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第4章

第9話『あおいのバイト先へ-後編-』

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「こちらの席にどうぞ。すぐにお水をお持ちします」

 あおいに案内されたのは、窓側にある4人まで利用できるテーブル席。
 俺と愛実で隣同士に座り、テーブルを挟んだ向かい側の席に佐藤先生が座ることに。こうして、食事の場で先生と向かい合って座っていると、ゴールデンウィークに行ったオリティアのことを思い出す。

「お水をお持ちいたしました」

 明るく言うと、あおいはそれぞれの前に冷水の入ったコップを置く。3月まで接客のバイトをしていたのもあってか、特に緊張した様子は見られない。

「ご注文がお決まりになりましたら、そちらの注文ボタンを押してください。すぐにお伺いします。失礼します」

 そう言って軽く頭を下げると、あおいは俺達のいるテーブルから離れていった。後ろ姿でも、あおいのウェイトレス姿可愛いな。

「後ろ姿でも、ウェイトレス姿が可愛いなって思うよ」
「よく似合っていますもんね」
「俺も同じことを思いました」
「素晴らしく似合っているよね。……さあ、注文するメニューを選ぼうか」
『はい』

 俺達はドニーズのメニュー表を見ていく。2つあるので、俺は愛実と一緒に見ることに。
 ファミレスだから、色々なジャンルの料理が提供されている。どれも美味しそうだから迷うなぁ。
 ページをめくっていくと……おっ、日替わりのランチメニューか。休日のメニューは……和風ハンバーグだ。ライスかパンのセットでこの値段は安い。ハンバーグは大好きだし、これにしよう。

「俺、決まりました」
「私も決まったよ。愛実ちゃんはどうかな?」
「まだ迷っています。美味しそうなメニューがいっぱいありまして」
「そうかい。焦らずゆっくり決めていいよ」
「先生の言う通りだな」
「ありがとうございます」

 愛実は微笑みながらそう言うと、メニューをじっくりと見る。せっかくファミレスに来たのだから、これを食べたいと思うメニューを選んでほしい。
 愛実が考えている間は佐藤先生と話そうと思い、先生の方に視線を向けると……先生は水を飲みながら店内を見渡していた。真剣そうにも見えて。担任教師として、バイト中のあおいのことを見ているのか?

「ここのドニーズ……可愛い女性の店員さんが多いねぇ。その中でもあおいちゃんが一番可愛いね。ちなみに、さっき後ろ姿を見たときはチラッと見える裏太ももがいいと思ったよ。いやぁ、素晴らしい景色だね」
「そういう着眼点で店内を見ていたんですか」
「だって、凄く可愛い制服だよ。どんな女性が働いているか見てみたいじゃないか」

 決め顔でそう言ってくる佐藤先生。まったく、この人は。先生らしいけどさ。あと、この人の性別が女性で良かったと思う。もし、男性だったら、どこか別の場所に連れて行かされたり、警察に通報されていたりしたかもしれない。

「俺はてっきり、あおいの仕事ぶりを見ていたのかと」
「あおいちゃんが仕事をできているかどうかも気になるけどね。今はウェイトレス姿の女性店員達がどんな感じなのかを第一に見ていたよ」
「先生らしいですね」
「私達を誘った理由も、ウェイトレス姿のあおいちゃんが気になるからでしたもんね。……あっ、私も注文するメニューを決めました」
「了解。じゃあ、ボタンを押すね」

 ――ピンポーン。
 佐藤先生が呼び出しボタンを押すと、そんな音が鳴り響いた。
 フロアには何人も店員さんがいるけど、あおいが来てくれるだろうか。テーブルには番号がついているし、呼び出ししたテーブル番号と思われる数字が表示されているモニターもある。それを見てあおいが来てくれるかもしれない。
 店内をチラッと見ると、あおいがこちらに向かって歩いてくるのが見える。あおいが注文を取ってくれるのかな。
 俺の予想が当たったようで、あおいが俺達のテーブルのところにやってきた。

「お待たせしました。ご注文をお伺いします」

 笑顔でそう言ってくるあおい。注文を取るハンディー端末を持っているし、ファミレスの店員さんらしいな。

「君達からどうぞ」
「愛実、いいよ」
「ありがとう。デミグラスオムライスをお願いします」
「俺は日替わりランチの和風ハンバーグを。セットにはライスをお願いします」
「私はカルボナーラをお願いします」

 愛実はオムライスで、佐藤先生はカルボナーラか。ファミレスだと結構頼まれそうなメニューな気がする。愛実とは別のメニューになったから、あとで一口交換することになるのかな。愛実もハンバーグが好きだし。

「あと……店員さん。もう一つ注文していいかい?」

 佐藤先生、ちょっと真剣な様子であおいにそう言ってくる。何を追加で注文したいんだろう?

「はい。何でしょう?」
「その制服を着ている君の写真を1枚」
「何を注文しているんですか」

 思わずツッコんでしまったよ。メニューにないものを注文したからツッコんでしまったよ。あおいの制服姿を気に入ったとはいえ、このタイミングで写真をほしいと言うとは。
 俺がツッコんだからか、愛実はもちろん、ツッコまれた佐藤先生もクスクスと笑っている。あおいも注文された直後は目を見開いていたけど、ふふっと声に出して笑っている。

「いやぁ、あおいちゃんの制服姿が可愛いから、1枚でもいいから写真をいただきたいと思ってね。もちろん、あおいちゃんじゃなかったらこんな注文はしないさ」
「そうであってください」
「ふふっ。当店では店員の写真を販売したり、写真撮影したりするサービスはございません。ただ――」

 あおいは少しだけ前屈みの姿勢になり、

「休憩に入ったら、自撮りして私達のグループトークにアップますね。もちろん、お代はいりませんよ」

 俺達にしか聞こえないような小さい声でそう言った。写真を提供するなら、それが一番いい形だろうな。あと、俺達が相手だからかもしれないけど、予想外のことにも落ち着いて対応できていて凄い。
 あおいの提案にOKなようで、佐藤先生は笑顔で「分かった」と言った。

「ご確認します。和風ハンバーグのライスセットをお一つ、デミグラスオムライスをお一つ、カルボナーラをお一つ。以上でよろしいですか」
「はい」
「かしこまりました。少々お待ちください」

 あおいは軽く頭を下げると、俺達のテーブルから離れていった。

「……まさか、写真を注文するとは思いませんでした」
「私は先生なら注文しそうだなって思ったよ」
「あおいちゃんのウェイトレス姿をいつでも見たくてね。それに、せっかく客と店員の立場なんだから、あの場で注文してみようかなと思ったんだ。お茶目な思いつきさ」

 ははっ、と佐藤先生は朗らかに笑う。自分でお茶目って言うかね。そんな先生がちょっと可愛く思えるのも事実だけど。

「あとで、あおいちゃんが自撮り写真を送ってくれるのが楽しみだよ」
「ですね、樹理先生」
「似合ってますもんね。俺も楽しみです」

 あおいは写真写りがいいし、自撮り写真を撮るのが上手だからな。きっと、可愛い自撮り写真が送られてくるのだろう。
 店内を見渡すと……ファミレスというだけあって、家族と思われるお客さんがちらほらと見受けられる。それ以外にも俺達のような学生や若い世代のグループ、カップル、老夫婦。仕事なのか、ノートパソコンで作業するお一人様と様々だ。
 あおいはさっきの俺達のときのように注文を取ったり、レジで精算したり、テーブルを掃除したり。小さな女の子に話しかけられ、笑顔で話す場面もある。しっかりとファミレスの店員さんをしている。あの小さかったあおいが仕事をしているとはなぁ。

「涼我君。あおいちゃんのことを見ながら、感慨に浸っているように見えるね」
「……あおいがバイトをする姿を見るのは初めてですからね。幼稚園の頃はあんなに小さかったあおいが、ちゃんと店員の仕事をしていますから。立派になったなって」
「今までよりも大人っぽく見えるよね、リョウ君」
「ああ。今までで一番かもしれない」
「ふふっ。そういえば、あおいちゃんと初めてサリーズに行ったとき、あおいちゃんがバイトしているリョウ君を見て立派になったって言っていたね」
「ああ。あのときのあおいの気持ちが分かるよ」

 小さい頃のあおいを知っているから、今のあおいを見ると感動すら覚える。春休みのあおいもそういう気持ちを抱いてくれたのかな。あのときは親戚のおばさんかってツッコんじゃってごめん。
 あおいがバイト中なのもあって、3人が今までしたバイトの話をしながら、注文した料理が来るのを待った。

「お待たせしました!」

 愛実と佐藤先生と話しが盛り上がったから、あおいが料理をワゴンで運んできてくれるまであっという間に感じられた。
 あおいは俺達の目の前に、それぞれが注文した料理を置いてくれる。俺が注文した和風ハンバーグはもちろん、2人が注文したメニューも美味しそうだ。

「以上でよろしいでしょうか」
「はい」

 佐藤先生が返事すると、あおいはレシート入れにレシートを入れた。

「ねえ、あおいちゃん。リョウ君が仕事をしているあおいちゃんを見て、立派になったって感動していたよ」
「ふふっ、そうですか。ありがとうございます、涼我君。私も涼我君にバイトしている姿を見せられて嬉しいです」

 あおいはそう言うと、俺の目を見ながらニッコリと笑ってくれる。ウェイトレスの制服が似合っているのもあってかなり可愛い。そのことに結構ドキッとして。

「……春休みに初めてサリーズに来たときのあおいの気持ちが分かったよ」
「ふふっ、良かったです」
「この後もバイト頑張れよ」
「はいっ。では、ごゆっくり」

 ニッコリとしたままあおいはそう言うと、少々深めに頭を下げ、俺達のテーブルを後にした。
 愛実と佐藤先生は自分の注文した料理をスマホで写真を撮っている。俺も真似して写真を撮った。

「それじゃ、いただこうか。いただきます」
『いただきます』

 俺達はお昼ご飯を食べ始める。
 和風ハンバーグを一口食べると……ハンバーグの肉汁が溢れてジューシーだ。ただ、醤油ベースのおろしダレのおかげでさっぱりしていて。ライスにも合って美味しい。
 愛実が注文したデミグラスオムライスも、佐藤先生が注文したカルボナーラも美味しいのか、2人も美味しそうに食べていて。2人は素敵な笑顔の持ち主だけど、美味しい物を食べているときの笑顔は特に素敵だと思う。それはあおいにも言えることだ。
 また、食べている途中で、

「リョウ君、デミグラスオムライスと和風ハンバーグ……一口交換する?」

 予想していた通り、愛実は一口ずつ交換しようと提案してきた。
 俺は快諾して、注文した料理を愛実と一口ずつ交換した。その際はお互いに食べさせ合って。デミグラスオムライスも結構美味しいな。愛実が和風ハンバーグを美味しそうに食べてくれて嬉しい気持ちになった。
 また、この光景を見た佐藤先生は、

「さすがは幼馴染。尊い光景だねぇ」

 と、ご満悦の様子だった。からかってくることもなかったので、特に恥ずかしく思うことはなかった。
 3、40分ほど昼食の時間を楽しみ、俺達はレジに行って会計をすることに。そのときもあおいが接客してくれた。お金を扱う場面だけど、あおいは落ち着いて会計の仕事をしていた。

「それじゃ、俺達は帰るよ。あおい、残りのバイト頑張って」
「凄くいい接客だったよ。残りも頑張ってね、あおいちゃん!」
「担任としても言うことないよ。頑張って、あおいちゃん」
「はいっ、ありがとうございます! ご来店ありがとうございました! またのお越しをお待ちしております!」

 あおいはとびきりの笑顔でそう言ってくれた。
 今日はドニーズ初バイトとは思えないくらいの仕事ぶりだった。これも、別のファミレスとはいえ、高1の間に接客のバイトをしてきた賜物だろう。今日のあおいを見る限りでは、ここでのバイトはちゃんとやっていけるんじゃないだろうか。これからも、あおいがシフトに入っているときに、愛実達と一緒に来店したい。
 ドニーズを出て、佐藤先生とはここでお別れ。先生はこれから家に帰って、レモンブックスで買った成人向け同人誌を読むらしい。
 俺は愛実と一緒に自宅に帰る。
 金曜深夜に放送されているアニメに、愛実も観ている作品があるので、その作品の最新話を観ることに。こうして、休日に愛実と2人きりでアニメを観ることも、3月まで数え切れないほどにあったことだ。
 愛実とアニメを観るのを楽しむ中、あおいから4人のグループトークにウェイトレス姿の自撮り写真が送られてきて。写真で見ても、ウェイトレス姿のあおいは凄く可愛い。佐藤先生が最初に、

『ありがとう! 凄く可愛いね!』

 と、メッセージを送っていた。先生の喜ぶ顔が容易に思い浮かぶ。
 また、シフト上がりの午後4時過ぎには、

『初バイト終わりました! お昼に来店してくれてありがとうございました!』

 あおいから感謝のメッセージが送られてきた。無事に初バイトが終わって何よりだ。
 俺、愛実、佐藤先生はすぐに、あおいへ『お疲れ様』と労いのメッセージを送った。あおい、ドニーズでの初バイト本当にお疲れ様。仕事する姿は本当に立派だったよ。
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