56 / 236
第2章
第29話『クロノスタシス⑤-心情-』
しおりを挟む
――久しぶりに涼我君と走り、その様子を愛実ちゃんに見てもらうこと。
まず、涼我君に一緒に走ることを説得できました。楽しく走れそうとか、今走ったらどんな結果になるのか興味があるとか言ってくれたのが嬉しいです。
「あとは愛実ちゃんが私達の走る姿を見てくれるかどうかですね……」
「そうだな。ただ、それ以前に……俺があおいと走ることを許すかどうか。体育の授業や体育祭の全員参加種目では『無理はしないでね』って言う程度だったけど」
「走らなければいけない状況ですからね。ただ、今回はそうではありません」
「ああ。愛実は俺が脚を痛めて倒れた姿を見ている。また同じことになったら……って考えて、走ってほしくないって言う可能性はありそうだ」
「そうですね」
走らなければ、涼我君の脚が痛むことはありませんからね。脚のことを考えるなら、走らないに越したことはありません。
それに、涼我君が脚を痛めて倒れたと話したときの愛実ちゃんは浮かない表情でしたし。走ってほしくないと言う可能性は十分に考えられます。
「とにかく、まずは愛実ちゃんに話してみましょう」
「そうだな。話してみないことには何も始まらないし」
「ええ。今、愛実ちゃんはキッチン部の買い出しですよね。LIMEで、買い出し後の予定は空いているかどうか訊いてみましょう」
ブレザーのポケットからスマホを取り出し、LIMEで愛実ちゃんとの個別トークを開きます。
『愛実ちゃん。キッチン部の買い出しの後、予定ってありますか?』
と、愛実ちゃんにメッセージを送ります。
スマホに表示されている時刻を見ると……学校で愛実ちゃんと別れてから40分くらい経っています。今は買い出しの最中でしょうか。
そういったことを考えていると、私の送信したメッセージに『既読』のマークが付きます。愛実ちゃん、このメッセージを見たんですね。
『ううん、特にないよ。買い出しが終わったら帰るつもり』
既読になってからすぐ、愛実ちゃんからそんなメッセージが送られてきました。この後の予定はフリーなんですね。
「愛実ちゃん、買い出しが終わったら帰るつもりだそうです」
「そうか。じゃあ……ここに呼ぶか」
「そうですね」
私はスマホをタップして、
『分かりました。では、買い出しが終わったら、私の家に来てくれませんか? 涼我君と一緒に愛実ちゃんに話したいことがあるんです』
というメッセージを愛実ちゃんに送信しました。
そのメッセージはすぐに『既読』となり、
『うん、分かった。今、買い出しから戻って、食材を冷蔵庫に入れているところだから、あと20分くらいで行けると思う』
という返信が届きました。
家に来てくれるとのことで安心しました。愛実ちゃんには『分かりました。』と了解のメッセージを送りました。
「愛実ちゃん、買い出しから戻ってきたところみたいで。あと20分くらいでここに来るそうです」
「分かった」
それから、私達はクリスのTVアニメを観ながら愛実ちゃんを待つことに。観るエピソードは私のお気に入りのものです。涼我君も好きなエピソードだそうで、楽しそうに観ていました。
――ピンポーン。
本編が終わって、エンディング映像が流れている頃、インターホンが鳴りました。扉の近くにあるモニターで確認すると、制服姿の愛実ちゃんの姿が画面に映りました。
「愛実ちゃん、お待ちしていました。今、行きますね」
『うん』
「……愛実ちゃんです。連れてきますね」
「ああ。いってらっしゃい」
私は部屋を出て、愛実ちゃんが待つ玄関へと向かいます。
玄関を開けると、すぐそこに愛実ちゃんの姿が。私と目が合うと、愛実ちゃんは可愛い笑顔で小さく手を振りました。
