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第3章

第16話『手伝ってくれたお礼』

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 その後、ハードル走や長距離走のタイムトライアルのタイム計測と記録の仕事をしていく。また、長距離走のタイムトライアルの際は、ラップタイムという一定距離のタイムを何度か伝えることもして。
 ハードル走のタイムトライアル中に山本さんが怪我をしてしまったけど、その後に怪我をしてしまう部員はいなかった。その山本さんも練習には参加しなかった。ただ、それもあってか、怪我した箇所が腫れてしまうことはなかった。一人で歩くこともできているし、酷い怪我ではなくて一安心だ。

「陸上部のみんなー! 今日の練習はここまで! こっちに集合ー!」

 午後6時頃。
 陸上部の練習が終わって、颯田部長が大きな声でそう言ってくる。部長の可愛らしい声が伸びやかに響き渡り、遠くの方にいる陸上部の生徒も反応した。
 もう部活が終わる時間なのか。マネージャーの手伝いに集中していたから、あっという間だった気がする。見上げれば、部活を始めた頃と比べて空が暗くなっている。
 俺はあおいと一緒に、さっきの休憩で使った場所へ向かう。おそらく、これから部活終わりの軽いミーティングをするのだろう。
 颯田部長の周りに、陸上部の部員が続々と集まる。そんな中で、俺とあおいと愛実は颯田部長から前に来るように言われた。

「みんな集まったね。今日も練習お疲れ様! 明日は祝日で学校がお休みだから、朝の9時から練習します。みんな、時間を間違えないようにね!」
『はーい!』

 助っ人をしていたから、明日からゴールデンウィークが始まるのをすっかりと忘れていた。陸上部は連休中も練習をするんだな。怪我や体調には気をつけて頑張ってほしい。

「そして……麻丘君、桐山さん、香川さん。今日はマネージャーの仕事を手伝ってくれてありがとう! とても助かったよ。みんなも3人にお礼を言いましょう。今日はありがとうございました!」
『ありがとうございました!』

 陸上部の部員とマネージャーみんなが、俺達3人に向かってお礼を言ってくれ、拍手もしてくれた。マネージャーの手伝いをして良かったなぁと素直に思う。あと、何十人いても鈴木の声ははっきりと聞き分けられた。

「私は主にトラック競技のタイム計測と記録をしましたが、みなさんの速い走りを間近で見て興奮しました! これからも練習を頑張ってください! 今日はありがとうございました!」
「マネージャーのお手伝いをするのは初めてでしたけど、少しでもお力になれていたら嬉しいです。これからも頑張ってください。ありがとうございました」
「今日はありがとうございました。来月には都大会があると聞いています。頑張ってください。応援しています」

 あおい、愛実、俺の順番でそう挨拶した。そのことで、陸上部の部員やマネージャーは再び拍手してくれた。

「じゃあ、今日はこれで解散! また明日!」
『お疲れ様でしたー』

 ミーティングが終わり、陸上部の部員やマネージャーは部室の方に向かって続々と歩いていく。部活終わりのこの感じも懐かしい。当時は道本達と一緒に着替えて、海老名さんとも一緒に下校したっけ。

「麻丘君、桐山さん、香川さん。改めて……今日はありがとう」

 あおいや愛実達と一緒に部室に向かって歩き始めようとしたとき、颯田部長が再びお礼を言ってくれた。

「3人の働きぶりを見て、3人はマネージャーに向いていると思ったよ。マネージャーしてみたいなって思ったら、いつでも来ていいからね」

 快活な雰囲気でそう言う颯田部長。マネージャーに向いていると思ってもらえるほどに仕事ができたと分かり、嬉しいと同時に安心した。
 俺達3人は颯田部長に「分かりました」と返事して、道本と鈴木と海老名さんと一緒に部室へと戻る。ここに戻ってくるのは2時間ちょっとぶりだけど、マネージャーの手伝いが充実していたから校庭に長い時間いたような気がする。
 道本と鈴木と海老名さんが更衣室で制服に着替えている間に、俺達も帰る支度をして陸上部の部室を出たところで3人を待った。
 待っている中でも、何人もの部員から「お疲れ様」とか「今日はありがとう」といった声を掛けられる。少しでも、部員達の力になれたのかな……と実感する。

「みんな、お待たせ」
「待たせたな!」
「帰りましょうか」

 制服に着替え終わった道本、鈴木、海老名さんが戻ってきた。海老名さんは小さく手を振りながら。
 俺達は6人で教室A棟の昇降口へ向かい始める。
 6時頃に終わる部活はいくつもあるのか、バッグを持っている制服姿の生徒をちらほら見かける。ただ、いつもの放課後直後に比べると少ない。この6人で一緒に下校するのも珍しいのでとても新鮮な感じがした。
 昇降口で上履きからローファーに履き替える。靴箱のスペースがそれなりにあるので、手伝い中に履いていた屋外用のシューズは靴箱に入れた。

「愛実、あおい、麻丘君。今日はマネージャーの手伝いをしてくれて本当にありがとう。助かったわ。主に愛実と一緒だったけど、3人とマネージャーの仕事ができて楽しかった。3人に頼んで良かったわ」
「今日の練習はいつも以上に楽しかったよ。麻丘と桐山がタイム計測してくれたし。ありがとう」
「オレも楽しかったぜ! こっちは香川と海老名が計測してくれたからな! あと、2人が作ってくれたスポーツドリンクも美味かったぞ! ありがとな!」

 海老名さんはニッコリと、道本は爽やかな、鈴木は嬉しそうな笑顔でそれぞれ俺達3人にお礼を言ってくれる。陸上部の練習が終わる際からたくさんお礼を言われたけど、3人から言われるのが一番嬉しいよ。

「いえいえ。少しでも陸上部の役に立てたなら良かったよ」
「涼我君の言う通りですね。私も楽しかったです!」
「私も楽しかったよ。理沙ちゃんと一緒だったから心強かった」

 俺達がそう言うと、3人の口角がさっきよりも上がった。
 助っ人ではあるけど、マネージャーとして部活に関わったのは今日が初めて。部員達のモチベーション向上に繋げたり、怪我した部員を応急処置したりできて良かった。こうして部員をサポートするのもいいなと思えた。

「そう言ってくれて良かったわ。今日のお礼に、あそこの自販機で好きな飲み物を奢るわ」

 海老名さんは出入口近くにある自動販売機を指さしながらそう言ってくる。
 調津高校には自動販売機が複数設置されている。高校生に向けた自販機なのもあって、学校外の自販機に比べて安めな価格で売られている。海老名さんが指さした自販機は学校の中では一番大きく、売っている飲み物の種類も多い。なので、1年生の頃から昼休みや放課後に何度も買っている。

「俺達がそれぞれ、麻丘達に1本ずつ奢るよ」
「手伝ってくれた麻丘達は3人、オレ達陸上部も3人だからな! さっき、道本と海老名と話したんだ!」
「そうか」

 マネージャーの手伝いとして、陸上部の練習をサポートしたんだ。きっと、3人でお礼をしたいと考えていたのだろう。ただ、鈴木の言うように、自分達は3人で手伝った俺達も3人だから、1人1本ずつ奢るのがいいと考えたんだろうな。

「じゃあ、ご厚意に甘えて」
「1本、好きな飲み物を買ってもらいましょう!」
「そうだねっ」

 あおいも愛実も奢ってもらう気満々のようだ。
 俺は鈴木に、あおいは道本に、愛実は海老名さんにそれぞれ奢ってもらうことになった。
 俺達は出入口近くの自販機の前まで向かう。
 本当にここの自販機は色々な飲み物が売られているなぁ。どれにしようか迷う。普段はコーヒーか紅茶系を買うけど。……あっ、ペットボトルの桃の天然水も売ってる。この前、風邪を引いたときにあおいから桃のゼリーを食べさせてもらった際に、桃の天然水の話題になったから飲みたいと思っていたんだよな。ただ、好きなものを1本奢ってくれるとはいえ、値段の高めな量の多い飲み物は躊躇ってしまう。

「値段とか気にしなくていいからな!」
「あ、ああ。分かった」

 顔に出ていたのかな。それとも、値段高めなものを見ていたのに気付かれたのか。こう言われたら、値段は気にせずに自分のほしいものを買ってもらおう。
 俺は桃の天然水、あおいはゼロカロリーのコーラ、愛実はオレンジティーをそれぞれ奢ってもらった。ちなみに、あおいのコーラも、愛実のオレンジティーもペットボトルだ。

「喉渇いているから、俺はさっそく飲むよ」
「私も飲みます!」
「私も飲もうっと。このオレンジティー大好きだから」
「そっか。2人とも、マネージャーの手伝いお疲れ様」

 そう言って、俺は2人に向かって桃の天然水を差し出す。
 あおいと愛実はニッコリと笑って「お疲れ様!」と言い、自分の持っているペットボトルを俺の持つペットボトルに軽く当てた。
 ペットボトルの蓋を開けて、俺は桃の天然水を一口飲む。

「凄く美味しい」

 桃らしい優しい甘さがいいな。この前風邪を引いたときに飲みたいと思ったから凄く美味しく感じる。あとは、鈴木が奢ってくれたり、マネージャーの手伝いをしたりしたのもあるかな。

「コーラとても美味しいですっ!」
「オレンジティーも美味しいよ」

 好きな飲み物を飲んだからか、あおいも愛実も満足そうな笑顔になっている。そんな2人がとても可愛く見えた。
 俺達が美味しそうに飲んでいるからか、道本達は嬉しそうで。そんな彼らに俺達3人はお礼を言った。
 その後、俺達は6人一緒に下校し、鈴木が電車通学なので調津駅の前まで談笑しながら歩くのであった。
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