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第2章

第10話『あおい旋風』

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 4月8日、金曜日。
 東京パークランドでたくさん遊んだのもあり、昨日はたっぷりと眠れた。そのおかげでスッキリとした目覚めに。昨日はランド内を歩き回って、絶叫系のアトラクションにもいっぱい乗ったけど、幸いにも疲れは感じない。
 今日は部活動説明会とロングホームルームだけで、お昼には終わる予定。これで週末を迎えられるから得した気分だ。放課後は昼過ぎから夜までサリーズでのバイトがあるけど頑張れそうだ。
 普段よりも気分のいい中で制服に着替えたり、朝食を食べたり、部屋の窓を開けて愛実と雑談したり……と平日の朝のいつもの時間を過ごす。

「じゃあ、また後で」
「うん、また後でね」

 部屋の窓を閉め、服装や持ち物の最終チェックをする。……うん、髪がはねたり、ネクタイが曲がったりしていないな。持ち物も……特に忘れ物はなし。

「よし、行くか」

 スクールバッグを肩に掛けて、俺は部屋を出る。
 いってきます、とリビングにいる母さんに声を掛け、玄関を出ると……俺の家の前には制服姿のあおいの姿があった。これまで、3人で待ち合わせしたときはいつも最後に来ていたので、最初に待ち合わせ場所にいるのは珍しい。
 玄関の開く音が聞こえたのか、俺が声を掛ける前にあおいはこちらに振り向き、爽やかな笑顔で手を振ってくる。

「おはようございます、涼我君!」
「おはよう、あおい」

 朝の挨拶をして、俺はあおいに手を小さく振った。
 あおいと登校するのは今日で2度目。あおいが引っ越してきてから10日ほどが経つ。それでも、調津高校の制服姿のあおいを見ると、今も夢を見ているんじゃないかと思ってしまう。舌を軽く噛むと……確かな痛みが感じられた。

「今日は一番乗りだったな」
「普段よりも少し早く起きられましたから。これまでの待ち合わせでは最後に来ていたので、今日は最初に来ることができて良かったです」

 それが嬉しかったのだろうか。あおいはニコッと笑った。

「いってきまーす」

 愛実のそんな声が聞こえたので、彼女の家の方を見ると……制服姿の愛実が家から出てくるところだった。

「あっ、リョウ君。あおいちゃんもいる。おはよう」

 愛実は笑顔で俺達に手を振りながらこちらにやってきた。

「おはようございます、愛実ちゃん!」
「愛実、おはよう」
「2人ともおはよう。今日は私が最後だったね」
「今までは私が最後でしたからね。私が最初に来たので、涼我君にも同じようなことを言われました」
「ふふっ、そうだったんだ。これからはこういうこともあるかもしれないね」
「ですね。では、学校に行きましょうか」

 俺達は調津高校に向かって歩き始める。
 今日も朝からよく晴れている。制服のジャケットが紺色なので、春の日差しを浴びながら歩いているとすぐに温かくなってくる。ポカポカだし、たまに吹く柔らかな風が涼しいからとても快適だ。

「今日で今週の学校生活が終わるんですよね。今日も授業がなくてお昼に終わりますから、何だか得した気分です」
「俺も家にいるときに同じことを思ったよ」
「2人の言う通りだね。あと、私は今日の部活動説明会で、キッチン部の説明者の一人として参加するの」
「そうなんですね!」
「そういえば、お花見の日……2人が来るまでの道本と海老名さんと話の中で、道本と海老名さんと鈴木が陸上部のメンバーとして説明会に参加するって言っていたな」
「理沙ちゃん達も出るんですね。楽しみになってきました!」

 快活な笑顔であおいはそう話す。今日の部活動説明会を通して、あおいがどこかの部活に入るなんて展開があるかもしれない。
 俺は今後もバイトを続けて、部活動に入るつもりはない。ただ、友達が何人も説明者として参加する予定だから、俺も部活動説明会を見るのは楽しみだな。

「あと、放課後は愛実ちゃんやクラスの女の子達と遊ぶ予定ですからね」
「楽しみだね。リョウ君って放課後はどうするの?」
「俺は昼過ぎから夜までバイトだ。今日は授業がないからな」
「そうなんだね。頑張ってね、リョウ君」
「頑張ってくださいね!」
「ありがとう。あと、2人とも楽しんできてね」

 俺がそう言うと、あおいと愛実は可愛い笑顔で頷いてくれた。
 今日のことを話していたからか、気づけば調津高校の校舎が見え始めていた。そんな場所を歩いているため、周りにはうちの高校の生徒が結構いる。その中でも、男子中心にこちらを見てくる生徒が多い。とても可愛い愛実と、とても美人なあおいが楽しくお喋りしているからなぁ。