「買い出しお疲れ様です」
「ありがとう」
「さあ、どうぞ。涼我君は部屋にいますよ」
「うん。お邪魔します」
私は愛実ちゃんを部屋に通して、涼我君と同じようにブラックコーヒーを作りました。
愛実ちゃんの前にブラックコーヒーの入ったマグカップを置き、さっきまで座っていたクッションに腰を下ろしました。
私の真正面のクッションに座っている愛実ちゃんは、ブラックのアイスコーヒーを一口飲みます。
「美味しい。……それで、あおいちゃんとリョウ君が私に話したいことってどんなこと?」
愛実ちゃんはいつもの優しい笑顔で問いかけてきます。
私は一度、涼我君と目を合わせます。私が発案したことですから、私から話すことにしましょう。私が小さく頷くと、涼我君も頷いてくれました。
「昔、たくさんしていた涼我君との競走を10年ぶりにしたいと思っています。その様子を愛実ちゃんに見てほしいんです」
愛実ちゃんの目を見て、私はそう言いました。
涼我君と一緒に走りたいと言ったからでしょうか。一瞬にして、それまで浮かんでいた笑みが顔から消えて、俯いてしまいます。その姿は春休みに涼我君のアルバムを見て、彼が事故のことを話したときの姿と重なりました。
「昨日、海老名さんと一緒に3年前の事故のことをあおいに話したんだってな」
「う、うん……」
「その話を聞いて、あおいが久しぶりに俺と一緒に走りたいって考えてくれたんだ」
「昔、涼我君は私と一緒に楽しそうに走っていました。だから、私となら涼我君も楽しく走れるんじゃないかと思いまして。その姿を愛実ちゃんに見てもらえば……2人が元気になれるかなと思って」
「そっか……」
呟くようにしてそう言うと、愛実ちゃんは長めに息を吐きました。
それから、私達3人の間に沈黙の時間が流れていきます。
私の言葉を受けて、愛実ちゃんはどんな心境を抱いているのでしょうか。その気持ちをできるだけ尊重したいと思っています。今は愛実ちゃんの言葉を静かに待ちたい。涼我君も同じなのか、何も言葉は言わず、何度かコーヒーを口にしていました。
どのくらいの時間が経ったでしょうか。2、3分かもしれないし、10分以上経ったかもしれない。長く思えた沈黙の時間を経て、
「……走ってほしくない気持ちがある」
愛実ちゃんは小さな声でそう言うと、私と涼我君のことを見てきます。
「走って……ほしくない」
確認するように私がそう言うと、愛実ちゃんは小さく頷きました。
「授業で走るくらいならいいってお医者さんに言われたのに、リョウ君は思いっきり走って……脚を痛めて倒れた。そういったことはその一度きりだったけど、それからずっとリョウ君は走り終わる度にほっとしたり、脚を擦ったりしてる。脚のことを考えるなら、走らないに越したことはないよ」
「愛実……」
やはり、涼我君の体のことを思い、走ってほしくないと愛実ちゃんは考えていますか。脚を痛めて倒れたり、走った後にはほっとしたりする涼我君を見ていますから、愛実ちゃんがそう考えるのは仕方のないことです。
「でも、あおいちゃんと走っているリョウ君の姿を見てみたい気持ちもある」
『えっ……』
まさか……見たい気持ちもあるなんて。涼我君も同じ想いだったようで、漏らした声が彼と重なりました。
「昔から、涼我君はあおいちゃんの話をすると、勝ったことはないけど公園で一緒に走るのが楽しかったって話すことが多くて。そのときのリョウ君の笑顔は素敵で。私は2人が一緒に走る様子を一度も見たことがないから、いつか実際に見てみたいって前から思っていたの。それに、リョウ君が事故の前のように楽しく走らせてくれる可能性が一番あるのは……あおいちゃんだと思うから」
