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第1章

第18話『猫カフェ-前編-』

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 午後1時50分。
 昼食を食べ終わり、俺達はラ・チョウツを後にする。俺はナポリタンを大盛りにしたけど、美味しかったので難なく食べることができた。むしろ、大盛りにして良かったと思うくらいだ。
 お昼時が過ぎた時間帯だけど、お店の外には数人のお客さんが並んでいた。

「ごちそうさまでした! 明太子パスタ美味しかったですっ! お二人が一口交換してくれたカルボナーラとナポリタンも!」

 あおいは満足そうな笑顔で言った。どのパスタも美味しそうに食べていたもんなぁ。

「あおいが気に入ってくれて良かった」
「あおいちゃんをここに連れてきて良かったよ」
「素敵なお店に連れて行ってくださってありがとうございます! これからも、美味しいものが食べられる調津のお店を教えてください」
「もちろんだよ、あおいちゃん」
「あおいが引っ越した後にできた飲食店はたくさんあるからな」

 ラーメン屋やそば屋、オムライス屋などの食事処はもちろんのこと、パンケーキ屋やカフェなどのスイーツを楽しめるお店もある。今後しばらくは、今日のようにオススメの飲食店へあおいを連れて行くことが多くなりそうだ。

「さてと、お昼ご飯も食べ終わったし……またどこかお店に行くか。あおいは行きたいお店ってあるか?」
「とても行きたいお店があと一つありますっ!」

 とても張り切った様子でそう言うあおい。この様子だと、アニメイクやレモンブックス並みに行きたいお店のようだ。

「どんなお店かな、あおいちゃん」
「猫カフェですっ! 調津猫屋というお店です。私、猫が大好きで。福岡と京都にいた頃も、たまに猫カフェに行っていたんです」
「そうなんだ! 猫可愛いよね! 私も大好きだよ! 調津猫屋はリョウ君や友達と一緒に何度も行ったことあるよ」
「ゆったりできるいい雰囲気の猫カフェだよな。可愛い猫がたくさんいるし」
「口コミサイトでも高評価のレビューが多かったですが、どうやらそれは本当みたいですね。より期待できますね!」
「ふふっ。じゃあ、調津猫屋に行こうか。ここからだと5、6分くらいだよ」
「はいっ」

 俺達は調津猫屋に向かって歩き始める。
 猫カフェに行くほどにあおいが猫好きだとは。福岡に引っ越してから大好きになったのかな。昔、あおいが調津にいた頃は――。

「……思い出した。昔、俺の家の近くや調津北公園にいるノラ猫を見つけると、あおいは突撃していったよな」
「そうでしたね。猫に触りたかったですから。でも、いつも逃げられて。涼我君の後ろに隠れることもありましたよね」
「あったあった」
「涼我君がノラ猫に触っているおかげで、私もノラ猫に触れて。そのときは嬉しかったですね。あの柔らかな毛並み……良かったですねぇ」

 触ったときのことを思い出しているのだろうか。あおいはうっとりとした様子に。
 ノラ猫に触れたとき、あおいは凄く嬉しそうにしていたっけ。ただ、あおいに触られると、ノラ猫の方は緊張しい様子だったことが多かったな。

「昔からたまに、家の近くや北公園でノラ猫を見かけるね。触れたときは凄く嬉しいよね」

 愛実はいつもの優しい笑顔でそう言う。
 愛実は昔からノラ猫を見つけても、あおいのように突撃はせず、ゆっくりと近づいたり、落ち着いた声で「おいで~」と言ったりしていた。それもあって、大抵のノラ猫は2、3度会ったら愛実に触らせていた。中には出会ったときに触らせたり、愛実にすり寄ったりする猫もいたな。
 その後も猫話で盛り上がり、あっという間に調津猫屋の前まで辿り着いた。

