32 / 236
第2章
第5話『ジェットコースター』
しおりを挟む
「着いたぜ!」
「着きましたね!」
ゴンドラが東京パークランドに到着し、ゴンドラから降りた瞬間に鈴木とあおいが大きな声でそう言った。ゴンドラに乗ったからか、まだ入園ゲートをくぐっていないこの段階でとても楽しそうにしている。
俺も約1年ぶりのパークランドなので、入口を目の前にして普段よりテンションが上がっている。
俺達はチケット売り場の列に並ぶ。さすがにゴンドラ乗り場よりも長い列だけど、これまで行ったときに比べると結構短い。
10分ほどで俺達の番になり、今日一日アトラクションを自由に遊べるワンデーパスチケットを購入する。昨日、佐藤先生から渡された学生証を提示し、無事に高校生料金で購入することができた。一般料金との差はそれなりにあるので安心した。
入場ゲートでスタッフさんにワンデーパスを見せ、俺達はついに東京パークランドに足を踏み入れた。
「10年ぶりのパークランドです! 新しいアトラクションもありますけど、基本的な雰囲気は変わっていないので懐かしいですね」
「そうか。まさか、あおいとまた来られるとは思わなかった」
「私もです。涼我君とまた来られて嬉しいです! もちろん、みんなとも来られたことも」
あおいは満面の笑顔でそう言ってくれる。今の言葉もあって、あおいの笑顔を見ていると温かな気持ちがどんどん膨らんでいく。
また、あおいの言葉が嬉しかったのか、愛実と海老名さんは笑顔であおいの頭を撫でていた。
「さあ、みんな! まずはどこのアトラクションから行くか?」
「いっぱいあるから迷うなぁ。ただ、麻丘達と一緒に来たときはジェットコースターから行くことが多いよな」
「……そういえば、そうだな」
ジェットコースターをはじめとした王道のアトラクションを最初に行くことがほとんどだ。個人的にそういったアトラクションに行くと、遊園地に来たんだと実感できる。
「ジェットコースターいいよな! オレも彼女と来たときは、よほど混んでない限りはジェットコースターに行くぜ!」
「ははっ、鈴木らしいな。じゃあ、まずはジェットコースターにするか? 賛成の人は挙手してくれ」
道本のその問いかけに、質問者の彼を含め6人全員がすぐに挙手する。その様子を見て、道本は「ははっ」と爽やかに笑う。
「満場一致だな。よし、ジェットコースターに行こう」
俺達はジェットコースターに向かって歩き始める。
東京パークランドには何度も来たことがある。ただ、今回はあおいが一緒だから懐かしい気持ちになるなぁ。昔はあおいと手を繋いでいることが多かったっけ。
回顧しながら周りを見ていると……俺達のような学生らしき人の姿が意外と多いことに気づく。長めの春休みなのか。それとも、俺達のように今日は学校が休みなのか。
それからすぐに、俺達はジェットコースター乗り場の前に到着し、待機列の最後尾に並ぶ。さすがに、人気アトラクションなだけあって列ができているか。
また、待機列では2列で並ぶことになっている。なので、愛実と海老名さん、あおいと俺、道本と鈴木という順番で並ぶ。
「係の人に訊いたら、15分くらいで乗れるみたいだぜ!」
「おっ、そうか」
「15分で乗れるのは、パークランドでは早い方ですか? 涼我君」
「かなり早いな。今まで休日や長期休暇に行くのが多かったっていうのもあるけど、15分で乗れたことは全然なかったから」
「20分から30分くらいで乗れれば運がいいよね、リョウ君」
「そうだな。さすがは平日って感じだよ」
「そうなんですね! それを知ると嬉しくなりますね!」
あおいはニコッと笑ってそう言った。
「そういえば、昔あおいと来たときは幼稚園だったから、このジェットコースターには乗れなかったんだよな」
「乗れるのは小学生からでしたからね」
「乗れないことに泣いていたよな」
「凄く乗りたかったからですからね。その代わりに、キッズでも乗れる小さめのジェットコースターを乗った記憶があります」
「乗ったな。小さい頃だったから、あれでもスリルを感じたのを覚えてる」
「そのジェットコースターで満足した思い出がありますね」
小さい子でも乗れるジェットコースターに一度乗ったら、あおいはこのジェットコースターに乗れなかった悔しさが嘘のような笑顔を見せていて。凄く楽しいからと3、4回乗ったんだよな。
「素敵な思い出だね、リョウ君、あおいちゃん」
「ありがとうございます。当時はキッズ用のジェットコースターを楽しんでいましたが、涼我君は絶叫系アトラクションって好きな方ですか? ちなみに、私は大好きですよ!」
満面の笑みで言うことからして、かなりの絶叫系好きだと窺える。やっぱりというか。
「俺は……怖いって思うことはあるけど、好きな方かな」
「そうなんですね。愛実ちゃん達はどうですか?」
「小さい頃は苦手だったけど、今は平気。リョウ君と同じで、今でも怖いって思うことはあるけど」
確かに、愛実って昔は絶叫マシンに乗ったら気分が悪くなって、時には涙を浮かべていることもあった。ただ、大きくなるにつれて、絶叫系マシンに乗っても楽しそうな笑顔を見せることが多くなっていったな。
「あたしは結構好き。マシンの速さとか、顔に受ける風とかがいいなって思うわ」
「俺も絶叫系は好きだな」
「オレも大好きだぜ! 叫ぶと気持ちいいよな! 一日絶叫系だけでもいいくらいだ!」
道本と海老名さんは一緒に遊園地に行くことが何度もあるから、絶叫系が好きなのは知っていたけど、鈴木も絶叫系が大好きなのか。一日ずっと絶叫系だけでもいいとは。相当好きなんだな。
「みなさん絶叫系が好きなんですね! さっき、すぐに挙手したのも納得です。みなさんとなら、このジェットコースターを凄く楽しめそうです!」
あおいはいつもの明るい笑顔でそう言う。そんなあおいに愛実達は「そうだね」と笑顔で頷いた。
「俺も楽しめそうだ。10年前は一緒に乗れなかったこのジェットコースターを楽しもう」
「はいっ!」
元気よく返事し、あおいがより明るい笑顔を俺に向けてくれる。そのことにちょっとキュンとなった。
みんなと絶叫系アトラクション絡みの話をしていたので、俺達の番が来るまではあっという間だった。
スタッフの男性に案内され、俺達はジェットコースター乗り場へ、
ジェットコースターのマシンは2人1列で座る形となっている。なので、待機列での並び順で、俺はあおいと隣同士に座った。
スタッフによって安全バーが下ろされると、もうすぐスタートするんだとドキドキしてくる。
「昔のキッズ向けのジェットコースターでも、こうして隣同士に座りましたね」
「そうだな。ただ、キッズ向けよりもかなり速くてスリルがあるぞ」
「そうですか! 楽しみですね。怖かったり、不安だったりしたら遠慮なく私の手を握ってきてくださいね」
「ありがとう。あおいこそ握ってきていいからな。昔も俺の手をぎゅっと握ってきたし」
「ふふっ、ありがとうございます。それとも、もう握っちゃいますか?」
そう言って、あおいは右手を俺に差し出してくる。握っていいとは言ったけど、いざこうして手を差し出されると、少しドキッとしてしまう。まあ、愛実と隣同士に座ったときには、怖いと思う者同士でスタート前から手を繋ぐことはあるからな。今も幼馴染のあおいだし、昔は手を繋いだから……するか。
あおいの右手をそっと掴むと、あおいの口角がそれまでよりもさらに上がった。
「あっ、リョウ君とあおいちゃんも手を繋いでいるんだね。私も理沙ちゃんと繋いでいるよ。こうしていると、怖い気持ちがちょっと和らぐから。リョウ君と隣同士に座ったときも握ることがあるよ」
「ふふっ、そうなんですね。……どうですか、涼我君。私の手を握って少しは怖い気持ちが紛れましたか?」
「まあ、ちょっとな」
ただ、別の意味でちょっとドキドキしているよ。
「道本。オレ達も手を繋いでみるか?」
「う~ん……遠慮しておく。鈴木と手を繋いだら、スリルに感じる要素が増えそうだし」
「ははっ、そうか!」
鈴木は握力がかなり強いからな。走行中に興奮してぎゅっと握られる可能性は高そうだし。握られた手が痛くなるんじゃないかと危惧して道本は断ったんだろう。
――プーッ。
発進チャイムの音が鳴り、俺達の乗ったマシンが動き始める。
「ついに始まりましたね! どんな感じか楽しみです!」
興奮気味にそう言うと、あおいは俺の手を握る力を強くする。手から伝わるあおいの温もりと、あおいの楽しそうな笑顔のおかげで、今までよりも不安な気持ちはあまりない。それに、パークランドのジェットコースターは何度も乗っているし。
ゆっくりとした速度でマシンは前進していき、少しして上り坂となっているコースを上っていく。
「何度も乗ったことあるけど、この上り坂のところで毎回緊張する……」
「もうすぐ本番だものね。大丈夫よ、あたしが隣にいるから。しっかり手を繋いでて」
「うんっ」
愛実は笑顔で海老名さんに向かって頷いている。落ち着いている親友が隣にいると心強いよなぁ。あと、怖がっている親友が相手だからかもしれないけど、海老名さんがイケメン過ぎる。
それから程なくして、俺達の乗ったマシンは登り坂の頂上付近で一旦停止する。
「ここで止まるんですね」
「ああ。ただ、停止している時間は毎回違うんだ」
「そうなんですね。それだと、何度乗っても飽きが来ないですね」
「さあ、いつでも来いやあっ!」
後ろからは鈴木のそんな元気な雄叫びと、道本の「あははっ」という笑い声が聞こえてくる。
「いつ発進するか分からないのが怖いん――だああっ!」
あおいに話している最中にマシンは急発進! 猛スピードでかなりの角度がある下り坂のコースを急降下する!
「うわああっ!」
「すっごい迫力ですねっ! きゃあああっ!」
黄色い叫び声を出しているけど、あおいはとても楽しそうだ!
「きゃあああっ! はやーい! 気持ちいいー! あははっ!」
「きゃあああっ! きゃあああっ!」
前方からは海老名さんの楽しげな声と、繰り返される愛実の黄色い叫び声が聞こえてくる。時折、2人の叫び声が重なることも。また、絶叫系好きな海老名さんは楽しくなってきたのか「あははっ!」と笑い声も出している。
「うおおっ! すげええっ!」
「風が気持ちいいなっ!」
後ろからは鈴木の絶叫と、道本の歓喜の声が聞こえてくる。道本の言う通り、顔に受ける風がとても気持ちいいぜ!
「涼我君! 怖くはないですか! 大丈夫ですかあっ!」
「ちょっと怖いけど、手を繋いでるし大丈夫だ! あおいはどうだっ!」
「とても楽しいですっ!」
「そりゃ良かった! これがパークランドのジェットコースターだっ!」
「しゅごおおいっ! 最高ですううっ!」
きゃあああっ! と、あおいはとても楽しそうに叫ぶ。
その後も、マシンは猛スピードでコースを駆け抜ける。途中にある一回転したり、垂直に近い角度で下降したりする恐怖ポイントも全力で。
俺はあおい達と一緒に叫びまくった。あおいの手をしっかりと握りながら。
「着きましたね!」
ゴンドラが東京パークランドに到着し、ゴンドラから降りた瞬間に鈴木とあおいが大きな声でそう言った。ゴンドラに乗ったからか、まだ入園ゲートをくぐっていないこの段階でとても楽しそうにしている。
俺も約1年ぶりのパークランドなので、入口を目の前にして普段よりテンションが上がっている。
俺達はチケット売り場の列に並ぶ。さすがにゴンドラ乗り場よりも長い列だけど、これまで行ったときに比べると結構短い。
10分ほどで俺達の番になり、今日一日アトラクションを自由に遊べるワンデーパスチケットを購入する。昨日、佐藤先生から渡された学生証を提示し、無事に高校生料金で購入することができた。一般料金との差はそれなりにあるので安心した。
入場ゲートでスタッフさんにワンデーパスを見せ、俺達はついに東京パークランドに足を踏み入れた。
「10年ぶりのパークランドです! 新しいアトラクションもありますけど、基本的な雰囲気は変わっていないので懐かしいですね」
「そうか。まさか、あおいとまた来られるとは思わなかった」
「私もです。涼我君とまた来られて嬉しいです! もちろん、みんなとも来られたことも」
あおいは満面の笑顔でそう言ってくれる。今の言葉もあって、あおいの笑顔を見ていると温かな気持ちがどんどん膨らんでいく。
また、あおいの言葉が嬉しかったのか、愛実と海老名さんは笑顔であおいの頭を撫でていた。
「さあ、みんな! まずはどこのアトラクションから行くか?」
「いっぱいあるから迷うなぁ。ただ、麻丘達と一緒に来たときはジェットコースターから行くことが多いよな」
「……そういえば、そうだな」
ジェットコースターをはじめとした王道のアトラクションを最初に行くことがほとんどだ。個人的にそういったアトラクションに行くと、遊園地に来たんだと実感できる。
「ジェットコースターいいよな! オレも彼女と来たときは、よほど混んでない限りはジェットコースターに行くぜ!」
「ははっ、鈴木らしいな。じゃあ、まずはジェットコースターにするか? 賛成の人は挙手してくれ」
道本のその問いかけに、質問者の彼を含め6人全員がすぐに挙手する。その様子を見て、道本は「ははっ」と爽やかに笑う。
「満場一致だな。よし、ジェットコースターに行こう」
俺達はジェットコースターに向かって歩き始める。
東京パークランドには何度も来たことがある。ただ、今回はあおいが一緒だから懐かしい気持ちになるなぁ。昔はあおいと手を繋いでいることが多かったっけ。
回顧しながら周りを見ていると……俺達のような学生らしき人の姿が意外と多いことに気づく。長めの春休みなのか。それとも、俺達のように今日は学校が休みなのか。
それからすぐに、俺達はジェットコースター乗り場の前に到着し、待機列の最後尾に並ぶ。さすがに、人気アトラクションなだけあって列ができているか。
また、待機列では2列で並ぶことになっている。なので、愛実と海老名さん、あおいと俺、道本と鈴木という順番で並ぶ。
「係の人に訊いたら、15分くらいで乗れるみたいだぜ!」
「おっ、そうか」
「15分で乗れるのは、パークランドでは早い方ですか? 涼我君」
「かなり早いな。今まで休日や長期休暇に行くのが多かったっていうのもあるけど、15分で乗れたことは全然なかったから」
「20分から30分くらいで乗れれば運がいいよね、リョウ君」
「そうだな。さすがは平日って感じだよ」
「そうなんですね! それを知ると嬉しくなりますね!」
あおいはニコッと笑ってそう言った。
「そういえば、昔あおいと来たときは幼稚園だったから、このジェットコースターには乗れなかったんだよな」
「乗れるのは小学生からでしたからね」
「乗れないことに泣いていたよな」
「凄く乗りたかったからですからね。その代わりに、キッズでも乗れる小さめのジェットコースターを乗った記憶があります」
「乗ったな。小さい頃だったから、あれでもスリルを感じたのを覚えてる」
「そのジェットコースターで満足した思い出がありますね」
小さい子でも乗れるジェットコースターに一度乗ったら、あおいはこのジェットコースターに乗れなかった悔しさが嘘のような笑顔を見せていて。凄く楽しいからと3、4回乗ったんだよな。
「素敵な思い出だね、リョウ君、あおいちゃん」
「ありがとうございます。当時はキッズ用のジェットコースターを楽しんでいましたが、涼我君は絶叫系アトラクションって好きな方ですか? ちなみに、私は大好きですよ!」
満面の笑みで言うことからして、かなりの絶叫系好きだと窺える。やっぱりというか。
「俺は……怖いって思うことはあるけど、好きな方かな」
「そうなんですね。愛実ちゃん達はどうですか?」
「小さい頃は苦手だったけど、今は平気。リョウ君と同じで、今でも怖いって思うことはあるけど」
確かに、愛実って昔は絶叫マシンに乗ったら気分が悪くなって、時には涙を浮かべていることもあった。ただ、大きくなるにつれて、絶叫系マシンに乗っても楽しそうな笑顔を見せることが多くなっていったな。
「あたしは結構好き。マシンの速さとか、顔に受ける風とかがいいなって思うわ」
「俺も絶叫系は好きだな」
「オレも大好きだぜ! 叫ぶと気持ちいいよな! 一日絶叫系だけでもいいくらいだ!」
道本と海老名さんは一緒に遊園地に行くことが何度もあるから、絶叫系が好きなのは知っていたけど、鈴木も絶叫系が大好きなのか。一日ずっと絶叫系だけでもいいとは。相当好きなんだな。
「みなさん絶叫系が好きなんですね! さっき、すぐに挙手したのも納得です。みなさんとなら、このジェットコースターを凄く楽しめそうです!」
あおいはいつもの明るい笑顔でそう言う。そんなあおいに愛実達は「そうだね」と笑顔で頷いた。
「俺も楽しめそうだ。10年前は一緒に乗れなかったこのジェットコースターを楽しもう」
「はいっ!」
元気よく返事し、あおいがより明るい笑顔を俺に向けてくれる。そのことにちょっとキュンとなった。
みんなと絶叫系アトラクション絡みの話をしていたので、俺達の番が来るまではあっという間だった。
スタッフの男性に案内され、俺達はジェットコースター乗り場へ、
ジェットコースターのマシンは2人1列で座る形となっている。なので、待機列での並び順で、俺はあおいと隣同士に座った。
スタッフによって安全バーが下ろされると、もうすぐスタートするんだとドキドキしてくる。
「昔のキッズ向けのジェットコースターでも、こうして隣同士に座りましたね」
「そうだな。ただ、キッズ向けよりもかなり速くてスリルがあるぞ」
「そうですか! 楽しみですね。怖かったり、不安だったりしたら遠慮なく私の手を握ってきてくださいね」
「ありがとう。あおいこそ握ってきていいからな。昔も俺の手をぎゅっと握ってきたし」
「ふふっ、ありがとうございます。それとも、もう握っちゃいますか?」
そう言って、あおいは右手を俺に差し出してくる。握っていいとは言ったけど、いざこうして手を差し出されると、少しドキッとしてしまう。まあ、愛実と隣同士に座ったときには、怖いと思う者同士でスタート前から手を繋ぐことはあるからな。今も幼馴染のあおいだし、昔は手を繋いだから……するか。
あおいの右手をそっと掴むと、あおいの口角がそれまでよりもさらに上がった。
「あっ、リョウ君とあおいちゃんも手を繋いでいるんだね。私も理沙ちゃんと繋いでいるよ。こうしていると、怖い気持ちがちょっと和らぐから。リョウ君と隣同士に座ったときも握ることがあるよ」
「ふふっ、そうなんですね。……どうですか、涼我君。私の手を握って少しは怖い気持ちが紛れましたか?」
「まあ、ちょっとな」
ただ、別の意味でちょっとドキドキしているよ。
「道本。オレ達も手を繋いでみるか?」
「う~ん……遠慮しておく。鈴木と手を繋いだら、スリルに感じる要素が増えそうだし」
「ははっ、そうか!」
鈴木は握力がかなり強いからな。走行中に興奮してぎゅっと握られる可能性は高そうだし。握られた手が痛くなるんじゃないかと危惧して道本は断ったんだろう。
――プーッ。
発進チャイムの音が鳴り、俺達の乗ったマシンが動き始める。
「ついに始まりましたね! どんな感じか楽しみです!」
興奮気味にそう言うと、あおいは俺の手を握る力を強くする。手から伝わるあおいの温もりと、あおいの楽しそうな笑顔のおかげで、今までよりも不安な気持ちはあまりない。それに、パークランドのジェットコースターは何度も乗っているし。
ゆっくりとした速度でマシンは前進していき、少しして上り坂となっているコースを上っていく。
「何度も乗ったことあるけど、この上り坂のところで毎回緊張する……」
「もうすぐ本番だものね。大丈夫よ、あたしが隣にいるから。しっかり手を繋いでて」
「うんっ」
愛実は笑顔で海老名さんに向かって頷いている。落ち着いている親友が隣にいると心強いよなぁ。あと、怖がっている親友が相手だからかもしれないけど、海老名さんがイケメン過ぎる。
それから程なくして、俺達の乗ったマシンは登り坂の頂上付近で一旦停止する。
「ここで止まるんですね」
「ああ。ただ、停止している時間は毎回違うんだ」
「そうなんですね。それだと、何度乗っても飽きが来ないですね」
「さあ、いつでも来いやあっ!」
後ろからは鈴木のそんな元気な雄叫びと、道本の「あははっ」という笑い声が聞こえてくる。
「いつ発進するか分からないのが怖いん――だああっ!」
あおいに話している最中にマシンは急発進! 猛スピードでかなりの角度がある下り坂のコースを急降下する!
「うわああっ!」
「すっごい迫力ですねっ! きゃあああっ!」
黄色い叫び声を出しているけど、あおいはとても楽しそうだ!
「きゃあああっ! はやーい! 気持ちいいー! あははっ!」
「きゃあああっ! きゃあああっ!」
前方からは海老名さんの楽しげな声と、繰り返される愛実の黄色い叫び声が聞こえてくる。時折、2人の叫び声が重なることも。また、絶叫系好きな海老名さんは楽しくなってきたのか「あははっ!」と笑い声も出している。
「うおおっ! すげええっ!」
「風が気持ちいいなっ!」
後ろからは鈴木の絶叫と、道本の歓喜の声が聞こえてくる。道本の言う通り、顔に受ける風がとても気持ちいいぜ!
「涼我君! 怖くはないですか! 大丈夫ですかあっ!」
「ちょっと怖いけど、手を繋いでるし大丈夫だ! あおいはどうだっ!」
「とても楽しいですっ!」
「そりゃ良かった! これがパークランドのジェットコースターだっ!」
「しゅごおおいっ! 最高ですううっ!」
きゃあああっ! と、あおいはとても楽しそうに叫ぶ。
その後も、マシンは猛スピードでコースを駆け抜ける。途中にある一回転したり、垂直に近い角度で下降したりする恐怖ポイントも全力で。
俺はあおい達と一緒に叫びまくった。あおいの手をしっかりと握りながら。
0
お気に入りに追加
61
あなたにおすすめの小説
サクラブストーリー
桜庭かなめ
恋愛
高校1年生の速水大輝には、桜井文香という同い年の幼馴染の女の子がいる。美人でクールなので、高校では人気のある生徒だ。幼稚園のときからよく遊んだり、お互いの家に泊まったりする仲。大輝は小学生のときからずっと文香に好意を抱いている。
しかし、中学2年生のときに友人からかわれた際に放った言葉で文香を傷つけ、彼女とは疎遠になってしまう。高校生になった今、挨拶したり、軽く話したりするようになったが、かつてのような関係には戻れていなかった。
桜も咲く1年生の修了式の日、大輝は文香が親の転勤を理由に、翌日に自分の家に引っ越してくることを知る。そのことに驚く大輝だが、同居をきっかけに文香と仲直りし、恋人として付き合えるように頑張ろうと決意する。大好物を作ってくれたり、バイトから帰るとおかえりと言ってくれたりと、同居生活を送る中で文香との距離を少しずつ縮めていく。甘くて温かな春の同居&学園青春ラブストーリー。
※特別編7-球技大会と夏休みの始まり編-が完結しました!(2024.5.30)
※お気に入り登録や感想をお待ちしております。
まずはお嫁さんからお願いします。
桜庭かなめ
恋愛
高校3年生の長瀬和真のクラスには、有栖川優奈という女子生徒がいる。優奈は成績優秀で容姿端麗、温厚な性格と誰にでも敬語で話すことから、学年や性別を問わず人気を集めている。和真は優奈とはこの2年間で挨拶や、バイト先のドーナッツ屋で接客する程度の関わりだった。
4月の終わり頃。バイト中に店舗の入口前の掃除をしているとき、和真は老齢の男性のスマホを見つける。その男性は優奈の祖父であり、日本有数の企業グループである有栖川グループの会長・有栖川総一郎だった。
総一郎は自分のスマホを見つけてくれた和真をとても気に入り、孫娘の優奈とクラスメイトであること、優奈も和真も18歳であることから優奈との結婚を申し出る。
いきなりの結婚打診に和真は困惑する。ただ、有栖川家の説得や、優奈が和真の印象が良く「結婚していい」「いつかは両親や祖父母のような好き合える夫婦になりたい」と思っていることを知り、和真は結婚を受け入れる。
デート、学校生活、新居での2人での新婚生活などを経て、和真と優奈の距離が近づいていく。交際なしで結婚した高校生の男女が、好き合える夫婦になるまでの温かくて甘いラブコメディ!
※特別編3が完結しました!(2024.8.29)
※小説家になろうとカクヨムでも公開しています。
※お気に入り登録、感想をお待ちしております。
管理人さんといっしょ。
桜庭かなめ
恋愛
桐生由弦は高校進学のために、学校近くのアパート「あけぼの荘」に引っ越すことに。
しかし、あけぼの荘に向かう途中、由弦と同じく進学のために引っ越す姫宮風花と二重契約になっており、既に引っ越しの作業が始まっているという連絡が来る。
風花に部屋を譲ったが、あけぼの荘に空き部屋はなく、由弦の希望する物件が近くには一切ないので、新しい住まいがなかなか見つからない。そんなとき、
「責任を取らせてください! 私と一緒に暮らしましょう」
高校2年生の管理人・白鳥美優からのそんな提案を受け、由弦と彼女と一緒に同居すると決める。こうして由弦は1学年上の女子高生との共同生活が始まった。
ご飯を食べるときも、寝るときも、家では美少女な管理人さんといつもいっしょ。優しくて温かい同居&学園ラブコメディ!
※特別編10が完結しました!(2024.6.21)
※お気に入り登録や感想をお待ちしております。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
僕が美少女になったせいで幼馴染が百合に目覚めた
楠富 つかさ
恋愛
ある朝、目覚めたら女の子になっていた主人公と主人公に恋をしていたが、女の子になって主人公を見て百合に目覚めたヒロインのドタバタした日常。
この作品はハーメルン様でも掲載しています。
恋人、はじめました。
桜庭かなめ
恋愛
紙透明斗のクラスには、青山氷織という女子生徒がいる。才色兼備な氷織は男子中心にたくさん告白されているが、全て断っている。クールで笑顔を全然見せないことや銀髪であること。「氷織」という名前から『絶対零嬢』と呼ぶ人も。
明斗は半年ほど前に一目惚れしてから、氷織に恋心を抱き続けている。しかし、フラれるかもしれないと恐れ、告白できずにいた。
ある春の日の放課後。ゴミを散らしてしまう氷織を見つけ、明斗は彼女のことを助ける。その際、明斗は勇気を出して氷織に告白する。
「これまでの告白とは違い、胸がほんのり温かくなりました。好意からかは分かりませんが。断る気にはなれません」
「……それなら、俺とお試しで付き合ってみるのはどうだろう?」
明斗からのそんな提案を氷織が受け入れ、2人のお試しの恋人関係が始まった。
一緒にお昼ご飯を食べたり、放課後デートしたり、氷織が明斗のバイト先に来たり、お互いの家に行ったり。そんな日々を重ねるうちに、距離が縮み、氷織の表情も少しずつ豊かになっていく。告白、そして、お試しの恋人関係から始まる甘くて爽やかな学園青春ラブコメディ!
※特別編8が完結しました!(2024.7.19)
※小説家になろう(N6867GW)、カクヨムでも公開しています。
※お気に入り登録、感想などお待ちしています。
手が届かないはずの高嶺の花が幼馴染の俺にだけベタベタしてきて、あと少しで我慢も限界かもしれない
みずがめ
恋愛
宮坂葵は可愛くて気立てが良くて社長令嬢で……あと俺の幼馴染だ。
葵は学内でも屈指の人気を誇る女子。けれど彼女に告白をする男子は数える程度しかいなかった。
なぜか? 彼女が高嶺の花すぎたからである。
その美貌と肩書に誰もが気後れしてしまう。葵に告白する数少ない勇者も、ことごとく散っていった。
そんな誰もが憧れる美少女は、今日も俺と二人きりで無防備な姿をさらしていた。
幼馴染だからって、とっくに体つきは大人へと成長しているのだ。彼女がいつまでも子供気分で困っているのは俺ばかりだった。いつかはわからせなければならないだろう。
……本当にわからせられるのは俺の方だということを、この時点ではまだわかっちゃいなかったのだ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる