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第2章

第24話『ゲームコーナー』

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 昼食を食べた後は、俺達はレモンブックスとアニメイクに行く。
 クリスの映画を観たのもあり、レモンブックスではあおいと愛実がクリスの同人誌コーナーへ行き、同人誌をいくつか手に取っていた。その中で、あおいは今回の劇場版で活躍した葉室さんが表紙に描かれているBL同人誌を購入した。
 アニメイクでは俺の好きなラノベシリーズの最新巻、愛実の好きな漫画家の新作漫画、あおいの好きな漫画の最新巻がそれぞれ発売されていたので購入した。

「好きな漫画家さんの新作が買えて嬉しいな」
「俺も楽しみにしていた最新巻が買えて嬉しいよ」
「私も好きな漫画の最新巻が買えて嬉しいです! レモンブックスでは葉室さんが表紙になっているいい感じの同人誌が買えましたし、本当にこの2つのお店はいいですね。休日や放課後に行くのがさっそく定番になった気がします」

 あおいが調津に戻ってきてから半月ほど。休日や放課後に一緒にいると……レモンブックスとアニメイクに行くことが多いな。さっそく定番になったと言うのも納得だ。

「確かに、あおいちゃんと一緒だと、どっちにも行かない日は珍しいもんね」
「俺も同じようなことを思った」
「ふふっ、そうですか。これからも一緒に行ってくれると嬉しいです。お二人と一緒だと楽しいですから」

 あおいは持ち前の明るい笑顔でそう言う。

「ああ、もちろんだ」
「もちろんいいよ」
「ありがとうございますっ!」

 元気にお礼を言うと、あおいの笑顔が嬉しそうなものに変わる。
 あおいと一緒にアニメイクやレモンブックスに行くのは楽しい。だから、これからもこれは定番であり続けるだろう。

「さてと。アニメイクでの買い物も終わったし、どこか行くか? 午後3時近くだし、本も買ったからこのまま帰るのでもいいけど……」
「そうだね……あおいちゃんはどこか行きたい場所ある?」
「私ですか? ……ゲームコーナーがいいですね。昔の定番でしたが、調津に戻ってきてからはまだ一度も行ったことがないので」
「そういえば、ゲームコーナーによく行ったってリョウ君が前に言っていたね」
「ああ。そういえば、再会してからはまだ一度も行っていなかったな。じゃあ、ナルコのゲームコーナーに行ってみるか」
「はいっ!」
「いいね、行こう」

 次の行き先がゲームコーナーに決まり、俺達はアニメイクを後にする。
 ナルコのゲームコーナーは5階にある。そのため、アニメイクの近くにあるエスカレーターから5階へ上がる。
 このエスカレーターの近くにゲームコーナーがある。だから、5階に上がると、様々なゲームのBGMが混ざった音が聞こえてきて。このカオスな音を聴くと、ゲームコーナーに来たのだと実感する。
 ゲームコーナーに入ると、あおいは「うわあっ……」と可愛い声を漏らしながら中を見渡している。

「さすがに10年経つと、ゲームコーナーの中の雰囲気も変わっていますね」
「そうだな。10年前には無かったゲームもあるし、たまーにゲームの筐体の場所が変わったりするから」
「たまに変わるよね。そのときってちょっと戸惑うよね」
「それまでの場所が体に染みついているからな」
「お二人の言うこと分かります。福岡や京都に住んでいた頃に行っていたゲームコーナーも、筐体の場所を入れ替えることが何度かあって。その直後は戸惑いましたね。それまで遊んでいたゲームが無くなったんじゃないかと焦りも出て」
「俺も焦ったことある」
「いつもあった場所にないと焦るよね」

 うんうん、と3人で頷き合う。ゲームコーナーあるあるかもしれない。
 どんなゲームがあるのかを見ながら、俺達はゲームコーナーの中を歩いていく。
 休日のゲームコーナーだから、中は結構賑わっている。小学生くらいの子供だけのグループや小さな子を連れた親子の姿も。親子を見ると、昔、あおいと一緒にゲームコーナーに来たときのことを思い出す。

