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第4章

第5話『体育祭の種目決め』

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 5月25日、水曜日。
 今日までの授業で、中間試験が実施されたほとんどの科目について答案が返却された。今のところは全て85点以上を取ることができている。今回の中間試験も結構いい点数で締めくくれそうだ。
 愛実は得意な現代文や英語表現で100点満点を取っていた。勉強会でも俺達に分かりやすく教えていたし、さすがである。
 あおいは国語科目や英語科目、日本史では高得点を取っており、苦手な科目でも赤点はなく、どれも平均点くらい取れている。まだ返却されていない科目は赤点の心配はないそうで、バイトの許可を得るのも問題なさそうとのこと。
 道本、鈴木、海老名さんも試験前は不安に思っていた科目があったけど、今のところは赤点なしが続いている。このまま赤点科目がなく締めくくりたいものだ。



 今日も残り1時間。
 水曜日の最後の授業はロングホームルーム。他の曜日よりも実質1時間授業が少ないようなものなので、ちょっと楽である。一週間の折り返しでもあるから、個人的に水曜日は結構好きな曜日だ。
 今日のロングホームルームは体育祭の種目を決める予定になっている。
 調津高校では毎年6月上旬に体育祭が開催されており、今年も約2週間後に開催される。クラスごとに赤、緑、青、黄色の4つに分かれたチーム対抗戦だ。ちなみに、我ら2年2組は緑チームである。

「涼我君と愛実ちゃんは何の競技に出るか決めていますか? 私は去年の体育祭で障害物競走に出たので、障害物競走もしくは徒競技系の種目に出たいです!」

 あおいは元気良く俺と愛実に問いかけてくる。
 あおいは体を動かすのが大好きだし、ゴールデンウィーク前に俺とレースしたときもかなり速かった。身軽そうだし、障害物競走で1位を取れそうだ。徒競走系の競技に出たら、結構な戦力になるんじゃないかと思う。

「私はパン食い競走に出たいな。去年も出たし、咥えたパンをもらえるから」
「そうだったな。競技後に愛実が一口くれたっけ」

 どんなパンだったかはよく覚えてないけど。確か……スイーツ系のパンだった気がする。

「俺は……借り物競走がいいかな。愛実と同じで去年出た競技だし、体育祭らしいから」

 それに、去年はまだ本気で走ることに恐怖心を覚えていた。だから、エンタメ系の競技・借り物競走に出場した。実際にやってみると結構楽しかったから、今年も借り物競走には出たい。

「パン食い競走に借り物競走ですか。どちらも体育祭の定番ですね。前の高校でもあって、結構盛り上がりましたね」
「そうだったんだ。うちでもパン食い競走や借り物競走は盛り上がったよね」
「盛り上がったな。特に借り物競走は生徒や先生に協力してもらうからな。物を持っていくときもあれば、人を連れて行くときもあって」
「そうだったね」
「ちなみに、去年は涼我君ってどんなお題を引いたんですか?」
「確か『猫柄のもの』だったかな。愛実の猫柄のハンカチを借りて1位を取ったよ」
「そうだったんですね!」

 もし、今年も借り物競走に出られるなら、借りやすいものや該当する人が多そうなお題を引きたいものだ。

「あと、障害物競走はうちの高校にもあるよ」
「そうなんですね! それならば、障害物競走を狙いましょう」

 と、意気込むあおい。障害物競走も体育祭の定番だけど、パン食い競走や障害物競走に比べると競争倍率は低い気がする。みんなが希望する競技に出場できるといいな。
 それから程なくしてチャイムが鳴り、それとほぼ同時に担任の佐藤先生が教室にやってくる。
 男女の体育祭実行委員が佐藤先生に呼ばれ、2人は黒板に体育祭の競技名と参加者人数が書いていく。その競技の中にはさっきの俺達の話にも出た障害物競走、パン食い競走、借り物競走もあった。

「あっ、二人三脚もあるのですか。愛実ちゃん、一緒に出てみませんか?」
「面白そうだけど、あおいちゃんとは走力の差があるし、大丈夫かなぁ」
「きっと大丈夫ですよ。愛実ちゃんとなら走れる気がします。私達には涼我君の幼馴染という共通点もありますし」
「ふふっ、何それ」

 そう言って楽しそうに笑う愛実。
 あおいと愛実には体力差とか走力差はある。ただ、出会ってから2ヶ月ほど経って、2人はとても仲良くなった。2人なら息の合った二人三脚ができそうな気がする。

「あおいちゃんとなら走れそうな気がしてきた」
「俺もあおいと愛実が一緒に走る姿を見てみたいな」
「リョウ君もそう言ってくれるなら、あおいちゃんと一緒に出てみようかな」
「ええ、一緒に出ましょう!」

 元気よくあおいがそう言うと、愛実は可愛らしい笑顔で「うんっ」と頷いた。もし、2人が二人三脚に出場ことになったら、誰よりも2人のことを応援しよう。
 それから程なくして、体育祭実行委員によって全ての競技が書き出される。
 こうして見てみると……結構な競技数があるな。100m走やリレー競技といった全力での徒競走競技もある。どうしようかな。迷う。

