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第2章

第14話『佐藤先生が作るお昼ご飯』

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 その後も、本棚やラックにある本について話が盛り上がる。特にあおいと佐藤先生は共通して持っている書籍が多いので、特に盛り上がっている。
 3人とも楽しく話しているし私服姿だから、教師と生徒というよりも、漫画好きを通じて仲良くなった歳の少し離れた友達に見えてくる。

「おやおやおや。もう正午を過ぎているね」

 佐藤先生がそう言うので、スマホで時刻を確認すると……今は午後12時10分か。

「そうですね。もうお昼時ですね」
「もしよければ、ここでお昼ご飯を食べないかい?」
「いいんですか? 佐藤先生」
「ああ。この前、飛び入りでお花見の輪に入れてくれたお礼にね。愛実ちゃんとあおいちゃんが作ったおかずも美味しかったし。あと、涼我君はさっきの朗読のお礼も」
「そういうことであれば、遠慮なく」
「私もご厚意に甘えさせていただきますっ!」
「私もいただきます」
「よし、決まりだね」

 俺達3人が提案を受け入れたからか、佐藤先生は嬉しそうな笑顔になる。

「じゃあ、キッチンに行って何を作れるのか考えるよ。3人は適当にくつろいでて。あと、ローテーブルに置いてある白いマグカップがブラックコーヒー、水色のマグカップがガムシロップ入りだから」
「分かりました!」
「コーヒーいただきますね」

 あおいと愛実がそう言うと、佐藤先生は一度頷いて、部屋を出て行った。どんなお昼ご飯を作ってくれるのか楽しみだな。
 あおいと愛実はローテーブルの方にやってきて、白いマグカップの前に置いてあるクッションに愛実、水色のマグカップの方にはあおいが腰を下ろした。俺から見て右側があおい、左側が愛実だ。2人はさっそくアイスコーヒーを一口飲む。

「……美味しい」
「ガムシロップの甘さがあるので大丈夫ですね。美味しいです」
「美味しいよな」

 あおいも美味しいと思えるようなコーヒーで良かった。ブラックだからか、このコーヒーは苦味がしっかりとしているから。

「みんな。そうめんなんてどうだい? 今は4月だけど、今日は晴れて暖かいし。あと、乾麺もいっぱいあるから余裕で4人分作れるから」
「そうめんいいですね! 私、麺系は大好きです!」
「俺もそうめん好きですよ。いいですね」
「冷たいものをさっぱりいただくのもいいですね」
「じゃあ、そうめんを作るよ。3人はゆっくりくつろいでて。本棚やラックにあるものを読んでいていいから」
『はーい』

 俺達が声を揃えて返事すると、佐藤先生は再びキッチンの方に向かった。
 まさか、佐藤先生の家でお昼をいただくことになるとは。これまで、愛実と一緒に先生の作ったお昼ご飯を食べたことがあり、先生の料理の腕前がなかなかのものだと分かっている。なので、そうめんが楽しみだ。あと、昼食代が浮くので有り難い気持ちも。

「樹理先生と趣味が結構合うと分かって嬉しいです。先生を私の部屋に招待したいくらいです」
「そうしたら樹理先生喜ぶと思うよ。1年の頃、私の家にもリョウ君の家にもプライベートで何回も来たもんね」
「ああ。本のことで語ったり、アニメを一緒に観たりしたよな。クリスや秋目知人帳は両親も好きだから、家族みんなで見たこともある」
「うちでもあった」

 それに、あの綺麗な見た目で、時にはクールに、時には気さくな立ち振る舞いをするから、母さんは佐藤先生が来ると結構嬉しがるんだよな。

「ふふっ。先生はプライベートになると、漫画やアニメやラノベが大好きな少し歳の離れたお姉さんって感じになるんですね」
「まさにその通りだよ、あおいちゃん」
「そうだな」