「エアホッケーとか、リズムに合わせて太鼓を叩くゲームは今でもあるんですね」
「定番のゲームだもんな。どっちも昔、あおいと一緒にやったな」
「やりましたね。家族対抗のチーム戦で対戦したこともありましたよね」
「やったやった。あおい、エアホッケー強かったよなぁ」

 1対1では全然勝てず、母さんと2人だといい勝負になった記憶がある。公園でのかけっこでは一度も勝てなかったし、あおいは小さい頃から運動神経が良かったんだな。太鼓のゲームでは結構勝てていたけど。

「体育の授業のあおいちゃんを見ていると、それは分かる気がする。エアホッケーとか太鼓のゲームは面白いよね。私とも何度も遊んだよね、リョウ君」
「そうだな。愛実は太鼓のゲームが強いよなぁ」

 愛実が好きな曲のときはもちろんのこと、俺が何度も練習している曲でも、愛実にはなかなか勝てなかったな。ただ、エアホッケーでは結構勝てていた。

「あっ、クレーンゲームですね」

 俺達はクレーンゲームが多く並んでいるエリアにやってくる。お菓子やぬいぐるみ、アニメのフィギュアと様々な景品がある。

「昔、クレーンゲームもやりましたよね」
「ああ。ビッグサイズのお菓子とか、動物のぬいぐるみとか」
「取りましたね。私は全然ダメでしたけど、涼我君は何度かプレイして取れましたよね」
「ゲットしたお菓子を一緒に食べたこともあるよな」
「リョウ君って小学生の頃から上手だったけど、それより前から上手だったんだね」
「ええ! 私が全然できなかったので、涼我君がヒーローに見えましたね」
「かっこいいよね」

 クレーンゲームのことでも、幼馴染2人からかっこいいと言われると嬉しい気持ちになる。

「どんなものでも数プレイの内に必ず取れるから、小学校の高学年や中学生のときは『景品落としの麻丘』って呼ぶ友達が何人もいたよ」
「そんな二つ名もあるんですね!」

 ちょっと興奮した様子でそう言うと、目を輝かせて俺を見てくる。あおいはオタクだし、二つ名に憧れがあるのかもしれない。
 確かに一時期、友達から『景品落としの麻丘』って言われたことはあった。ただ、それはゲームコーナーの店員にも伝わっており、俺がゲームコーナーに来ると「景品落としの麻丘が来た」と少し鋭い視線で俺を見る店員もいたほど。まあ、少ないお金で景品をゲットするから、店側にとっては来てほしくない人間だったのだろう。

「まあ、一時期言われたよ。最近はそこまでやらないけど、今でも景品はちゃんとゲットできると思う。もし、何かほしいものがあったら俺に言ってくれ」
「それは嬉しいですね! 今は取れるようにはなりましたけど、お財布からお金が大量に消えてしまうこともありますから……」

 あおいは苦笑いをしてそう言う。昔は全然ゲットできかったので、お金がかかってもゲットできるようになったのは成長したってこと……かな?

「そ、そうか。愛実も遠慮無く言ってくれよ」
「うん、分かった」

 俺達はクレーンゲームが並ぶエリアを歩き始める。
 クレーンゲームもゲームコーナーでは定番のゲームだし、最近は多様な景品を取ることができる。フィギュアやぬいぐるみだと、クレーンゲーム限定デザインのものもあるし。なので、他のゲームと比べて筐体の数は結構多い。

「あっ、猫のぬいぐるみです!」

 あおいはそう言うと、クレーンゲームの前で立ち止まる。
 あおいが見ているクレーンゲームを見てみると……猫のぬいぐるみがたくさん入っている。パッと見た感じ、あおいと愛実が抱きしめたらちょうど良さそうなサイズだ。黒猫、三毛猫、白猫、黒白のハチ割れ猫の4種類ある。

「可愛いですねぇ……」
「可愛いぬいぐるみだね」
「ええ。この前の猫カフェで戯れたキジトラ模様の猫はいませんが、ハチ割れ猫はいます。涼我君、黒白のハチ割れ猫が欲しいです!」
「分かった」

 あおいのために一肌脱ぎますか。景品落としの麻丘に恥じぬプレイをしたい。
 クレーンゲームを見て、ゲットしやすそうな黒白のハチ割れ猫のぬいぐるみがないかどうかを調べる。