「2人ともありがとう。じゃあ、予定通り、今日のロングホームルームでは体育祭で出場する種目決めをするよ。あとは実行委員よろしく」

 そう言うと、佐藤先生は教卓にある椅子を持って、俺やあおいの近くまでやってくる。てっきり、窓側の一番前の席の近くに移動すると思ったんだけどな。後ろの方が黒板全体を見やすいからかな。

「じゃあ、これから出場種目を決めていきます。みんな最低1種目以上出てください。上限はありません」
「ただ、配点の高いチーム対抗のリレー種目だけは、1人1種目だけだからよろしくな。じゃあ、まずは出場したい種目の下に自分の名前を書いてくれ。一旦締め切った時点で、書いた人数が定員以下だったらその場で決定。多かったらジャンケンで決めるぞ」

 体育祭実行委員の女子生徒と男子生徒がそれぞれ説明する。
 そういえば、去年も今説明したやり方で体育祭の参加種目を決めていたな。それが一番平等な決め方なのかも。

「それじゃ、自分の名前を書いてね!」

 実行委員の女子生徒がそう言うと、クラスメイトの多くが黒板へと向かっていった。
 出たい科目を事前に決めてあるので、俺もあおいと愛実と一緒に黒板へ向かう。
 俺は借り物競走の下に『麻丘』と書く。定員は男女各2名ずつか。今のところは俺だけだけど、借り物競走に決まるといいな。
 今のところ、出たいと決めているのは1種目だけなので、俺は自分の席に戻る。
 
「おやおやおや。結構早く戻ってきたね、涼我君」
「今のところですけど、出たいと決めているのは借り物競走だけですので」
「なるほど。そういえば、涼我君は去年、借り物競走に出ていたね。お題は確か、猫柄のものだったっけ」
「合ってます。よく覚えていましたね」
「君は特に親交の深い生徒だからね。ちなみに、愛実ちゃんはパン食い競走で、咥えたパンは細長いクリームパンだったね。美味しかった」

 佐藤先生は楽しげにそう言った。よく覚えていたな。さすがだ。スイーツ系のパンだったのは覚えていたけど、クリームパンだったか。そういえば、先生も去年、愛実にクリームパンを分けてもらっていたっけ。
 あおいや愛実を含め、結構な生徒が自分の席に戻っているので、黒板を見てみる。
 さっき話していたように、あおいは障害物競走、愛実はパン食い競走、あおいと愛実のペアで二人三脚のところに名前が書かれている。
 道本達は何の競技に名前を書いただろう。
 道本は……100m走とチーム対抗の男子リレーに名前を書いてる。道本らしい選択だ。都大会では100m、200m、400mリレーで上位に入り、6月にある関東大会に出場することが決定したので、体育祭でもその実力を発揮してほしいところ。
 鈴木は綱引きと玉入れか。綱引きは専らパワー系の競技だ。鈴木の怪力を発揮してほしい。玉入れは……槍と玉で投げるものは全然違うけど、投げることには変わりない。鈴木もやり投げで関東大会に進出した実力を発揮できるといいな。
 海老名さんも玉入れか。あとは100m走にも名前が書いてある。海老名さんもなかなか脚が速い記憶があるし期待できそう。

「そんじゃ、ここで一旦締め切りな。書いてある人数と定員と照らし合わせて、参加確定の人の名前には赤いチョークで丸く囲むぞ。埋まったら、競技の上にも丸を書くから」

 実行委員の男子生徒がそう言い、黒板の右側に書いてある種目から、定員の数と書いてある名前の人数を確認していく。人数が定員数以下なら赤いチョークで名前を丸く囲む。人数が多い場合は『ジャンケン』と書かれる。
 借り物競走は……男子の定員は2名だけど、名前は3人書かれている。ジャンケンコースは確定だ。
 あおいの障害物競走、あおい&愛実の二人三脚、道本の100m走と男子リレー、鈴木の玉入れと綱引き、海老名さんの100m走と玉入れは赤く丸で囲まれて参加が決定した。
 俺の借り物競走と、愛実のパン食い競走はジャンケンで決めることになった。
 あと、女子リレーや混合リレーなど、全く名前が書かれていない種目もあるんだな。100m男子とチーム対抗の男子リレーの枠は全て埋まったけど、混合リレーは空いている。空いているなら後で……立候補してみようかな。4月のあおいとのレースで、全力で走るのも楽しいって思えたから。

「これで一通り丸は付けられたかしら」
「そうだな。……よし。今、赤く丸で囲まれたものについては参加確定だ。じゃあ、今から希望人数の多い種目についてジャンケンで決めてくぞ」

 そこからは、ジャンケンによる種目決めが行われる。勝って喜ぶ生徒もいれば、負けて残念がる生徒もいる。俺も勝って喜べるグループに入りたい。

「んじゃ、次は借り物競走の男子だな。3人来てくれ」

 俺を含めて、名前を書いた3人の男子生徒が教卓に集まる。その際、あおいと愛実、海老名さんから「頑張れ」とエールを送られた。
 確率は3分の2。だけど、ここで油断してはいけないな。

「それじゃ、行くぞ。ジャンケン」

 ポンッ、と実行委員の男子生徒が言ったタイミングで、俺はチョキを出した。
 2人の男子生徒は……チョキとパーか! よし、勝った!