「愛実ちゃん……」
「リョウ君が10年ぶりにあおいちゃんと走りたいと思った上で走るなら、私は……見てみたい」
真剣な表情で愛実ちゃんはそう言うと、涼我君のことを見つめます。
10年間一緒にいるだけあって、涼我君は私とのことを愛実ちゃんに何度も話していたんですね。楽しかったって。そのことに嬉しくなり、胸が温かくなります。
涼我君も真剣な表情となり、愛実ちゃんを見ます。
「……あおいと久しぶりに走りたい。昔、たくさん一緒に走ったあおいとなら、楽しく走れるかもしれないから」
涼我君はしっかりとした口調で愛実ちゃんにそう言いました。
涼我君の想いが伝わったのでしょうか。本題に入ってから、初めて愛実ちゃんの顔に笑みが戻りました。涼我君と私を見て、一度、頷きました。
「分かった。リョウ君とあおいちゃんの競走を見るよ」
「ありがとう、愛実」
「ありがとうございます!」
私達がお礼を言うと、愛実ちゃんの口角がさらに上がりました。そんな愛実ちゃんを見てか涼我君も笑顔です。久しぶりに涼我君と一緒に走った後も、2人がこういう笑顔になってくれると嬉しいですね。
「ただ、どこで走ろうか。昔は調津北公園で走ったけど……」
「遊んでいる子供達がいますもんね。小さい頃ならまだしも、高校生になって走るのはちょっと……」
「周りの人の迷惑になりそうだよな」
「それなら、学校の校庭がいいんじゃないかな」
「校庭いいですね、愛実ちゃん! 北公園に比べたらかなり広いですし」
「そうだな。放課後は部活で使うから、昼休みがいいな。昼休みなら、生徒が自由に使えるし」
「では、明日のお昼休みに走りましょう」
「ああ」
ちなみに、明日のお天気はどうでしょうか。スマホのお天気アプリを見ると……調津市は晴れ時々曇りですか。降水確率も0%なので問題ないですね。
「競走だから、スターターとゴールにいる人も必要だな」
「そうですね。愛実ちゃんにはじっくりと見てもらいたいですから……理沙ちゃんと道本君、鈴木君に頼むのがいいでしょうか」
「俺も同じことを考えてた」
「では、私がメッセージを送りましょう」
私はスマホでLIMEの6人のグループトークを開き、
『突然なのですが、明日の昼休みに涼我君と徒競走をして、愛実ちゃんにその様子を見てもらう予定です。なので、理沙ちゃんと道本君、鈴木君にスターターとどちらが先にゴールしたかの判定員をしてもらえないでしょうか? お願いします。』
というメッセージを送りました。
グループトークなので、送信した直後に涼我君と愛実ちゃんのスマホがほぼ同時に鳴ります。2人はスマホの画面を見て「これで伝わると思う」と言ってくれました。また、2人も『お願いします』とメッセージを送っていました。あとは、このメッセージを見た理沙ちゃん達が了承してくれることを祈ります。
涼我君も愛実ちゃんも勉強道具があるので、今日の授業で出た課題を3人で取り組みながら、理沙ちゃん達からの返信を待つことに。休日に集まって課題をするのもいいですが、こうして放課後にするのもいいですね。
――プルルッ!!
課題をしていると、私達のスマホがほぼ同時に鳴りました。ローテーブルに置いてあるので、バイブ音がかなり響いてビックリしました。
さっそく確認すると、グループトークに理沙ちゃん達からメッセージが届いたと通知が。
『いいぞ。俺達がやるよ』
『いいわよ。昼休みなら大丈夫だし』
『いいぜ! 麻丘と桐山の走りを見るのが楽しみだ!』
3人とも、快諾の返事をしてくれました。
これで舞台は整いました。あとは明日、涼我君と一緒に全力で走りましょう。その様子を愛実ちゃんに見てもらいましょう。今からとても楽しみです!
