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第2章

第18話『久しぶりにしたくなった。』

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 4月12日、火曜日。
 ゆっくりと目を覚ますと……すぐ近くに制服のブラウス姿の愛実が見える。
 愛実は持ち前の優しい笑顔で俺のことを見つめている。俺と目が合うと、愛実はニッコリと笑って、

「おはよう、リョウ君」

 落ち着きを感じられる声色で俺に朝の挨拶をした。
 まさか、目を覚ましたら愛実がいるなんて。愛実が起こしに来るのは中学生以降は一度もないから、

「……夢だろう」

 現実ではないと思い、再び目を瞑る。
 昨日、あおいが初めて俺を起こしに来てくれたから、愛実が起こしてくれる夢を見ているのだろう。それに、今の愛実だとどんな風に起こしてくれるのか興味があったから。きっとこんな感じなんじゃないか……と夢を見させてくれたのだろう。

「ゆ、夢じゃないよ、リョウ君。だから起きて。いつも今くらいの時間に起きるんでしょう?」

 焦りを感じられる愛実の声が聞こえた直後、定期的に頬に温かい何かが触れる感触が。それと同時に、愛実の持つとても甘い匂いが感じられて。
 再び目を開けると、さっきよりもさらに近い場所で愛実の顔が見える。昨日、あおいが起こしてくれたときよりも近い。俺を目が合うと、愛実は安堵の笑顔になる。

「まさか、今日も本当なのか?」
「そうだよ」

 穏やかな声で言うと、愛実は首肯する。
 昨日と同じように、舌を軽く噛んでみると……ちゃんと痛みが感じられた。現実なんだ。ということは、2日連続で誰かに起こされたことになるのか。

「……おはようございます」
「うんっ、おはよう。リョウ君」

 愛実はニッコリと笑って朝の挨拶をしてくれた。そのことで眠気が取れていき、癒やされた気分になる。そういえば、昔も俺を起こしてくれたとき、愛実は今みたいに可愛い笑顔で「おはよう」って言ってくれたっけ。

「起こしてくれてありがとう」

 そう言い、俺は愛実の頭を優しく撫でる。その瞬間、愛実は「えへへっ」と可愛らしく笑う。また、撫でたことで愛実の髪からシャンプーの甘い匂いが柔く感じられて。
 上半身をゆっくり起こして、体を伸ばす。そうすることで体に残っている眠気が完全に取れ、スッキリとした気分に。

「今日は愛実が起こしに来てくれるなんて。今の時間も……いつも平日に起きるくらいの時刻だし」
「昨日、あおいちゃんが初めてリョウ君を起こした話を聞いたら、久しぶりにリョウ君を起こしてみたくなって。前に、リョウ君が平日に起きる時間は話していたけど、念のために、智子さんにリョウ君を起こしに行くって話したときに、起きる時間を確認しておいたの」
「そうか。それで、この時刻に起こしに来てくれたってことか」
「うんっ」

 愛実は俺の目を見ながらしっかり頷く。
 あおいが俺を起こした話を聞いたから、自分も久しぶりに起こしたくなった……か。可愛いことを考えるし、実際に行動に移したところも可愛いなって思う。気づけば、頬が緩んでいるのが分かった。

「久しぶりにリョウ君の寝顔を見たけど可愛かったよ」
「あおいにも同じことを言われたな」
「ふふっ、そうなんだ。久しぶりに起こしてみたけど懐かしい感覚だったよ。ほっこりした気分にもなった。リョウ君、また寝そうになっていたけど、それでも今までの中で一番穏やかに起こせたよ」
「昔は寝坊したときに起こしてくれていたもんな。……2日連続で別々の幼馴染に起こされるとは思わなかったから、夢だと思ってまた寝そうになったよ」
「夢だろうって言っていたもんね。昔は優しく頬を叩けば起きたから、今回も実践してみたけど……昔と変わらず起きてくれて良かったよ」
「そっか」

 そういえば、昔も……愛実は頬を軽く叩いて起こしてくれていた気がする。そんな愛実のおかげで、寝坊はしても遅刻をすることは一度もなかった。

「じゃあ、私は家に戻るね」
「ああ。また後でな」
「うん、また後でね」

 愛実は優しい笑顔で俺に手を振ると、部屋を出て行った。
 愛実が起こしてくれたこともあって、今日もいつも通りの平日の朝の時間を過ごしていく。
 ただ、一点だけ違うことがあった。朝食のときに母さんが、

「あおいちゃんに続いて、愛実ちゃんも起こしに来てくれるなんてね。可愛い幼馴染2人に起こされるなんて幸せ者ね~」

 と楽しそうに喋っていたことだ。目覚めたときからあおいや愛実の笑顔を見られていい気分になったのは事実。なので、母さんには「そうだな」と返事しておいた。
 制服の着崩れがしていないかどうかや、忘れ物がないかどうかをチェックし、学校に向けて家を出発する。家を出ると、そこには愛実とあおいの姿があった。

「おはようございます、涼我君」
「おはよう、リョウ君」
「2人ともおはよう。じゃあ、学校に行くか」

 俺達は学校に向けて歩き出す。

「涼我君。今朝は愛実ちゃんに起こしてもらったんですよね。愛実ちゃんから話を聞きました」
「ああ、起こしてもらったよ」
「昨日の私の話を聞いて久しぶりに起こしたいと思うなんて。愛実ちゃん、可愛いですよね」
「俺も起こしてもらったときに同じことを思ったよ」
「リョ、リョウ君も? 何だか照れちゃうな」

 えへへっ、と愛実は頬をほんのりと赤くしてはにかむ。そんな愛実の反応も可愛いけど、それを言ったら彼女が恥ずかしがってしまいそうなので胸に留めておく。

「そういえば、涼我君は愛実ちゃんを起こしに行くことってあるんですか?」
「ないなぁ。愛実が寝坊することはないし」

 登校するときに家からなかなか出てこないときも、スマホでメッセージや電話で連絡したり、家のインターホンを鳴らしたりすれば愛実から返事が返ってくるし。

「朝に愛実の家に行くのは、愛実が風邪を引いたときにちょっと会うことくらいか」
「そうだね」
「愛実ちゃんは小さい頃からしっかりしているんですね」
「小学生の頃はお母さんとお父さんに起こされることが何度かあったけどね。そのおかげもあって、寝坊しちゃうことはなかったかな」
「そうでしたか」

 それでも、あおいは愛実のことを感心した様子で見ていた。あおいは今でも、深夜アニメをリアルタイムで観た日の翌日は寝坊してしまうことがあるそうだから。

「2人のおかげで、昨日と今日はいつもよりもいい気分の中で起きられたよ。ありがとう」
「いえいえ! 私もいい体験ができました!」
「久しぶりに起こせて楽しかったよ」

 あおいと愛実は可愛い笑顔でそう答えてくれる。2人が楽しめたのなら良かったよ。ただ、2人に甘えずに、これからも寝坊は避けたいと思うのであった。
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