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第3章

第4話『幼馴染の母親が艶やかな件』

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 それから、俺達は数学Ⅱ、古典、コミュニケーション英語Ⅱの課題をやっていく。
 その中で、数学Ⅱついてはあおいと愛実から質問があったので、それぞれに教えていった。ただ、数学Bの課題に比べると質問してきた回数は少なかった。
 古典については合っているかどうか不安な問題があったので、国語科目が得意だというあおいに訊くことに。あおいから合っていると言われたので一安心。また、その理由を分かりやすく説明してくれたので、あおいは本当に得意なのだと分かった。
 また、コミュニケーション英語Ⅱは俺が分からないところがあり、英語の得意な愛実に質問することも。それまでは俺に教えてもらってばかりだったからか、愛実はとても嬉しそうに教えてくれた。また、あおいにも教えることがあり、そのときの愛実はあおいの優しいお姉さんのようにも見えた。

「……よしっ! 私もこれで英語の課題が終わりました!」
「お疲れ様、あおい」
「あおいちゃん、お疲れ様!」

 課題を全て終わらせたあおいに、俺と愛実は労いの言葉を掛けた。

「ありがとうございますっ!」

 とびきりの明るい笑顔でお礼を言うと、あおいは自分のところにあるマグカップを手に取って、口を付ける。

「……コーヒーを飲もうとしたのですが、もうなくなっていました。課題をやっている間も少しずつ飲んでいたからでしょうか」

 苦笑いであおいはそう言った。勉強中に飲んでいたから、気付けば飲み物がなくなっていたことってあるよな。
 自分が使っているマグカップを見てみると、

「俺もあと一口くらいだ」

 独り言のようにそう言って、俺はカップに残っていたアイスコーヒーを全て飲み干した。美味しい。愛実が淹れてくれた美味しいコーヒーのおかげもあって、課題にしっかりと取り組めたと思う。

「2人とも空なんだ。私も……あと一口から二口くらいかな。じゃあ、新しく冷たい飲み物を作ってくるよ。コーヒーだったから、今度はアイスティーにしようか」
「いいですね!」
「紅茶も好きだからな。じゃあ、アイスティーをお願いするよ」
「ふふっ、分かりました。ちょっと待っててね」

 愛実は自分のマグカップに残っていたアイスコーヒーをゴクゴクと飲み、全員分のマグカップを乗せたトレーを持って部屋を後にした。
 課題も終わったので、脚を伸ばして楽な姿勢をとる。その際、まだまだ残っているチョコマシュマロを一つ食べる。あおいもマシュマロを一つ。

「……うん、マシュマロ美味い。課題が終わった後の甘いものは最高だな」
「解放感をより味わえますよね」

 あおいは幸せそうな笑顔でモグモグと食べている。そんなあおいがとても可愛らしい。

「涼我君。勉強の教え方がとても上手ですよね」
「そうか?」
「ええ。とても分かりやすいですから。学校の先生や塾講師が向いていそうです」
「教師や講師か……」

 誰かに勉強を教えることは楽しいし、いいなって思うことはある。
 担任教師でありオタク友達の佐藤先生は、趣味を謳歌しつつ仕事もしっかりこなしているように見える。ただ、それは先生だからできているのかもしれない。教師は仕事も残業も多いと聞くし。きっと大変な職業だろうと思う。

「幼馴染や友達には教えるけど、職業として考えたことはなかったな。ただ。向いてくれるって言ってくれるのは嬉しいよ。覚えておく」
「ええ!」

 それからも、勉強のことやアニメのことであおいと談笑していると、

「お待たせ、リョウ君、あおいちゃん」
「課題が終わったそうだから来たわ。みんなお疲れ様~」

 マグカップを乗せたトレーを持った愛実が、母親の真衣さんと一緒に戻ってきた。愛実の可愛い顔立ちと大きな胸は母親譲りだなぁ。愛実とは違って真衣さんはロングヘアだけど、雰囲気が似ていて。若々しい雰囲気だから、親子ではなく姉妹に見える。今までに何度思ったことか。
 愛実の後に真衣さんも部屋に入ってくる。その際、俺とあおいにニコッと可愛く微笑みかけた。