まず、涼我君に一緒に走ることを説得できました。楽しく走れそうとか、今走ったらどんな結果になるのか興味があるとか言ってくれたのが嬉しいです。
「あとは愛実ちゃんが私達の走る姿を見てくれるかどうかですね……」
「そうだな。ただ、それ以前に……俺があおいと走ることを許すかどうか。体育の授業や体育祭の全員参加種目では『無理はしないでね』って言う程度だったけど」
「走らなければいけない状況ですからね。ただ、今回はそうではありません」
「ああ。愛実は俺が脚を痛めて倒れた姿を見ている。また同じことになったら……って考えて、走ってほしくないって言う可能性はありそうだ」
「そうですね」
走らなければ、涼我君の脚が痛むことはありませんからね。脚のことを考えるなら、走らないに越したことはありません。
それに、涼我君が脚を痛めて倒れたと話したときの愛実ちゃんは浮かない表情でしたし。走ってほしくないと言う可能性は十分に考えられます。
「とにかく、まずは愛実ちゃんに話してみましょう」
「そうだな。話してみないことには何も始まらないし」
「ええ。今、愛実ちゃんはキッチン部の買い出しですよね。LIMEで、買い出し後の予定は空いているかどうか訊いてみましょう」
ブレザーのポケットからスマホを取り出し、LIMEで愛実ちゃんとの個別トークを開きます。
『愛実ちゃん。キッチン部の買い出しの後、予定ってありますか?』
と、愛実ちゃんにメッセージを送ります。
スマホに表示されている時刻を見ると……学校で愛実ちゃんと別れてから40分くらい経っています。今は買い出しの最中でしょうか。
そういったことを考えていると、私の送信したメッセージに『既読』のマークが付きます。愛実ちゃん、このメッセージを見たんですね。
『ううん、特にないよ。買い出しが終わったら帰るつもり』
既読になってからすぐ、愛実ちゃんからそんなメッセージが送られてきました。この後の予定はフリーなんですね。
「愛実ちゃん、買い出しが終わったら帰るつもりだそうです」
「そうか。じゃあ……ここに呼ぶか」
「そうですね」
私はスマホをタップして、
『分かりました。では、買い出しが終わったら、私の家に来てくれませんか? 涼我君と一緒に愛実ちゃんに話したいことがあるんです』
というメッセージを愛実ちゃんに送信しました。
そのメッセージはすぐに『既読』となり、
『うん、分かった。今、買い出しから戻って、食材を冷蔵庫に入れているところだから、あと20分くらいで行けると思う』
という返信が届きました。
家に来てくれるとのことで安心しました。愛実ちゃんには『分かりました。』と了解のメッセージを送りました。
「愛実ちゃん、買い出しから戻ってきたところみたいで。あと20分くらいでここに来るそうです」
「分かった」
それから、私達はクリスのTVアニメを観ながら愛実ちゃんを待つことに。観るエピソードは私のお気に入りのものです。涼我君も好きなエピソードだそうで、楽しそうに観ていました。
――ピンポーン。
本編が終わって、エンディング映像が流れている頃、インターホンが鳴りました。扉の近くにあるモニターで確認すると、制服姿の愛実ちゃんの姿が画面に映りました。
「愛実ちゃん、お待ちしていました。今、行きますね」
『うん』
「……愛実ちゃんです。連れてきますね」
「ああ。いってらっしゃい」
私は部屋を出て、愛実ちゃんが待つ玄関へと向かいます。
玄関を開けると、すぐそこに愛実ちゃんの姿が。私と目が合うと、愛実ちゃんは可愛い笑顔で小さく手を振りました。
「買い出しお疲れ様です」
「ありがとう」
「さあ、どうぞ。涼我君は部屋にいますよ」
「うん。お邪魔します」
私は愛実ちゃんを部屋に通して、涼我君と同じようにブラックコーヒーを作りました。
愛実ちゃんの前にブラックコーヒーの入ったマグカップを置き、さっきまで座っていたクッションに腰を下ろしました。
私の真正面のクッションに座っている愛実ちゃんは、ブラックのアイスコーヒーを一口飲みます。
「美味しい。……それで、あおいちゃんとリョウ君が私に話したいことってどんなこと?」
愛実ちゃんはいつもの優しい笑顔で問いかけてきます。
私は一度、涼我君と目を合わせます。私が発案したことですから、私から話すことにしましょう。私が小さく頷くと、涼我君も頷いてくれました。
「昔、たくさんしていた涼我君との競走を10年ぶりにしたいと思っています。その様子を愛実ちゃんに見てほしいんです」
愛実ちゃんの目を見て、私はそう言いました。
涼我君と一緒に走りたいと言ったからでしょうか。一瞬にして、それまで浮かんでいた笑みが顔から消えて、俯いてしまいます。その姿は春休みに涼我君のアルバムを見て、彼が事故のことを話したときの姿と重なりました。
「昨日、海老名さんと一緒に3年前の事故のことをあおいに話したんだってな」
「う、うん……」
「その話を聞いて、あおいが久しぶりに俺と一緒に走りたいって考えてくれたんだ」
「昔、涼我君は私と一緒に楽しそうに走っていました。だから、私となら涼我君も楽しく走れるんじゃないかと思いまして。その姿を愛実ちゃんに見てもらえば……2人が元気になれるかなと思って」
