテンシャルが高いからだろうか。第5走者まではあまりなかったサッカー部とバスケ部との差が、見る見るうちに開いていく。
「差が開いてきたね!」
「ええ! 道本君速いです!」
「おぉ、素晴らしい走りだ」
「凄いですよね! さすがは道本だ!」
陸上部の短距離走を牽引するエースで、関東大会進出を決めるだけのことはある。中学時代から、道本は凄いスプリンターだ。
道本のとても速い走りを目の当たりにしてか、男子生徒達の「おおおっ!」という野太い声や女子生徒達の「きゃあああっ!」という黄色い声が聞こえてくる。
誰も道本を捉えることはできない。2位以降の部活との差はどんどん広がっていって。道本は物凄い速さを保ったまま、ゴールテープを切って駆け抜けた。
『ゴール! 陸上部が圧倒的な速さで1位をゴールしました!』
張り上げた声による実況と共に、会場はとても盛り上がる。
「道本やったぜ!」
「さすがだわ!」
やったね! と、鈴木と海老名さんはとても嬉しそうにハイタッチする。そのハイタッチは俺、あおい、愛実、佐藤先生に広がり、6人でハイタッチし合った。
道本はグラウンドで陸上部のリレーメンバーと嬉しそうにハイタッチしている。どのメンバーもマネージャー手伝いを通じて知っているから、彼らの嬉しそうな表情を見るとこっちまで嬉しくなるな。
道本はこちらを向き、いつもの爽やかな笑顔で大きく手を振ってくる。
「道本やったな! みんなおめでとうだぜ!」
「1位おめでとう! みんなお疲れ様!」
鈴木と俺は、陸上部のリレーメンバーに向かって大きな声でそう言う。
道本だけでなく、メンバー全員に言ったのもあり、
『ありがとう!』
陸上部の男子リレーメンバー全員が笑顔でお礼を言ってくれた。そんな彼らが今、グラウンドの中で一番輝いていた。
また、男子の後で行われた女子部門でも、陸上部は颯田部長を中心に奮闘して1位でゴール。陸上部は完全制覇を果たしたのであった。
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