「ここが調津猫屋だよ」
「そうですか。淡いベージュの落ち着いた外観ですね。どんな猫と触れ合えるか楽しみですっ!」

 興奮気味にあおいはそう言う。福岡、京都と猫カフェに行ったことのあるあおいが満足できるといいな。
 あおいが先陣を切る形で俺達は調津猫屋の中に入った。
 調津猫屋は利用時間で料金が決まるシステムだ。30分、60分、120分と3パターンから選べる。
 愛実と来るときはいつも60分にしている。それを話すと、あおいも60分利用することが多いとのこと。なので、今回も60分を選択し、受付で利用料金を支払った。
 受付を済ませ、俺達はいよいよ猫スタッフのいる猫ルームへ。

「うわぁっ……!」

 猫ルームに入った瞬間、あおいは本日一番といっていいほどの黄色い声を漏らす。キラキラと輝かせた目で猫ルームを見渡している。
 あおいの黄色い声に反応したのか、こちらを見てくる猫がちらほらいる。

「可愛い猫がたくさんいますね……!」
「そうだね、あおいちゃん。あと、興奮しているみたいだけど、猫に向かって走らないように気をつけようね。逃げちゃうし、近寄ってこなくなるかもしれないから」
「そ、そうですね。可愛い猫がたくさんいるので、我を忘れるところでした」

 すー……はー……と、あおいは何度も深呼吸している。
 あと、あおい……我を忘れるところだったのか。もしかして、福岡や京都の猫カフェに行ったときは、昔のように猫に向かって突撃してしまっていたのかな。

「さっき、涼我君が言ったように、ゆったりできそうな猫カフェですね。可愛い猫もたくさんいますし。どのお客さんも幸せそうです」

 広い猫ルームを見渡してみると……床に寝転がりながら茶トラ猫と戯れている若い男性、白猫に餌をあげているお婆さん、猫耳カチューシャを付けて「にゃーにゃー」と鳴き真似をしながらアメリカンショートヘアを撫でている女の子など、ここにいるお客さんはみんな様々な方法で猫との癒しの時間を過ごしている。

「リョウ君、あおいちゃん。あそこのソファーに並んで座ろうか」

 愛実は壁側に置かれている長いソファーを指さす。そこには人間も猫も座っていなかった。
 愛実、あおい、俺の並びで長いソファーに座る。さっきまで歩いていたので、ソファーに座ると体が楽だなぁ。

「こうして座っていれば、自然と猫が寄ってくるよ」
「人懐っこい猫が多いからな」
「そうですか」
「にゃ~」

 ソファーに座ってから10秒ほどで、愛実の足元に三毛猫が近づいてきた。毛の色がハッキリとしている綺麗な猫だ。愛実が「あら」と言うと、三毛猫は「な~う」と甘い鳴き声を出して、足元に顔をスリスリする。

「さっそく愛実ちゃんのところに来ましたね」
「前から、この三毛ちゃんは私のところに来てくれることが多いの」
「そうなんですね。きっと、愛実ちゃんがお気に入りなんでしょうね。愛実ちゃん、優しい雰囲気が出ていますし。私も猫だったら愛実ちゃんのところに行くと思います」
「ふふっ。あおいちゃんが猫になったら可愛いんだろうな」
「それは言えてるかもな」
「……もう」

 照れくさそうな様子でそう言うあおい。あおいが猫になったら、愛実の足元にいる三毛猫以上に体をスリスリしそうだ。
 愛実は三毛猫の頭を優しく撫でる。それが良かったのか、三毛猫は愛実の膝の上にぴょんと飛び乗った。

「いい子だね。今日も来てくれて嬉しいよ~」
「にゃんっ」

 愛実が再び頭を撫でると、三毛猫は愛実の脚の腕で香箱座り。ここが私の居場所だと言わんばかりの堂々とした座りぶりである。愛実に頭から背中を撫でられると、気持ちいいのか「にゃぉん……」と可愛い声を漏らした。

「リラックスしているように見えます。愛実ちゃんのことが大好きなんでしょうね」
「そうだと嬉しいな」
「きっとそうだろう。……おっ」

 足元に何かが触れ、その直後に両脚にズッシリと重みを感じる。なので、そちらの方を見ると……三毛猫よりも一回り大きな黒猫が俺の膝の上で香箱座りをしていた。

「今度は涼我君の脚の上に黒猫が乗りましたね」
「ああ。そういえば、前に来たときもこいつが俺のところに来てくれたな」

 覚えていてくれたのかな。そうだとしたら嬉しい。
 黒猫の頭から背中にかけて優しく撫でると、黒猫は「にゃ……」と味わい深い低音ボイスの鳴き声を出す。可愛い奴だ。いい毛並みをしているので、撫でていると気持ち良くてとても癒される。

「あおいも撫でてみるか?」
「では、顔を少々」

 あおいは左手で、黒猫の顔を撫でる。
 あおいの手つきがいいのか、黒猫がゴロゴロ言う。そのことにあおいは「ふふっ」と上品に笑う。

「いい猫です。可愛いですね。昔はこうして涼我君と戯れている間に、私が触ったんですよ」
「そうなんだね。リョウ君はノラ猫に触れること多いもんね」
「愛実ほどじゃないけどな。でも、何度か会えば触らせてくれる猫が多かったな」
「そうなんですね。お二人が羨ましいです。私のところにも誰か猫が……ひゃっ」

 話している最中、あおいが突然可愛い声を漏らした。どうしたんだろう。

「足元に何か触れたので。猫でしょうか」
「さすがに猫だろう」

 ここは猫が自由に動く猫カフェだからな。
 あおいの足元を見ると……そこにはキジトラ模様で顔がハチ割れになっている猫がいた。クリッとした目つきが可愛らしい。あおいに構って欲しいのか、あおいの脚に顔をスリスリしている。

「あぁ……キジトラのハチ割れ猫……可愛いですぅ……!」

 初めて自分のところに猫が来てくれたからか、あおいは感激している。ニッコリと笑みを浮かべて、足元にいるハチ割れ猫の頭を右手でそっと撫でる。

「にゃんっ」
「あぁ……鳴いてくれましたぁ。いい毛並みですねぇ」
「な~う」

 あおいの甘い声に、ハチ割れ猫も甘い鳴き声でお返事。自分を撫でてくれる右手が気に入ったのか、ハチ割れ猫はあおいの右手に頭をスリスリする。
 あおいはうっとりとした様子でハチ割れ猫を見つめる。

「手にもスリスリしてくれてますぅ。撫でるときとはまた違った気持ち良さがありますねぇ」
「ふふっ。きっと、あおいちゃんのことを気に入ってくれたんだよ」
「そうだろうな。良かったな、あおい」
「はいっ。お二人みたいに、膝の上に猫を乗せたいです。……猫ちゃん。こっちおいで」

 優しい声色でそう言い、あおいは右手で自分の膝の上をポンポンと叩く。
 すると、ハチ割れ猫はあおいの膝の上に飛び乗り、三毛猫や黒猫と同じように香箱座りをする。そのことに、あおいは物凄く感激した様子に。

「お二人のように、私の膝の上にも乗ってくれました……!」
「良かったね、あおいちゃん」
「良かったな、あおい」
「はいっ!」

 とても嬉しそうに返事すると、あおいは両手でハチ割れ猫の頭からしっぽの付け根にかけて撫でている。時折「にゃあにゃあ」とか「もふっもふっ」と呟くのが可愛らしい。

「涼我君、愛実ちゃん。ここの猫カフェって写真撮影OKでしたっけ?」
「大丈夫だよ」
「ただ、フラッシュ撮影はしないように気をつけてね」
「分かりました!」

 あおいはトートバッグからスマホを取り出し、ハチ割れ猫との自撮り写真を撮る。猫を撫でながらだったり、ピースサインしたりと何枚も。

「いい感じに撮れましたっ」

 スマホの画面を見ながら、あおいは笑顔でそう呟く。愛実が横から画面を覗き込んでいる。

「可愛く撮れたね。私とも一緒に撮らない?」
「いいですね! その写真はLIMEで送りますね。涼我君も一緒に撮りましょう!」
「ああ、いいぞ」

 それから、あおいのスマホであおいと愛実のツーショット、あおいと俺のツーショットの自撮り写真を撮る。
 また、近くにいたスタッフの方のご厚意で、俺達のスリーショット写真を撮ってもらった。その写真を見たときのあおいと愛実はとても嬉しそうにしていたのであった。
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