「お帰りなさい、愛実ちゃん。真衣さんはどうしてここに?」
「涼我君に頼みたいことがあって」
「涼我君にですか?」
「うん。肩凝っちゃったから涼我君に肩揉みをね。昔からしてもらっているの。主人の肩揉みも気持ちいいんだけど、涼我君の肩揉みはもっと気持ち良くて。涼我君がうちに来たときはたまにしてもらっているのよ」
「そうだったんですね」

 納得した様子でそう言うあおい。
 愛実ほど多くはないけど、真衣さんにも肩のマッサージをすることがある。真衣さんも愛実と同じく肩凝りのしやすい体質だからな。なので、真衣さんが部屋にやってきた時点で察していた。

「分かりました。じゃあ、このクッションに座ってください」

 真衣さんにそう言って、俺はクッションから立ち上がる。
 うんっ、と真衣さんは可愛らしく返事をすると、それまで俺が座っていたクッションに正座をする形に。また、その間に愛実がアイスティーの入ったマグカップをローテーブルに置き、さっきまで自分が座っていたクッションに腰を下ろした。
 俺は真衣さんのすぐ後ろに膝立ちをする。髪の長さは違うけど、後ろ姿も愛実と似ている。そんなことを考えながら、両手を真衣さんの両肩に乗せた。

「じゃあ、真衣さん。マッサージを始めますよ」
「うん。お願いします」

 とりあえず、普段通りの力で揉むか。真衣さんは愛実よりも肩凝りが酷いことが多いので、愛実のときよりも強い力で。
 俺は真衣さんの肩をマッサージし始める。

「あぁっ……」

 真衣さんは体をビクつかせ、そんな可愛らしい声を漏らす。

「今日も凝ってますね」
「痛くてねぇ。年々凝りが酷くなっている気がするよ。歳だからかしら」
「そう……なんでしょうかね」

 年齢もあるかもしれないけど、愛実よりも大きな胸の持ち主だからなのも肩凝りが酷い理由の一つじゃないでしょうか。俺と同じことを思っているのか、あおいはこちらに顔を向いているけど、明らかに視線が低い。

「真衣さん。普段通りの揉み方ですけど、このくらいで大丈夫ですか?」
「大丈夫だよ。痛みはあるけど、凄く気持ち良くて。ほぐれていくのが分かるよ。涼我君は本当に肩揉みが上手ね……」

 甘い声色でそう言うと、真衣さんは顔だけこちらに振り向いて微笑みかける。気持ちいいと思ってもらえて良かった。俺の両手は感覚をちゃんと覚えていたようだ。
 痛みを感じるだけあって、真衣さんの肩凝り……かなり酷いな。真衣さんにはたまにしかやらないし、念入りに肩のマッサージをしていこう。
 俺のマッサージが気持ちいいようで、真衣さんは時折「気持ちいい……」と言ったり、「あぁっ」とか「んんっ」といった甘い声を漏らしたりしている。俺や愛実はそんな真衣さんの反応に慣れているので何とも思わないけど、初めて見るあおいはドキドキした様子でこちらを見ている。

「真衣さん……凄く艶やかですね。大人の色気が凄いといいますか。普段は愛実ちゃんに似て可愛らしい雰囲気ですから、そのギャップが素敵ですっ」
「ふふっ、そんな風に言ってくれるなんて。嬉しいな。涼我君の肩揉みが凄く気持ち良くて……自然とこういう声が漏れちゃうの。体も熱くなって」

 ふふっ、と真衣さんは落ち着きを感じられる声で笑う。確かに、真衣さんの着ているセーター越しから、強い熱が伝わってきている。それもあって、表情は見えないけど、真衣さんが艶やかに思えてきた。

「そうなんですね。私は滅多に肩が凝りませんけど、凝ったときには涼我君にマッサージしてもらいましょうかね」
「リョウ君のマッサージはとても気持ちいいよ」
「そのときは遠慮なく俺に言ってくれ」
「はいっ」

 あおいは嬉しそうに返事した。
 いつかは、あおいと母親の麻美さんにも肩のマッサージをするのが恒例になったりして。あり得そうな気がする。
 みんなと話していたから、気付けば真衣さんの肩凝りが少しほぐれていた。この調子でやっていこう。

「話は変わるけど……涼我君」

 それまでよりも、真衣さんの声のトーンが下がる。真衣さんが何を話してくるのかちょっと緊張する。

「この前、愛実から話を聞いたけど、あおいちゃんと久しぶりに学校の校庭で競走して……それを楽しめたみたいね」
「……ええ」

 何を話してくるかと思ったけど、あおいとのレースのことだったか。もしかしたら、そのことを話すのも、真衣さんはここに来た理由なのかもしれない。

「事故が起きてから初めて、走ったことを楽しいって思えました。それもあって今日からジョギングを再開しました。ジョギングも楽しかったです」
「それは良かったわ」

 真衣さんはそう言うとゆっくりとこちらに振り返る。俺と目を合わせると、真衣さんは優しげな笑顔を浮かべてくれる。その姿は愛実とよく似ていて。

「事故直後に何度も言ったけど、改めて言わせて。涼我君、愛実を助けてくれてありがとう」

 優しい声色でそう言うと、真衣さんは右手で俺の頭を撫でてくれる。優しい手つきと頭から伝わる強い温もりが気持ちいい。愛実とあおいの前だからちょっと照れくささもあるけど、今は癒やされる気持ちの方が強い。
 真衣さんと愛実の父親の宏明さんが、事故直後に何度も俺に愛実を助けてくれてありがとうって言ってくれたことを思い出す。

「いえいえ。俺は……愛実を助けたかっただけですから。愛実が轢かれず、大きな怪我がなくて良かったです」

 その想いは事故が起きたときから変わらない。
 リョウ君……と愛実は目を細めて笑顔で俺のことを見つめている。そんな愛実を見ると、助けることができて良かったという想いが膨らむ。

「……昔から言うことが変わらないわね。涼我君らしい」

 真衣さんはそう言うと、俺を見つめながらニコッと笑った。その表情も愛実とよく似ていた。
 あの事故で直接的に助けたのは愛実だ。だけど、彼女だけじゃなくて、両親の真衣さんや宏明さんのことも救うことができたのかな……と、真衣さんの笑顔を見て思った。

「……ねえ、涼我君」
「何ですか?」
「……肩揉みの途中だから、腕を上げ続けたらまた痛くなってきちゃった」
「ははっ、そうですか。ほら、マッサージの続きをしますから前を向いてください」
「はーい」

 真衣さんが俺に背を向けたので、肩のマッサージを再開する。そのことで、再び真衣さんの甘い声が聞こえるように。

「……本当に気持ちいいわぁ。涼我君はとても上手だから、マッサージ師とか整体師になったらいいんじゃない?」
「それいいかもね、お母さん」
「でしょう? もしなったら、私、常連客になるわ」
「私もなるよ」

 ふふっ、と楽しそうに笑う香川親子。2人とも肩が凝りやすい体質だから……長く付き合う常連客になりそうだ。
 今日は教師や塾講師が向いているとか、マッサージ師や整体師なった方がいいとか将来の職業についてよく言われる日だなぁ。教師のことを言ったのもあってか、あおいと目が合うと、彼女は楽しそうに笑った。

「そう言ってくれるのは嬉しいですけど、近くにいる人達をマッサージして気持ち良くさせられれば十分ですね。もちろん、ここにいる3人はその人達の中に入ってます」
「……マッサージ中なのもあって、凄く嬉しい言葉ね」
「嬉しいよ、リョウ君」
「涼我君らしいですね」

 女性3人の楽しげな笑い声が部屋の中に響く。その声を聞くと、課題をした疲れが取れていくよ。

「真衣さん。これで肩の凝りがほぐれたと思います」
「どれどれ……」

 俺が両手を離すと、真衣さんは両肩をゆっくりと回す。

「……うんっ! 肩も軽くなって、痛みもなくなっているわ」
「良かったです」

 愛実よりも肩凝りが酷かったけど、快適に感じられるくらいまでほぐせて良かった。
 俺はゆっくりと立ち上がる。
 真衣さんはクッションから立ち上がると、俺の方に振り返る。肩凝りが解消できたからか、真衣さんはとっても嬉しそう。

「ありがとう、涼我君」

 お礼を言うと、真衣さんは一歩俺に近づいて右手で頭を優しく撫でてくれる。気持ちがいいな。あと、俺のお腹に触れる真衣さんの巨大な胸の感触も何だかいいと思ってしまった。
 それから程なくして、真衣さんは部屋を後にした。
 課題も全て終わったので、俺達は3人とも好きで現在放送中のアニメ『みやび様は告られたい。』の第3期を観て、3人での時間を楽しむのであった。
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