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第3章

第6話『熱と疲労感と幼馴染2人』

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 4月25日、月曜日。
 目を覚ますと……ベッドの中がかなりポカポカしているのが分かる。あと一週間で5月になるし、今日はそれほど冷え込まなかったのかな。吐息も結構温かい。
 枕の側に置いてあるスマホで時刻を確認すると……いつも起きる時間の10分くらい前か。それなら、もう起きようかな。そう思って、ゆっくりと上体を起こすと、

「あれ……」

 体がかなり重い。頭がちょっとクラクラする。呼吸しづらい。喉もちょっと痛いし。上体を起こしたこの体勢を維持するのも辛い。あと、起き上がったのに、かなりのポカポカさが未だに体を包み込んでいる。もしかして、

「風邪、引いたかな……」

 そう呟いて、再び仰向けの状態でベッドに横になると、体が幾らか楽に感じられる。
 ここ最近、急に寒くなったとか、何か腐っていそうなものを食べてしまったこともない。考えられる原因といえば、

「疲れが溜まっていたんだろうな」

 土日共に久しぶりのジョギングをした。土曜日はウォーキングした区間があったからまだしも、日曜日は道本と一緒にジョギングしたのが楽しくて、かなりの距離をジョギングしてしまった。
 しかも、日曜日は、午前中は家でゆっくりしていたとはいえ、昼前から夜まで8時間バイトした。バイト中はちょっと疲れを感じることはあったけど、定期的に休憩を挟んでいたからしんどいと思ったことは一度もなかった。それでも、疲れが溜まり続けていたのだろう。

「やっちまったなぁ……」

 体力作りもジョギングを再開した理由の一つだったのに。今の自分に体力がどのくらいあるのかを考えず、ジョギングをいっぱいして体調を崩してしまうなんて。日曜日は長時間のバイトもあったのに。ダメだなぁ、俺は。今後は体調とか予定などを考慮して、ジョギングする量を考えないといけないな。
 原因が分かると、急に全身が疲労感によって包み込まれる感覚に。ただ、両脚に痛みを感じることはない。そのことにはほっとした。

「とりあえず、父さんと母さんに具合が悪くなったって言わないと」

 あと、熱も測ろう。
 何とかしてベッドから起き上がり、壁に寄り掛かりながら1階のリビングまで向かう。

「涼我、おはよう……あれ、顔が赤いな。具合が悪いのか?」
「……ああ。熱があって、体がだるい」
「分かった。とにかく、今はソファーで横になるんだ」
「体温計を持ってくるわね」

 父さんに体を支えてもらいながら、俺はソファーで仰向けの状態になる。ベッドのときほどじゃないけど、この体勢は楽だ。体調を崩してしまったことを実感する。
 その後、母さんが持ってきてくれた体温計で熱を測ると、

「38度4分か……」

 それじゃあ、ベッドの中がかなりポカポカになるわけだ。高熱が出ていると分かると、体を帯びる熱が強くなった気がした。

「結構な熱ね。おでこも熱いし」
「そうだな」
「……土曜日からジョギングを再開したじゃないか。特に昨日はバイトもあるのに、いっぱいジョギングしちゃったから……そのせいで疲れが溜まって体調が崩れたんだと思う」
「……なるほど。今後は気をつけような。……今日は学校を休んで、家でゆっくりしているんだ。涼我、今日ってバイトはあるのか?」
「……いや、今日はシフト入ってない」
「そうか。じゃあ、連絡は学校だけでいいな」
「お母さんがしておくわ」
「……ありがとう」
「涼我。まずは部屋に戻って、ベッドに横になろう。病院に行くまではゆっくりしていなさい」
「ああ、そうする」

 その後、父さんに肩を貸してもらって、俺は自分の部屋に戻り、横になる。
 いつも行っている近所の病院の開院時間は……確か、午前9時だったはず。それまでに少しは体調が良くなっているといいんだけど。
 学校には母さんが連絡してくれるそうだけど、俺からも……あおいや愛実達、あとは佐藤先生には学校を休むってメッセージを送っておくか。
 スマホのスリープを解除して、あおいや愛実達6人のグループトークを開く。そこに、

『体調崩した。今日は学校を休む。』

 というメッセージを送った。体調を崩すと、短いメッセージを打つにも時間がかかってしまうな。たまに間違えちゃうし。
 また、佐藤先生との個別トークを開いて、グループトークと同様のメッセージを送った。

「これで……大丈夫かなぁ」

 2つメッセージを送っただけで、何だか疲労感が。
 少しでも体力を戻すためにも寝ようとするけど、熱があったり、呼吸がしづらかったりするのもあって、なかなか眠りにつくことができない。せいぜい、ウトウトするくらいだ。
 ――プルルッ。
 たまにスマホが鳴って、あおいや愛実達から『お大事に』とか『放課後にお見舞いに行く』といった旨のメッセージが次々と届く。文字ではあるけど、そういった言葉をもらうと嬉しい気持ちになる。
 その後も眠れない時間が続く。ただ、スマホを見るとき以外は目を瞑っているので、起きた直後に比べたら、体がちょっとだけ楽になった気がした。
 ベッドで横になることが心地良く思えてきて、眠気も少し感じられるように。夢うつつな感覚に浸っているとき、

「リョウ君……寝ているのかな?」
「かもしれませんね。ただ、呼吸はちょっと乱れていますね」
「そうだね。顔も赤いな……」

 あおいと愛実の話し声が聞こえてくる。俺の部屋に来た2人の実際の話し声なのか。それとも、夢を見始めたのか。
 本当に来てくれていたら嬉しいな。そんな期待を胸にして、目をゆっくり開けると……そこには俺を覗き込むあおいと愛実の姿があった。俺が体調を崩しているからか、2人の顔に笑みはない。あと、これから学校に行くのか2人は制服姿だ。

「あおい……愛実……」
「学校を休むってメッセージが来たから、学校に行く前にあおいちゃんと一緒に様子を見に来たの」
「涼我君の体調がどんな感じか気になりましたから。智子さんから、週末のジョギングやバイトで疲れが溜まったのが原因だと聞きました」
「……今の俺にどのくらい体力があるのか考えずにいっぱいジョギングしちゃってさ。日曜日は長時間のバイトも入っていたし」
「そうでしたか。……あと、起こしてしまいましたか?」
「そんなことないさ。夢うつつな感じだったけど。でも、朝から2人の顔を見られて嬉しいよ。来てくれてありがとう」

 俺がそう言うと、あおいと愛実の顔にようやく笑みが浮かぶ。そんな2人の笑顔を見ていると、少し元気になれたような気がした。

「いえいえ。それに、小学生の頃から、体調を崩したとき、学校に行く前に様子を見るのが恒例だからね」
「お隣同士だからできることですね。涼我君、今日はゆっくりと休んでください。放課後になったらまた来ますね」
「スポーツドリンクとか、リョウ君の好きな果実系のゼリーを買ってくるから。お腹は壊していないんだよね?」
「ああ。胃やお腹は大丈夫」
「じゃあ、買ってきて大丈夫だね」
「……ありがとう」

 あおいと愛実を見ながらお礼を言うと、2人は優しい笑顔を見せてくれる。
 愛実、あおいの順番で俺の頭を優しく撫でてくれて。高熱は出ているけど、2人の優しい温もりははっきりと分かった。2人の甘い匂いも感じられるから、心身共に癒やされる。こんなに可愛い幼馴染2人が朝からお見舞いに来てくれるなんて。俺は幸せ者だ。
 何とか右腕を上げて、あおい、愛実の順番で頭をポンポンと軽く叩いた。そのことで、2人の笑顔がより可愛らしいものに。

「じゃあ、行ってくるね。リョウ君、お大事に」
「行ってきますね。お大事に、涼我君」
「……いってらっしゃい。また、放課後にな」

 俺がそう言うと、あおいと愛実はしっかりと首肯した。
 2人は俺に小さく手を振って、部屋を出て行った。放課後にお見舞いに来てくれるけど、1人になるとちょっと寂しいな。
 ただ、あおいと愛実と会って気持ちが落ち着いたからか、ちょっと眠気が。スマホの目覚ましアプリで病院の開院時間の午前9時に設定し、眠りに落ちるのであった。
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