「あの2人可愛い……」
「だよな。黒髪の女子って今までいたっけ?」
「どうだっただろう? それにしても、一緒にいる金髪の男子が羨ましい……」

 といった言葉が聞こえてくる。あおいと愛実だけじゃなくて、俺についての言葉もあるとは。2人の魅力度の高さが窺える。
 当の本人達は……お喋りが楽しいのか全く気にしていない様子。
 周りの生徒達からの視線を浴びながら、俺達は調津高校の校門を通った。その直後に教室B棟の方に視線を向けたけど、あっちは1年のときの教室がある校舎だった。今の教室はA棟。危ない危ない。
 教室A棟に向かって歩いていると、

「あの、すみません!」

 前方から黒髪の男子生徒がやってきて、俺達の目の前に立った。見覚えのない生徒だ。ジャケットの胸ポケットについている校章ワッペンの色が緑だから、俺達と同じ2年生か。ちなみに、うちの高校では学年で色が分かれており、それがワッペンの色に反映される。2年生が緑で1年生が赤、3年生が青だ。
 男子生徒の視線はあおいに向いているので、あおいに用事があるのだろう。そんな彼の顔がほんのり赤いので、どんな用なのかはおおよその見当がつく。

「き、桐山あおいさん」
「はい」
「一昨日、クラス分け発表の場所で見たときに一目惚れしました。好きです! 俺と付き合ってくれませんか! あなたは新年度のタイミングで転校してきたと聞いています。俺と一緒に調津高校の学校生活を楽しいものにしませんか!」

 やっぱり告白だったか。
 登校2日目で告白されるとは。しかも理由は一目惚れ。さすがはあおい。
 男子生徒が大きめの声で告白したのもあり、周りにいる生徒の多くが立ち止まってこちらを見ている。おおっ、とざわめきの声も聞こえる。
 愛実は……ちょっとドキドキした様子であおいと告白した男子生徒のことを見ている。目の前であおいが告白されたからだろうか。
 そして、告白されたあおいは……落ち着いた男子生徒に微笑みかけている。

「ごめんなさい。気持ちは嬉しいですが、お付き合いすることはできません」

 ごめんなさい、とあおいは深めに頭を下げた。
 男子生徒は……断られたからか今にも泣きそうだ。あと、周囲から「ああ……」と落胆の声が。そんな反応をしたら彼が可哀想だろう。

「と、隣にいる男子生徒と付き合っているからですか?」
『えっ』

 俺絡みのことで問いかけられたので、あおいと一緒に反応してしまった。愛実も一緒だけど、一緒にいる男子生徒がいたら彼氏だと考えるのは無理もない。
 男子生徒の問いかけもあってか、あおいの頬がほんのりと赤くなる。

「い、いえ。彼は幼馴染です。お付き合いはしていません」
「ああ。彼女は俺の幼馴染の一人だ」
「彼が幼馴染だからといって、あなたと付き合う気は全くありませんが」

 俺の言葉の後に、あおいは真剣な様子でそんな言葉を言う。彼氏でなければ、自分と付き合ってみないかと食い下がられると考えたのかな。
 男子生徒は「はああっ……」と長めのため息をつき、

「……そうですか。気持ちを聞いてくれてありがとう。どうも失礼しましたあっ!」

 叫ぶようにしてそう言うと、男子生徒は教室A棟の方に走り去っていった。今後、彼が何らかの形で幸せになっていくことを祈る。
 男子生徒が走り去った直後に、周りにいた生徒も散らばり始める。

「私達も行きましょうか」

 いつもと変わらない雰囲気に戻ったあおいはそう言う。なので、俺達は再び教室A棟に向かって歩き始める。

「あおいちゃん。さっきは落ち着いていたね。これまで告白されたことって結構あるの? あおいちゃん、とても美人だし明るいし」
「小学校の高学年くらいから、男女問わず告白されたことは何度もありますね。恋愛する気にはなれなかったので、全てお断りしてきましたが」
「そうなんだ。やっぱり、たくさん告白されてきたんだね」
「たくさん経験したから、さっきは落ち着いて断ることができたんだな」
「そうですね。ただ、登校2日目で告白されるとは思いませんでした。涼我君が恋人なのかと訊かれたことも……」

 あおいは俺のことをチラチラと見ながらそう言う。

「俺と愛実と話しながら登校したからな。その様子を見て、あの男子生徒は俺が彼氏なんじゃないかって思ったのかもな」
「それはありそうですね」

 納得した表情になり、俺の目を見ながら頷いてきた。
 あと、あおいはたくさん告白されてきたのか。凄いな。男女問わずというところがまた凄い。明るく話すし、凜々しい雰囲気もあるから女子にも好意を持たれやすいのかな。

「お二人はどうなんですか? 涼我君はかっこいいですし、愛実ちゃんは可愛いですし。告白された経験がありそうです」
「中学以降に女子から何度か告白されたことはある」
「私は小学校高学年くらいから男の子中心に告白されたよ」
「そうなんですねっ」

 あおいは納得した様子でそう言った。
 愛実も俺と一緒に登下校しているときに告白されたことがある。登校中の注目具合からして、今後も2人が告白される場面をすぐ側で見ることがありそうだ。
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