「そっか……」
呟くようにしてそう言うと、愛実ちゃんは長めに息を吐きました。
それから、私達3人の間に沈黙の時間が流れていきます。
私の言葉を受けて、愛実ちゃんはどんな心境を抱いているのでしょうか。その気持ちをできるだけ尊重したいと思っています。今は愛実ちゃんの言葉を静かに待ちたい。涼我君も同じなのか、何も言葉は言わず、何度かコーヒーを口にしていました。
どのくらいの時間が経ったでしょうか。2、3分かもしれないし、10分以上経ったかもしれない。長く思えた沈黙の時間を経て、
「……走ってほしくない気持ちがある」
愛実ちゃんは小さな声でそう言うと、私と涼我君のことを見てきます。
「走って……ほしくない」
確認するように私がそう言うと、愛実ちゃんは小さく頷きました。
「授業で走るくらいならいいってお医者さんに言われたのに、リョウ君は思いっきり走って……脚を痛めて倒れた。そういったことはその一度きりだったけど、それからずっとリョウ君は走り終わる度にほっとしたり、脚を擦ったりしてる。脚のことを考えるなら、走らないに越したことはないよ」
「愛実……」
やはり、涼我君の体のことを思い、走ってほしくないと愛実ちゃんは考えていますか。脚を痛めて倒れたり、走った後にはほっとしたりする涼我君を見ていますから、愛実ちゃんがそう考えるのは仕方のないことです。
「でも、あおいちゃんと走っているリョウ君の姿を見てみたい気持ちもある」
『えっ……』
まさか……見たい気持ちもあるなんて。涼我君も同じ想いだったようで、漏らした声が彼と重なりました。
「昔から、涼我君はあおいちゃんの話をすると、勝ったことはないけど公園で一緒に走るのが楽しかったって話すことが多くて。そのときのリョウ君の笑顔は素敵で。私は2人が一緒に走る様子を一度も見たことがないから、いつか実際に見てみたいって前から思っていたの。それに、リョウ君が事故の前のように楽しく走らせてくれる可能性が一番あるのは……あおいちゃんだと思うから」
「愛実ちゃん……」
「リョウ君が10年ぶりにあおいちゃんと走りたいと思った上で走るなら、私は……見てみたい」
真剣な表情で愛実ちゃんはそう言うと、涼我君のことを見つめます。
10年間一緒にいるだけあって、涼我君は私とのことを愛実ちゃんに何度も話していたんですね。楽しかったって。そのことに嬉しくなり、胸が温かくなります。
涼我君も真剣な表情となり、愛実ちゃんを見ます。
「……あおいと久しぶりに走りたい。昔、たくさん一緒に走ったあおいとなら、楽しく走れるかもしれないから」
涼我君はしっかりとした口調で愛実ちゃんにそう言いました。
涼我君の想いが伝わったのでしょうか。本題に入ってから、初めて愛実ちゃんの顔に笑みが戻りました。涼我君と私を見て、一度、頷きました。
「分かった。リョウ君とあおいちゃんの競走を見るよ」
「ありがとう、愛実」
「ありがとうございます!」
私達がお礼を言うと、愛実ちゃんの口角がさらに上がりました。そんな愛実ちゃんを見てか涼我君も笑顔です。久しぶりに涼我君と一緒に走った後も、2人がこういう笑顔になってくれると嬉しいですね。
「ただ、どこで走ろうか。昔は調津北公園で走ったけど……」
「遊んでいる子供達がいますもんね。小さい頃ならまだしも、高校生になって走るのはちょっと……」
「周りの人の迷惑になりそうだよな」
「それなら、学校の校庭がいいんじゃないかな」
「校庭いいですね、愛実ちゃん! 北公園に比べたらかなり広いですし」
「そうだな。放課後は部活で使うから、昼休みがいいな。昼休みなら、生徒が自由に使えるし」
「では、明日のお昼休みに走りましょう」
「ああ」
ちなみに、明日のお天気はどうでしょうか。スマホのお天気アプリを見ると……調津市は晴れ時々曇りですか。降水確率も0%なので問題ないですね。
「競走だから、スターターとゴールにいる人も必要だな」
「そうですね。愛実ちゃんにはじっくりと見てもらいたいですから……理沙ちゃんと道本君、鈴木君に頼むのがいいでしょうか」
「俺も同じことを考えてた」
「では、私がメッセージを送りましょう」
私はスマホでLIMEの6人のグループトークを開き、
『突然なのですが、明日の昼休みに涼我君と徒競走をして、愛実ちゃんにその様子を見てもらう予定です。なので、理沙ちゃんと道本君、鈴木君にスターターとどちらが先にゴールしたかの判定員をしてもらえないでしょうか? お願いします。』
というメッセージを送りました。
グループトークなので、送信した直後に涼我君と愛実ちゃんのスマホがほぼ同時に鳴ります。2人はスマホの画面を見て「これで伝わると思う」と言ってくれました。また、2人も『お願いします』とメッセージを送っていました。あとは、このメッセージを見た理沙ちゃん達が了承してくれることを祈ります。
涼我君も愛実ちゃんも勉強道具があるので、今日の授業で出た課題を3人で取り組みながら、理沙ちゃん達からの返信を待つことに。休日に集まって課題をするのもいいですが、こうして放課後にするのもいいですね。
――プルルッ!!
