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第4章

第10話『体育祭の日』

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 6月7日、火曜日。
 いよいよ、体育祭の日がやってきた。
 今日の天気は晴れ時々曇り。最高気温は29度と高めの予報だけど、蒸し暑くはならないという。雨が降る心配もないし、体育祭日和じゃないだろうか。

「体操着やジャージを着て家を出発すると、今日は特別な日って感じがしますね!」
「そうだね、あおいちゃん」

 制服姿で登下校するようにと校則で決まっている。ただ、今日は体育祭当日なので、特別に体操着やジャージ姿で登下校していいことに。もちろん、制服で登校してもOKで、その際は朝礼までに学校の更衣室で着替えるようにと言われている。
 ただ、着替えの手間があったり、更衣室が混雑する可能性があったりするので、体操着やジャージ姿で登校する生徒が多い。俺、あおい、愛実もみんな体操着を着て、ジャージの上着を羽織っている。

「調津高校の体育祭は初めてですから、本当に楽しみです! 涼我君とは幼稚園以来で、愛実ちゃん達とは初めてですから!」

 あおいはとてもワクワクとした様子で言う。
 そうか。あおいにとって、うちの高校での体育祭は初めてなんだよな。あおいと一緒に高校生活を送ることに慣れてきたから、あおいがこの4月に転入した感覚ではなくなってきていた。ちょっと不思議に思えるほどだ。

「俺も楽しみだよ。運動会を含めて、あおいとは幼稚園以来だから」
「あおいちゃんとは初めての体育祭だから、去年までよりも楽しみだよ! 二人三脚で一緒に走るし」
「一緒に頑張りましょうね! 混合リレーではアンカーの涼我君にちゃんとバトンを渡します!」
「ああ」

 チーム対抗の混合リレーで、緑チームのアンカーは俺になったのだ。
 先週水曜日のロングホームルームでチームごとの集会があり、そのときにリレーの順番について話し合った。3年生のメンバーに陸上部部員がおり、

『麻丘がアンカーにするのがいいんじゃないか』

 と推薦したのだ。また、あおいも、

『ゴールする涼我君を見てみたいですっ!』

 と言ってきて。
 2年生、3年生メンバーの中には、先日のあおいとのレースを見た生徒も多かった。それらの理由で、賛成多数で俺がアンカーになったのだ。混合リレーは最終競技だし、配点も高い。このリレー次第で勝負の結果が左右する確率が高いので、責任が極めて重大だ。
 また、あおいが俺と幼馴染であることやバトンパスの自主練をしていたのもあり、俺の前の走者があおいに決まった。
 ちなみに、男子のチーム対抗リレーのアンカーは道本だ。道本は陸上の大会でもリレーでアンカーを務めることが多いし、脚も速い。何よりも、去年の体育祭でも同じ種目でアンカーを務めていた。順当な選出だと思う。

「リョウ君がアンカーで走る姿、楽しみだな。もちろん、あおいちゃんの走りとバトンパスも。混合リレーは一生懸命応援するね」
「ありがとうございます!」
「ありがとう。2人が走る二人三脚も精一杯応援するよ」
「ありがとう、リョウ君」
「ありがとうございます! 涼我君の幼馴染ペアとして愛実ちゃんと頑張ります!」
「1位を取れるように頑張ろうね」

 愛実が明るい笑顔でそう言うと、あおいは元気良く「はいっ!」と返事した。2人は練習を重ねるうちに安定して走れるようになったし、1位を取れる確率は十分にあるだろう。
 その後も、運動会や体育祭のことで話しが盛り上がる。愛実と一緒に思い出を話すのも楽しいし、別の学校に通っていたあおいの話を聞くのも楽しい。
 気付けば、調津高校の校舎が見え始めていた。周りには調津高校の生徒達が正門に向かって歩いている。多くの生徒が体操着やジャージ姿で。今日は普段とは違う日なのだとより実感させてくれる。
 それから程なくして、俺達は調津高校の正門を通る。校内にいる生徒も多くが体操着やジャージ姿で、制服姿の生徒は数えるほどしかいない。

「体操着姿やジャージ姿の生徒がこんなにもいると、健康診断を思い出しますね」
「そうだね、あおいちゃん」
「ああ。あのときに言ったかもしれないけど、みんなが体操着やジャージ姿なのは体育祭か健康診断のときくらいだからな」
「言っていましたね。あのときは私、採血に怖がっていましたね。あれから1ヶ月半くらいですか……」

 笑顔であおいはそう言うけど、それまでと比べて顔色がちょっと悪くなったような。採血されたときのことを思い出しているのかもしれない。あおいは注射が嫌いだし、採血した直後は気分が悪くなったそうだから。

「1ヶ月半なんだね。もっと前のことのように思うよ」
「俺もだよ。ゴールデンウィークとか中間試験とか色々あったからかな」
「盛りだくさんですよね。涼我君や愛実ちゃんのおかげで、楽しい日々を過ごせていますっ」

 あおいの笑顔はニッコリと明るいものに。少し悪かった顔色も元通りになっている。そのことに一安心。あおいにとって、今日が楽しい日々に仲間入りできると何よりだ。
 俺達は教室A棟の中に入り、上履きに履き替える。
 いつもの通り、階段を使って教室のある4階まで上がっていく。体操着やジャージ姿で階段を上がるのは新鮮だな。体育の授業の後はエレベーターを使うことが多いし、男女別で授業をするからあおいと愛実と教室に戻ることもないから。こういうことでも、ちょっと特別感を味わえる。
 4階に到着し、2年2組の教室に向かう。
 後方の扉から教室の中に入ると、エアコンがかかっているので涼しくなっていた。今日は昼休み以外ずっと校庭にいるから、この涼しさが恋しくなりそうだ。

「おっ、麻丘達が来たな! みんなおはよう!」
「麻丘、香川、桐山、おはよう」
「みんなおはよう。3人もジャージ姿で来たのね」

 あおいの席の後ろから、道本、鈴木、海老名さんが俺達に向かって手を振ってくれる。この光景にも慣れてきたな。あと、道本と海老名さんは俺達と同じで体操着にジャージの上着を羽織り、鈴木は体操着姿である。
 俺達は3人に手を振りながら彼らのところへ行き、おはようと挨拶した。

「いよいよ体育祭当日になったな! 玉入れも綱引きも楽しみだぜ!」
「鈴木がいるから、どっちも1位になりそうだ」

 道本の言葉に、俺達4人は頷く。
 鈴木はやり投げをやっているから筋力が物凄い。物を投げるコントロールも長けていそう。玉入れも綱引きもチーム全体で戦うけど、鈴木が緑チームを牽引してくれそうだ。
 あははっ、と鈴木は高らかに笑う。

「全力で玉を投げて、全力で綱を引くぜ! それに、勝負事だからな。1位を目指して頑張るぜ!」
「一緒に玉入れに参加するから、鈴木君がとても頼もしく見えるわ」

 海老名さんは落ち着いた笑顔でそう言う。鈴木が参加すれば、玉入れと綱引きは勝ちそうだって思えるもんな。俺は海老名さんに向かって頷いた。

「鈴木の言うように、体育祭はチーム対抗の勝負事だもんな。俺も100m走とチーム対抗の男子リレーで1位を取れるよう全力で走るよ。あとは、部活動対抗リレーで陸上部として1位を取れるように」
「走りまくるな、道本!」
「走るのが大好きだからな。陸上部の人間としても、走るからには勝ちたいさ」
「……俺も去年よりも勝ちたいって気持ちが強いよ。チーム対抗の混合リレーにも出るし、あおいと久しぶりの体育祭だし、愛実達みんなと同じチームだからな」

 去年はエンタメ系の徒競走競技・借り物競走にしか出場しなかった。だから、お祭り的な感覚で参加していた。
 だけど、今年はあおいがいて、あおいと一緒に混合リレーにも参加して。しかもアンカーで。あおいとはバトンパスの練習を何度もして。だから、去年よりも勝ちたい気持ちが強い。

「混合リレーでは一緒に頑張りましょうね、涼我君! 愛実ちゃんも二人三脚で一緒に!」
「ああ」
「頑張ろうね、あおいちゃん」
「チーム対抗の勝負ですから、私も勝ちたいって思っています! ただ、調津高校では初めての体育祭ですから、みんなと一緒に楽しみたいです!」

 あおいは持ち前の明るさと元気さで、俺達にそう言ってきた。あおいのおかげで士気が上がってきて。愛実達は笑顔であおいに頷いていた。
 久しぶりにあおいと一緒に体育祭に参加するし、今年は道本と鈴木も同じチームだ。きっと、今までで一番楽しい体育祭になるだろう。
 それから程なくして、朝礼の時間を知らせるチャイムが鳴り、

「やあやあやあ。みんなおはよう。席に座ってね」

 佐藤先生が教室にやってきた。今日は体育祭だからか、下は黒いジャージ、上は緑色の半袖のスポーツウェアを着ている。先生はスタイルが良くて美人だから、こういう服装も様になっている。あおいは先生を見つめながら「綺麗です……」と呟いていた。
 朝礼の中で緑色の鉢巻きが配布される。鉢巻きを手にすると、いよいよ体育祭が始まるんだと実感する。さっそく鉢巻きを頭に巻いているあおいを見て、クスッと笑い声が漏れてしまうのであった。
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