 魅力的な女性だと思うよ、とっても。
 それからも佐藤先生のことを中心に話し、アイスコーヒーを飲みながらお昼ご飯ができるのを待った。そして、

「お待たせ。そうめんが茹で上がったよ」

 佐藤先生がお昼ご飯を作り始めてから20分ほど。そうめんが入っている鉢を持った先生が部屋の中に入ってきた。そんな先生はさっきと違って、服の上にカーキ色のエプロンを身につけている。
 佐藤先生は鉢をローテーブルの中央に置く。氷水に浸っているそうめんが美味しそうだ。

「美味しそうだね」
「そうだな、愛実」
「美味しそうですね! あと、樹理先生のエプロン姿可愛いですっ!」
「ふふっ、ありがとう」

 そう言い、佐藤先生は嬉しそうな笑顔を見せる。エプロン姿なのもあって、普段よりも可愛らしい。こういう姿を生徒や教職員が見たらさらに人気が出そうだ。
 佐藤先生はその後、各人のつけ汁の入ったお椀と箸、ネギやごまといった薬味や細切りにしたハムやキュウリといった具材を持ってきた。何から何までしてもらって有り難い限りだ。
 ローテーブルに一通り運び終えると、佐藤先生は俺の正面にある桃色の座椅子に腰を下ろした。

「さあ、食べようか。いただきます」
『いただきます!』

 俺達4人のお昼ご飯の時間が始まる。
 俺は鉢からそうめんを一口分取って、自分の麺汁につけて食べる。

「……冷たくて美味しいです」

 麺の茹で加減も麺汁の濃さもちょうどいい。
 あと、そうめんは氷水に浸してあり、麺汁も冷たいから、そうめんが口の中に入ってすぐに心地よい冷たさが感じられた。今日は晴れて暖かい気候だから、この冷たさがとても良いと思える。

「美味しいですよね、涼我君。冷たいのがまたいいです」
「今日は暖かいもんね。そうめん美味しい。これからの季節は冷たいものがもっと美味しく感じられるんだろうね」
「みんなに美味しいって言ってもらえて嬉しいよ。良かった」

 ほっとした様子でそう言うと、佐藤先生はそうめんを一口食べる。柔らかな笑みを浮かべながらモグモグする姿が可愛らしい。
 その後、薬味を麺汁に入れて食べたり、ハムやキュウリなどの具材と一緒に食べたりする。味の変化を楽しめていいな。そうめんを提案してくれた佐藤先生に感謝だ。

「そういえば、あおいちゃん。調津高校での学校生活はどうだい? まあ、登校したのはまだ2日だけだし、授業も始まっていないけど」
「凄く楽しいです! 涼我君や愛実ちゃん達と一緒のクラスですし、担任の先生は樹理先生ですから。高校で出会った何人かの女子達ともお友達になれましたし。いいスタートを切ることができました!」

 あおいは元気よくそう答える。授業はまだ始まっていないけど、あおいがいいスタートを切られたと思えて良かった。愛実と目が合い、微笑み合った。

「それは何よりだ。あと、これからの学校生活で不安なことはあるかい? 例えば、来週から始まる授業のこととかで」
「授業については……実際に受けてみてですね。転入試験の科目だった国語と数学と英語科目は大丈夫そうかな……って思いますが」
「転入試験があったのか」

 漫画やアニメやラノベでも、転校してきたキャラクターが出てくるけど、転校に伴う試験に触れている作品は全然なかった。てっきり、通うのに問題なさそうな場所に住んでいて、転校前の高校の成績が悪くなければ転入できるのではないかと。
 ただ、考えてみれば、高校によって偏差値とか違うし、授業についていけるかどうか確かめるためにも学力試験は必要なことだよな。

「3月に受けました。前の高校の成績や単位は大丈夫だったので、筆記試験を受けさせてもらえました。それに合格して調津高校への転入が決まったんです」
「そうだったのか」
「それを聞くとおめでとうって言いたくなるね。今さらかもしれないけど、合格おめでとう、あおいちゃん」
「おめでとう、あおい」
「おめでとう、あおいちゃん!」
「ありがとうございます!」

 あおいは嬉しそうに言った。
 調津高校は調津市や周辺の自治体にある都立高校の中では指折りの進学校だ。その転入試験に合格するってことは、あおいは結構頭がいいと思う。あと、あおいが3月まで通っていた京都中央高校はかなりの進学校だったんじゃないだろうか。

「勉強はこれからの私次第ですね。今抱いている不安は……来週の健康診断ですね」
「健康診断? 意外なところだね。何か持病でもあるのかい? 担任の私から養護教諭に事前に伝えておくけど」
「持病はありません。ただ、その……採血はあるのかなって。前の学校の健康診断では採血があったんです。私、注射は苦手で……去年の健康診断では採血されて気分が悪くなったんです」

 そのときのことを思い出しているのだろうか。口角は上がっているもののあおいの顔色がちょっと悪くなっている。
 そういえば、昔、あおいが調津にいた頃……インフルエンザの予防接種を一緒に受けに行ったな。そのとき、あおいは涙を流して、俺の服を掴みながら注射を受けていたっけ。俺も小さい頃は苦手だったけど、酷く嫌がるあおいを見たら怖さが吹き飛んだな。あと、

『どうしておかあさんは1かいでいいのに、わたしは2かいしないといけないの!!』

 って号泣していたな。俺も2回受けるからまた一緒に受けようってあおいを励ましたことを覚えている。
 あおいの注射嫌いは今でも変わらないか。

「確か、採血は2年生もあったはずだよ」
「あるんですね……」

 さっきよりも元気のない声でそう言い、あおいはガックリ。どうやら、採血されるのが相当嫌なようだ。去年の健康診断の採血のとき、そんなにも気分が悪くなったのかな。

「まあ、毎年1回血液検査をするのは大切だよ。何年か前、年1の健康診断の採血をきっかけに、腎臓や肝臓に病気があるのが分かった先生がいたから。あおいちゃんは高校生で若いけど、検査するに越したことはないよ」
「……まあ、健康のことを考えたらそうですよね……」
「当日は私も理沙ちゃんも女子達は一緒に健康診断を受けるから。不安だったら遠慮なく頼ってね」

 愛実はとても優しい笑顔であおいにそう言う。愛実が凄く頼もしく見える。
 愛実の言葉や優しい笑顔が良かったのだろうか。あおいはちょっと安心そうな笑顔を浮かべ、「はいっ」と頷いた。
 俺は男子だから、当日は一緒にいられないけど、愛実や海老名さん達がいれば、とりあえずは大丈夫そうかな。

「美しい友情だね。……採血以外には何か不安なことはあるかい?」
「それ以外は今のところ特にありません」
「そうか。これからも何か不安なことがあったら、いつでもいいから相談してね」
「はいっ」
「うん、よろしい」

 それから、俺達はお昼ご飯を再開する。木曜日に東京パークランドに行ったときのことを話しながら。
 採血が不安だと相談したあおいだったけど、話が盛り上がったことやそうめんの美味しさもあってか、段々といつもの明るい笑顔に戻っていった。そのことに一安心。
 そうめんを食べ終わった後は、部屋にあるアニメのBlu-rayの中でみんなが知っている作品を夕方頃まで観る。このキャラ可愛いとか、ここの場面最高とか話しながら。
 予想外の時間を過ごしたけど、結構楽しい土曜日になったのであった。



 ちなみに、翌日の日曜日……俺は一日中バイトだった。
 また、佐藤先生はあおいの家に遊びに行き、本棚や同人誌のケースの中身を見せてもらったり、愛実と3人一緒にBLアニメを観たりしたらしい。日曜日も楽しい一日になったようで何よりである。
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