課題をしていると、私達のスマホがほぼ同時に鳴りました。ローテーブルに置いてあるので、バイブ音がかなり響いてビックリしました。
さっそく確認すると、グループトークに理沙ちゃん達からメッセージが届いたと通知が。
『いいぞ。俺達がやるよ』
『いいわよ。昼休みなら大丈夫だし』
『いいぜ! 麻丘と桐山の走りを見るのが楽しみだ!』
3人とも、快諾の返事をしてくれました。
これで舞台は整いました。あとは明日、涼我君と一緒に全力で走りましょう。その様子を愛実ちゃんに見てもらいましょう。今からとても楽しみです!
0
お気に入りに追加
67
あなたにおすすめの小説

ルピナス
桜庭かなめ
恋愛
高校2年生の藍沢直人は後輩の宮原彩花と一緒に、学校の寮の2人部屋で暮らしている。彩花にとって直人は不良達から救ってくれた大好きな先輩。しかし、直人にとって彩花は不良達から救ったことを機に一緒に住んでいる後輩の女の子。直人が一定の距離を保とうとすることに耐えられなくなった彩花は、ある日の夜、手錠を使って直人を束縛しようとする。
そして、直人のクラスメイトである吉岡渚からの告白をきっかけに直人、彩花、渚の恋物語が激しく動き始める。
物語の鍵は、人の心とルピナスの花。たくさんの人達の気持ちが温かく、甘く、そして切なく交錯する青春ラブストーリーシリーズ。
※特別編-入れ替わりの夏-は『ハナノカオリ』のキャラクターが登場しています。
※1日3話ずつ更新する予定です。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

クラスメイトの王子様系女子をナンパから助けたら。
桜庭かなめ
恋愛
高校2年生の白石洋平のクラスには、藤原千弦という女子生徒がいる。千弦は美人でスタイルが良く、凛々しく落ち着いた雰囲気もあるため「王子様」と言われて人気が高い。千弦とは教室で挨拶したり、バイト先で接客したりする程度の関わりだった。
とある日の放課後。バイトから帰る洋平は、駅前で男2人にナンパされている千弦を見つける。普段は落ち着いている千弦が脚を震わせていることに気付き、洋平は千弦をナンパから助けた。そのときに洋平に見せた笑顔は普段みんなに見せる美しいものではなく、とても可愛らしいものだった。
ナンパから助けたことをきっかけに、洋平は千弦との関わりが増えていく。
お礼にと放課後にアイスを食べたり、昼休みに一緒にお昼ご飯を食べたり、お互いの家に遊びに行ったり。クラスメイトの王子様系女子との温かくて甘い青春ラブコメディ!
