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第1章

エピローグ『春休みの終わり』

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 4月5日、火曜日。
 今日で春休みも終わる。
 長期休暇の間は普段よりも時間の流れが早く感じることが多い。ただ、3月末にあおいが引っ越してきたのもあって、この春休みは特に早く感じられた。あっという間に最終日だ。

「『無限の執行人』面白かったですね!」
「面白かったな。何度観ても見応えがある内容だ」
「面白かったね! シリアスな内容だけど、クリスの劇場版の中では五本指に入るくらいに好きだよ。葉室さんもかっこよかったし」
「かっこよかったですよね!」

 今日は俺もあおいも愛実も特に予定がなかったので、お昼過ぎに2人が俺の家に来て、クリスの劇場版を録画したBlu-rayを観たのだ。
 今回観た『無限の執行人』というのは数年前に公開された作品。だから、これまでに映画館やレンタルDVD、今のように録画したBlu-rayで何度も観たことがある。ただ、あおいと一緒に観るのは初めてだったので、今までよりも新鮮な気分で観ることができた。
 また、この作品では、主人公のクリス君以外に、女性に大人気の葉室はむろさんという公安警察のキャラクターがキーパーソンとしてたくさん登場。葉室さんが活躍する場面になると、あおいと愛実はちょっと興奮していた。ちなみに、このキャラクターは今年公開予定の最新作にもキーパーソンとして登場する予定だ。それもあり今日は『無限の執行人』を観ることになったのだ。

「涼我君とクリスの映画をまた観られて嬉しいです。もちろん、愛実ちゃんと一緒に観ることも」
「俺も嬉しいよ。それに、今日観た作品はあおいが調津にいない頃に公開された作品だから」
「私も嬉しい。3人で観るのも楽しいなって思った。今年の映画を観に行くのがより楽しみになったよ」
「そうですね!」

 あおいは満面の笑顔でそう言った。今の2人の会話に俺は深く頷く。

「まさか、あおいと一緒にまたクリスの映画を観られるなんて。春休みが始まった頃には想像もしなかったな」
「私もだよ。あおいちゃんに出会えたこともね」
「そうだな」

 春休みになった頃の俺にあおいが引っ越してくることを教えたら、どんな反応をするだろうか。あおいが引っ越していったのと同じ時期とはいえ、信じてはもらえないかもしれない。桜が咲き始めたからそんな夢を見たんじゃないか……とか言われそう。

「引っ越し先を調津にして本当に良かったです。涼我君と再会できましたし。愛実ちゃん達とさっそくお友達になれましたから。引っ越してきてからの日々も楽しかったですし」

 あおいはそう話すと、ローテーブルに置いてある自分のスマホを手に取る。画面を見ながら楽しそうな笑顔を見せて。チラッと見ると、あおいのスマホには愛実がセーラー服を着たときのスリーショット写真が表示されていた。

「あっ、あおいちゃんが通っていた京都の高校のセーラー服を着させてもらったときの写真だ。セーラー服の制服を着られて嬉しかったなぁ」
「似合っていましたよ、愛実ちゃん」
「可愛かったな」
「ふふっ。……あおいちゃんが引っ越してきてから色々なことがあったから、セーラー服を着たのが結構昔のことのように思えるよ」
「そうだな。時間はあっという間に過ぎていくけど」
「2人の言うこと分かります。前に住んでいた家を出発したのが随分と昔のことのように感じます」

 そのときのことを思い出しているのだろうか。あおいは笑みがしんみりとしたものに変わった。
 あおいが引っ越してきてから、まだ1週間くらいしか経っていないんだよな。
 引っ越し作業の手伝ったこと。
 俺の部屋で久しぶりに、そして愛実と3人で初めて遊んだこと。
 バイト先にやってきたこと。
 調津駅の周りにあるお店に行ったこと。
 お花見をしたこと。
 あおいが引っ越してきてから色々なことがあったから、あおいと再会を果たしたのがかなり昔のことに思える。

「涼我君と愛実ちゃん達と一緒に春休みを過ごせたおかげで、明日からの学校生活がより楽しみになりました!」

 あおいはとびきりの可愛らしい笑顔でそう言う。その笑顔を見て安心する。
 明日からはあおいと一緒の高校生活が始まる。このことも、春休みが始まったときには想像もしなかったことだ。
 ほんと、世の中は何が起こるか分からないな。ただ、予想外のことがいいことばかりで良かった。

「俺も楽しみだよ、あおい」
「私も楽しみ。前も言ったけど、みんな同じクラスになれるといいよね」
「そうですね! ……10年前は、涼我君と一緒に小学校に通うのを楽しみにしていた矢先での引っ越しでした。それがとてもショックで」
「俺も同じだったよ」

 だから、小学校に入学した直後は寂しい気持ちでいっぱいだった。もし、あおいと一緒に通っていたらどんな感じだったんだろうって考えることも多くて。ただ、その寂しい気持ちも、同じ幼稚園出身の友達や、5月末に引っ越してきた愛実のおかげで少しずつ消えていった。

「卒園直後に引っ越したから、リョウ君とあおいちゃんは同じ学校に通ったことがないんだね」
「そうです。ですから、涼我君と一緒に同じ学校に通えるのが夢のようです」
「俺もだ。あおいと同じ学校に通えるとは思わなかった」
「同じ気持ちで嬉しいです。涼我君、愛実ちゃん。明日からもよろしくお願いします!」

 あおいはとても元気良くそう言うと、右手を俺に、左手を愛実に向けて差し出した。

「こちらこそよろしく、あおい」
「よろしくね、あおいちゃん!」

 俺と愛実はあおいと握手を交わす。その瞬間に、あおいと愛実はとても嬉しそうな笑顔になる。
 これからはあおいとも一緒に同じ学校に通えることが嬉しい。明日からの高校2年生の学校生活がとても楽しみだ。
 窓から吹き込む穏やかな春風が涼しくて、とても気持ち良く感じられた。



第1章 おわり



第2章に続く。
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