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第2章

第1話『2年2組』

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 クラス分けを確認した俺達は、新しいクラスである2年2組の教室へ行くことに。クラス名簿のポスターに、教室A棟の4階にあると書かれている。
 教室A棟の中に入り、昇降口でローファーから上履きに履き替える。1年のときの教室は教室B棟にあったので、この時点で新しい学年になったのだと実感できる。

「何だか、ここで上履きに履き替えただけで2年生になった気がしてきたよ」
「俺も同じことを思った」
「1年生のときの教室は別の建物にあったのですか?」
「うん。こことは別の教室B棟にね」
「そうなんですね。教室のある建物が変わると新生活が始まる感じがしますよね。まあ、私の場合は学校が変わりましたけど」

 ふふっ、とあおいは上品に笑っている。それにつられて愛実も笑う。あおいは愛実や俺とは比べものにならないほどに大きな変化があったもんな。

「あおい。放課後になったら学校の中を案内するよ。これからの学校生活で使いそうなところを中心に」
「私も放課後は部活とかないから一緒に案内するね」
「ありがとうございます!」

 あおいは嬉しそうに返事してくれた。さっそく、この教室A棟の1階に食堂と図書室があることを教えた。
 エレベーターホールにかなりの数の生徒がいたため、俺達は階段で4階まで上がることに。途中、2階には職員室や会議室や進路指導室、3階には生徒会室や自習室があるとあおいに教えながら。

「ここが新しいクラスの教室がある4階だな」

 2階と3階で、あおいにどんなものがあるか教えていたから、4階まで階段で上がっても全然疲れはない。ただ、一気に上っていたらどうなっていただろう。1年のときの教室は2階にあったので、少しキツく感じていたかもしれない。

「今日は途中で説明を受けながらでしたが、階段で行くのはいいですね」
「そうだね。階段の上り下りは運動にもなるし、これからも階段で行こうよ。エレベーターみたいに待つこともないし」
「じゃあ、これからは階段を使っていくか」

 普段から、こういうところで体を動かすのは大切だろうから。
 4階は教室だけなので、2階と3階とは違って廊下に生徒の姿がちらほら見えるな。そう思いながら、俺達は2年2組の教室の前まで辿り着く。

「調津高校の教室に入るのは初めてなので、ちょっと緊張しますね」
「そうか」
「今日が登校初日だもんね。さあ、一緒に入ろう」
「はいっ」

 俺達は2年2組の教室の中に入る。
 今は8時15分過ぎなので、教室の中には既に多くの生徒が登校している。同中出身や1年のときと同じクラスの生徒もいるけど、知らない生徒も結構多いな。そう思いながら教室の中を見渡していると、

「おっ、麻丘達が来たな」
「みんな、おはよう」
「おはよう!」

 教室の真ん中らへんで道本、海老名さん、鈴木の姿を見つけた。3人は笑顔でこちらに手を振っている。あと、鈴木だけが席に座っているということは、あそこが鈴木の席なのだろうか。
 俺達は手を振りながら、道本達のところに向かった。

「理沙ちゃん達とも同じクラスになれて嬉しいですっ!」
「私も嬉しいよ」
「あたしも、みんなと同じクラスになれて嬉しいわ。よろしくね」

 あおいと愛実、海老名さんはそう言うと、互いに抱きしめ合う。クラス分けが発表された掲示板でも抱きしめ合っていた女子がいたけど、女子ってそういう行動をしたがるものなのかな。
 あと、道本が満足げな様子で女子3人を見ている。

「あおいや愛実だけじゃなくて、道本達とも同じクラスになれるとは」
「凄い偶然だよな。高校で麻丘達と同じクラスになれて嬉しいよ。よろしくな」
「ああ。クラスメイトとしてもよろしく」
「おう! よろしくな!」

 俺は道本と鈴木と握手を交わす。
 去年は別のクラスでも、道本のおかげで2人とは友人として仲良く付き合うことができた。だからこそ、2人とクラスメイトになれたことがとても嬉しい。

「海老名さんもよろしく」
「ええ」

 海老名さんとも握手を交わす。
 海老名さんの手から優しい温もりが伝わってくる。海老名さんと目が合うと、彼女は優しく微笑んで。その瞬間に手から伝わる温もりが強くなった気がした。

「香川さんや海老名さんと一緒にいる黒髪の女の子、うちにいたっけ?」
「見かけたこともないよ。でも、うちの制服着てるし。もしかして、転校生?」
「そうかもね。凄く綺麗な子……」

「海老名や香川だけじゃなくて、謎の黒髪女子もいるぞ」
「そうだな。かなり美人だな。このクラスの女子、結構レベル高いぜ。このクラスで良かった……!」
「だな! 運が良かった!」

 あおいっていう転校生が教室にいるからか、ざわつき始めたな。周りを見てみると、こちらに視線を向けている生徒が多い。ただ、表情を見る限り、好奇なものが多い。これも、あおいが美人で魅力的な笑顔の持ち主だからだろうか。

「おっ、そっちの黒髪の女子が、春休み中に引っ越してきた麻丘の幼馴染だな」

 鈴木はそう言うと席から立ち上がって、あおいの目の前に立つ。
 あおいは「おおっ」と声を漏らしながら、鈴木を見上げる形に。鈴木の身長は190cm近くあるからなぁ。

「そうだ、鈴木。こちらの彼女が10年ぶりに再会した幼馴染の桐山あおいだ。それで、あおい。彼が俺達の友人の鈴木力弥だ。陸上部に入ってる」
「そうですか。初めまして、桐山あおいです。3月の終わり頃に京都から引っ越してきました!」
「鈴木力弥だ! 麻丘が紹介してくれたように陸上部に所属してる。専門種目はやり投げだ。これからよろしくな!」
「よろしくお願いします!」

 あおいはいつも通りの明るい笑顔で鈴木に右手を差し出す。
 すると、鈴木もいつもの朗らかな笑顔になり、あおいと握手を交わした。元気な2人だから、握手した瞬間にとても明るい雰囲気が纏い始める。

「あの黒髪の子、京都から引っ越してきたのか」
「しかも、麻丘の幼馴染だなんて。香川も幼馴染らしいし……麻丘が羨ましい」

「やっぱり転校生だったんだね。見たことないわけだ」
「前にいたのは京都かぁ。黒髪が綺麗だし、美人だし、雅な感じがするよね」

 周囲からそんな話し声が聞こえてきた。とりあえず、あおいに関して悪い印象を持っている生徒がいなさそうで良かった。
 ただ、当の本人であるあおいは周囲を気にしている様子は全くない。むしろ、目の前にいる鈴木に釘付け状態になっている。

「座っている段階でも立派な体格だと思いましたが、立つとより立派さが増しますね。背もかなり高いですし。投てきの選手だからでしょうか?」
「ははっ、ありがとな。オレ含めて、投てき種目を専門にする選手は結構デカい奴が多いな」
「そうなんですね。前にいた京都の高校には、鈴木君ほどの立派な体格の男子生徒はいませんでした。お花見で彼女さんと一緒に写る写真を見たときにも思いましたが、まさにスポーツマンって感じの風貌で素敵ですね」
「それは嬉しい言葉だな! たくさん練習して、たくさん食べる甲斐があるぜ!」

 はっはっは! と鈴木は大声で楽しそうに笑う。それにつられてか、あおいも「ふふっ」と声に出して笑っている。この2人なら、いい友人関係を築けるんじゃないだろうか。

「そういえば、席順ってどうなっているんだ?」
「机に出席番号と名前の印刷された紙が貼ってあるぜ」

 こんな感じにさ、と鈴木は机の右端に貼られた紙を指さす。そこには『15 鈴木力弥』と書かれている。

「分かった、ありがとう。自分の席を探してみるよ」
「おう!」
「私達も探しましょうか、愛実ちゃん」
「そうだね」

 掲示板の振り分けポスターでは、俺の名前が一番上に書かれていた。だから、出席番号は1番だろう。番号1番の席として可能性があるのは、窓側か通路側の一番前の席。去年は窓側だったから、とりあえずは窓側に行ってみるか。
 俺は窓側の一番前の席に向かう。

「……おっ、ここだ」

 予想が当たったか。窓側の一番前の机を見ると、『1 麻丘涼我』と印刷された紙が貼られていた。一番前の席だけど、窓側なので特に嫌だとは思わない。
 あと、1年のときの教室と比べて景色がいいなぁ。4階だから、調津駅周辺の広い景色を見ることができる。席に座っても……うん、見やすい。これなら、授業中もたまに気分転換ができそうだ。

「私の席、ここだ」
「ということは、私はその一つ後ろですね。名簿にも連続して書かれていましたから」

 すぐ近くから、愛実とあおいのそんな声が聞こえた。
 廊下側を向いてみると……俺の右隣の席には愛実、愛実の後ろの席にはあおいが座っていた。愛実とあおいと目が合うと、2人は俺に向かって嬉しそうな笑顔を向けてくれる。

「リョウ君の隣で、あおいちゃんの前の席になれて嬉しいよ」
「私もですっ! 学校の席でもお二人のご近所さんになれて嬉しいです!」
「いい席だ。偶然ってここまで重なるんだな。改めてよろしく」
「うん、よろしくね」
「よろしくお願いします!」

 しばらくの間、学校でも愛実とあおいのすぐ側にいられるのか。とても楽しく高校2年生をスタートできそうだ。
 俺と愛実がすぐ近くにいれば、あおいも安心できるんじゃないだろうか。
 教室を見渡すと……道本も鈴木も海老名さんもそれぞれ自分の席と思われるところに座っている。海老名さんは俺と同じ列で前から4番目。鈴木はあおいの右斜め後ろ。道本は鈴木の右斜め前の席か。こうして教室を見ていると、仲良くしている5人と同じクラスになれたのだと実感する。
 あと、依然としてあおいを見ている生徒が多いな。転入してきたから、それは仕方のないことか。当の本人が全然気にしていないようなので、俺が何かする必要はなさそうかな。

「クラスメイトと席順が分かりましたから、あとは担任の先生だけですね。知っている先生は樹理先生だけなのもありますが、樹理先生だと嬉しいですね」
「私も樹理先生がいいなぁ。去年も担任だったし。でも、いい先生はいっぱいいるよね、リョウ君」
「優しい先生とか落ち着いた雰囲気の先生が多いな」

 そういった感じの先生や佐藤先生だと個人的には嬉しい。あと、今の会話でフラグが立った気がするのは気のせいだろうか。

「やあやあやあ。新2年2組のみんな。おはよう」

 この声に、この特徴的な話し方。もしかして。
 教卓の方に視線を向けると……教卓には黒いスーツ姿の佐藤先生が立っていた。先生は俺達の方をチラッと見ると微笑みかける。
 ――キーンコーンカーンコーン。
 スピーカーから、朝礼の時間を知らせるチャイムが鳴り響く。

「おっ、チャイムが鳴ったね。2組の生徒は、自分の名前が印刷されている紙が貼られた席に座ってください。窓側の先頭から出席番号順に貼られています。2組ではない生徒は、新しい自分のクラスの教室に戻るように」

 落ち着いた様子で佐藤先生がそう言うと、立っている生徒達が自分の席に座ったり、教室を出て行ったりする。
 やがて、全ての席に生徒が座り、教室の中は静かになっていく。

「本年度の2年2組の担任になった佐藤樹理です。よろしくね」

 穏やかな笑顔で佐藤先生はそう挨拶した。その瞬間に愛実とあおいが「やったね」と小声で喜び合っていた。
 今年も担任は佐藤先生か。こんなにも巡り合わせが重なるなんて。とても嬉しいけど、何か裏があるんじゃないかと考えてしまうよ。
 佐藤先生がいい先生なのは去年1年間で分かっている。高校2年生としての1年間はとても楽しいものになりそうだ。
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