「勝ったのは麻丘と柴崎な」

 そう言って、実行委員の男子生徒は赤いチョークで俺の名前を丸く囲ってくれた。借り物競走への出場が決定して嬉しい。チョキを出した手をグッと握りしめる。
 俺の名前が丸く囲まれたのを見てか、道本と鈴木は俺に向かってサムズアップしてくれる。俺も2人にサムズアップした。
 また、席に戻る際に海老名さん、あおい、愛実、佐藤先生が「おめでとう」と言ってくれた。そんな彼女達にお礼を言った。
 その後もジャンケンタイムが続き、

「はい。次はパン食い競走の女子だよ。名前を書いた人は教卓に来てね」

 愛実が立候補したパン食い競走女子のジャンケンに。愛実が席を立ったので、俺とあおいは彼女に「頑張って」と応援した。また、海老名さんも教卓に向かう愛実の背中をポンポンと叩いた。
 パン食い競走は男女ともに2名ずつ。立候補している女子生徒は愛実を含めて4人か。出られるのはこの中の半分だけど、愛実が勝ち抜けるといいな。

「じゃあ、いくよー。じゃーんけんぽんっ!」

 実行委員の女子生徒の元気のいい掛け声でジャンケンが行われる。さあ、どうだ。……誰も喜んだり、がっかりしたりする生徒がいないな。あいこかな?

「あーいこでしょっ!」

 やっぱりあいこだったか。さあ、今度はどうだ。

「やったっ!」

 そんな愛実の可愛らしい声が聞こえ、可愛らしい笑顔が見えた。愛実が勝ったんだな。

「はい! 一人は愛実ちゃんに決定だね」

 おっ、しかも一人勝ちか。これは凄い。
 実行委員の女子が赤いチョークで『香川』に丸で囲み、愛実は自分の席に戻ってきた。その途中で、海老名さんと片手でハイタッチしていた。また、俺、あおい、佐藤先生も愛実におめでとうと伝えた。
 これで、俺達6人は最初に希望した種目については出場できることになった。良かった。

「あの、涼我君」
「何だ?」
「チーム対抗の混合リレー……男女ともにまだ空欄です。私と一緒に出てみませんか? 愛実ちゃんとは二人三脚で一緒に参加しますから、涼我君とも何か一緒に参加してみたくて。以前、私と走ったことを通じて、走るのが楽しいと言ってくれましたし。どうでしょう?」

 あおいは俺の目を見つめながら問いかけてくる。
 あおいが俺に混合リレーに出ようと誘ってくれるとは。あおいと一緒に体育系イベントに参加するのは、幼稚園の年長組の運動会以来。だから、俺と一緒に競技に参加したいと思ったのだろう。走るのが楽しいと俺が言ったから、混合リレーがいいと考えたのだと思う。

「私はいいと思うよ。リョウ君は陸上競技でリレーもやっていたし、中1の体育祭でもチーム対抗のリレーに出ていたし。リレーで走るリョウ君……また見てみたいな。もちろん、リョウ君の気持ちを尊重するよ」

 ちょっとはにかみながらそう言う愛実。
 あおいとのレースのとき以来だけど、俺の走る姿を見てみたいと愛実の口から聞けるのはとても嬉しい。あおいと一緒なら、とても楽しく走れるんじゃないかと思う。2人の顔を見ながらそう思った。

「最初は100m走とかリレー競技に出ようかどうか迷ってて。ただ、一度締め切ったときに混合リレーのところに名前が書かれていなかったから、立候補してみようかなって思っていたんだ。だから、あおいが誘ってくれて嬉しいよ」
「涼我君……」
「あおい。一緒に混合リレーに立候補しよう」
「ありがとうございますっ」
「2人に決まったら、混合リレーが楽しみだよ」

 あおいと愛実はとても可愛らしい笑顔でそう言ってくれた。
 それから、ジャンケンタイムが終わり、まだ決まっていない種目について立候補の時間となった。
 俺とあおいは一緒にチーム対抗の混合リレーに出場すると立候補する。そのことに道本、鈴木、海老名さんはとても嬉しそうな反応を見せてくれた。また、佐藤先生はしみじみと「青春だねぇ……」と呟いていた。
 俺とあおい以外には立候補者はおらず、俺達はチーム対抗の混合リレーの出場が決定した。体育祭当日はあおいや愛実達にいいなって思ってもらえるような走りをしよう。


 あおいの提案で、翌日からたまに、平日は昼休みに学校の校庭で、休日には早朝に多摩川沿いの道であおいと愛実の二人三脚で走る練習をする。最初は紐が解けることもあったけど、段々と息の合った走りができるように。
 また、リレーの順番は決まっていないけど、俺とあおいのバトンパスの練習も。この練習が活かされるといいなぁ。
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