※続編がスタートしました!(2025.2.8)
※1日1話ずつ公開していく予定です。
※小説家になろうとカクヨムでも公開しています。
※お気に入り登録、いいね、感想などお待ちしております。

まずはお嫁さんからお願いします。
桜庭かなめ
恋愛
高校3年生の長瀬和真のクラスには、有栖川優奈という女子生徒がいる。優奈は成績優秀で容姿端麗、温厚な性格と誰にでも敬語で話すことから、学年や性別を問わず人気を集めている。和真は優奈とはこの2年間で挨拶や、バイト先のドーナッツ屋で接客する程度の関わりだった。
4月の終わり頃。バイト中に店舗の入口前の掃除をしているとき、和真は老齢の男性のスマホを見つける。その男性は優奈の祖父であり、日本有数の企業グループである有栖川グループの会長・有栖川総一郎だった。
総一郎は自分のスマホを見つけてくれた和真をとても気に入り、孫娘の優奈とクラスメイトであること、優奈も和真も18歳であることから優奈との結婚を申し出る。
いきなりの結婚打診に和真は困惑する。ただ、有栖川家の説得や、優奈が和真の印象が良く「結婚していい」「いつかは両親や祖父母のような好き合える夫婦になりたい」と思っていることを知り、和真は結婚を受け入れる。
デート、学校生活、新居での2人での新婚生活などを経て、和真と優奈の距離が近づいていく。交際なしで結婚した高校生の男女が、好き合える夫婦になるまでの温かくて甘いラブコメディ!
※特別編3が完結しました!(2024.8.29)
※小説家になろうとカクヨムでも公開しています。
※お気に入り登録、感想をお待ちしております。

手が届かないはずの高嶺の花が幼馴染の俺にだけベタベタしてきて、あと少しで我慢も限界かもしれない
みずがめ
恋愛
宮坂葵は可愛くて気立てが良くて社長令嬢で……あと俺の幼馴染だ。
葵は学内でも屈指の人気を誇る女子。けれど彼女に告白をする男子は数える程度しかいなかった。
なぜか? 彼女が高嶺の花すぎたからである。
その美貌と肩書に誰もが気後れしてしまう。葵に告白する数少ない勇者も、ことごとく散っていった。
そんな誰もが憧れる美少女は、今日も俺と二人きりで無防備な姿をさらしていた。
幼馴染だからって、とっくに体つきは大人へと成長しているのだ。彼女がいつまでも子供気分で困っているのは俺ばかりだった。いつかはわからせなければならないだろう。
……本当にわからせられるのは俺の方だということを、この時点ではまだわかっちゃいなかったのだ。

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった
ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます!
僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか?
『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』
幼馴染と話し合って恋人になってみた→夫婦になってみた
久野真一
青春
最近の俺はちょっとした悩みを抱えている。クラスメート曰く、
幼馴染である百合(ゆり)と仲が良すぎるせいで付き合ってるか気になるらしい。
堀川百合(ほりかわゆり)。美人で成績優秀、運動完璧だけど朝が弱くてゲーム好きな天才肌の女の子。
猫みたいに気まぐれだけど優しい一面もあるそんな女の子。
百合とはゲームや面白いことが好きなところが馬が合って仲の良い関係を続けている。
そんな百合は今年は隣のクラス。俺と付き合ってるのかよく勘ぐられるらしい。
男女が仲良くしてるからすぐ付き合ってるだの何だの勘ぐってくるのは困る。
とはいえ。百合は異性としても魅力的なわけで付き合ってみたいという気持ちもある。
そんなことを悩んでいたある日の下校途中。百合から
「修二は私と恋人になりたい?」
なんて聞かれた。考えた末の言葉らしい。
百合としても満更じゃないのなら恋人になるのを躊躇する理由もない。
「なれたらいいと思ってる」
少し曖昧な返事とともに恋人になった俺たち。
食べさせあいをしたり、キスやその先もしてみたり。
恋人になった後は今までよりもっと楽しい毎日。
そんな俺達は大学に入る時に籍を入れて学生夫婦としての生活も開始。
夜一緒に寝たり、一緒に大学の講義を受けたり、新婚旅行に行ったりと
新婚生活も満喫中。
これは俺と百合が恋人としてイチャイチャしたり、
新婚生活を楽しんだりする、甘くてほのぼのとする日常のお話。

マッサージ
えぼりゅういち
恋愛
いつからか疎遠になっていた女友達が、ある日突然僕の家にやってきた。
背中のマッサージをするように言われ、大人しく従うものの、しばらく見ないうちにすっかり成長していたからだに触れて、興奮が止まらなくなってしまう。
僕たちはただの友達……。そう思いながらも、彼女の身体の感触が、冷静になることを許さない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる