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第1章

第16話『同人ショップ』

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 タピオカドリンクを飲み終わった俺達はフードコートを離れ、レモンブックスに向かって歩き始める。

「タピオカドリンク美味しかったですっ!」
「良かった」
「タピオカドリンク飲もうって言ってみて良かったよ」

 あおいはもちろんのこと、愛実も嬉しそうな様子だ。

「カフェオレと抹茶ラテを一口くださってありがとうございます」
「いえいえ。こちらこそありがとう。奢ってくれたし」
「ありがとう、あおいちゃん」
「いえいえ! ……今日飲んだ3つどれも美味しかったですし、ドリンクの種類もまだまだたくさんありますから定期的に行こうと思います」
「美味しいドリンクがいっぱいあるよ。また一緒に行こうね」
「はいっ!」

 あおいは持ち前の明るい笑顔で返事をして、愛実に向かってしっかりと頷いた。これまでに何度も行ったことのあるお店をあおいに気に入ってもらえると嬉しい気持ちになる。
 先ほどと同じ出入口から、俺達は調津ナルコの外に出る。
 お昼も近くなってきたからだろうか。ナルコに来る直前と比べて人が多くなっている。人とぶつかってしまったり、車道に出てしまったりしないように気をつけないと。あおいと愛実のことを見ていないとな。

「ナルコからだと、レモンブックスまではどのくらいなのですか?」
「2、3分くらいで着くよね、リョウ君」
「そうだな」
「結構近いんですね」
「ああ。すぐに覚えられると思うよ。こっちだ」

 俺達はレモンブックスの入っている商業ビルに向かって歩き始める。
 駅前だから多くの人とすれ違う。あおいと愛実が一緒に歩いているからか、すれ違いざまに2人を見る人もいる。中には「可愛い」とか「美人」と呟く人もいて。ただ、俺が一緒に歩いているからか話しかけてくる人はいない。

「そういえば、京都にも同人ショップがあるって言っていたよね。そのショップもレモンブックスだったの?」
「そうです。京都のレモンブックスはアニメイクから1分もあれば着きました」
「そうなんだ。近いね」
「近いな」
「とても近かったです。ですから、アニメイクとレモンブックスをはしごするのが恒例でした」

 1分もかからない距離にあれば、どちらにも行くのが恒例になるのも頷ける。
 ちなみに、俺はレモンブックスにはたまに行く程度だ。同人誌や、購入特典がアニメイクよりも好みの漫画やラノベを買うときくらい。
 ナルコの入口から徒歩2、3分の距離なので、あっという間にレモンブックス調津店の入っているビルの前に到着した。

「着いたよ、あおいちゃん」
「このビルの1階と2階がレモンブックス調津店だ」
「そうなんですね! さっそく入りましょう!」

 元気良くそう言うと、あおいは愛実の手を引いてレモンブックスの中に入っていく。俺も2人の後をついていく。
 アニメイクと同様に、お店の中には結構なお客さんがいる。ただ、アニメイクとは違って小学生くらいまでの子供の姿は全然見られない。

「レモンブックスも立派ですね!」

 そう言うあおいの目はとっても輝いていて。心なしかアニメイクにいたときよりもテンションが高い気がする。同人誌をたくさん持っているし、京都にいた頃によく行っていたレモンブックスに来られているからかも。

「京都のレモンブックスと比べてどうかな?」
「パッと見た感じではフロアの広さは同じくらいですね。ただ、京都はワンフロアでこちらはツーフロア。こちらの方が規模は大きいです」
「そうなんだね」
「ちなみに、それぞれのフロアではどんなものを扱っているのですか?」
「1階は一般向けの商業誌と同人誌、同人のCD。それで、2階は成人向けの同人誌と商業誌が置かれているらしい。あそこにある階段から2階に行くんだけど、2階は成人向け商品だけ取り扱っているみたいで、18歳未満は行けないんだよ」

 近くにある階段を指さしながら俺はそう説明した。もちろん、俺や愛実も2階に行ったことはない。
 ちなみに、階段の入口には18歳未満立ち入り禁止のマークが描かれた黒い暖簾が掛けられている。今もメガネをかけた中年の男性が階段から下りたり、大学生と思われる若い女性2人が階段を上ったりしている。店内にいれば普通に見る光景だ。

「なるほどです。大人だけが上れる階段なんですね」
「そうなるな。だから、俺達が廻れるのは1階だけだ」
「ですね。では、廻っていきましょうか」
「ああ」
「そうだね」

 廻れるのは1階だけだけど、あおいが満足できるといいな。
 入口の近くには、商業誌の新刊コーナーと同人誌の新刊コーナーがある。
 ただ、あおいは一目散に同人誌の新刊コーナーへ向かう。商業誌の新刊はアニメイクの方でチェックしたからな。同人誌目的であおいはここに来たのだろう。

「さすがはレモンブックスですね! アニメイクよりも同人誌が多いです!」
「こっちは同人メインのショップだからな。商業誌よりも同人誌とか同人CDのコーナーの方が広いよ」
「そうですか。……あっ、私の好きなサークルさんの新刊が売られています!」

 わあっ……! と、あおいは歓喜の声を上げながら同人誌を手に取る。

「先週の日曜日に大阪の同人誌即売会に、好きなサークルさんが新刊としてこの同人誌を頒布したんです。でも、当日はバイトがあったので行けなくて。レモンブックスの委託販売されるのは知っていたのですが、引っ越しの作業があって買いに行けなかったんです」
「そうだったんだね」

 バイトや引っ越し準備で買いに行けなかった同人誌があったら、そりゃ嬉しくなるよな。

「じゃあ、手に取っているその同人誌を買う目的もあって、レモンブックスに行きたいって言ったんだな」
「ええ!」

 あおいはとても嬉しそうに返事した。

「あぁ……他にも好きなサークルさんの新刊が売られています! 素晴らしいですね!」

 そう言い、あおいは新刊コーナーから同人誌を5冊ほど手に取る。そんなあおいはとても幸せそうで。さすがは同人誌をたくさん持っているだけのことはある。アニメイクにいるときよりも楽しそうかも。

「あっ、その同人誌の表紙の絵……凄く綺麗だね」
「綺麗ですよね! 描かれているストーリーとマッチしているんです。作風が好きで、中学生の頃から買っています」
「そうなんだ。元の作品も知っているし、私も買ってみようかな」
「オススメですよ!」

 あおいと愛実、凄く楽しそうに話しているな。もしかしたら、あおいは京都にいた頃、こういう感じで友達と同人誌を買うのを楽しんでいたのかもしれない。
 俺は入口近くに置いてある買い物カゴを一つ取って、あおいと愛実のところに行く。

「あおい。同人誌をいっぱい手に取っているから、カゴを持ってきたよ。これに同人誌を入れてくれ」
「ありがとうございます! 持つのがちょっと辛くなってきたところでしたので、助かりました」

 あおいは俺の持ってきたカゴの中に同人誌を入れ、俺からカゴを受け取った。

「愛実もカゴいるか?」
「ううん、大丈夫だよ。1冊だけだから」
「そうか。……あっ、一番上に置いてある同人誌のサークル名……前に佐藤先生が代理購入してくれって頼んできたサークルだ」
「本当だね、リョウ君」
「佐藤先生、このサークルの同人誌を持っているのですか! 先生とは好みが合いそうな気がしますっ」

 ちょっとワクワクとした様子で話すあおい。佐藤先生もボーイズラブとかガールズラブ中心に恋愛系の作品が好きだからなぁ。好みが合う確率は結構あると思う。
 あと、佐藤先生も同人誌即売会に行く人だから、2人が一緒に即売会へ行く日はそう遠くないかもしれない。

「佐藤先生もレモンブックスには来られるのでしょうか」
「休日に何度か店内で会ったことがあるよ」
「調津高校はすぐ近くにあるし、樹理先生の家も調津駅近くのマンションにあるからね」
「そうなんですね」

 あおいと佐藤先生が一緒にレモンブックスに買い物へ来る日もそう遠くないかもしれないな。
 ちなみに、店内を見渡してみると……佐藤先生の姿は見当たらない。まあ、あの人は立派な大人なので、2階の成人向けフロアにいる可能性もあるけど。これまでに何回か、階段から下りてきた先生と出くわしたことがあるし。そういえば、初めて出くわしたとき、

「大人への階段を上るのは卒業してからだよ。……何だか大人な響きだね」

 とか言っていたな、あの人。
 新刊コーナーを見終わった俺達は同人誌の既刊コーナーへ。
 既刊コーナーでも、あおいは二次創作やオリジナルの同人誌を3冊カゴに入れていく。どれも、あおいが以前から気になっていたサークルの同人誌なのだが、京都のレモンブックスでは入荷されなかったのだという。新刊コーナーで目当ての同人誌を見つけたとき以上に興奮し、嬉しそうな表情を見せていた。
 また、俺も愛実もあおいオススメのサークルのオリジナル同人誌を1冊手に取る。その同人誌は女子高生のガールズラブものなので結構楽しめそうだ。
 同人誌の既刊コーナーを見終わった俺達は会計へ向かうのであった。
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