「おっ、これが取りやすそうだ。あおい、この横方向にうつぶせになっている猫のぬいぐるみでいいか?」
「ええ、いいですよ。では……100円です」
「ああ」

 俺はあおいから100円玉を受け取る。あおいのお金を使うんだから、できるだけ少ない回数でぬいぐるみをゲットしたい。
 100円玉をクレーンゲームに入れ、ボタン操作をして横方向→縦方向の順番でアームを動かしていく。ここのクレーンゲームは何度もプレイしたことがあるので、一発でアームをターゲットのぬいぐるみの上まで動かすことができた。

「うん、いい場所だ。いけっ」

 縦方向のボタンを離すと、アームの腕がゆっくり開き、ぬいぐるみめがけて下がっていく。上手くいくかな。
 下がりきり、アームの腕がゆっくり閉まる。その際、頭とお尻の部分に入り込む。

「おおっ、アームがぬいぐるみの下に入り込みましたよ! 私、見当違いの場所にアームを動かしちゃうので、一発でこの位置にアームを動かせるなんて凄いですっ!」

 ぬいぐるみを見つけたとき以上にキラキラした目で、俺とぬいぐるみを交互に見る。

「取れそうな位置にアームを動かすのが得意だよね、リョウ君は」

 それをちょっと得意げに話す愛実が可愛らしい。
 アームは元の高さに向かってゆっくり上がっていく。その際、ハチ割れ猫のぬいぐるみも持ち上がる。その様子を見て、あおいは「おおっ」と甲高い声を漏らす。
 最初の高さに戻ったアームは、スタート地点に向かって戻り始める。

「お願いします。落ちるときは取り出し口の上に戻ってから落ちてください……!」
「きっと大丈夫だよ! ぬいぐるみは揺れていないし」
「きっと取れるさ」

 あおいと愛実は真剣な面持ちでアームを見つめている。
 その後もアームは安定した様子でスタート地点に戻っていく。
 俺達3人に注目されているプレッシャーに負けることなく、アームはぬいぐるみを掴んだままスタート地点に到着した。
 アームの腕が開き、ハチ割れ猫のぬいぐるみは見事に取り出し口に向かって落ちていった。

「うわあっ、凄い! 一発で取れるなんて!」
「さすがリョウ君!」

 あおいはとても嬉しそうに、愛実は明るい笑顔で俺に向かって拍手してくれる。景品落としの麻丘の名を汚さずに済んで良かったよ。あのハチ割れ猫のぬいぐるみは取りやすい位置に置いてあったから、一発で取ることができた。
 俺はゲットしたハチ割れ猫のぬいぐるみを取り出し口から出す。

「はい、どうぞ」
「ありがとうございますっ!」

 俺からぬいぐるみを受け取ると、あおいはさらに嬉しそうな笑顔になり、ぬいぐるみをぎゅっと抱きしめた。スリスリしていて。誰かのためにクレーンゲームで景品をゲットしたことは数え切れないほどにあるけど、今のあおいを見ているとこっちまで嬉しくなる。

「あぁ、可愛いですぅ。抱き心地もいいですぅ」

 うっとりとした様子になり、甘い声色でそう言うあおい。そんなあおいも、ぬいぐるみと同じくらいに可愛いと思う。

「あおいちゃんいいなぁ。私も猫のぬいぐるみが欲しくなってきたよ。この前猫カフェ行ったし、三毛猫のぬいぐるみがいいな。リョウ君……いい?」
「もちろんだ。俺に任せろ」
「お願いしますっ!」

 その後、俺は愛実のためにクレーンゲームをプレイし、三毛猫のぬいぐるみをゲットした。ただし、ハチ割れ猫のぬいぐるみのときとは違って取りやすい場所にはなかったため、今回は2プレイでのゲット。100円とはいえ、あおいよりも多く払わせてしまったので謝ったら、

「謝る必要なんてないよ。それに、リョウ君が取ってくれたことが凄く嬉しいよ」

 と、愛実は笑顔で言ってくれた。そのことに安心すると同時に、胸がじんわりと温かくなった。
 何かお礼をしたいと2人が言ってくれたので、ぬいぐるみを抱きしめた写真をスマホで撮らせてほしいとお願いした。2人は快諾してくれ、可愛い笑顔の写真を撮らせてくれたのであった。
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